前回のあらすじ
バスターコールの砲撃は容赦無く歌野たちに襲いかかる。建物に阻まれ結城友奈と別行動になってしまった。歌野は結城友奈と互いに再会の約束をしたのち、全員で生きて帰るために大社の猛攻を掻い潜り走り続ける。
仮面を外した高嶋友奈を先頭に、あえて目立つように移動する歌野たち。
決して遠くない位置には3隻の木船が着陸しており、武装して降りてきた神官がこちら側へ向かってくる。その数はざっと百人はいるだろうか。
「くっ。このままじゃあ"木船"に着く前に鉢合わせるわ‼︎」
蓮華の声に少しだけ顔が引き攣る。捕まるつもりなど毛頭ないが自分たちの疲労具合と敵の数を鑑みて、なるべく戦闘は避けたい。足を止めれば数に押し負けてしまう。
「このまま押し通る!」
友奈と横並びになる歌野。充分敵の注意は引けただろう。さらに足を速める。
今、彼女たちが向かっている場所は"木船"である。それに乗ってここから脱出する。
だが、あの3隻のどれかを奪うのではない。狙うのはそれ以前に来たもの。
「見えたわっ。みーちゃん、あれね!」
指を差して尋ねてくる歌野に水都は頷く。自分が連れてこられたあと、援軍として神官長やドクター、国土亜耶などが乗ってきた木船だ。その船だけは離れた位置に停めてある。歌野たちの狙いはその船を奪って逃げること。
「……ッ⁉︎ 銃弾が来るッ‼︎」
進行方向の左から神官たちが銃を向けて現れた。相手は蓮華や友奈の姿を確認すると、次々と発砲を開始する。
蓮華は片手で雪花の槍を回転させながら弾丸を弾いていく。雪花は芽吹にも当たらないように身体を大きく振ってなんとか避ける。しかし、全ては避けきれず一発だけ左腕を掠めた。
全員は瓦礫や崩れかけた建物沿いの道を選び射線を遮ることにした。
「……まったく、容赦無いわね」
「でも、なんとなくだけどウタちゃんは狙ってなかったよ」
「へーそうなんだ。よく分かったね友奈」
友奈の勘は当たっていた。神官たちの銃口は歌野だけを避けて撃っている。それは歌野が背負っている水都が理由だ。
バスターコールの真っ只中であろうと、水都の身柄を確保しようとはしているらしい。
「それならどうして砲撃はお構い無しに狙ってきたのかしらね」
「ほんとほんと。アレの方が殺意増し増しだったんだけど」
愚痴にも似た会話をしながら建物沿いを走っていたが、神官たちも回り込んできた。
いち早く気付いた雪花は、蓮華に持たせていた自分の槍を掴んだ。そして同時に友奈に呼びかける。
「友奈ッ。ここを殴って‼︎」
「えっ⁉︎ うん、わかった!」
雪花の合図で同時に石垣を壊す。当然ながら石垣が崩れ出し、連鎖的に石垣の上に建てられた建造物も崩れて落ちていく。そして崩れた建物は神官たちの行く道を塞ぐ。
「ナイスよ雪花! 友奈!」
「うんっ……あっでも巻き込まれてないかな……」
「友奈。それは気にしない、気にしない」
これで後ろから撃たれることはない。雪花はまた蓮華に槍を渡す。歌野たちは変わらず放置してある木船を目指す。
すると今度は前から神官たちが迫ってきた。
「あ、どうしよう」
「ここにきてUターンは時間ロスだわっ」
「あっちゃー。しかもついさっき塞いじゃったしねー」
本来は挟み撃ちするために二手に分かれたのだろう。雪花の奇策で後ろの兵は阻んだが、それが別の形で挟み撃ちを成立させてしまった。
「歌野。突っ切るしかないわね」
「ええっ。そうしましょう!」
前の神官たちはほぼ2列の隊形でこちらへ向かってくる。ならば銃撃も前衛しか行わないだろう。苦しいことに変わりはないが充分捌けるはずだ。
歌野はベルトを伸ばして先に攻撃を仕掛けようとする。しかしその時――。
「ぐわあああああ!!!?」
「……えっ⁉︎」
銃を構えている神官の隊列後方から突如、悲鳴が上がった。その悲鳴はこだまするかのように前へ前へと広がっていく。
「な、なに⁉︎ なんなの⁉︎」
遂には最前列の神官すらも何が起こったのか分からないまま、吹き飛ばされた。
歌野たちは立ち止まり、警戒を強めながら神官たちを屠っていった正体を見極める。
