白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。


前回のあらすじ
沖縄へやってきた歌野たちは早々に棗と出会い、蓮華の治療を願い出る。快く承諾した棗は早速蓮華の腕を治療していく。一方で飲み水を買いに出ていた水都と雪花は赤嶺からこのサウスジャパンに潜む暗い闇について知った。


第百五話 サウスジャパンの実態

 ――ここは南城市の市街地。今や沖縄で一番人と物が多い地域。その市街地の道端を男が走っている。男の首には変わったアクセサリーがしてあった。鉄の首輪である。

 

「ハッハッ……ハァ……ハァ……」

 

 口で息をして荒く吐く。周囲の人は何事かと注目しているが足を止めずにひたすら走る。だんだんと男の目から涙が滲んできた。

 

「なんで……っ。こんな目に……遭わなきゃ、なんねえんだよ」

 

 ピピピピピピピピピピピピ。

 

 自分のすぐ近くでけたたましくアラームが鳴っている。携帯は持っていないのだが彼から聞こえている。

 

「俺は……"貴族"だったんだ。嫁も娘も! ここじゃあ勝ち組だったんだ! なのに()()()()は……ッ‼︎」

 

 ピピピピピピピピピピピピ。

 

 彼から聞こえるこのアラームは、決して彼自身が望んで鳴らせているわけではない。"持ち主"の許可無く一定の距離離れると自動で鳴る仕組みだ。

 

 ピーーー。

 

 そのアラームが、心臓が停止した心電図から鳴る音かのように無機質な一音を発し続けた。

 

「もういやだ……たすけ――ボンバヘッ!!?」

 

 瞬間、激しい光と爆音を奏でながら男の首輪が爆発した。

 辺り数メートルまで血飛沫が散らされ、男は微かな呻き声をあげ、そのまま糸の切れた人形のように地面にうつ伏せで倒れる。

 周りの人間はその男だった物体に近寄ることはしない。ただ思っていることはあれが自分ではなくて良かったという暗い安心感。

 彼がこちらに来なくて良かったと思っていた人間も少なからずいた。

 

「兄様、まーた奴隷が爆発してアマス」

「んも〜、妹よ。お前は奴隷の躾が全然なってないえ。ついこの間も一人逃げられて爆発したえ」

 

 数分後、二人組の兄妹がその場所に近付いてきた。後ろには更に二人、ボディガードと思われる黒服の男と女がいる。

 兄妹は見た目からして異様だった。

 身なりは上層貴族を思わせる白を基調とした西洋の服装。所々に金の刺繍があしらわれている。頭には透明なカプセルを被っており外の空気に触れるのを嫌っていた。

 そして極め付けは二人が乗っている乗り物。その正体は人間である。

 

「それにしても相変わらずトロいアマス! 使えないアマス!」

「ぐぅふ……ッ」

 

 右足の踵で"乗り物"を蹴り付けると呻き声があがった。

 

「コイツはもうだめアマス」

「妹よ。オークションは明日だえ。その時にもっと質の良い乗り物を手にすればいいえ」

「のりかえどきアマス」

 

 二人は足で発進の合図を出して帰路に着く。その二人を黒服のボディガードはひと言も話さず後に続いた。

 

 後に残されたのは血溜まりの中に放置された肉塊がひとつだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 ――飲み物を購入して棗の拠点に戻ってきた水都と雪花と赤嶺。蓮華は眠っており棗と友奈も椅子に座って休息をとっていた。

 

「おかえりみーちゃんたち!」

「飲み物は床に置いてくれ。彼女が目を覚まし次第、水分を摂らせる」

 

 寝ているベッド横に置いていく。

 すると、誰かが扉をノックする音が聞こえた。

 

「ナツメ。いるか? 応答してくれ」

 

 声質から男性のようだ。この拠点に用件のある人物が他にいたのか。少しだけ水都と雪花は不安に駆られ警戒する。

 

(まさか……尾けられた?)

 

「ああ、ペロか。大丈夫だ、今開ける」

 

 棗は椅子から立ち上がり扉を開けに行く。声の主はこの拠点を棗と共に使っているペロだった。

 

「ペロ……? あ、さっき言ってた飼い犬のことだね」

「ペットの……。え……ペットッ⁉︎」

 

 敷居をまず前脚で片方ずつ越え、そのすぐ後に後ろ脚で跨いでいく。

 扉から入ってきたのは袋を首にかけて四足歩行している"犬"だった。

 

「ナツメ。この者たちは?」

「大丈夫だペロ。彼女たちに害はない。本州から私を頼ってくれたお客さんだ」

いぬぅぅううう〜〜〜!!!?

しゃべっったああああーーー!!!

