白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。各位、戦闘準備!


前回のあらすじ
人道外れたオークションが続く中、天竜人がやって来た。兄の方は棗のクラスメイトだった少女に興味を抱き、少女は棗に助けを求めた。その想いに応えようした棗に腹を立て、天竜人が発砲しペロが被弾してしまう。なおも棗を狙う天竜人だったが、彼を吹っ飛ばしたのは歌野だった。


第百八話 五人のボディガード

 

 倒れた兄妹の周りに砂埃が立つ。

 二人をまとめて再起不能にさせた歌野は、不満気な顔で左手指の第二関節を右手でパキ……ポキ……と鳴らせていく。

 

「お、おー、歌野。相当怒ってるにゃぁ」

 

 いつの間にか出現させていた自分の槍を右肩にもたれさせ、雪花は口角だけ少し上げた。

 

「ペロさん、ごめんなさい。私がもっと早くするべきだったわ。それと棗さん、ごめんなさい。ペロさんを怪我させてしまったわ」

 

 ベルトを持っていない左手でペロの前足に触れた。棗もペロもそんな歌野の謝罪に僅かに戸惑った。

 

「そして、ソーリー。雪花、友奈。あの人に危害を加えたら、伊予島さんたちか山伏さんたちがくるらしいわっ」

 

 口では謝りつつも、謝罪の意はとてもじゃないが感じられない。二人もそんな歌野を責める気など毛頭ない。

 

「いんや。あと0.1秒遅かったら私が突き刺してたよ」

 

 片手で槍を一回転させて軽口を叩く。もう片方の手で歌野の肩を叩く。口には出さずに、歌野に「よくやった」と態度で示した。

 

「確か、四国から"四勇"が来るんだよね。う〜〜! ぐんちゃん来てくれるかなぁ!」

「なーんか嬉しそう。……来ても良い方向にならないと思うけど」

 

 天竜人に危害を加えた場合、"三大将"か"四勇"が来るという話だが、友奈は千景に会えるかもしれないと少し期待する。

 

「歌野は乃木若葉……さんが来てくれるかもしれないから……なんていうか、楽しみ?」

 

 聞き方がおかしいと雪花自身も思う。今しがた友奈にも言ったが、良い意味で来てくれるわけではないのだ。

 だが歌野はその問いを首を横に振って答えた。

 

「乃木さんが私の元に来てくれるのは、御役目を終えたあとにしてるわ」

 

 昔、若葉が歌野と交わした約束。いつか御役目を終わらせて、諏訪の地で忘れ物のリボンを取りに来る。

 だから今は、ある意味若葉には()()()()()()()

 

「だから今は……約束が、違うから」

 

 ペロは歌野と棗に支えながら起き上がった。弾丸が貫通していないのが不幸中の幸いなのか、血は止まっている。

 

「ペロ、身体は……」

「問題、ない。これでも"野菜"を食べた身だからな。少しずつだが動ける」

 

 四本足でしっかりとバランスを取る。人間の歩くスピードに合わせるくらいには動けそうだ。

 

「棗さん。ペロさんと一緒にエスケープしてください。会場内に集まってくる人たちは私たちで相手をするから」

 

 天竜人に攻撃したのは歌野だ。彼女たち三人がここで暴れていれば、衛兵も棗とペロに構っていられないだろう。

 

「いや、ここまで来て無関係は装えない。それに動いてしまったのは私の責任だ」

 

 クラスメイトを守る為とはいえ、堪えきれなかったのは棗だ。結果的には歌野が手をあげてしまったが。その責任を感じて歌野たちに頭を下げる。

 

「すまない」

「それとウタノ。ナツメを守ってくれてありがとう」

「ノープロブレムよ♪」」

 

 ここにいる誰もが歌野の行動を咎めることはしないし、嘆く気も更々ない。これ以上、起きてしまったことを気にするのは時間の浪費でもある。

 

「少し作戦を変えよう。私とペロは囚われている人たちの解放に向かう」

「そして私たちはここで引きつける役ね」

 

 お互いに頷き合って行動を開始する。

 貴族席にいた者たちはこれから起こる戦いを予感し、我先にと走って出ていく、これでオークションは間違いなく中止になるので、奇しくも歌野が当初行おうとした作戦になった。

 

「おいおい待てやお前ら。これ以上好き勝手され――フベラシャ!!?」

 

 マイクを捨てて掴み掛かろうとする司会進行役の男を即座に槍で殴り付けて気絶させた。

 

「ちょーと黙っててねー」

 