……目の前に現れたのは黒いフードを深々と被った人間だった。背や体格は歌野たちと変わらないので歳の近い少女だろう。
「――
声色からやはり少女のようだ。フードを被ったその少女の顔は分からないが、歌野と水都には聞き覚えのある声と
「……‼︎ 貴女もしかして……ッ」
「あとにしよう! 今ははやく。あの船に乗りたいんだよね?」
フードの少女は右手で招いて木船へのルートを先導していく。
それを見ていた雪花や友奈は困惑した表情で歌野を見るが、歌野は迷わず走り出した。
「えっ⁉︎ ちょっと歌野! 付いて行って大丈夫⁉︎」
「大丈夫よ、メイビー」
「メイビーって……」
見知らぬ誰かに従って進むのは気が引ける。状況が状況なので敵か味方か判断できる要素も無いし、証明や納得する時間はない。
ただ、神官たちを吹っ飛ばして助けくれた。彼女の向かう方向は間違いなく自分たちが目指していた木船へのルート。そして何より歌野が信じたこと。
以上のことから雪花も迷いを捨てて追従する。そのあとに友奈と蓮華も続いていく。
「もうすぐだよ‼︎ みんな頑張って‼︎」
木船のすぐ近くまで来れた。フードの少女を先頭にこのまま跳んで乗船しようと試みる。
しかしその船には先客がいたのだ。
「……んあ!!!? アイツら生きてたのかこの野郎‼︎」
船から顔を出したその先客の正体は神官長だった。彼は地階にて高嶋友奈から逃走したあと、間違えてバスターコールを発動させてしまった。その後、自分が乗って来た木船に逃げ込んで姫路城の防人たちが合流するのをずっと待っていたのだ。
……その防人が全て歌野たちに倒されているとも知らずに。
「生け贄の小娘も結城友奈もいやがるじゃねーか‼︎ どういうこった! 防人は⁉︎ ドクターは! パシフィスタは⁉︎」
叫びにも似た大声はこちらまで聞こえてきた。砲撃音は歌野たちの後方で変わらず鳴り響いている。
神官長は歌野たちを見下ろして自分が一番恐れている相手がいないことを確認した。
「あの"仮面のバケモノ"は力尽きたか……。いや、だがッ! やっぱアイツらこの船を狙ってんのかァ!!? ……オイ⁉︎ 他の奴らは何してんだよ!!!」
安心したのも束の間、彼女たちが真っ直ぐこちらを目指して向かっていることにようやく確信を持ったようだ。神官長はスマートフォンを拡声器モードにして全員に叫び散らす。
「マジで使えねえなァ能無し共がッッ!!! 姫路城の全戦力をかけておいて……ッ。バスターコールの戦力を持っておいて……ッ。あんなちっぽけなガキ共からたったひとりの
神官長がスマートフォンに怒鳴りつけているとき、雪花は立ち止まって芽吹を足元に下ろす。そして再度受け取った槍を片手に上半身を仰け反らせて投擲した。
「
投げた槍は船から顔を出していた神官長のスマートフォンを破壊してその勢いのまま顔面にクリーンヒットした。
「――ボヘビィッ!!?」
鼻血を噴き出しながら神官長は後ろへ吹き飛んで倒れた。雪花の槍は電熱の影響で先端が溶けて丸みをおびている。死んではいないが野球のバットの先端が顔へ直撃したようなものだ。数時間は気絶したままだろう。
そして歌野たちは船に乗り込むことに成功した。
乗り込んですぐ、雪花は芽吹を甲板に寝かせたあと、転がっている神官長の身体を引き摺って船から地面へ落とした。
「はい、いっちょあがり」
「鬼だよせっちゃん……」
両手をはたいて砂埃を落とす。ゴミを片付けたようは雪花の素振りに友奈は軽く引いていた。
「急いで発進させるわッ! みんな準備して‼︎」
「蓮華っ。動かし方分かるのッ⁉︎」
「いいえ、全然。だから手伝いなさい‼︎」
「あららっ⁉︎」
舵を掴んで蓮華は叫ぶ。舵の近くには起動装置のようなものはない。友奈が船内に入り探しにいく。
ここにきて致命的な問題に直面した。
大社の新技術であるこの"空飛ぶ木船"の動力が何なのか、どうすれば動くのか、ここにいる誰も分からないのだ。
「…………船の、中央にある御神木……。あれに防人が触れると起動、する、わ」
