白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。恋愛漫画を読んでいるような気持ちになった114巻でした。


前回のあらすじだえ
蓮華の治療は滞りなく進んだ。ペロが人の言葉を理解して喋る犬に驚きはしたがそれが"勇者の野菜"の影響だということを知る。そして、ペロからもたらされた情報は、人を商品としたオークション開催の情報だった。


第百六話 オークションへ

 

 オークションの話を聞いた翌日。歌野たちは棗の祖父が昔育てていたサトウキビ畑にやって来ていた。

 人間の売買が行われるオークションは夜。ならばそれまでは自由時間ということでみんなはそれぞれ英気を養う。

 小屋にいるのは三人。芽吹は治療を施して眠っている。蓮華も回復に向かっているがもちろん安静だ。一応の護衛として赤嶺が担っている。それ以外の水都、雪花、友奈の三人は、目を輝かせながら農作業に勤しむ歌野を見守り、時に手伝いを行っている。その様子を棗とペロが眺めていた。

 

「なぁ歌野」

「ワッツ? 棗さん」

 

 耕している手を止めて、麦わら帽子を上に傾けて棗の方を向く。

 

「歌野はずっとここにいる訳ではないだろう?」

「ええ。オークションをデストロイしたら、タイミングを見てみーちゃんたちと四国へ向かうわっ」

「なら……ここで農作業を行う必要はあるのか?」

「あるわっ!」

 

 歌野はその問いに即答した。

 棗の言っている意味も理解できる。耕すだけ耕して、種を蒔くだけ蒔いて。それ以降の作業は行わない、行えない。収穫をせずに離れてしまう。人によっては意味が無い行為と捉えられても不思議ではない。

 

「なぜだ? ここには長居しないのだろう。期間が長くなる農作業をして、一体誰が収穫をするんだ」

「収穫するのは、なにも私じゃなくていいの。ここに住んでいる人たち。棗さんやペロさんが、引き継いでくれれば。私がやっているのはその先頭に立つことですので!」

「私たちが引き継ぐことは前提なんだな」

「オフコース♪ だって、ここの人たちの為にバーテックスを倒して、守ってくれている人が、未来の為の努力を蔑ろにするわけない! ライツ?」

 

 棗は少し驚いて目を丸くした。偶然であろうと"勇者の野菜"の能力を得てバーテックスと戦っていたのは、沖縄の人々の平和を守るためだ。ならば人々の平和な未来に繋がるこの農作業を断る筈がない。

 歌野がそこまで考えているかは分からない。直感的に口に出ただけの可能性もある。

 

「交渉ならどうでしょう? 私たちは棗さんたちに協力するかわりに、農作物を収穫してもらう」

 

 棗たちが農作業に携わる口実を確たるものにするため、歌野はあえて交渉という言葉を使った。

 

「交渉、か」

 

 オークションを中止させるのは商品扱いされている人々を解放するためだ。必然的にその人たちに恩を売ることになる。

 

「……あら、答えはノー? やっぱり私、交渉事に向いてないのかしら」

「いや、そうではない。ただ……」

 

 棗が何を考えていたのかは歌野には分からない。だが、ペロや水都や雪花はその考えに薄々勘付いていた。あえて口出しはしないが。

 友奈も歌野と同じく、棗の考えが分からないのでただ熱心に歌野を手伝う。

 

「……考えておこう」

 

 たった一言だけ、そう呟いた。

 

「あっ、報酬としてなら沖縄そばもいいわねっ。終わったらみんなで食べましょう!」

「沖縄そば……好きなのか……!」

 

 その反応や声のトーンから棗が嬉しそうに食いついたのが伝わってくる。

 

「私、そばには目がないので!」

「そばと言っても蕎麦粉使ってないが……」

「あらら⁉︎」

 