 雪花は倒した男の服やズボンを漁って一本の鍵を取り出した。ある程度予想していたが、商品に付けられていた首輪と手錠の鍵だろう。

 

「ビンゴ!」

 

 雪花の読みは的中する。

 試しにと、棗のクラスメイトに付けられた手錠の鍵穴に入れて回すと手錠は外れ、同じく首輪も外れた。

 そして鍵を棗に渡す。檻の鍵は見つからなかったのでステージ奥にいる誰かが持っているのだろう。

 

「任せたよ。"おふたりさん"」

 

 ペロを含めて二人と言われたことに数秒だけ戸惑いを見せたが、すぐに振り払い、頷いてステージ奥へと向かう。

 

 残された歌野、雪花、友奈は、次々と駆け付けてくる剣や槍を持った衛兵を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――歌野が天竜人に攻撃したことは、衛兵の一人によって通報された。その情報は早くも大社本部にいる神官たちの耳に届いた。

 神官長をはじめとする、ある程度権力を持った神官たちは頭を抱える。今、大社本部内も香川の丸亀城内も()()()()で大騒ぎだ。

 

「こんの大事な時期に……天竜人を襲撃だぁあ? ふざけるのも大概にしろよ……!」

「"神婚ノ儀"はもうすぐそこ。今が一番大事な時期だというのに……」

 

 大社側は先の戦いで捕らえた結城友奈を使い、"神婚ノ儀"を執り行うことを発表した。……発表してしまった。

 今は、その準備と結城友奈を取り返しにくるであろう"七武勇"への警戒が最優先事項である。

 そこに飛び込んだ沖縄での暴力事件。数日前まで兵庫県にいた歌野たちがなぜ沖縄へ行っているのか、理解が及ばない。

 

「しかし神官長。天竜人に危害を加えた者への報復は?」

「うるせェな‼︎ 俺は今それどころじゃあねェことぐらいわかんねェのか!!!!」

 

 もともと黒マスクで保護していた神官長の顔だが、雪花の投擲によりさらに負傷した。傷はまだ癒えず、包帯を顔に巻いている。左目と口しか露出していない。

 今も大声で怒鳴ると傷がズキズキと痛んで仕方ない。

 

「い、てて……っくそ。天竜人の対処は神官の安芸に任せてある! オレは"神婚ノ儀"に向けて面倒な書類の整理と部下共への通達だ!」

 

 "奉火祭"の件で歌野たちには憎悪を抱いてはいるが、"神婚ノ儀"を邪魔されることが一番厄介なのだ。神官長はこの憎しみを書類にぶつけることにした――。

 

 

 

 その神官長から対処を任された安芸と呼ばれた神官は、ひと通りの説明を"防人三大将"と()()の"四勇"に伝えた。

 

「姫路城の半壊。そして沖縄での暴行。話題にことかきませんわね」

「あなたたちにはどなたかが沖縄へ――」

「ひぃいやあああうえええ〜〜〜‼︎ 行きたくないよおおお!!!」

 

 三大将がひとり、加賀城雀は安芸の言葉を遮って泣き喚く。

 

「うるせェ! ガタガタ騒ぐな! 雀ェ‼︎」

「うえええ〜〜‼︎ 怖い方のしずくちゃああん‼︎」

「なァ? 俺に行かせろよ。俺なら半日もかからねェで沖縄に着ける」

 

 山吹しずくのもう一人の人格であるシズクは前のめりで立候補する。

 彼女は姫路城にて辛酸をなめさせられた。名誉挽回のチャンスを狙う。

 

「いいえ……私たちや貴方たちが行くのは……懸命ではない、わ」

「ああん?」

 

 シズクの意見に異論を唱えたのは"四勇"のひとり、郡千景だ。

 

「どういう意味だ。説明しろ」

 

 睨まれていても特に気にする様子もなく、千景は自分の意見を安芸神官を含めて全員に伝える。

 

「このタイミングで白鳥歌野が沖縄で行動を起こしたのは……私たちの戦力を分散させる為……だと思う、わ」

「分散だァ?」

 

 千景は結城友奈と白鳥歌野が結託している可能性を指摘した。いや、正確には"七武勇"と"白鳥農業組合"が、だ。

 結城友奈は歌野たちに協力して姫路城(兵庫支部)を襲撃して藤森水都を奪還した。このことから、"七武勇"と"白鳥農業組合"は同盟を組んだと考えるのが自然だ。

 その後、結城友奈の"神婚ノ儀"の情報が出回った。その儀式の詳細が分からずとも結城友奈が大社の手に落ちていることを知った他のメンバーは必ず取り返しにくる。だから迎え撃つ為に()()()()はここにいる。

