アクセル・ワールド ベストマッチな加速能力者   作:ナツ・ドラグニル

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兎美「いじめられっこで、仮面ライダークローズである有田春雪は、赤の王から黒雪姫に会わせるように要求された春雪は黒雪姫と拓武を連れて、家に帰るのでありました」


美空「そこで春雪は、赤の王である上月由仁子から災禍の鎧『クロム・ディザスター』の破壊を依頼される」



兎美「それと同時に、改めて美空の恐ろしさを認識するのであった」


美空「ちょっと!私の恐ろしさってどういう意味よ!!」


千百合「恐怖でしかないでしょうが!!何処の世界に寝不足だからってノコギリ投げたり、包丁持ち出す奴がいるのよ!!明らかに殺しに来てんでしょうが!!」


兎美「まぁまぁ...さて、加速世界では今何かが起きてるのか、災禍の鎧とは何なのか...どうなる第19話」


第19話

「あいつ.....マジで私達を殺すつもりだっただろ...」

 

「幾ら何でもやりすぎだろ...後で何を要求されるか...想像しただけでも恐ろしい...」

 

ニコは涙目になりながら身体を震わせ、ハルユキは美空から何を要求されるのかと恐怖する。

 

 

「私とした事が...余りの恐ろしさに悲鳴を上げてしまったよ...」

 

「無理もないかと...実際僕も思わず叫んでしまいましたし...」

 

 

黒雪姫とタクムも、余程美空が怖かったのか手が震えていた。

 

 

ようやく落ち着いたハルユキ達は、改めて椅子に座り直して会話を再開した。

 

 

「それで、その。何なんですか、その......サイカのヨロイ、って?人じゃなくて、モノなんですか?」

 

 

黒雪姫は数秒間沈黙を続けたが、やがてどさっと背中を椅子に預け、細長く息を付いた。

 

 

ストッキングに包まれた脚を組みながら、上体をハルユキに向ける。

 

 

「ン......、そうだな......。人即ちバーストリンカーであり、モノ即ちオブジェクトでもある......と言うべきかな。ハルユキ君、キミが最初に戦った相手を覚えているか?」

 

「え、は、はい。バイク男......《アッシュ・ローラー》ですよね」

 

 

脳裏に派手なチョッパーバイクと髑髏ヘルメットを思い浮かべながら、ハルユキは頷いた。

 

 

渋谷から六本木を本拠とする緑のレギオン所属の彼とは、今でもちょくちょく対戦し、勝ったり負けたりしている。

 

 

「あの男のバイクな。あれはライダー本人とは別個のオブジェクトだが、しかし総体としてのデュエルアバターを構成している。つまりモノであり人でもある、ということになるだろう?」

 

「えーと......そう、ですね。確かに」

 

 

もう一度、こくりと頷く。

 

 

「そのような外部アイテムを、ブレイン・バーストのシステム上では、《強化外装(エンハンスト・アーマメント)》と呼ぶ」

 

「強化......外装」

 

 

なんだか、かっこいい名前が出て来たぞ。

 

 

とハルユキは一瞬わくわくしたが、それはすぐにしょんぼりにすり替わった。

 

 

徒手空拳のシルバー・クロウには、どう考えても装備されていないものだからだ。

 

 

ハルユキの内心を察したか、黒雪姫はごく短い微苦笑を浮かべ、言った。

 

 

「私も持ってないんだ、そうヘコムな」

 

「あたしは持ってるけどな」

 

 

へら、と口元を緩めながらユニコが言った。

 

 

すかさず黒雪姫が鋭い声を浴びせる。

 

 

「貴様の場合は、持っているというより最早外装のほうが本体だろうに」

 

「おっ、いい負け惜しみ貰っちゃたぜ」

 

 

睨み合う2人に、ハルユキは慌てて割り込んだ。

 

 

「そ、そうか。スカーレット・レインの、あの物凄い火力コンテナ...あれも全部《強化外装》なんですね」

 

「そういうことだ。しかし、この小娘が自慢するほどレアな代物じゃあないぞ。手に入れる手段が四つもあるんだからな」

 

 

黒雪姫は上向けた右拳の親指を伸ばし、続けた。

 