 

 誰がどの言葉を叫んだのか分からない。部屋中に大声が響き渡った。

 

「しーっよ! 蓮華が起きるでしょ」

「……起きたわよ」

 

 大声により目が覚めてしまった蓮華は上半身だけ起こす。そして騒ぎの原因となっている犬のペロを見た。

 

「その腕。ゆガラがそうか」

 

 頼ってきたその理由を察して、ペロは前脚を腕に向けて話しかけてきた。

 蓮華は眉間に皺を寄せてまた横になろうとする。

 

「……。まだ夢の中のようね」

「夢じゃない。起きたのならたくさん飲んでくれ」

 

 床に置いてあった水の入ったポリタンクをひとつ、両手で持ち上げて蓮華に差し出した。

 

「ポリタンク……。ねぇ、もっと飲み水に適した器は無かったの?」

「例えば?」

「ウォーターサーバー」

「無い」

「冗談よ。ありがとう」

 

 困り眉毛のままだが軽く笑う。棗が支えながらポリタンクの口を左手で開けてそのまま飲み出した。

 

「おー、ぐびぐびいく〜」

 

 酒豪が一気飲みをするかの如く水を飲んでいく様を見て友奈は口角を上げて笑う。

 

「そうだナツメ。お前に話があるんだ」

「改まって、どうしたんだ」

「――ちょ、ちょっと待って」

 

 首にかけていた袋を棗に渡しながら話し始めるのと同時に、雪花は遮った。このままとんとん拍子に会話が続いていけばつっこみたいことが流されてしまうと思ったからだ。

 

「あ、あのさ! えーと棗さんの飼い犬? ……なんだよね」

「ああ、紹介が遅れたな。おれはペロという」

「あ、うん。よろしくー。…………いや、じゃなくて」

「もしかしてわんちゃんが喋ってる理由? 確かに珍しいもんねっ」

「いや珍しいって一言で終わらせないで」

 

 友奈は特に気にしていない。姫路城にて動物も"勇者の野菜"を食べ、能力を手にすることを知っていたからだ。

 

「よくよく考えてみれば……これも"勇者の野菜"の能力だと考えていいわけね」

「2年くらい前になるか。おれは棗が作ってくれたご飯を食べていたんだが、食べた後に不思議と力が湧き上がり、そして人間の言葉を完全に理解し話すことが可能になった」

 

 食べているものの中に偶然にも"勇者の野菜"が紛れ込んでいたのだろう。それは食材として切り刻まれても調理されても口にすれば能力が開花する。

 

「女の子しか能力者になり得ないと思ったけど……」

 

 あの時、東郷が言っていた。"勇者の野菜"は神に見初められた少女にだけ宿る力。穢れなき身だからこそ、神威を振るうことができる。大人はもちろん、男性では野菜を口にしても能力は手にできない、と。

 

「ん? おれの歳か? ……深くは考えてなかったがもう随分と長いな」

「私とペロはもう何年もずっといる」

 

 ペロの歳は人間でいうと高齢者の枠組みに入るだろう。だが年齢関係無しに能力を手にしている。

 

「お城の戦いの時も動物に野菜を食べさせてたって、大社の人は言ってたよ?」

 

 友奈の言葉や目の前の事象から推察すると、動物は人間と違って年齢や性別に関係なく能力を得られるのだろう。

 そしておそらくペロが食べた"勇者の野菜"は『ヒトヒトの野菜』だ。

 

「野菜って不思議だねー。まさに神からの産物だにゃぁ」

「神様って何でも出来るもんね!」

 

 犬が人間並みの知能を有し、人間の言葉を操る。他ならぬ神の御業であろう。

 この場にいる全員が、ペロの状態に理解と納得を示した。

 

「おれに関する話は終わったか? ならば戻すぞ」

「そうだったね。話遮っちゃったもんね。ごめん。どーぞー」

 

 雪花が軽く謝っているのを横目で見ながら、棗に渡していた袋を前脚で指し示して話し始める。

 

「ナツメ。その袋の中を見てくれ。中身は薬と包帯。それにポスターだ」

 

 薬と包帯は棗のことを気遣って定期的に買ってくるものだ。重要なのはポスターの方である。

 

「……。このタイミングで、なのか」

「ああ。奴らがまた性懲りも無く、な」

 

 ポスターには大々的に『オークション開催!』という文字が大きな建物と共に描かれてあり、場所や日付等が記載されていた。

 イベントの告知ポスターのようだった。

 

「明日の夕刻。正確には16時に奴らは三度目のオークションを開催する。……天竜人が。本当に悪趣味な奴らだ」

「天竜人? オークション?」

 

 歌野と友奈は聞き慣れない単語にハテナを浮かべた。対する雪花と水都は赤嶺から少し話を聞いていたのもあって不安が全身を包んでいく。

 

