白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。棗とペロの戦闘でございます。


前回のあらすじ
ボディガードとの戦いの幕があがった。雪花はCP.3と。蓮華はCP.4と対峙する。なんとか撃破に成功するも、訓練されたただの大人は一筋縄ではいかなかったことを知る。


第百十話 狼頭狗肉

 

 棗とペロはステージ奥へとやってきた。そこにはいくつもの檻が設置され、ひとつひとつの中に数人の男性や女性が入れられていた。

 衛兵はいないので全て歌野たちの方に向かったと思われる。

 

「暗証番号か……」

 

 檻の鍵は4桁のダイアル式の錠だった。番号は『0001』と並んでいた。

 それを見て棗は僅かに口角を上げると右端の数字をひとつだけ動かした。

 すると、錠は外れて檻の扉を開けた。

 

「……! 知っていたのか。番号」

「左の三つは揃っていたが右端だけ違った」

 

 隣の檻も同じ番号に設定されていた。横着をして四つとも同じ番号を設定したのだろう。

 いや、もしかすると錠を買ったままの番号で使用しているかもしれない。

 それ故に楽に開けられたのだから今はその間抜けさに助けられた。

 ペロは鍵を咥えて檻の中に入り、中に囚われている人たちの首枷や手錠を外す。

 

「あ、あなたは……」

「確か、海辺でバーテックスと戦っていた」

「古波蔵棗だ。あなたたちを逃がしに来た」

 

 自由になった人が檻の外に飛び出して裏口から次々と出ていく。

 

「やった! 解放されたっ!」

「あ、ありがとうございます!」

「前回も……ですよね。親友から聞いてました!」

「ありがとうお嬢さん」

 

 棗は最後の檻を開けた。続いてペロもその中に入り自由を与えていく。

 ……その中にひとり。()()()()がいた。太腿に天竜人の所有物だった証を刻まれ、その心にも決して癒えない傷を付けられた少女だ。

 

「帰る場所はあるか?」

 

 棗に問われた少女は何の反応も示さなかった。すでに枷は外れてある。

 囚われていた人たちはみんな逃げて行った中で、少女だけは動かなかった。

 棗は膝をついて少女をそっと抱きしめた。

 

「今まで助けてあげられなくてすまなかった。……だが、決して希望を捨てないでくれ」

 

 息をするだけの少女を抱きしめたまま立ち上がる。安全といえる場所までは移動させなくてはならない。

 

「――なんだァ? もうみんな逃げちまってんのかァ?」

 

 声のする方向へ棗とペロは振り返る。

 そこには黒服に身を包んだ男が立っていた。追ってきたその男はボディガードの一人――コードネーム"CP.1"。

 

「おれァCP.1。天竜人のボディガードのひとりだ」

 

 棗は少女を抱き上げると少しだけ後退った。ペロも棗の足元まで移動する。

 歌野たちが足止めしてくれていたはずなのだが、漏れた一人が追ってきたことをお互いすぐに理解した。

 

「古波蔵棗……だったよな?」

「私を知っているのか」

「知らねェワケがねェなァ。何回も奴隷を解放している奴をよ」

 

 棗が過去にも奴隷として扱われていた人たちを解放させていることは当然ボディガード側も知っている。名前や容姿はもちろん。棗がペロと協力してバーテックスの襲撃を水際で防いでいることも。

 知っていて、今まで泳がせていた。

 

「お前は一番の粛清対象なんだが、今は()()()()()()()。さっさとその小娘、お家に帰してこい」

 

 CP.1は床に尻を付けて胡座をかく。その態度に棗もペロも眉を顰めた。

 

「奴隷についてはこっちも胸糞悪く思ってた。お前らが解放してくれてむしろ感謝してんだよ。……分かったらさっさと行け」

 

 顎で外に出るよう促す。

 棗とペロは視線を交わし、そして抱えている少女を見て双方頷いた。そして裏口を目指すためにCP.1に背を向けた。

 