 

「まず1つ目、初期装備として最初から持っている場合。アッシュ・ローラーのバイクは恐らくここだな」

 

「ぼくの右手の《杭打ち機(パイルドライバー)》もそれですね」

 

 

タクムが言葉を挟み、ハルユキは思わずえーっと声を上げた。

 

 

「なんだよ、タクも持ってんのかよ!」

 

「まぁまぁ、話を聞こうよ」

 

「...続けるぞ」

 

 

伸ばされた人差し指の爪がぴっと宙を叩く。

 

 

「2つ目は、レベルアップボーナスとして獲得できる場合。ボーナスの選択肢に存在しなければ不可能だが」

 

「...ありませんでした...」

 

 

今までの3度のレベルアップを思い出しつつ、ハルユキは呟いた。

 

 

それ以前に、黒雪姫のアドバイスに従って、ボーナスは全てをスピードと飛行時間に注ぎ込んでいるのだが。

 

 

次に中指を立て、黒雪姫は説明を続けた。

 

 

「そして3つ目。《ショップ》でポイントを消費して購入する。これならハルユキ君にも可能性があるが、ま、お薦めはしないな」

 

「へ?しょっぷ...てお店ですか?そんなの、どこにあるんですか?」

 

「ナイショだ。キミがありったけのポイントで乱舞してしまうのが予想されすぎるからな」

 

「そ、そんな...」

 

 

あはは、と笑いながらタクムも頷いた。

 

 

「間違いないね。ハルはあの手の店に行くと人格変わるからなあ」

 

「な、なんだよ2人して...」

 

 

リビングに流れた、弛緩(しかん)した空気を――。

 

 

鋭いユニコの一声が切り裂いた。

 

 

「......早く4つ目を言えよ」

 

 

赤の王の剣呑な視線を正面から受け止め、黒雪姫はかすかに頷いたものの、しかしすぐには声を発しようとしなかった。

 

 

すると、ユニコがずいっと手を伸ばし、黒雪姫の右手の薬指をむりやり広げて短く吐き捨てた。

 

 

「4つ目。《殺してでも奪い取る》」

 

「こ...ころっ...」

 

 

瞠目(どうもく)するハルユキに、黒雪姫がため息混じりの解説を加えた。

 

 

「これは、まだ完全に解明されていない現象なのだが...強化外装を持つバーストリンカーが対戦に敗北し、そこでバーストポイントがゼロとなって加速世界から永久退場した場合、敗者の外装の所有権が勝者へと移動する場合があるんだ」

 

「低確率でランダム発生するイベント、っつーのが今の定説だな」

 

 

ユニコがそう言葉を挟み、頭の後ろで両手を組んだ。

 

 

「だけど、《災禍の鎧》に関しちゃその限りじゃねーな...。移動率百パー、まさしく呪いのアイテムだぜ...」

 

「だが...しかし」

 

 

呟き、黒雪姫は嚙み合わせた歯をきりっと鳴らした。

 

 

「有り得ん。破壊されたはずだ。2年半前、私は確かに《鎧》の...《クロム・ディザスター》の最後を目撃し、その消滅を確認したのだ!」

 

 

――クロム・ディザスターは、加速世界の黎明期(れいめいき)、つまり7年前に存在した伝説的バーストリンカーの名前だ。

 

 

黒雪姫の語るストーリーは、そんな言葉から始まった。

 

 

――メタリックグレーの騎士型強化外装を身にまとい、凄まじい戦闘能力で数多のリンカーを地に這わせた。

 

 

その戦い方は苛烈、あるいは残忍の一言で、降参する相手の首を()ね、手足を()ぎ、暴虐(ぼうぎゃく)の限りを尽くしたという。

 

 

しかし、無数の対戦者をブレイン・バースト永久喪失に追い込んだ彼にも、やがて最期の日はやってきた。

 

 

彼以外の、当時の最高レベルにあったバーストリンカー達が結束し、クロム・ディザスターだけを狙ってひたすらに対戦を挑み続けたのだ。

 

 

遂にポイントがゼロになり、加速世界での《死》を迎えたその瞬間、彼は哄笑(こうしょう)と共にこう叫んだという。

 

