前回のあらすじ
白鳥歌野たちが姫路城に襲撃した事件はすぐに四国へ広まっていた。若葉は奉火祭について大社側の真意を探るべく五老星に謁見したが大した情報は得られなかった。そして、翌日。奉火祭の結果を告げる新聞により、状況は一変する。
夕海子たちが帰還した次の日、"衝撃的なニュース"が舞い込んだ。その内容はまず大社に関わる者たちの耳に入る。そしてその内容を記載した新聞が四国中に拡散されていく。
それは大きく分けて三つ。一つ目は、バスターコールの結果、姫路城が全壊したこと。二つ目は、白鳥歌野が藤森水都を奪って逃げのびたこと。
上記二つについては
最後の三つ目はというと…………。
「千景……」
香川県にて、夕海子と共に戻ってきた杏から、ことの詳細を聞くために若葉は他の"四勇"を招集した。
最初に若葉の元に来たのが土居球子。そしてそのすぐ後に来たのが郡千景。
「……っ!」
早足で歩いている千景の手にはクシャクシャになった新聞紙が握られていた。
それを若葉に向かって投げ付ける。
「なんだなんだあ? ずい分なあいさつじゃないか」
球子はそう言いながら千景を見る。その表情から怒りに満ちているのが分かった。
若葉は避けもせず自分の身体にぶつけられ床に落ちた新聞紙を見下ろした。
「これが……あなたの引き起こした結果よ……」
歌野たちにより"奉火祭"は断念された。襲撃で多数の神官や防人が大なり小なりの怪我を負った。兵庫支部を失ったことによる戦力の低下は否めず、バーテックスの侵攻はより激しくなるだろうと予想される。
「なぜこんなことになったのか……。あなたは分かっているの……っ」
「……。私が白鳥さんを、旅へ
北海道といい今回といい、歌野たちは大社へ明確な攻撃を行っている。やっていることはバーテックスと同じだ。
歌野たちにどんな理由があれど、それで世界を危機に陥れていることに変わりはない。
「こんな結果をもたらしたあなたに、四国を守る"四勇"としての資格なんてない……! 彼女が好き勝手に暴れて、その度にこちら側が被害を受けて……。誰かが処理しなければ同じことを繰り返す……っ。きっと……これからも」
「待ってください。いくらなんでも言い過ぎです!」
そこへ杏がやって来た。千景の眼光は鋭いまま、杏を睨み付けている。
「たとえ若葉さんが白鳥歌野さんに四国へ来るきっかけを与えたとしても、その後どうするかは白鳥歌野さんです。それを……若葉さんに責任として全て押し付けて否定するのは間違っています!」
普段の杏らしくない大きな声だったが千景が怯む事なく淡々とした口調で話す。
「あなたが……そんなことを言える立場? 彼女を仕留め切れなかったくせに」
「そ、それは……」
「あなたが甘い仕事をしたせいで……今回の事態が起こってしまったと言っても過言じゃない、わ。その責任を取らずして、よくおめおめと……」
「やめろ。これ以上、あんずをせめるならタマが黙ってないぞ」
球子が千景と杏の間に割って入った。言い詰められた杏は俯いてその気持ちは暗く沈んでしまっている。
「……。少し、頭に血が昇っていた……みたいね」
杏と球子の顔を交互に見て冷静さを取り戻したのか、千景はいつものクールな表情に戻った。
「乃木さん……投げ付けたことは謝るわ……。ごめんなさい……」
「いや、いいんだ」
「でも……白鳥歌野のことは……謝らないわよ」
三人に背を向けて歩き出す。
ここには居ない歌野のせいで、"四勇"の和が著しく乱れてしまっている。
「あっ、あの……千景さん……」
「分かっている……わ。私はこれから大社本部へ行くから」
杏の言いたいことが分かっていたのか、それだけ言って千景は大社本部のある岡山県へ向かう。
「ピリピリしてんなあ。……なんで
いなくなったあと、沈黙を破ったのは球子だった。相変わらず歌野のことをハクチョウと名前を間違えている。
それはそれとして、球子の言っているように千景が会ったこともない歌野をそこまで目の敵にしているのは若葉も杏も疑問に思っていた。
二人は歌野の人柄を知っているのだから新聞に書かれているような悪い印象は持っていない。
しかし、千景が業腹である理由は白鳥歌野以上に結城友奈にあった。
千景は前に"奈良で会った少女"と結城友奈が瓜二つであることを知っている。この新聞ももちろん"彼女"ではなく結城友奈であるが、千景からすれば分かってはいてもその心中は穏やかではなかった。
