白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。三大将を撃破しても切羽詰まった状況なのは変わりません。早く逃げましょう。


前回のあらすじ
歌野たちは何度でも立ち上がり挑み続けた。そして結城友奈はここにいる全員の想いを背負い"勇気"の一撃を放つ。遂に"三大将"山吹シズクを倒すことに成功した。あとは姫路城から逃げ延びることだけだが……。


第九十八話 姫路城、脱出

 歌野は荒い呼吸を整えながら水都に向かって手を差し出した。水都もまたその手に触れようと手を伸ばす。

 

「……痛っ」

「アゥ!」

 

 触れた瞬間、静電気が走った。歌野の身体に帯電していた僅かな電気によるものだ。

 

「……ふふ」

「……ふ、ふふっ♪」

 

 お互いに笑いが込み上げてきて静かに笑い合う。

 仕切り直しに歌野と水都の二人は地面に手を付けて電気を逃す。

 

「オーケー。これで……おわっと⁉︎」

 

 電気を逃したあと、改めて立ち上がった歌野に水都が抱き付いた。

 

「……う、うたのんっ。ほんとうに、ありがとう〜」

「気にしないで♪。……さあ、みんなで帰りましょう」

 

 両手を後ろに回してしっかりと抱きしめてくる水都の背中を、優しく撫でる。

 

 ――その時、姫路城の周りを砲撃が襲う。

 

「わああッ!? び、びっくりしたあ」

 

 高嶋友奈の驚いた声につられ目線を上げると、巨大な木船が幾つもの砲塔をこちら側へ向けて次々と砲撃してきた。

 

「始まったわね。……早くしないと、ここら一帯が焼け野原になるわ!」

 

 一度始まると、休むことなく砲撃音は鳴り響く。

 水都は歌野から身体を離すと、手を繋いで歩き出す。

 雪花は眠ったままの芽吹を担ぎ上げると同時に、槍も掴み上げた。

 

「雪花。槍は蓮華が持つわ。貴女は芽吹を落とさないようになさい」

 

 蓮華は自分の刀を鞘に仕舞うと左手で雪花の槍を受け取る。

 よく見ると槍の形状が少し歪んでいた。熱で溶けたあと、整える暇も無く固まったからだ。

 

「にゃっはは。ちょっと不細工な形になっちゃったねー」

「仕方ないわね。雷雲の中に放り込んだようなものだから」

 

 結城友奈は三ノ輪銀を背負った。そのフォローに高嶋友奈がまわり、落ちないように支えながら駆ける。

 三ノ輪銀については、一時は結城友奈を守るために動き出したが、それ以降はまた停止したままだ。

 

「ありがとね。高嶋ちゃん!」

「これくらいは大丈夫だよ! 結城ちゃんも大丈夫?」

「うん! なんかね、パワーがぐんぐん湧いてくるんだあ」

 

 先陣切って結城友奈は走り出した。そのすぐ後ろを高嶋友奈が尾いていく。

 

「火事場のフルパワーね、結城さん。それともランナーズハイかしら。私たちも負けてられないわっ!」

 

 歌野たちも後に続いて走り出した。

 本隊が姫路城を破壊している間、全員は大天守を背にして足を速める。

 

 

 

 

 

 

 ――姫路城への総攻撃が始まってまだ10秒しか経っていない頃、防人のひとりが全隊に拡声器を用いて告げた。

 

『報告!!! バスターコールに先んじて姫路城に向かっていたしずくさんが……! あの、"三大将"山伏しずくが、白鳥歌野率いる一味に()()()()()()!!!』

 

 その報告は乗っている全員を震撼させるものだった。

 

「な、なにィ!?」「はあああ!?」「……ウソ……でしょ」

 

 神官も他の防人も青ざめ、口々に周章狼狽の言葉を吐く。

 各船の指揮を任されている者たちにも若干焦りが見え始めた。

 

『……弥勒。奴らを確認した。これより我が船は地に降りて砲撃を行いつつ、対象の捕縛に入るがいいか?』

 