 

 

『俺はこの世界を呪う。穢す。俺は何度でも蘇る』

 

 

 

言葉は真実だった。

 

 

クロム・ディザスターという名のバーストリンカー本人は退場したが、鎧......強化外装は消えなかった。

 

 

その討伐に加わった者ひとりに所有権が移動し、興味本位か誘惑に負けたか、それを装備してしまったリンカーの精神を......乗っ取った。

 

 

それまでは高潔なリーダーとして慕われていたのに、一夜にして残虐な殺戮者へと変貌したのだ。

 

 

その荒ぶる姿は、《初代》とまったく見分けがつかなかったそうだよ。

 

 

そこで言葉を止め、コーヒーで喉を湿らせてから、黒雪姫は低い声で続けた。

 

 

「同じ事が、実に3度繰り返された。《鎧》の持ち主は大変な恐怖をばら撒いたのちに討伐され、しかし鎧は消えずに、主を討った者へと次々に乗り移り人格を変容させ...そのバーストリンカーは本来の名ではなく、クロム・ディザスターと呼ばれるようになる。

 

2年と半年前、すでに《純色の七王》の一席を占めていた私は、他の王達と共に4人目のクロム・ディザスターの討伐に参加した。その戦いの凄まじさは...今も肌で覚えている。到底言葉では伝えきれないがね......」

 

 

カップを戻し、制服越しにそっと自分の二の腕を撫でてから、黒雪姫は突然口調を切り替えた。

 

 

「そこでだ、ハルユキ君。悪いが、直結用ケーブルを2本用意してくれないか」

 

 

「え...け、ケーブルを!?しかも2本......?」

 

 

「1本は私が持っているからな。長さは、まあ、1メートルあればいい」

 

 

「は......はい」

 

 

事情が呑み込めないままハルユキは立ち上がり、小走りで自室に向かう。

 

 

さすがに兎美達の部屋を通る際は、抜き足で通り過ぎた。

 

 

壁のワイヤーラックから束ねてあるXSBケーブルを2つ取ってリビングに戻った。

 

 

「ちょうど2本だけありました。えーと長さは、こっちが1メートルで、こっちが...うへ、50センチです」

 

 

首をすくめながら両手にケーブルをぶら下げた所で、ユニコが合点したような顔で立ち上がった。

 

 

「ははぁ、そういうことか。OKOK、あたしが50センチのやつでガマンしてやるよ」

 

 

にんまりと笑い、ハルユキの左手から短い方のケーブルを奪い取ると、それを自分の赤いニューロリンカーのコネクタに差し込む。

 

 

その途端。

 

 

「お...おい、ふざけるな!私がそれを使う!」

 

「やだよーん」

 

 

伸ばされた黒雪姫の手をするりと掻い潜り、ユニコはハルユキの左腕に飛びついてきた。

 

 

少年めいた硬さの残る体が密着し、ふわりと甘酸っぱい匂いまで漂って、くらりと軽くスタンするハルユキの首めがけてにゅっとプラグが突き出された。

 

 

避ける暇もなくニューロリンカーに挿入されてしまい、眼前にワイヤード・コネクション警告が点滅する。

 

 

「う、うわあ!?な、何を...」

 

泡を食うハルユキを見上げ、ユニコは不敵に微笑みながら言った。

 

 

「ほら、さっさとそっちの長ぁーい奴も挿して、あの女に渡してやれよ。あ、それと、あたしのメモリを覗こうとしたら痛い目を見っから気をつけな」

 

 

その台詞で、ハルユキはようやく3本のケーブルの意味を悟った。

 

 

黒雪姫は、この場の4人のニューロリンカーを数珠繋ぎ(デイジー・チェーン)しようとしているのだ。

 

 

タクムとユニコのニューロリンカーは外部接続端子1つの軽量タイプなので、4人が繋がるには端子2つの高機能タイプを装着しているハルユキと黒雪姫が真ん中に来るしかない。

 

 

それを素早く察したユニコが、黒雪姫への嫌がらせのためにさっさと最短のケーブルを確保したのだろう。

 

 