 歌野の反応にペロと棗は息をフッと吐くように微かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 ――蓮華は目を開けたままベッドの上で仰向けになっていた。用意されていた水分は充分に補給して、あとは自然と右腕に血液が流れ込むのを待つだけ。

 

 そして一夜明けて、右腕の感覚が徐々に戻ってきているのを確かに感じていた。

 

「……友奈。聞いていいかしら」

「なに? レンち」

 

 暇を持て余したからなのか、蓮華は赤嶺へ、昨日ペロから聞いた天竜人について問いかけた。

 

「天竜人は……どうして"天竜人"って名乗っているの?」

 

 想定していた内容とは違う角度からの問いに、赤嶺は少しだけ面食らった。

 

「う、うーん。彼らじゃないと分からないかなぁ。でも竜って響きがなんかカッコ良さそうだよね。がおーって」

 

 両手の指を曲げて鉤爪の真似をする。竜というよりはクマか百歩譲っても怪獣のポーズだ。

 

「そっちじゃないわ。竜ではなく"天"よ」

「天?」

「ここに来て、名前を聞いて……なぜ彼らが()()()()()称号を自分たちに付けているのか。疑問なの」

 

 よく大群で襲いかかってくるバーテックスを、大社は"星屑"と呼んでいる。また、能力を手にした星屑よりも巨大な進化体バーテックスには"黄道十二星座"に因んだ名前を付けている。

 

「そっか。獅子座とか水瓶座とか名前付けられてたよね。……でも十三体……あ、双子座が二人で一人だったから十二体か。十二体でちょうどいいから、とかじゃないかな?」

「なら干支や暦、オリンポスもあるわ。そのなかでわざわざ星座を選んだのには何か理由があると思うのよ」

 

 赤嶺の問いに蓮華は即座に首を横に振って答えた。名前について、深く考えれば考えるほど、その奇妙な共通点に違和感を捨てられない。

 

「そのバーテックスと同じく、空に関する名前を名乗る天竜人。……そして五老星もね」

「五老星……レンちの家の人も入ってるよね」

 

 大社の重鎮である五老"星"。彼らの名前にも空に関係する単語が含まれている。

 偶然にしては些か作為めいたものを感じてしまう。

 名乗っている者たちに共通していることは……良し悪しに関わらず()()()に存在しているということ。

 

「何を思って五老星なんて名前にしたのかしらね」

 

 バーテックスの影響で、"空"に関連するものを恐れる"天空恐怖症"を患う人たちがいる中で、なぜ大社の重鎮が空に関わる"星"の名前を使っているか。

 大社の存在意義に仄暗い靄がかかる。鏑矢としてあの火災テロの惨状を体験した蓮華はここに来て更に不信感を募らせるばかりだった。

 おそらく、赤嶺もそう感じている筈だ。

 

「……うん、なんでだろうね」

 

 最後に呟かれた蓮華の言葉を聞いて赤嶺は胸の辺りに手を添えて小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして時間は流れていき、オークション開始の時刻が迫って来た。

 会場となる建物へは次々と人が入っていく。それが遠くからでもはっきりと分かった。

 待機しているのは歌野、雪花、高嶋友奈。そして棗とペロ。オークションに乗り込むメンバーである。

 残りの蓮華、赤嶺友奈、水都、芽吹は拠点にて待機。芽吹はペロが持ってきていた薬と包帯を棗の許可を得て使い、今も眠っている。水都は非戦闘員であり、蓮華は病み上がり。その護衛として赤嶺が留まるという形になった。

 

「作戦のおさらいだ。オークションが全て終わったのち、会場の人たちが退場していく人混みの中で施設内部に侵入」

 

 棗が全員に向き直り説明していく。"商品"の受け渡しはオークションが全て終わったあとだ。競りに勝った者たちは施設内部に誘導されて手続きを行って受け取る、という流れになっている。

 よって、歌野たちは競りに勝った客に紛れ込み、内部で暴れて商品となっていた者たちを逃がす。

 

