白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。ONE PIECEのアニメが……。また腰が重くなりました。


前回のあらすじ
あともう少しで沖縄到着といったところで星屑に襲われる。撃破するものの歌野が海へ落下してしまった。助けに向かおうとしたのだが、先に不思議な少女に助けられる。その少女とは、古波蔵棗であった。


第百四話 奴隷産業

 歌野を救助してくれたのは彼女たちがここに来た目的の少女、古波蔵棗本人だった。

 

「お姉様?」

 

 蓮華は赤嶺の方を見る。古波蔵棗に会うため、沖縄に向かうように提案したのは他ならぬ赤嶺本人なのだが、来て早々……いや、上陸する前から出会うとは想定外のことだった。

 

「あ、いや……お姉様っていうのは、まあ、ほら……ここでたくさんお世話になったから……で……。つまりいろいろあったからそう呼んでるんだぁ‼︎」

「大雑把な説明ね」

「赤嶺ちゃんわかるよっ! 私も奈良にいたとき仲が良い人を"姉"って呼んでる人いたから!」

 

 鏑矢が無くなったあと、赤嶺は沖縄で棗にとても良くしてもらった。その際に、親しみと敬意を込めて"お姉様"と呼んでいるようだ。

 

「貴女が古波蔵棗さんねっ⁉︎ 助けてくれてベリーサンキューよ‼︎」

 

 完全に意識が戻った歌野は、起き上がると棗に頭を下げて礼を言う。

 

「いや、このくらいは問題無い。むしろ、こちらこそ礼を言う。あの化け物共を退治してくれたことに」

 

 棗があの場所まで泳いで来たのは星屑を倒す為だった。それをたまたま沖縄を目指していた歌野たちが先に倒しただけのこと。

 

「そうだったのねっ。でもおかげで助かったんだから、サンキューよ」

 

 歌野は右手を差し出して棗と握手を交わす。

 

「でも、よく分かったね。バーテックスが来るって」

「海が騒がしかったからな。それとペロが教えてくれた」

「海?」「ペロ?」

 

 棗から返ってきた答えに水都と雪花は首を傾げた。

 

「ペロは私の犬だ。そして私は海の声が聞こえるんだ」

「棗さんのペット……が、バーテックスの襲撃を予測してくれるの?」

「そうだ」

 

 棗は海の異変を察知することができ、自身の犬の伝えたいことも分かるのだという。

 

「海と共に生きてきた沖縄のピープルは海の声を感じ取れるのねっ! エクセレントだわ♪」

「いや。おそらくは私だけだと思う」

「ということは、棗さんも能力者(勇者)?」

「そうだな」

 

 少し前に赤嶺が、棗のことを"水のエキスパート"と呼んでいた。単に海や川などに詳しい学者という意味ではなく、勇者としての能力に水が関係し、文字通りその扱いに長けているのだろう。

 蓮華の右腕は干涸びている。血液には大量の水分が含まれているので、棗の能力を使って治すのだろう。

 

「歌野」

 

 雪花が肘で腕を小突いてくる。目的の人物が目の前に現れたのだから話を切り出せという合図だ。

 

「そうねっ。古波蔵棗さん! 改めてナイストゥミーチュー♪ 私は白鳥歌野! 貴女に会いに沖縄にやって来たのよ」

「私に……?」

 

 歌野はこれまでの経緯を説明していく。所々は蓮華や水都が補足を入れながら。

 

「蓮華の腕を貴女なら治せると赤嶺さんから聞いたわっ。だからお願いっ!」

 

 頭を下げる歌野の横に立ち、蓮華もまた頼み込んだ。

 

「突然来た上に不躾なお願いなのは百も承知よ。でもこの蓮華は、一刻も早く治りたいと考えてるの」

 

 勇者だから安静にしていればいつかは自然に治るだろう。だが早いに越したことはない。四国に行けば立ちはだかる敵はこれまで以上に強大だ。それを伊予島杏との戦いや姫路城での戦いで身を持って実感した。

 これからの激戦に備えて、藁にもすがる思いで。

 

「それは構わない」

 

 棗は頷いてそう告げた。

 

「リアリー⁉︎ やったわ‼︎」

「礼を言うわ。お金は……今はないけれど後で必ず」

「いや、お金はいらない」

 