「……千景さんは分かっていたようですが、みなさんに大社から緊急の招集命令が来ています。理由は例の件で……」
「だろうな。だが改めて教えてくれ。今回の奉火祭の顛末を」
若葉の問いに杏は頷いて答える。
「大社は当初、六人の巫女を捧げることでバーテックス側の怒りを鎮めようと試みたんです。ですが、その六人の代わりになれる人物が白鳥歌野さんの仲間にいました」
「だからその仲間を奪った。そして白鳥さんは取り返しに兵庫支部である姫路城へ、か」
その結果、バスターコールまで発動させる事態となったが、歌野たちは水都を取り返して脱出に成功した。
……というのが、
「奉火祭の代わりを担っていた藤森水都さん。彼女の奪還に"七武勇"の結城友奈さんも加わっていたんです」
結城友奈はパシフィスタとなった三ノ輪銀を奪還するために。そしてその目的も果たされた。
大社側からすれば水都も銀も奪還された完全な失態……のように思われたが、問題はそのあとに起こった。
「白鳥歌野さんが逃げたあと、突如として星屑の大群が襲って来たんです。私は防人の皆さんと迎撃しようとしました。しかしそれを……逃げたと思っていた結城友奈さんが倒していったんです」
「一緒に逃げたのではないのか?」
「私も……いえ、あの場にいた大社の誰もがそう思っていました。ですが……」
逃げ遅れたとは考えられないので、別れて脱出したのだろう。
結城友奈が現れた位置は杏や夕海子たちがいた場所より東側だったので東の空から来たバーテックスに一人で立ち向かった。
「そこを……大社が捕えたわけだな」
「はい……」
「……。愚かだな」
杏からの話を聞き終えると一人呟いた。その表情は暗く、床を見ているようで焦点が定まっていない。
新聞に書かれていた三つ目の内容とは『結城友奈を生贄として"神婚ノ儀"を執り行うこと』だった。
「大社に行こう。……言いたいことが山ほどできた」
若葉に続いて杏と球子も大社本部のある岡山県へと向かう。
結城友奈を捕えたことを大々的に新聞にしたことで、他の"七武勇"のメンバーの耳に入るのは時間の問題だった。
そしてこのタイミングでの"四勇"全員の本部への招集命令。まず間違いなく、結城友奈を奪還する"
歌野たちによる姫路城での戦いを遥かに超える、勇者同士の戦いが起こることになる――。
その頃。歌野たちは木船を飛ばして岡山から九州地方だった場所を中継して沖縄を目指していた。
その道中、歌野は赤嶺と共に芽吹の様子を見にいく。
こっそりと扉を開けて芽吹が寝ているであろう部屋へ入る。
「……ノックくらいしなさい」
二人が中に入ると早々に芽吹から声がかかる。
「ウェイクアップさせちゃったかしら」
「起きてたわよ」
寝ていたら改めようと思っていたが、起きていたので芽吹に説明する歌野と赤嶺。
「……そう。沖縄に」
「そこはディベロップしている土地みたいだから芽吹もまともな治療を受けてもらえるわ。ライツ? 赤嶺さん」
「うんうんっ」
「…………そう」
病み上がりで元気が無いように感じたが、それ以上に芽吹は先の戦いに相当堪えていた。
「ねえ歌野。いいかしら」
「あら? 芽吹は四国に行きたかった?」
「そうじゃなくて……」
芽吹は仰向けのままあえて歌野と目を合わせずに話し始めた。
「歌野、憶えているかしら。私がこの旅に加わった経緯のことを」
「オフコースよ。一人で旅をしていた芽吹と私たちが出会ったのよねっ」
「そう。……本当、偶然にね」
ノースジャパンからイーストジャパンに戻る途中、芽吹と出会いそこで"契約"を結んだ。
三好夏凛を探す協力をし、戦いの際に誰にも邪魔をさせないこと。そのために歌野たちの仲間に加わり、歌野が"農業王"になった暁には防人のみんなは歌野の作った野菜を買い取る。
それが
だが、先の戦いで芽吹は痛感してしまった。
今の防人に、果たして自分の戻る場所があるのかを。
「少し前にNo.6と戦ったとき、私は自分を貫き通すことでその邪念を振り払った……つもりでいた。でも、雪花と喧嘩して……姫路城で亜耶ちゃんと戦って……。分からなくなった」
赤嶺は居心地の悪い表情をしていた。芽吹の話を歌野の仲間ではない自分が聞くのはあまりにも場違いだからだ。だがいまさら部屋を出ていくこともできずに最後まで聞くしかなかった。