「終わるまで見てるっていうのは、ちょっとだけアンプレザントね」

 

 歌野は当初、オークション中に襲撃を行おうと思っていたが、それでは予想以上に被害が出てしまうし、檻の中の奴隷を効率よく逃せない。

 終わったあとなら人も少なくなり、受け渡しの為に必然的に檻から解放されている。そこを狙える。

 

「みんな気持ちは同じだ。……では行くぞ」

 

 ペロの言葉を合図に、歌野たちは建物の入り口へと向かう。そこにはサングラスをかけ、顔を白い絵の具か何かで塗られたピエロのような衣装の男が受付役としていた。

 

「此度はオークションへの御参加、誠にありがとうございます。招待状はお持ちですか?」

「ない」

「それでは『市民席』をご利用ください。バッヂをどうぞ」

 

 招待状の有無で区画分けされているようだ。まず間違いなく招待状を持っている者たちは"貴族"以上だろう。

 

「オークションで商品を勝ち取れば、アナタの身分は貴族にランクアップします。ぜひ、頑張って手に入れてくださいね♡」

 

 受付の愛想を無視して棗を先頭にペロ、歌野、雪花と入っていく。ペロは喋らなければ普通の犬と同じだ。この会場はペット同伴も可能なので問題なく入れた。

 

「なにもっ……なにも感じないんですか……」

 

 最後の友奈だけは、通り過ぎず男を見て口を開いた。

 

「……と、言いますと?」

「ちょっと友奈っ」

 

 目立つことはなるべく避けなければならない。すぐ前にいた雪花は友奈を引っ張る。しかし引っ張られながらも友奈は聞かずにはいられなかった。

 

「人が……人を買うなんて……そんなの許されることじゃ、ないですっ」

 

 男は友奈の目を見て、話を聞いたうえで、薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

「私はこの会場の受付役。ただそれだけのこ・と♡ この中でみなさんがどのようなイベントをどのようにして楽しんでいるかなど、知らされていません。検討も付きません」

「ちょい待ち! さっき、招待状とか市民、貴族いってたじゃん。……それで検討が付かないって?」

 

 男の回答に、友奈を止めていた雪花も腹が立って食いついてしまった。

 

「ですからそれだけしか知りません。仕事の範疇以外のことは。ハイ、何も」

「……っこの」

「行くぞ二人とも」「クールダウンよ二人とも」

 

 同時にかかった棗と歌野の声で、友奈と雪花は頭を冷やし男に背を向けた。

 

にゃろぉ。……今に見てろよ

 

 誰にも聞こえないような声で、雪花は吐き捨てるように呟く。

 

「……。さて、と」

 

 全員が入り終えて扉を閉めたあと、受付役の男はスマホをポケットから取り出して電話をかけた。

 

「――もしもし。アナタたちの目論み通り、彼女来ましたよ。……はい。では、あとはそちらに任せます」

 

 

 

 ――会場内に入った歌野たちは『市民席』と、表示されている看板の元へ行き、空いている席に座る。元々は何かの劇場だったのか、全体の席数は多い。だが空席ばかりだ。

 

「いやー頭に血がのぼってたよ。ごめんして」

「気持ちは分かる。……だがこらえろ」

「歌野もよく耐えてくれたな」

「ええ。本当は今すぐに飛び出していきたいけどっ」

 

 あの対応から憤りを覚えていたのは全員同じだ。

 前回の時もそうだ。風が沖縄の現状について当時の受付役に問い詰めたが無関係な素振りをされた。大社支部の神官たちも、()()()()()()()()()人身売買という単語が聞き取りづらいらしい。一体、彼らにいくら払っているのか。

 

「思うことはある。……だがそれはオークションが終わってから発散すればいい」

「そうねっ」

 