……いや、一人だけいた。
船の甲板で寝かせた筈の芽吹が起き上がったのだ。
「芽吹⁉︎ 起きて平気⁉︎」
「今は、それどころじゃないでしょ……。私をそこへ連れて行って」
引き攣る顔を見るからに回復したとは言い難い。今も一人では立ち上がることもできない様子だ。
歌野と雪花は両側で芽吹を担ぎ上げて、御神木と呼ばれる木船の中央にそびえ立つ柱へ連れていく。
そして芽吹は右手で御神木に触れた。すると、御神木が淡く光り、木船全体も黄緑色の光を帯びていくのが分かった。光は数秒で消えて木船が動き出す。
「……ッ! 動いたわ! どうやらその防人の装束が認証キーとなって起動するようね」
「なるほどねー。だから
起動したことにより、船はゆっくりと地面を離れて浮上する。蓮華は北西の方角を向くように舵を切った。そしてその様子は当然、敵の知るところとなる。
「――報告!!! 奴らは船を占拠して逃走を図る模様ッ‼︎」
先程途絶えた神官長の言葉と、今の状況を照らし合わせて神官のひとりが全船に通達する。
夕海子は倒れている山吹しずくを回収して船に乗せ、雀を起こすと歌野たちを追う3隻に合流するため船を動かす。
「船を奪われた? ……そういえば彼女たちの中にいましたわね。船を動かすことの出来る人が……」
元京都支部からの報告書で楠芽吹が歌野たちと行動を共にしていることを夕海子たち三大将は知っている。
芽吹が防人にいた時期はまだ完成には至っていなかったものの、船の構造や"特殊機能"も芽吹は技術班から聞いている。それをもし憶えていたとしたら……。
「
夕海子の予感は見事的中していた……。
――歌野たちが乗る木船は飛び立ったが速度は遅く、このままでは追いつかれるか撃ち落とされるかの二択だった。
「もっとスピード出ないの、芽吹⁉︎」
3隻に備えられている砲塔がこちらを向いているのを見て蓮華は焦る。この中で船の情報を持っているのは芽吹だけだ。そして芽吹は、今の状況の打開策がこの船にはあることを知っている。
「この船――葦原船には一度きりの脱出機能があるわ」
「そうなのっ? ならばそれを使いましょう!」
歌野も即座に同意する。
元々はバーテックスの襲撃を受けた際、いち早く脱出するために搭載された緊急加速装置である。その名は『
防人または巫女が特殊な祝詞を唱えることで神樹の一部である御神木に力を集めて船の推進力を生み出す。その飛距離はおよそ1キロメートル。
「私が祝詞を唱えるから……時間を稼ぎなさい」
「分かったわ‼︎」
歌野の応答と同じタイミングで、敵船から砲弾が放たれた。
「避け切るのは……難しい……っわ!」
蓮華が舵を右に左にと回して回避していく。だが時間差で飛んできた二つの砲弾は回避出来ない。
それを察知してか、歌野はベルトを最大まで伸ばす。雪花は先端を掴むと一つ目の砲弾を伸ばしたベルトの帯の部分で受け止めた。
「ふんぐぐぐ……ッ!」
「お……重……」
歌野と雪花は息を合わせて、下半身と両腕に力を込めて受け止めた砲弾を跳ね返すことに成功した。返された砲弾は数メートル先に落ちて爆発する。
「た……助かったぁ」
「まだ……ッ! もうひとつきてるわ‼︎」
跳ね返した後にすぐ二つ目が目前に迫っていた。流石に同じことを二度するには体力も無いし、タイミングも合わない。
「一発は、耐えられるかしら……っ」
「――私がやるよ‼︎」
すると、いつの間にかフードを被った少女が砲弾に素手で立ち向かった。
「勇者……パンチッ‼︎」
彼女の拳に弾かれて砲弾は明後日の方向へ飛んでいき爆ぜた。
「勇者パンチ……? あれって、友奈の……」
雪花はその少女が何者か分からないが、友奈二人と同じ雰囲気を感じていた。その正体について気になるが、今はそんな場合ではない。
そして準備が整ったのか、御神木に背を預けながら目を閉じた芽吹は祝詞を唱え始める。
「かけまくも……かしこきしんじゅの――以下省略!!!」
「ええ〜〜ッ!? それでいいのおお〜〜ッ!!?」