効果覿面(てきめん)、右頬を引き攣らせ両拳をわなわな震わせた黒雪姫は、どすの効いた声で叫んだ。

 

 

「貴様、そんなにくっつくんじゃない!」

 

「しょーがないじゃん、ケーブルが短いんだからさぁ」

 

「お前がそれを選んだんだろうが!」

 

 

声を荒げた黒の王は、やがてふんと鼻を鳴らすと絶対零度のクロユキスマイルで赤の王を見下ろした。

 

 

「まったく、これだから子供は嫌いなんだ。ケーブルの長さで新密度がどうこうとか、実にくだらん!」

 

「あれぇ、誰もそんな事を言ってないぜ?あたしはただ、短いほうが信号の減衰が少ないと思ってさぁー」

 

「こっ、こ、この...」

 

 

絶対零度が再び太陽表面温度まで急上昇しそうな気配を見て、ハルユキはもう一方の端子に繋いだケーブルを、これで何卒ご勘弁を陛下!という必死の視線と共に差し出そうとした。

 

 

だがその時、リビングの扉が開かれる音が聞こえ、がばっと全員の視線がそちらに向かう。

 

 

また騒ぎ過ぎたせいで、美空が入ってきたと思ったからだ。

 

 

案の定入ってきたのは美空だったが、いきなり全員から視線を向けられきょとんとしていた。

 

 

しばらくして、ようやく全員が視線を向けてきた意味を理解する。

 

 

「言っとくけど、もう目が覚めたわよ」

 

 

美空の言葉を受け、全員がはぁ...と安堵の溜息をついた。

 

 

しかし、ユニコがハルユキに抱き着いているのを見ると、美空は目を鋭くさせる。

 

 

「あんた、何ハルに抱き着いているのよ」

 

「い、いや、ケーブルが、み、短いから...」

 

 

先程、同じ事を言った黒雪姫には明らかさまな挑発をしていたのにも関わらず、先程とは別人のように吃っていた。

 

 

よっぽど怒らせた時の美空が怖かったのだと、容易に想像ができる。

 

 

「.........」

 

 

しばらく黙って見ていた美空だったが、直ぐに踵を返して自分の部屋へと戻っていった。

 

 

美空の行動に意図が分からず首を傾げる一同だったが、美空が1メートルのXSBケーブルを持って戻ってきた。

 

 

「はい、これで抱き合う必要ないでしょ」

 

「あ、ありがとう」

 

 

美空にケーブルを渡されたユニコは、素直にお礼を告げる。

 

 

美空はキッチンに向かい、冷蔵庫から飲み物を手に取って部屋を出て行った。

 

 

「ふん、残念だったな」

 

 

ユニコの思惑が上手く行かなかった事に、黒雪姫は笑みを浮かべる。

 

 

「ちっ」

 

 

ユニコは短いケーブルを外し、長いケーブルに着け直す。

 

 

ハルユキも美空が持ってきたケーブルを着け直したと同時に、もう1つのケーブルを黒雪姫に差し出した。

 

 

黒雪姫はケーブルを受け取り、自分のニューロリンカーに接続しながら、ポケットから出したいつもの2メートルのケーブルをタクムに差し出した。

 

 

呆れ顔と薄笑い半々で見守っていたタクムもそれを挿入し、更に2回の直結警告が出たところで、ようやく4人のニューロリンカーが一直線に接続されて、ハルユキはふうっと安堵の溜息をついた。

 

 

「あの、これで...どうするんですか?」

 

「そうだな、まずは座ってくれ」

 

 

黒雪姫はリビングの床に正座した。

 

 

ケーブルが張り詰める前にハルユキも慌ててそれに倣い、ユニコはどすんと腰を下ろした。

 

 

最後にタクムが、さすが剣道部と思わせる端然とした姿で正座し、ちらりと黒雪姫を見た。

 

 

「マスター、《加速》するんですか?」

 

「いや、それには及ばない。全感覚モードにした後、表示されたアクセスゲートに飛び込め。では、行くぞ...ダイレクト・リンク」

 

 

ふっ、と黒雪姫の瞼が閉じられ、肩から力が抜けるのを見て、ハルユキも慌ててコマンドを唱えた。

 