 そして、会場内にブザーが響く。ステージの幕が上がる。オークション開催のときだ。

 上手には看板があり、『ブリ、サワラ、サンマ、マグロ、サバ、コイ、ヒラメ、フナ……』と十数個の魚の名前が書かれてあった。

 

「あれはお品書きみたいなものだ。オークションにかけられている人間をそう呼んでいる」

「まったく、いらいらするなあ!」

 

 ステージ上には司会進行役の男が開催の挨拶を述べている。その挨拶も数分で終わり、オークションが本格的に始まった。

 

『さあ! それではまず一品目。『ブリ』の登場です‼︎ 年齢は二十歳。名前の通り周囲からぶりっ子と呼ばれて愛想を振り撒くしか能のない女性です! 前回と同じく10万天から、どうぞ!』

 

「あの子いいなぁ。13万天だ!」

「ほっほ、顔は可愛いですな。あれでかまととぶるとなると……15万天!」

 

 貴族席の男性が手を挙げる。その後に別の男性も手を挙げた。彼らの左胸には先程棗が受け取っていたバッヂが付いている。

 

『ハイ! 15万来ました! さあさあさらに上、ありませんかああ!? 無ければ112番さんがブリをゲットですよっ!』

 

「天? 何の単位かなぁ?」

 

 友奈の問いにペロが説明していく。

 

「"天"はここ専用のお金の単位だ。オークションでは仮想的な通貨を用いる」

 

 現実のお金で換算すると15万天は1万5千円とイコールである。100万円ならば1000万天である。

 

「90万天!」

 

 何人かが値段を口々に言っていたが、最終的に129番の男の口にした額が最高だった。

 

『……誰もいませんね。ハイ! おめでとうございます! 129番さんが90万天で落札です!!』

 

「やったあああ」

「おめでと〜〜」

「く、くやしいぃなぁぁ」

 

 これでブリと呼ばれていた女性は90万天(9万円)で買われた、ということだ。

 傍観していたものも、競りに加わったものも、一喜一憂して盛り上がっている。歌野たちと会場の空気の隔たりはどんどん大きくなっていく。

 一人目の女性はステージ脇から出て来た衛兵に連れて行かれ、また別の女性がやってきた。

 

『さあ続いては、サワラの登場です! こちらもまた女性ですね〜。年齢は二十五歳。スラっとした足が魅力的です!!!』

 

「おれは200万天だあ!」

「いきなりかよ⁉︎ さっきの最終額の倍以上じゃねぇか」

 

 司会進行役が紹介し終えた即座に、三十代後半の男性が手を挙げていた。

 

「おれは足の綺麗な子がタイプなんだよ」

「でたでた〜。そういやお前、下半身好きだもんな〜」

「コイツの奴隷、みーんな足の綺麗な女でさー」

「ほっほっほ! なかなか良い御趣味ですなぁ」

 

 最初に挙げた男の周りで談笑の輪が広がっている。その間に、他の人も手を挙げた。

 

「215万よ!」「227万だ‼︎」

「……むむ。では250万天で!」

「ねらうね〜」

「「わっははははははははっ!!!」」

 

 貴族席にいる客たちは大いに盛り上がる。

 二人目の女性も何も喋らない。男たちが褒めるその脚は今にも折れそうな程に震えている。ただ泣きそうな目で、暗い顔で俯いているだけ。

 

「ねぇ……なにこれ」

 

 雪花はギリギリと、歯軋りを立てる。身体は震えて全身の鳥肌が立っているかのようだ。

 

「コイツら……本当に人間……?」

 

 歌野は無言のまま、雪花の震える拳に手を置く。

 そして、雪花の問いは少しの間を置いてペロが答えた。

 

 

「……。残念ながら、な」

 

 




 お品書きみたいなやつに書かれている名前は、基本海で獲れる魚の名前になっているえ。でも特に理由はないけど、例外もあるんだえ。
 また前回は、カニとかエビとかタコとか書かれていたえ。



次回 やってしまったことはしかたない
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