「天竜人はこのサウスジャパンを実質的に支配している者たちの総称だ」

 

 歌野たちに説明していく。

 彼らはもとは海外の富豪一家で日本に滞在している際にバーテックスの襲撃に遭った。自分たちの国に帰れなくなった一家はここに残り、大社という組織へ多大な援助をしたという。

 その見返りとして大社から沖縄(ここ)の自治権を手に入れた。

 

「……そっか。大社はその天竜人っていう人たちに大きな恩があったから、好きにさせているんだね」

 

 水都は悲しげな表情のまま呟く。周りのみんなもその心情を感じ取ったのか、空気は重い。

 

 『好きにさせた』

 

 言葉だけなら軽い。実際は身分制度を設け、奴隷制度を設け、魚市場のような競りで人間を売買していく。

 

「与えられた権力が人を暴走させたってことだ……。大社本部の連中はそれで構わないのかもしれんが、沖縄に住む我々としては勝手に決められていい迷惑だ」

「でも不満があるなら反乱を起こして倒しちゃえばいい……ってわけにはいかないのさ?」

 

 雪花の疑問はもっともだ。天竜人以外の人間の方が圧倒的に多いのだから団結すれば打倒することは容易ではないか、と。

 

「天竜人にはボディガードがいる。それも訓練を積んだ相当な使い手がな」

能力者(勇者)ってこと?」

「大半は違う。だが大社の……何とかって部隊にはいるらしい。ナツメやおれは遭ったことはないが」

 

 その部隊は防人で間違いないだろう。沖縄支部にいる指揮官型防人が能力者なのだ。

 あくまで人間の身体能力の延長線なら多対一で制することは出来たのだろうが、能力者が一人いるだけで数が意味を為さなくなってしまう。

 

「それに天竜人に手を掛けようものなら"四勇"やら"三大将"やらが飛んでくるからなぁ」

「えっ⁉︎ "四勇"……ッ⁉︎ それに"三大将"が……⁉︎」

「ってことは天竜人っていう人たちに危害を加えたら伊予島杏とか山伏しずくとかくるのかにゃぁ」

「誰が来るかは分からない。実際は海を越えれてスピードの速いやつとかだ。……確か、前回は、土居球子ってやつが来た」

 

 "四勇"土居球子が来る前に逃走には成功したが仮に彼女と正面切って戦った場合、勝ち目は無かっただろう。

 

「その時はナツメとあと二人。()()()という勇者が協力してくれたんだが、商品にされていた人たちを逃がすことに精一杯だった」

「あの二人もここに来てたんだね……」

 

 水都の言葉に棗が反応した。

 

「風と樹を知っているのか?」

「あーうん。知ってるっちゃあ知ってる」

 

 雪花は多少詰まりながらも頷く。京都支部の地下で敵として戦ったことは記憶に新しい。

 奴隷たちの脱出を優先させたにしても、その二人の戦力を用いても天竜人を倒すという選択肢は取れなかった。

 

「でも"四勇"の人たちはここのこと、何にも知らないのかなぁ。知ってて従ってるのならちょっと……悲しいね」

 

 友奈は胸の辺りをギュッと握り服に皺ができた。郡千景や乃木若葉たちが、我関せずで看過しているとは信じたくなかった。

 

「向こう側の連中にどう伝わっているのか知らん。おおかた、大社の支援者が沖縄で襲撃された、って感じだ」

 

 ここでの情報は大社本部や四国へは歪んで伝わってしまう。それは今までの経験から容易に想像できた。

 

「今回のオークションも本部側には寝耳に水。もしくは知らぬ存ぜぬを通すだろうな。だからおれとナツメでまたみんなを逃がす!」

「――ならば私たちもトゥゲザーするわ!」

 

 歌野が椅子から立ち上がり、右手を拳にしてそう意気込んだ。

 

「棗さん、そして棗さんのドッグさん!」

「ペロだ」

「ペロさん! 協力してオークションをデストロイさせましょう!!!」

 

 いつもながら唐突に、そして強制的にみんなを巻き込む。その歌野のスタイルはずっと変わらない。だが驚きはしたものの、その声に反対する者は誰もいなかった。

 

 こんな状況を変えたいと心の底から望んでいるのはみんな同じなのだから。

 




・ペロ:偶然にもヒトヒトの野菜を食べた人間犬。バーテックス襲撃後はドッグフードなんて手に入らないので、人間の食べ残しや棗が食べやすいように調理したものを食べている。その中に紛れ込んでいた。基本は慣れている四足歩行だが二足歩行で素早く動くこともできる。いざとなれば戦闘もこなせる。人間の年齢に換算すると結構な年齢の筈。


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