 

「ダイレクト・リンク!」

 

 

たちまち、全身の感覚及び周囲の光景が遠ざかる。

 

 

ニューロリンカーが現実の五感情報をキャンセルし、意識のみを仮想空間に誘ったのだ。

 

 

暗闇の中、強い落下感覚だけが発生する。

 

 

このまま待っていれば有田家のホームネットにフルダイブするはずだが、それより早くハルユキの目の前に円形に輝くアクセスゲートが浮き上がった。

 

 

見えない右手を伸ばし、そこに触れた瞬間、ハルユキの意識はゲートに吸い込まれた。

 

 

視界中央から引き伸ばされるように光が広がり、ハルユキを包んだ。

 

 

更にその奥から出現した風景は、奇妙な紫色の岩ばかりが連なる無限の荒野だった。

 

 

はてここはどこだろうと思いながら視線を下へ向けたハルユキは、そこに自分の体が存在しないのに気付いて少々慌てた。

 

 

しかしすぐ、これは仮想世界ではなくVRムービー、つまり脳内で直接再生されている記録映像なのだと気付く。

 

 

その証拠に、視界右下に再生時間をカウントする数字とスライドバーが小さく浮かんでいる。

 

 

『あの...先輩?』

 

 

声を出すと、すぐ右隣から応答があった。

 

 

『ここにいる。タクム君も、小娘もいるな?』

 

 

姿は見えないが、間違いなく黒雪姫の声だ。

 

 

続いて、『はい』『その呼び方やめろ』と2つの声が響く。

 

 

ハルユキはもう一度周囲を見回し、やはり奇岩しかないのを確認してから、おずおずと訊ねた。

 

 

『ええと......こ、この再生中のムービーファイルは何なんですか?映像を見るだけなら、なんでわざわざ全員で直結を...?』

 

 

『万が一にも外部に流出させたくなくてな。君の家のホームネット経由で全員に送信すると、マンションのサーバーにキャッシュが残ってしまうからな』

 

 

『は、ははあ』

 

 

直結の理由は解ったが、しかしムービーの内容は謎のままだ。

 

 

そこまで警戒するほどの映像とは思えない、とハルユキが不可視の体の首を捻った、その時――。

 

 

不意に上空から鋭い風切り音が聞こえた。

 

 

視線を上げる間もなく、正面10メートルほど離れた場所に、ざしっと音を立てて着地した姿があった。

 

 

漆黒に煌く半透過装甲。

 

 

長く、鋭い剣状の四肢。

 

 

Vの字形の頭部。

 

 

間違いない、黒雪姫のデュエルアバター《ブラック・ロータス》だ。

 

 

『あれっ、先輩...!?』

 

 

思わず叫んだハルユキに、黒雪姫がうん、と答えた。

 

 

『私だ。ただし、2年半前のな』

 

『2年......半。いやその前に......先輩があの姿ってことは、ここは《加速世界》なんですね?つまりこれは《対戦》の記録映像......?』

 

 

ブレイン・バーストにそんな機能があったのか、と思いながら訊ねると、今度は左側からユニコの声が響いた。

 

 

『《リプレイ》って奴だ。クソ高ぇアイテムで記録できる。それより、2年半前ってことは、こりゃつまりさっき言ってた《純色の七王》対《クロム・ディザスター》戦のリプレイなんだろ?なのにあんた1人か?』

 

『いや、すぐもう1人来る』

 

 

その言葉が終わらないうちに、画面の左側から新たなデュエルアバターが姿を現した。

 

 

多対一のバトルなのだろうか、と不思議に思いながらハルユキは眼をこらした。

 

 

ブラック・ロータスより頭1つ分も高い。

 

 

細身だが、手足にはがっしりとボリューム感がある。

 

 

左手に長方形の分厚い盾を携え、右手は空だ。

 

 

全身の装甲の色は――エメラルドのような、深く透き通る緑。

 

 

『なんて綺麗な緑色なんだ...マスター、彼が...?』

 

 

タクムのささやき声に、黒雪姫が応じた。

 

 

『そう。《緑の王》だ。属性は近接及び間接......だが、2つ名の方が彼の特性を的確に表している。曰く、《絶対防御(インバルナラブル)》』

 