 5隻の木船の内の1隻を任されている神官の男は弥勒に指示を仰ぐ。シズクと歌野たちの戦いで、巨大な雷球が不発に終わり、尚且つシズクが倒されるのを同じ船内の部下が目撃していた。

 今しがたシズクの敗北の報告を入れたのも彼の船の防人である。

 

『……? どうした弥勒』

 

 夕海子からの応答はない。他の指揮者に連絡を取るともう一人の男性神官と、防人のNo.6の二人は返事をしていた。

 返ってこないのは夕海子と雀の三大将だけである。

 

『……弥勒。弥勒夕海子』

 

「……はっ!」

 

 ここで夕海子はようやく我に返り、自分へ連絡が来ていたことに気付いた。

 彼女もまたシズクの敗北に動揺を隠せずにいた。同じ防人三大将であるが故にその強さに最も信頼を置いていたのだ。

 

「あ……いえ、申し訳ありません。乱されていましたわ。……で、船を着陸させると仰いましたか?」

 

『ああそうだ。対象の藤森水都の身柄を確保する。また姫路城への砲撃も継続して行う』

 

「分かりましたわ。よろしくお願いします」

 

 一旦通信を切った。そしてすぐに個人宛てに連絡をとる。相手は加賀城雀だ。

 

「雀さん。聞こえていますか? ……信じられない話ですわね。まずはわたくしたちも降りてしずくさんの状態を確認しましょう」

 

『…………』

 

 しかし雀は無言だった。先程と同じだ。

 

「ちょっと雀さん? いいかげんにしないと……」

 

『弥勒さん。加賀城さんなら泡吹いて失神してます』

 

「ええっ⁉︎」

 

 声が裏返った。

 雀と同じ船に乗っている防人の話によると、砲撃が始まった際、その音の大きさに恐怖してもうすでに泣き喚いていたそうだ。加えて、しずくが敗れた情報が彼女の意識にとどめを与えた。

 

「……はあぁ。一番船は今から二番船のもとに向かいます」

 

 大きく息を吐くと夕海子は再度、各船隊の指揮者に向けて連絡を入れる。

 

「度々申し訳ありません。アクシデントの為指示を変更致します。……わたくしのいる一番船は二番船と共に姫路城の砲撃を継続。三番船、四番船、五番船は"鬼神官"の指揮のもと、対象の捕縛」

 

 その指示に雀以外の指揮者は即座に返事をしたのち、通信を終了した。

 

 

 ――現場指揮を任された鬼という名前の神官は早速、部下に対して攻撃指示を出した。

 

「目標は姫路城を背に、逃走を図っている。また捕縛対象も確認済み。10秒後、奴ら目掛けて一斉砲撃を行う。照準を合わせろ」

 

 その指示に同船の神官たちにざわめきが起こった。近くにいた一人の神官が恐れながら意見する。

 

「え……。あの、鬼神官。対象である藤森水都ごと……でしょうか」

「早くしろ」

「ご、ご冗談をっ! 捕縛対象をもし死なせてしまえば――」

 

 その時、一発の銃声が響いた。意見を述べた神官の腹部を弾丸が撃ち抜いたのだ。

 

「ぎゃあああ〜〜⁉︎」

 

 周りはその光景に真っ青になる。準備も中断し、歌野たちの動向に気を回せない。

 

「一瞬の気の迷いで、取り逃した"凶悪犯"からお前……四国の明日を守れんのか?」

 

 それだけ言うと、すぐに準備の続きを行わせた。指揮者である彼に反論すればその場で銃殺されるため、他の者たちは何も言えない。

 

「三大将を倒してでも助け出そうとしているんだ。被弾する時は周りの奴が盾になるだろう。……仮に死んでも生け贄は本来のルートを辿るだけだ」

 

 そして砲撃は行われる。決して少なくない数の砲弾が歌野たち目掛けて発射された。

 

「危ないッッ!!!」

 

 蓮華の叫びで全員はその場からそれぞれの方向に跳んで回避を試みた。

 爆炎や衝撃波を受けてメンバーは吹き飛ばされるが、幸い直撃した者はいない。

 

