あたし、天才美少女魔道士リナ=インバース。
姉ちゃんに『世界を見て来い』と言われた事をきっかけに始めた一人旅。
その旅の途中で出会ったたくさんの人達、そして仲間達。
この旅があたしにとって大きな経験になった事は間違いない。
そして、あたし自身も大きく成長した事だろう。
「全然成長していない」という説もなかにはあるが、きっと成長したに違いない。
今は、旅の連れであるガウリイ=ガブリエフと共にある場所を目指して旅をしている。
それは、あたしの故郷ゼフィーリア。
ある事件の後、あたしの故郷に行きたいとガウリイが言い出したのだ。
他に行く当てもないし、たまには故郷に帰るのも悪くない。
そんな訳でゼフィーリアに向けて出発したのはいいのだが、いまだにアトラスシティ周辺をさまよっているのである。
「リナ、本当にこの道であってるのか。」
「この道を真っ直ぐに行けば、街道沿いに出るはずなのよ。」
「でも、ずっと森の中を歩いてるぞ。」
「デーモンの大量発生事件のせいで、この辺り一帯の地形が変わっちゃったのよ。」
「誰かさんが呪文を連発したせいじゃないのか。」
ガウリイの突っ込みはとりあえず無視。
確かに、多少は山の形が変わっちゃったりしているけれど、それは絶対に不可抗力。
正当防衛なのである。
「リナ、何か聞こえないか。」
そう言われて、あたしは耳を澄ます。
かすかに聞こえる剣の弾く音、そして爆発音が辺りに響き渡る。
これは、攻撃魔法そんなに遠くない。
「ガウリイ、行くわよ。」
「おう。」
リナとガウリイがたどり着いた場所では、誰かがデーモンと戦っているところだった。
辺りには、数匹のデーモンが息絶えている。
おそらく、彼が一人でこのデーモン達を倒したのだろう。
最後の一匹が彼に襲いかかって来る。
彼は素早い動きでデーモンの攻撃をかわし、唱えていた呪文を解き放つ。
「烈閃槍(エルメキア・ランス)」
その瞬間、デーモンは跡形もなく崩れ去る。
「一人でこれだけの数を相手にするなんて、なかなかやるじゃない。」
「あんた達は、誰だ。」
「あたしは、リナ。こっちは旅の連れのガウリイよ。」
「俺はレオン。見ての通り、旅の剣士だ。
今は、魔道士協会からの要請を受けてデーモン退治をしている。」
「私達、街道沿いに出たいんですけど、道を教えてもらえませんか。」
「それなら、ここから東に行けば街道沿いに出られる。そこから街道沿いに行けば宿屋があるはずだ。」
「宿屋、これでご飯が食べられる。」
「まだ、デーモンも残っているはずだ。行くなら気を付けていけよ。」
「レオンは、宿屋に戻らないの。」
「俺は、この森の奥に用がある。俺は先を急ぐから、これで失礼するよ。」
「そう。宿屋の場所を教えてくれてありがとね。」
「じゃあな。」
レオンは、そう言うと森の奥へと入っていった。
あたしとガウリイは、無事に宿屋にたどり着く事ができ、温かい食事を取る事もできた。
これも、日頃のあたしの行いが良いからである。
「おばちゃん、こっちAセット10人前追加ね。」
あたしは、店の中を見渡した。
それは、店の隅に座っている男達の声が聞こえてきたからだ。
椅子に腰かけた、数人の男達がなにやら話しこんでいる。
「おい、聞いたかよ。また出たらしいぜ。」
「本当か、ただでさえデーモンの大量発生や異常気象のせいで畑の作物にも被害があるっていうのに、どうしたらいいんだ。」
話を聞いていたあたしの横でガウリイがあたしの皿からローストチキンをかっさらおうとする。
あたしは、持っていたナイフでガウリイのフォークを阻止した。
「ちょっと、なにするのよ。ガウリイ。」
「おまえさんが食べないからだろ。」
そこへ、おばちゃんが追加の料理を運んでくる。
「たくさんあるから、そんなに急いで食べなくても大丈夫だよ。」
「ねえ、おばちゃん。あそこで話してる人達、なんの話をしてるの。」
「ああ、あれかい。最近、この辺で夜になると化け物が出るらしいんだよ。」
「化け物!?」
「なんでも、巨大な生き物が森の奥深くに住み着いたらしいよ。
心配しなくても大丈夫さ。今回、剣士様に化け物を退治してもらう依頼をしたからね。」
「その剣士の名前、レオンじゃない。」
「おや、レオン様を知ってるのかい。」
「ここに来る途中で、道を教えてもらったの。」
「そうかい。あたしらがこうして安心して店を開いていられるのも、レオン様のおかげなんだ。帰ってきたら、おいしい料理をご馳走しなきゃね。」
そこまで言って、おばちゃんは厨房に入っていってしまった。
そこへ、一人の男性が慌てた様子で宿屋の中に入ってくる。
「いったい、どうしたんだ。」
椅子に腰かけていた男が何事かと立ち上がり声をかける。