『硬ってぇらしいな。噂じゃ負けは全部タイムアップで、そん時でもHPが半分割ったことは1度もねぇとか...うっそくせーよな』

 

『観ていれば解る』

 

 

混ぜ返すようなユニコの声に黒雪姫がそっけなく答えた時、映像のブラック・ロータスが緑色のアバターに近づき、身振りですぐ傍の大きな岩の陰を示した。

 

 

緑の王が無言で頷き、その岩陰に入ると、ぴたりと背中をつける。

 

 

黒の王も少し離れた岩に姿を隠す。

 

 

明らかに待ち伏せを試みようという気配だ。

 

 

過去の映像と解っていても、つい息を殺しながらハルユキが見守っていると、不意にじゃり、という小さな音が左手から響いた。

 

 

はっと視線を巡らせる。

 

 

じゃり、じゃり、と乾いた地面を踏む音が、ゆっくりと近づいてくる。

 

 

数秒後、立ち並ぶ奇岩の間からぬうっと出現したのは、あまりにも巨大なデュエルアバターだった。

 

 

緑の王の長身よりも、更に50センチは高いだろう。

 

 

蛇腹状の金属装甲に覆われた胴は異様に細長く、それを鎌首をもたげる蛇のように前傾させている。

 

 

左右の腕もまた有り得ないほど長い。

 

 

だらりとぶら下げた両手には武骨な大斧を携えており、その肉厚の刃が地面を擦りそうだ。

 

 

頭部は巨大な蚯蚓(みみず)を思わせる滑らかな円筒状で、その先端に2つの黒い穴が並んでいる。

 

 

内部の暗闇で、赤く光る眼が盛んに瞬きを繰り返す。

 

 

全身の装甲は、ドス黒く濁った銀だった。

 

 

その表面に薄い陽光を反射させながら周囲を見回すアバターが、不意に立ち尽くすハルユキをまっすぐに凝視した。

 

 

瞬間、ハルユキはこれが記録映像であることを忘れ、その場で戦闘態勢に移る。

 

 

――なんだこれ。

 

 

これが...バーストリンカー?生身の人間が操る仮想体だって?

 

 

うそだ。

 

 

まるでスマッシュみたいだ、とハルユキは思った。

 

 

『こいつが...四代目《クロム・ディザスター》か。今暴れてる五代目と、フォルムもサイズも全然違うな』

 

さすがに落ち着いた、しかしかすかに緊張の滲む声でユニコが呟いた。

 

 

『そうだろうな。あの黒銀の鎧は《強化外装》だから、それを装着するアバターによって形は変わるはずだ。だが、その特性は何代目だろうと変わらん。すなわち、狂的とすら思える攻撃性はな...』

 

 

黒雪姫が密やかに答えた、その言葉に導かれるように、巨大な黒銀のアバターが無言で大斧を振り上げた。

 

 

刃が狙うのは、明らかに《緑の王》が潜む奇岩だった。

 

 

いかなる手段によってか、あるいは直感なのか、クロム・ディザスターは待ち伏せを察したのだ。

 

 

『ガッ!!』

 

 

肉食獣のような咆哮と共に斧が猛烈なスピードで振り下ろされた。

 

 

分厚い岩がバターのように真っ二つになり、しかしその寸前、緑のアバターは横っ飛びに岩陰から抜け出していた。

 

 

それを追って再び大斧が振りかぶられる。

 

 

一回転して立ち上がった緑の王は、今度は避けずに左腕の四角い盾をかざした。

 

 

直後、ジャキッという金属音と共に盾の四方が伸長し、長方形が巨大な十字形へと変形した。

 

 

緑の王の長身を全て覆うほどのサイズだ。

 

 

その中央に、遥かな高みから武骨な斧が力任せに叩き付けられた。

 

 

耳をつんざくような衝撃音と共に、滝のように火花が飛び散る。

 

 

斧は跳ね返されたが、緑の王もがくっと膝を突く。

 

 

『ガッ、ガガッ!!』

 

 

怒りとも喜悦ともとれる叫びを漏らし、クロム・ディザスターは斧を無茶苦茶な動きで何度も何度も振り下ろした。

 