芽吹の中途半端な祝詞でも御神木はしっかりと反応して淡い黄緑色の光を帯びていく。
「――
木船はトップスピードにのったジェットコースターのように加速して飛び立つ。
咄嗟に蓮華は舵を操作して船体を斜め上へ傾けると木船は高度を上げて飛んでいく。
「振り切れ〜〜! ゴーゴー‼︎」
「みんな、飛ばされないようにねッ!」
みるみるうちに敵船も半壊している姫路城も小さくなっていく。木船は雲の近くまで上昇するとエネルギーが切れたのか、徐々に速度が落ちていく。しかしあくまで加速しなくなっただけで飛行能力は失っていない。
「飛行船に乗っている気分ね」
「完全に振り切った……」
船の進行方向は北西をとっている。このまま行けば岡山県に入るだろう。
姫路城はもう見えない。
「やったわね、歌野」
「ええっ!」
姫路城があった方角を見ていたが、蓮華に呼ばれて振り返る。
……とても長く感じた1日だった。敵の反撃を跳ね除けて水都を奪還し、バスターコールの総攻撃をも掻い潜り、誰一人として欠けることなく脱出することに成功した。
「はあ〜。でも兵庫支部を襲って、大社本部を敵に回して……私らとんでもないことやらかしたにゃぁ。……ま、後悔なんかしてないけど」
「取られた"仲間"を取り返しただけよっ!」
「にゃっはは。そういえば大社を敵に回すのなんて今更か……」
全員が歌野のもとへ集結する。
雪花、芽吹、蓮華、友奈、そして水都。全員の顔を見回して歌野は右手を拳にして天へ掲げる。
「んん〜〜! このケンカッ、私たちのビクトリーよ!!!」
「「おおおーーッ!!!」」
雪花、蓮華、友奈もまた拳を掲げ、その中で雪花と友奈が声を大にして勝鬨をあげた。
――崩壊した姫路城を背に夕海子は連絡を受けていた。
自分たちが合流する前に歌野たちは空の彼方へと飛び去った。水都も奪還され、結城友奈にも逃げられた。
「……やられましたわ」
復興の余地がない兵庫支部。彼方へ消えていった標的。
これらを見れば一目瞭然。今の自分たちを表す最適な言葉を夕海子は自ら呟いた。
「わたくしたちの完敗、ですわね」
――それから少し時が経ち、太陽が西の空へ沈んで夕焼け色に染まる。
船内で多少の騒ぎがあれど、それを済ませた後に歌野と水都はこの穏やかな空を眺めていた。
あの夕日の美しさは、とても生死をかけた戦いと同じ日の夕日とは思えなかった。
「ビューティフルね、みーちゃん。このサンセット」
「うん……そうだね」
人間同士のいざこざなど関係なく太陽は沈むしまた昇る。それは当たり前であると同時に決して捻じ曲げられない不変の法則。
「……ありがとね、うたのん」
改めて水都は礼を口にした。もう何度目の『ありがとう』なのかは分からない。
歌野は変わらず笑顔でその言葉を受け取る。
「気にしないでって。どうしてもみーちゃんを失いたくなかったのよ。私にとってみーちゃんは大切なフレンドだから。それに…………」
歌野はそこで一旦言葉を区切った。
「……? それに、なに?」
歌野は景色を見ながら水都との過去に想いを馳せる。
一番近くにいて、それが当たり前だった。今のメンバーの中で水都だけがバーテックス襲撃時以前からずっと一緒だった。
旅に出る際も、水都からはあれこれ言われたが結局はついてきてくれた。これからもずっと一緒にいることに何の疑いもなかった。
だから歌野はあえて『その言葉』を水都へは言わなかった。言わずとも互いに分かっていたから。
しかしそれでも……これからも農業王を目指す冒険を続ける中で、やはりちゃんと伝えなければならない。それが筋というもので、決意となるものだ。
「どうしても伝えたいことがあったからね」
――農業王へは決してひとりではなれない。
そしてもちろん…………。
「みーちゃん」
歌野は真面目な顔で、それでいてどこか微笑んだような表情で、水都を誘う。
「――
遂に脱出成功! そしてなんと……次で終わります!!!
いやーほんとうに長かったですねえ……。
ここまでついてきてくれたみなさんにはもう感謝しかありません‼︎
『奉火祭編』のラストもお楽しみに!
次回