 その戦力を遠く離れた沖縄に送るのは得策ではない。

 

「千景さんの言う通りです。私たちの誰かが沖縄に行く時を見計らって、結城友奈さんを取り返しに攻めてくる可能性は充分にあります」

 

 杏も千景に同意見だった。"七武勇"がいつ来るかは分からない。念の為に結城友奈は1日ごとに場所を移動している。明確に囚われている場所が分からない以上、彼女たちが来るのは"神婚ノ儀"当日が妥当といえる。しかし、今この時に来る可能性も捨てきれない。

 

「もし、大社側にスパイがいて……私たちの誰かが沖縄に行ったことを知らせてしまえば……」

 

 "七武勇"の家族は今も何人か大社に在籍している。漏れる可能性は高い。

 

「その機を狙って"七武勇"の方々がこちらに攻め込んでくる。……なるほどですわ」

 

 何度も頷く夕海子。距離が遠い沖縄では帰ってくるのも時間がかかる。"四勇"も"三大将"も人は出せない。

 

「ですが……沖縄へは誰かしらを充てがわなくてはなりませんわ」

 

 全国各地の支部を任せている指揮官型防人とその部下もここに集結させた。その中には当然、沖縄支部のNo.8も含まれている。

 つまり今、沖縄にいて歌野たちに通用するであろう戦力は"五人のボディガード"のみとなっている。

 

「あの、若葉さんはこのことを……」

「いえ、急な事態ですのでまだ知らせていません」

 

 ここにいる"四勇"は杏、千景、球子の三人だ。若葉は今、四国の護衛にあたっている。

 

「神婚のことで若葉すげー怒ってたよなぁ。もう大社とは口も聞きたくないんじゃないか?」

 

 球子も杏も千景も、この御役目には正直言って、嫌々参加している。

 だが若葉は、いくら大社の御役目といえど納得しなかった。納得どころか"神婚ノ儀"自体に反対して中止を呼びかけた。神官長たちを叱責し、丸亀城の五老星にも面会を求めたという。

 結局、"神婚ノ儀"は止めさせられなかったが、せめてもの抵抗に今回の戦いでは若葉は参加しない意を述べた。

 四国の護衛という"四勇"本来の御役目を果たす、と。

 

「沖縄なんて、どうでもいい……」

 

 千景は静かにそう吐き捨てた。会ったことも何をしているかも知らない天竜人のことなど気にするつもりはない。優先度が違うのだ。

 また、大社から直々に降された御役目を無視して怒りだけぶつけて早々に四国へ戻った若葉へも少しだけ苛立ちを覚えた。

 

「分かりました。では、特例として"四勇"(あなたたち)の副官のどなたかに向かってもらいます」

 

 "七武勇"に備える為、"四勇"と"三大将"は沖縄には向かわせられない。

 安芸は"四勇"の副官を呼び出した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オークション会場内にて、棗たちの手助けをするべく、歌野たちは武装した衛兵たちと戦闘を開始していた。

 歌野へと振り下ろされる剣や突き刺そうとする槍を次々とベルトではたき落としていく。

 友奈もまた武器だけに拳や蹴りを当て、相手を無力化する。

 対して雪花だけは、剣や槍を身体を半歩退がって回避したあと、突進する衛兵の腹部や頭部に槍の先端ではなく柄の部分で殴り付けて気を失わせる。

 

「まだまだ。こんなもんじゃ雪花さんの怒りは鎮まらないよーっ」

 

 決して突き刺す真似はしないが、歌野と友奈が無力化した衛兵すらも殴り倒し、蹴り倒す。

 彼女たちにとって()()()()()など相手にならない。傷どころか服にすら刃は届かない。

 

「歌野! 友奈! 銃持ちさんがくるよっ!」

 

 新たに銃を構えた衛兵たちが現れる。いち早く気付いた雪花の掛け声で、三人は身を屈めて席に隠れて銃撃をやり過ごす。

 そして銃撃音が止み、相手が弾を補充する隙に席を遮蔽物にしながら接近。衛兵をベルトや槍で薙ぎ払う。

 

「ぐわあああ⁉︎」

「にゃっはは! 全員が同じタイミングでリロードしてたら意味ないよん!」

 

 衛兵たちの戦意はすで消沈していた。

 

「つ、強ぇ……。何も出来ねぇ」

「見た目ガキのくせして……」

 