 

一撃でもヒットすれば体を断ち切られそうなその攻撃を、緑の王は十時盾で的確に、愚直にガードし続ける。

 

 

ここでハルユキはようやく、クロム・ディザスターの黒銀の装甲に、幾つも深い傷が口を開けているのに気付いた。

 

 

斧を振るうたび、その傷から黒い霧のようなものが飛び散り、空中に拡散していく。

 

 

『手負い...?』

 

 

無意識のうちに呟くと、黒雪姫がささやきを返した。

 

 

『そうだ。奴は、直前に他の王達と戦い、この場所に追い込まれたのだ。体力ゲージ的にはもう瀕死なんだよ。なのにまだこれほど荒ぶる。私はこの時、心の底からこいつが恐ろしかった』

 

 

それはそうだろう。

 

 

ハルユキはスマッシュと戦いなれているから大丈夫だが、普通だったらこうしてリプレイを見ているだけでも、逃げ出したくてたまらないだろう。

 

 

内心でそう呟きながら、ハルユキは感覚切断されているはずの生身の体がぞっと総毛立つのを感じていた。

 

 

スマッシュとの戦いで慣れているはずのハルユキですら、クロム・ディザスターの戦い方は異常のものだった。

 

 

訳も解らず暴れる所は一緒だが、その凶暴性は今まで戦ってきたスマッシュすらも超えていた。

 

 

実際、とても考えられない。

 

 

加速世界で最強であるはずの《王》を相手に、ここまで一方的に暴れ狂い――しかも、これで瀕死状態だなどとは。

 

 

これでは、クロム・ディザスターの実質的な強さは、レベル9をも超えているということになりはしないか。

 

 

と、どれだけ斧を叩きつけようとも防御を崩さない緑の王に苛立ったのか、クロム・ディザスターが低く唸った。

 

 

攻撃を継続しながらも、その長い頭部を伸ばし――突如、ぐばっと湿った音と共に口を開いた。

 

 

口というよりも、同心円状の吸入孔を思わせるその中央から、細長い舌あるいはチューブのようなものがだらりと伸びるのをハルユキは呆然と見詰めた。

 

 

即座に黒雪姫が鋭い声を発した。

 

 

『あれが、クロム・ディザスターの能力の1つ《体力吸収(ドレイン)》だ。奴は対戦相手のHPゲージを奪う』

 

 

その言葉通り、長いチューブが緑の王の十時盾を迂回するようにそろそろと伸び、首筋に近づいた。

 

 

『危ない!』

 

 

反射的にハルユキが叫んだ、その直後。

 

 

これまで一切戦闘に参加しようとせず、身を潜めていたブラック・ロータスが、画面の奥から黒い稲妻のように飛び込んできた。

 

 

右腕の剣が視認不能な速度で振り下ろされ、クロム・ディザスターの舌が根元から断ち切られた。

 

 

『ガッガガガガッ!!』

 

 

丸い口から、明らかな悲鳴とどす黒い闇を振り撒きながら巨大なアバターが仰け反った。

 

 

その胸に刻まれた大きな傷目掛けて、ブラック・ロータスの左脚の剣が、容赦なく根元まで突き通された。

 

 

背中まで貫通した長大な刃が、突如眩いヴァイオレットに輝いた。

 

 

黒の王はそのまま脚を垂直に斬り上げ、更に高く舞い上がると、華麗な後方伸身宙返りを見せた。

 

 

煌く漆黒のアバターが着地するよりも早く、クロム・ディザスターの頭部が真っ二つに裂け――。

 

 

そこで画面右下の再生時間を示すスライドバーが右端まで達した。

 

 




どうも、ナツ・ドラグニルです!


ようやくSwitch2の店舗での抽選が始まりましたが、皆様は抽選しましたでしょうか?


私は早速ノジマの抽選にハズレました。


ちくしょう...


さて今回は、強化外装の紹介、そしてクロム・ディザスターと王達の戦う話でした。


アクセル・ビルドとの変更点は特にありません。


それでは次回、第20話もしくは激獣拳使いの幼馴染修行その6でお会いしましょう
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