「それが大変なんだ。化け物の正体が分かったんだよ。」
それを聞いて傍にいた男も駆け寄り、コップに入った水を差し出す。
「落ち着けよ。何を見たんだ。」
「化け物の正体は、魔王竜(ディモス・ドラゴン)なんだ。」
「魔王竜だって!?」
「そんな訳がないだろう。魔王竜はカタート山脈にしか生息しないドラゴンのはずだ。」
「見間違いじゃないのか。」
「確かに、見たんだ。あれは絶対に魔王竜だ。」
男達が騒いでいる最中でも、もくもくと料理を口に運んでいるガウリイ。
「リナ、何をそんなに騒いでるんだ。なにか問題でもあるのか。」
そんな事をのほほ~んと聞いてくる。
「魔王竜は、竜族の中でも最強の強さを誇るドラゴンなのよ。
その魔王竜が、本当にこの森の奥にいるとしたら大変な事になるわ。」
「それじゃあ、あの剣士は大丈夫なのか。」
「そうよ。レオンはこの事を知らないんだもの。すぐに知らせないとレオンが危ないわ。」
「おい、なにをそんなに慌ててるんだよ。
いくら、そのドラゴンが最強でも倒せない事はないだろう。」
「なに言ってんのよ。
魔王竜は、竜破斬(ドラグ・スレイブ)くらいの強力な呪文じゃないと倒せないのよ。」
「そうなのか。」
やっと理解してくれたらしい、ガウリイは急いで残りの料理を平らげていく。
あたしは、男達から詳しい話を聞きだし、荷物をまとめてカウンターの上にお金を置く。
「おばちゃん、お勘定ここに置いておくから。」
そう言って、あたしとガウリイは宿屋を飛び出した。
あたしとガウリイは、レオンと別れた場所まで戻ってきた。
「ここから、どうするんだ。」
「さっきの男が魔王竜を見たのは川の中流。
川沿いに進んでいけば、目的の場所まで行けるはずよ。」
それから、随分と歩き続け、あたし達は川の中流辺りへとやってきた。
「ドラゴンなんて見当たらないぞ。」
「そうね。もっと上流の方かもしれないわ。もう少し登ってみましょう。」
結局、ドラゴンもレオンも見つからないまま時間だけが過ぎていく。
道を間違えたのだろうか。それとも、すでに通り過ぎてしまったのか。
だいぶ、奥の方まで来てしまった。
今から引き返すには、時間がかかりすぎる。
さて、どうしたものか。
あたしが色々と考えていると、隣でガウリイが立ち止まった。
「ガウリイ、どうしたの。」
「リナ、この先に滝があるみたいだ。」
川の流れは、だんだん速くなっているが、暗くてよく分からない。
だが、ガウリイが言うのだから、この先に滝があるのは間違いないだろう。
いつの間にか、上流付近まで来てしまっていたようである。
近くまで行ってみると確かに滝の流れる音が聞こえてくる。
「手分けして探してみましょう。ガウリイは滝つぼの中をお願い。」
「そんな所にドラゴンなんているのか。」
「魔王竜の生態なんて、はっきりした事は分かってないのよ。水の中にいても不思議じゃないわ。」
「そういうもんか。」
「そういうもんよ。分かったら、さっさと行く。」
ガウリイは、しぶしぶ水の中へと潜っていく。
「さてと、あたしは滝の周りでも探すとしますか。」
一見して変わったところは特になし。
あと考えられるとすれば、滝の向こう側。
そこへ通じる道がどこかにあるはず。
そう考え、滝の傍までやってくる。
「ビンゴ。」
滝の裏側にぽっかりとあいた洞窟が奥へと続いていた。
剣の切っ先に『明り(ライティング)』を灯し、奥へと進む。
道が二手に分かれている。右には壁に分かるように目印が付けられている。
おそらく、誰かがここを通ったのだろう。
もしかしたら、レオンかもしれない。
迷っていても仕方がない。ここは、右に進むべし。
もしかしたら、罠の一つもあるかもしれないが、その時はその時である。
あたしは、そのまま洞窟の奥へと進んでいく。
そして、奥から誰かの悲鳴が聞こえてきた。
この声は、女の人の声。
あたしは、すぐに走り出し洞窟を抜けた。
そこには、水浴びをしている一人の少女と、それに背を向けているレオンの姿があった。
「このすけべ、ヘンタイ、人の裸を見るなんて最低。」
「レオン、なにやってんのよ。」
「違うんだ。俺は滝の裏にあった洞窟を見つけて、ここまで来て・・・」
「それで、この人が私の水浴びを覗いたんです。」
「だから、見たことは誤ってるだろう。」
「やっぱり見たんですね。もう絶対に許さないから。」
彼女をますます怒らせてしまったようである。
火に油を注いでどうするのか。これでは、まともに話も出来そうにない。
あたしは、とりあえず助け舟を出すことにした。
「レオン、あんたは洞窟の外でガウリイと一緒に待ってなさい。
話はあたしが聞いておくから。」
「分かった。」
あたしは、あらためて洞窟内を見回してみた。