「私自身としては諦めるつもりはないわ。努力はする。……でも歌野、貴女は
芽吹が防人ではいられなくなった場合、当初交わした内容は棄却されてしまうだろう。
芽吹の言いたいことはとどのつまり、『チームにいる資格があるのかどうか』。
「……芽吹。雪花と喧嘩したって初耳だわっ! 何かあったのかしらっ」
「えっ。気になったポイントそこ? ……いやそこも重要そうだけど」
そこまで聞いて歌野はやっと口を開いた。内容が内容だけに赤嶺から変な声が漏れたが。
「水都が連れて行かれた後、歌野が眠っている時に」
芽吹の声のトーンは変わらないまま簡単に詳細を告げた。仲間の命を大事にした雪花と仲間の誇りを重んじた芽吹とのすれ違い。そして高嶋友奈と結城友奈の仲介で仲直りできた。
「雪花には本当に悪いと思っているわ」
雪花に向かってあんなことを言った手前、本当に情け無いと自分で後悔した。
「結城さんにはまた会った時にお礼言いましょう!」
歌野は芽吹の寝ているベッドの端に座ると、真っ直ぐに芽吹の目を見た。
「あと芽吹。貴女こそリメンバーかしら? 私が誘ったきっかけを」
「……? それは私が旅をしている途中で……」
「そう。芽吹が大社本部から、私たちに会うまで徒歩で旅をしていたから。しかもオンリーで、よ」
「オンリー。……そうだったわね」
「それと貴女は言ったわっ! 三好さんに勝って、最強の防人になるって。そして私は言ったわ!」
「『"農業王"の仲間になるならそれくらいなって貰わなくては困る』だったかしら」
「ザッツライトよ! そして芽吹、今はまだ
今は懐かしくも感じる。時間としてはあれから1ヶ月経ったかどうかの話だが、目まぐるしく事態が変わっていった。
「……思えば、あの時の歌野はしつこくて敵わなかったわ。いえ、今もね」
芽吹が加わるまで何度も何度も歌野は誘い続けた。最終的にはビジネスパートナーとして加わることになったが、当時の芽吹にとっては煩わしかったことだろう。
「でも何故かしら。いつの日かそんな貴女とその仲間達との時間が心地良いものになってた。防人にいた頃の私を思い出すと、信じられないくらいに」
「それは芽吹が変わったからよ。それもグッドな方向に」
「そう、なのかしらね」
「そういうのは案外、自分じゃ気付かないものよ。間違いないっ」
「ならそれは……。ふふっ、貴女のせいよ」
「あら? 責任を取ればいいの?」
「いずれね」
(ほら……。歌野と話していると自然と心が軽くなっていく。前を向いて歩きたくなる)
雪花と喧嘩したあと、追いかけてきた結城友奈に、胸の内を告げた時も似たような感覚に包まれた。歌野も結城友奈も心の根っこの部分は似た者同士なのかもしれない。
「それによ、芽吹。今の貴女なら、全てが終わって防人に戻っても受け入れてくれると思うわっ。……彼女たち、立場として仕方無かったけど、なんだかんだ貴女のこと、好きだと思うもの」
大社の防人とは戦ってばかりだが、その中でも芽吹の変わり方を大なり小なり感じ取ってくれていた。
「身も心も成長した芽吹なら、本当の防人のリーダーになれる。だから契約はこのまま継続よ? 私は"農業王"になって貴女"達"はお得意客になる」
そこまで聞くと、芽吹は歌野から見えないように顔を逸らした。
「……もう寝るわ。話に付き合ってくれてありがとね」
「このくらい、いつでもいいわよ♪」
「それと……
――バタバタドタッ!
芽吹がそう言ったすぐあとに、扉の向こうから物音が聞こえた。
物音の正体に気付いている赤嶺は、笑いながら扉を開けた。そこには誰もいなかったが、少し距離の離れた所で雪花、蓮華、水都、友奈がみんな同じ方向を向いていた。……不自然過ぎるほどに。
「ふふっひ♪」
四人の不自然な後ろ姿を見て、歌野は笑った。
「……馬鹿ね」
芽吹もそれを一瞥して少しだけ笑った。赤くなった顔を誰にも見られないように両手で覆いながら――。
・白鳥歌野:300万ぶっタマげ→1000万ぶっタマげ
・藤森水都:50ぶっタマげ→100ぶっタマげ
・秋原雪花:100万ぶっタマげ→300万ぶっタマげ
・蓮華:369万ぶっタマげ
・合計:4,000,050ぶっタマげ→16,690,100ぶっタマげ
だが、白鳥さんたちはまだ自分たちの懸賞金額が上がったことを知らない。
次回 沖縄上陸