 お金を払う気でいた蓮華だったが拒まれる。能力により治療するといっても費用が完全にゼロというわけではないはずだ。

 

「普段からお年寄りの方々の治療も行っている。その延長線のようなものだ。商売にする気はない。それに……」

「それに?」

 

 棗は一旦言葉を区切ると歌野たちの顔を見渡した。そして最後に赤嶺の顔を見て僅かに口角が上がる。

 

「海が言っていた。治療を行うことでこの世界をより良い未来へ導いてくれると」

 

 不思議なことを言う少女だ。しかし何故か歌野たちのこれまでをまるで見てきたかのように語っている。

 棗の言う海とは、おそらく何でもお見通しなのだろう。

 

「それに、逆の立場ならそちらは見返りなど求めずに治療した。違うか?」

「……! フッ。重ね重ねありがとう。とても助かるわ」

 

 これもまた実際に見たような口振りだ。

 梅田地下街にて、蓮華は治療目的で来た歌野たちを歓迎して手当を行った。その際に費用を請求しなかった。

 情けは人のためならず、とは言うがそれが巡り巡って蓮華に返ってきた。

 今はそう考えることにする。

 

(海が教えてくれるというのも、あながち適当ではない……のかしらね)

 

 そして棗に案内されて治療する場所へ向かった。

 

 

 ここで、歌野たちは二つのグループに分かれた。

 ひとつは治療を受ける蓮華と芽吹。その付き添いという形で歌野と友奈。この四人は棗に案内された場所へ。

 もうひとつは腕の回復の為に飲料水を購入、また今夜の宿を探すグループ。この地のことを知っている赤嶺が案内して雪花と水都がそれについて行く形となった。

 宿に関しては何日も泊まる気は無いが、少なくとも明日明後日は世話になる見込みだ。

 

「……あれだ」

 

 水都たちと分かれて暫し歩いていくと目的地に着いた。棗が指差したのは田舎の診療所を思わせる一階建ての家だった。

 

「ただいま。……ペロは留守か」

「ペットは基本放し飼いなの?」

「そうだ。私もペロも自由を好む。別に何日も留守にしているわけじゃないが」

 

 さしずめここは棗の勇者としての拠点といったところか。普段は飼い犬(ペロ)とここに住んでいる。バーテックスの襲撃を察知すると数分で海に出られるため何かと便利なのだろう。

 

「いて欲しいときにはいてくれる。だから心配はしていない」

 

 そう言いながら病院にあるようなベッドへ蓮華を寝かせる。これから干涸びた腕の治療を行うのだ。

 

「じゃあ行おう。少し痛いが」

「問題ないわ。お願いね」

 

 棗は蓮華の右肩から数センチ下に親指を押し込む。

 

「……ウッ。いっっつっ」

「痛いが我慢だ」

「く、くぅうう……」

 

 少しずつ力を右肩から右腕へと押し込んでいく。干涸びた場所へ徐々に血液を流し込むように。

 

「あっ、 マッサージ! なら私も手伝うよ!」

 

 すると、それを見ていた友奈が手を挙げた。

 

「あら、友奈はマッサージが出来るの?」

「えへへ。久美子さんは喜んでくれるよ。いつも気持ちよくて、ぐで〜ってなっちゃうんだぁ」

「そうか。なら頼む。そっちも友奈、だったな? 左半身からこちらに血液を回すイメージでやってくれ」

「うん!」

 

 棗の施す治療が苦痛であることは、蓮華本人が歯を食いしばり汗を流すその様子を見れば伝わってくる。

 

「んっ……あ。くっ……うんんっ。……はあ、はあ……はぅうッ!」

 

 蓮華から先程よりも苦痛の声が大きく漏れ始めた。

 

「あ……痛かったかな」

「い……いえ。楽になってきたわ。……さっきまでは呼吸するのも苦しいほど……だったから」

 

 身体中から流れる汗がベッドに落ちくっきりとその跡を残す。水都や雪花に水を買いに行くように頼んだが、予想以上の量が必要になるだろう。脱水症状による命の危険も考えられる。

 

「ふー、ふー。……ん、ん

 

 呼吸が徐々に一定のリズムを刻み始めるとつられて蓮華の表情も苦痛から解放されたように穏やかになっていく。

 

「一番の山場を越えた。もう今みたいな激痛はないぞ」

「よかったわ!」

 