緑も生い茂っており、中は大きなドーム状のようになっている。
かなりの深さがあるのだろう、巨大な湖が広がっていた。
あたしは、彼女が落ち着くのを待って、話を聞いてみた。
彼女の名は、クリス。
どうやら、クリスはここで魔王竜を見守っているらしい。
デーモンの大量発生や異常気象のせいで身動きが取れなくなっていたようである。
この湖の底に魔王竜がいるらしいのだが、どうやらこの湖にはいくつかの出口があるらしい。
宿屋の人々に何度も目撃されたのは、この湖が各場所へと繋がっていたからだ。
「だいだいの事情は分かったわ。ところで、この湖、滝つぼにも繋がってるの。」
「もちろん、繋がってますよ。あそこでよく魚を捕ってくるんです。」
あたしの額に一筋の汗が流れる。
もしかしたら、非常にまずい事になってるかもしんない。
「とにかく、あなたも一緒に来て。」
「どうしたんですか。」
「嫌な予感がするのよ。」
滝のある場所まで戻ってみると魔王竜がしっぽを振り回している。
「誰か助けてくれ。」
しかも、魔王竜のしっぽにガウリイがしがみ付いていたりする。
「魔王竜がいるなんて聞いてねえぞ。」
レオンも魔王竜の出現にどうしようもないようである。
「予感的中だわ。」
感心してる場合じゃない。
レオンが剣を抜き放ち、魔王竜に切り掛かろうとする。
「やめて、この子を傷つけないで。」
魔王竜の前に彼女が飛び出していく。
レオンは慌てて剣を引っ込めた。
「危ないぞ。そこをどくんだ。」
しかし、クリスは一歩も動こうとしない。
「もしかして、その魔王竜、身籠っているんじゃない。」
あたしの指摘にクリスはこくりと頷いた。
「なんだって。」
レオンは驚きながらも、魔王竜を見た。確かにお腹の辺りが大きく膨らんでいる。
身動きが取れなくなった原因が他にもあるのではないかと疑問に思っていたのだ。
さっきから、一度も反撃をしてこなければ、戦おうともしていない。
お腹にいる子供を守っているからだろう。
子供が生まれてくるとすれば、今夜あたりではないだろうか。
クリスは、水浴びをすることで己の身を清めていたのである。
「ドラグーン、この人達は敵じゃないわ。お願い、その人を降ろしてあげて。」
魔王竜はしっぽを振り回すのをやめて、ガウリイを地面に降ろした。
「一時はどうなる事かと思ったぞ。」
ガウリイもやれやれといった表情で、冷や汗をかいている。
「いったい、どうなってるんだ。」
そう言えば、まだガウリイとレオンには全く事情を説明していない。
「とにかく、場所を移しましょう。事情は、後で説明してあげるから。」
あたし達は、滝の裏にある洞窟に場所を移動した。
ここならば、デーモンに襲われたり、人々に目撃される心配もないだろう。
クリスは、湖の傍でずっと魔王竜を見守っている。
あたしは、ガウリイとレオンに一通りの事情を説明した。
「という訳なのよ。だから、二人には協力してもらうわよ。」
「そういう事なら仕方ないか。それで俺達は何をすればいいんだ。」
「ガウリイは、この辺りのデーモンを全て退治して来て、レオンは宿舎に戻って町の人達がここに近づかないように頼みに行ってくれる。
あと、食料をありったけ貰ってきて。」
「リナは、どうするんだ。」
「ここに残るわ。
なにかトラブルがあった時に動ける人間がいた方がいいでしょう。」
トラブルがなければする事もないのでは、と思ってはいけない。
『入れ食いの呪文』で魚を釣るという、あたしにしかできない重大な任務が残っているのだ。
「さっさと、デーモンを退治してくるか。」
「ここは、任せるからな。」
「二人とも、頼んだわよ。」
それから数時間後、魔王竜の子供は無事に生まれてきた。
「皆さんのおかげで、この子も無事に生まれてきました。
本当にありがとうございます。」
「良かったわね。それで、これからどうするの。」
「ドラグーンは、このままカタート山脈に帰らせます。」
「それじゃあ、その子供のドラゴンはどうするんだ。」
「ドラグーンは、この子を外の世界へ連れて行ってほしいと言っています。
だから、私と一緒に旅に出るんです。
そういう訳ですので、ドラン共々、よろしくお願いしますね。
リナさん。ガウリイさん。」
「どういう事なの。」
「言ってませんでしたか、この子の名前はドランなんですよ。
私は、クリス=ルシフォードです。」
「クリス、そういう事じゃなくて。」
「俺も同行させてもらうぞ。デーモンを退治していくより、原因を見つけて解決した方が早いからな。俺はレオン=ラーザック。よろしくな。」
「レオンまでなに言ってんのよ。」
「よろしくな、クリス。レオン。」
「あんたは、勝手に話を進めるんじゃない。」
あたしの叫び声が森中にこだました。