 その時、会場の入り口から新たに四人の大人が現れた。四人全員黒いスーツを身に纏い、歌野たちを見下ろす。

 

「なんじゃ。衛兵はもうくたばっておるようじゃのう」

「まったく。子供相手に情けないわね」

「ウルッフフ! まぁその分、おれたちが暴れ放題ってワケだがなァ」

「あぁいやまっったく……ま〜〜ったくそのとお〜〜りだぜ〜〜!」

 

 歌野たちもその四人の存在に気付いて戦闘の手を止める。

 

「あれがペロさんの言っていたボディガード……?」

「だろうね。見るからに強そうだしさ」

 

 友奈と雪花、そして歌野も手合わせはしていないが四人の大人たちが強いことを肌で感じていた。

 

 金色の長髪に眼鏡をかけた唯一の女性。

 つば付きの帽子を深く被り、目元が見えにくいが、帽子のつば程の長さはある伸びた鼻が特徴的な男。

 頭にサングラスを乗せ、どことなく中国人を思わせる三つ編みにしたポニーテールにナマズ髭、そして左目元に傷痕がある男。

 最後に床に付くほどの長いピンクの髪に、顔を白く塗り錫杖を持った歌舞伎口調で独特な男。

 

 天竜人に危害が及んだ場合、大社本部から"四勇"または"三大将"が派遣されるが、彼らボディガードもまた自治行為として戦闘が許可されている。

 勇者ではない大抵の者はすべて彼らによって鎮圧されるのだ。

 

「CP.3、CP.5、そして私はここに残りあの三人のお嬢さんの相手をするわ」

 

 唯一の女性がそれぞれに指示を出す。CP.3は歌舞伎調の男。CP.5とは長鼻の男を指す。

 どうやら『CP』というのは彼らに与えられたコードネームのようだ。

 

「オイ、CP.2! てめェらだけ獲物取んな! おれァどうすんだッ⁉︎」

 

 中国風の男は眼鏡の女性をCP.2と呼んだ。

 

「CP.1はステージ奥に行きなさい。本命がいるわ」

「よしきたッ! てめェわかってんじゃねェか!」

「あ、待って――」

「あなたたちは、行かせないわよ?」

 

 本命と言うのは棗のことと考えて間違いない。なぜ、本命と呼ばれているのかは分からないが。

 CP.1がステージ奥へ向かっていくのを、友奈が阻止しようとするも、逆にCP.2に阻まれてしまった。

 

「あら? よく見たら……結城友奈……⁉︎」

「え……あ。そういえば、仮面……!」

 

 友奈は両手で自分の顔を触る。変装すべきだと今気付いた。

 CP.2たちはここにいないはずの結城友奈がいることに驚く。

 

「ん? なぜそいつがここにおるんじゃ?」

「かあ〜〜のおお〜〜、む〜す〜め〜は〜〜た〜し〜か〜〜」

「ダメよ? 無闇に情報を渡しちゃ」

 

 三人の会話から良くない予感が友奈の中で渦巻く。歌野も雪花もその話を聞いて眉を顰めて訝しむ。

 

「結城ちゃん……? が、どうしたの……っ⁉︎」

()()()()()……。ということはあなた、彼女ではないのね」

 

 友奈の反応からCP.2は瓜二つの他人であると察する。非常に珍しいことではあるが、ありえない話ではないことだと自分の中で納得した。

 

「知らないのなら内緒よ。生き残れたら新聞でも読むことね」

 

 三人はそれぞれの相手の前に立ち、一対一を三箇所で行う構図となる。

 CP.2は友奈と相対した。

 

「なら、わしはおまえさんとやろうかのう」

「立派なノーズね、折ってしまいそうだわっ!」

 

 普段と変わらないようでいて歌野も相当頭にきていた。そんな歌野とCP.5は互いに視線をぶつけ火花を散らす。

 

「おいらはあああ〜〜! あ、お〜〜い〜〜ら〜〜は〜〜! このむすめとお〜〜!」

「え……ウソでしょ? 私、あんなイロモノと戦わにゃぁならんのかい……」

 

 CP.3のやけに長いセリフを嫌々聞きながら、雪花は半ば呆れながらも別の意味で緊張感を漂わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、場所は変わり。

 

「……チャパパパー! 見つけた見つけたっ!」

 

 黒服に身を包んだ大男が防風林の内の一本に登り、とある一軒家を見下ろして笑っていた。

 




千景たちの深読みのおかげで見事に勘違いファインプレーが生まれました。


次回 訓練された、ただの大人 
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