「……ゲホッ……ゲホッ。……みーちゃん、無事かしら」

「うん。うたのんも……大丈夫?」

「ノープロブレム。……今のところはね」

 

 歌野は身体に付いた砂煙を払い起き上がる。咄嗟に水都を胸元に引き寄せて守ったので怪我はないようだ。

 

「雪花! 蓮華! 友奈! 結城さん!」

 

 さっきまで一緒にいたはずのみんなを呼びかけた。だがこの砲撃音で届いているか分からない。

 幾度か呼びかけると……。

 

「こちらの秋原雪花さんは無事だよ。あと芽吹もね、起きないけど」

「こちら結城友奈! 銀ちゃんもいるよー!」

 

 煙で全身は見えないが、各方面から声が聞こえてきた。

 

「蓮華よ。こちらも問題ないわ」

「高嶋友奈だよ〜。こっちは、痛ったた。……ちょっと足ケガしちゃったかな」

 

 報告を聞く限りみんなは無事なようだ。負傷したのも高嶋友奈だけ。

 

「オーケー、取り敢えずは無事なのね」

 

 胸を撫で下ろす歌野。

 ……煙が晴れる。そして歌野たちの目に入ったのは――。

 

「うそっ。建物が崩れて……ッ⁉︎」

 

 最初に気付いたのは雪花だった。歌野と水都も目の前に石垣と建物の巨大な残骸が散らばっているのが分かった。

 崩落に巻き込まれなかったのは幸運だったが、これで逃げ道のひとつが断たれてしまった。

 そしてさらに、深刻なアクシデントが発生した。

 

「結城さん……? 結城さんは⁉︎」

「ここだよー!」

 

 歌野の視界には結城友奈と三ノ輪銀の二人がいない。声だけが聞こえる。

 

「歌野。この向こうだよ」

 

 そう。結城友奈の声は崩れてしまった建物の向こう側から聞こえてきたのだ。

 

「早く合流しましょう! まわりこめるかしら」

「――次がくるわ! 離れて!!!」

 

 建物に沿って迂回を試みようとしたが、蓮華の声で振り返る。木船からの砲撃がまた歌野たちを狙って始まったのだ。

 砲弾は付近に落ち爆発する。今回も直撃はしなかったが、視界が塞がれるほどの爆煙と気を抜けば飛ばされそうな勢いの爆風が身を掠める。周りには瓦礫がさらに散らばって平坦な道がどんどん無くなっていく。

 

「また……ッ⁉︎ 向こうは水都がいることを分かっているの⁉︎」

「これがバスターコール……」

 

 兵庫支部の防人や神官も、あとから来たシズクも、"奉火祭"の生け贄である水都に危害を加えることはなかった。

 だが今は、水都の生死などお構い無しに砲撃が飛んでくる。

 

「……歌野ちゃん! みんな! 私のことはいいから早く逃げて‼︎」

「でも結城さんは……ッ!」

 

 彼女がいる場所は木船から崩れた建物を隔てた向こう側にいる。おかげで砲撃に襲われる可能性は歌野たちより低い。

 

「残念だけどここでお別れだね! 私は銀ちゃんと隠れながら抜け出すよっ。だから歌野ちゃんたちも別の道で逃げてっ!」

 

 動けない三ノ輪銀を担いでいることから、結城友奈はひとりでここから脱出することになる。その危険性を歌野たちは懸念するが、危険なのはお互い変わらない。

 

「東郷さんたちの反応も近いから、上手くいけば連絡取れるよっ。だから私は大丈夫! なせば大抵なんとかなる、だよ!」

「結城さん……」

「歌野ちゃん‼︎ 歌野ちゃんの目的はなに? 水都ちゃんの救出だよね! そして私の目的は銀ちゃん。どっちも上手くいったのにここで足を止めてたらダメだよっ」

 

 結城友奈と合流することは難しいこの状況。逃げ道は塞がれていくうえ、砲撃が自分や仲間に直撃するのは時間の問題だった。

 

「歌野……」

「うたのん……」

 

 心配そうにこちらへ呼びかけてくる雪花と水都。蓮華も高嶋友奈も、口にこそは出さないが、その表情で歌野の心中を理解していることが分かる。

 