 棗のひと言に歌野はホッと胸を撫で下ろす。

 

「痛いのはまだ続くが」

「あら」

「だが今よりはずっと楽だ」

 

 蓮華は目を閉じて寝息をたてている。激痛が無くなり安心したのだ。

 棗と友奈はペースを落としてなるべく寝ている蓮華に痛みを加えないようにゆっくりと続けていった。

 

 

 

 

 

 ――町にいる水都と雪花、赤嶺友奈はすでに水の購入と宿の手配を済ませて歌野たちの元へ戻るところだった。

 二人とも初めての場所だったが赤嶺のおかげでスムーズに終えることができた。

 

「久しぶりに来た割によく覚えてたねー」

「沖縄は四国以外でもっとも思い出があるから! その時と全然変わってない」

 

 水都は二人に比べて荷物は軽い方だがそれでも気を抜くとふらついてしまうほどの重さだ。

 

「ってことは、沖縄のことを私たちよりも詳しいよね?」

「うんっ」

「良かった。……ここに来ることがあったら確かめたいことがあったからさ」

 

 そこまで言うと雪花は真剣な表情で赤嶺に問いかけた。それも声のトーンをわざと低くして。

 

「ここ、サウスジャパンにはさ……()()がいるんだよね?」

 

 その言葉が口から出た途端、周りの空気も重くなった気がした。水都は急な話で身体の軸がブレて持っていた水のポリタンクを落としそうになった。

 赤嶺は前を向いたままで歩くスピードは緩めない。そのまま雪花に話を続けさせる。

 

「北海道にいたときそこを支配していた防人が言ってたんだよねー」

 

 歌野と水都が北海道で雪花と出会い、防人のNo.4と戦っていた際に彼女が言っていた。"奴隷産業"は沖縄でやってる政策なのだと。

 バーテックスにより少しずつ人間が住む土地は減ってしまっているが、今でも北海道、諏訪、そして沖縄は四国外でもある程度の安全が保証されている。大社支部による統治も様々な形で為されている。

 資本主義を走る北海道。一次産業を好む諏訪。そして……。

 

「奴隷産業が蔓延る……沖縄。だからもし沖縄に来ることがあったら確かめてみようって思ったわけさ」

 

 通常、そんなことは許される筈がない。しかし今はバーテックスによって法治国家の機能はまるで意味を持たない。

 世界で一番平和だと思われる四国でさえ、言い過ぎかもしれないが大社の独裁国家である。大社が是なら是。否なら否なのだ。

 それが歪んだ形で各支部に広まっている。

 

「答えから言うとね……そのとおりだよ」

 

 赤嶺はそう答えた。

 観光業、商業が実質潰えた今、周りを海で囲まれた沖縄は漁業に力を入れている。しかしその裏で人間の売り買いも行われている。

 

「ここは沖縄の南城市。その中でも人口が少ない方の地域だよ。少し離れたところに沖縄支部のある人や物が多い地域があるんだ。……そこだよ、一番ひどいのは」

 

 二人は黙って赤嶺が話すのを聞いていた。時折持っている水がポリタンクの中で揺れている音が混ざって聞こえている。

 

「サウスジャパンの人には四種類の階級が与えられててね、古波蔵棗(おねえさま)や大半の人たちは()()()()()()の『市民』って格付けされてるんだぁ」

 

 "階級"。その言葉だけでもすでにサウスジャパンで何が起こっているのか容易に想像できた。雪花の眉間に皺が寄る。

 

「その一つ上の階級が『貴族』。市民より裕福な人たち。……そして一番下が『奴隷』」

 

 雪花も水都も驚きはしなかった。……そのことに少しだけ、自分自身が嫌になった。

 

「そして最後、一番上。階級っていうよりは"一家"って表した方が良いかな」

 

 サウスジャパンの人々に与えられた階級。貴族より上の者たち。実際はその彼らこそサウスジャパン全体を支配していると表現しても過言ではない。大社の沖縄支部もまた彼らの走狗と化して奴隷産業に加担している節がある。

 

「そしてその一家。階級の頂点に位置している人たちの名前は『天竜人』って言うんだよ」

 




蓮華の右腕が使えないことを度々忘れてしまう。その悩みも今日で終わりだ。



次回 サウスジャパンの実態
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