「歌野ちゃん。……歌野ちゃんは、()()()()()()()()()()()なんだよっ!」

「…………ッ‼︎」

「歌野ちゃんの大切なものを……歌野ちゃんは大切にしなきゃ!」

 

 その言葉が決め手となり、歌野は自分の意思を確定させた。リーダーとして今何をすべきか、どんな決断を降すべきか。時間など待ってはくれない。

 ……ならば、仲間の身の安全を最優先する。……しなければならない。

 

「…………ッ。結城さんッ‼︎ 貴女に会えて良かったわ! ……必ずまた会いましょう‼︎ そして一緒に農業しましょう!」

「うんっ、必ず! 勇者部のみんなと会いにいくよ!」

 

 よく通る元気な返事を聞いて、歌野は背を向けて駆け出した。……仲間と共に。

 

「友奈っ。走れるかしら」

「小走りなら大丈夫だよ」

 

 高嶋友奈が足を負傷したのは致命的な事態だが、起きてしまったことを嘆いても仕方がない。それに彼女が負傷したのは結城友奈を庇ったからだ。

 砲撃がこちらを狙っていると気付いた高嶋友奈は咄嗟に、結城友奈を突き飛ばした。

 そうしなければ三ノ輪銀を背負い、前を向いて走っていた結城友奈に被弾していただろう。そのおかげで二人は無事だ。

 しかし、結果的にその行動が分断される形となってしまった。

 

「……あら、友奈?」

 

 歌野と走り続ける中で、友奈は目元の仮面を外した。

 

「私が結城ちゃんのふりをするよ。それで向こうの人たちの目が集まると思う」

 

 確かに素顔は結城友奈と瓜二つだ。何も知らない人が見れば区別が付かない。ましてや大社は高嶋友奈のことを何も知らない。故に充分な"囮"になれる。そう考えたのだ。

 

「あっ、でもこれじゃあウタちゃんたちに迷惑がかかっちゃう……」

「いいえ、友奈。今このシチュエーションにおいては、ベストチョイスよ!」

 

 歌野はその策に乗ることを決めた。

 素顔を晒した友奈を先頭に、蓮華は彼女のサポートにまわり、後方を芽吹を担いだ雪花と、水都を背負った歌野が追従する。

 

「みーちゃん。絶対に離さないでね」

「うん。……私も、二度と離れたくない……っ」

 

 チラッと木船を一瞥する。先程、歌野たちに砲撃してきた船とは別の2隻が隣り合っていた。

 

 

 

 ――木船に乗っている神官たちは歌野たちが砲撃を潜り抜けて逃走を続けているのを見つけた。

 

「――奴らの生存を確認! 先頭は()()()()。後方に今回の首謀者である白鳥歌野と対象の藤森水都も確認しています!」

「生きていたか……」

 

 報告を受けた鬼神官は同船及び、四番船、五番船に指示を送る。

 

「船員を投入して奴らをまとめて捕縛する。やむを得ない場合は殺してよし。砲撃は姫路城をはじめとする周囲の施設の破壊を継続。かかれ!」

 

 3隻の木船が横並びで着陸する。船内から武装した神官たちが続々と大地へ降り立っていく。砲撃は鳴り止まない。

 

「歌野‼︎ 見えた⁉︎」

「ええ。敵さんがおいでになったわねっ! さあエブリワンッ‼︎ 踏ん張りどころよッ‼︎」

 

 歌野たちもここから脱出するため、"ある場所"に向かって足を止めることなく走り続ける。疲労は全員ピークを超えているがそれを理由に倒れてしまえば今までの努力全てが無駄に終わる。

 

 

 

 ――全ては水都と……仲間と、生きて帰るために。

 




今回のバスターコールに参加した各船の指揮者。

・一番船:弥勒夕海子(三大将)
・二番船:加賀城雀(三大将)
・三番船:鬼神官(武闘派神官)
・四番船:桃神官(武闘派神官)
・五番船:No.6(指揮官型防人)


次回 勝者と敗者
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