「分かっ――」

「……って言うワケねェだ狼牙(ろうが)!!!」

 

 ――その隙を、CP.1は見逃さない。

 

「――ッッ!!!?」

 

 座った状態から跳ねるように軽々に飛び掛かってきた。

 迫り来る右ストレートをペロが両腕でガードする。

 

「お? 犬ッコロが、やるじゃねぇか」

「……外道が」

「ウルッフフ! 敵陣で隙を見せた方が悪いと思うがなァ」

 

 ペロの侮蔑の言葉を笑って流す。

 奴隷の解放を見逃すのは大嘘だった。両手が塞がっている棗を少女ごと容赦無く狙った。

 

「しっかしなんだ? 最近の犬は言葉を話すのか。芸達者なモンだな」

 

 今しがた殴りかかった右手の汚れを左手で払い落とす。

 

「やりにくい仕事だぜ。……おれァ犬は嫌いじゃねェ。好きな方だからな」

「心にも無いことを……」

「いんや、本当のことだぜ? 昔から狼が好きでよォ。エゾオオカミの剥製を見に数ヶ月前、北海道の博物館に行ったモンだ。そんときゃ、そこの防人の奴らとすっかり話し込んじまってなァ。奴隷のことも……おっと、んな話はどうでもいいなァ」

 

 公には禁句とされている沖縄の奴隷制度を、北海道にいる防人が知り得た理由をCP.1自らが語った。

 彼自身はその話が広まることをなんとも思っていないようだ。

 

「狼はカッコいいよなァ。……だから、よ」

 

 腰を落として臨戦体勢に入った。

 

「苦しませずに終わらせてやるよ。それがせめてもの情けってヤツだなァ」

 

 低い姿勢のままペロの顔目掛けて回し蹴りを放った。

 ペロは四つん這いの状態からさらに身を低く屈めて蹴りを避ける。そしてその状態から脚のバネの力を使ってカウンターのタックルを腹部へお見舞いした。

 

「――ぅぐぉ……!」

 

 CP.1は呻き声をあげ、右手で腹を押さえる。

 その怯んでいるところへ追撃として再度タックルを浴びせる。

 

「――"鉄塊(テッカイ)"ッッ‼︎」

 

 CP.1が叫んだタイミングで、攻撃が命中する。

 

「……ぐぁっ!」

 

 今度は攻撃を仕掛けたペロが痛みにより呻き声をあげた。

 

(なんだ……。今、鉄にぶつかったのかと思ったぞ)

 

 先程までと感触が明らかに違っていた。CP.1の身体が先程とは打って変わって鉄の硬度になったのだ。

 

「ウルッフ〜ッ! なんだ犬のくせに体当たりしかできねェのか? ――嵐脚(ランキャク) "孤狼(コロウ)"‼︎」

 

 CP.1の蹴りを後ろに跳んで回避しようとする。

 しかし、その脚から発生した衝撃波を食らってしまう。その衝撃波も地を這うように回転しながら迫る異様な動きだった。

 

「その自慢の牙が使えねェのも"勇者の野菜"を喰った弊害ってことだよなァ」

 

 CP.1の言うとおり(ペロ)の牙は鋭い。相手に噛み付いて攻撃するのは常套手段といえる。しかしそれは出来ない。なぜならペロは()()()()()()()()から。

 

「牙の抜けた憐れな飼い狗がよォォッ‼︎」

 

 CP.1が両手の手首を接触させてこちらへ向けてきた。そしてその状態から一直線に突撃する。

 

十指銃(ジュッシガン)ッッ!!!」

 

(避けられな――)

 

 先程の攻撃を受けて怯んだところに来たこの一撃を、ペロは回避できずに追撃を覚悟する。

 

 ――だが。

 

「……なにッ⁉︎」

 

 その両手の攻撃を棗の両腕が防いだ。防いだ腕からは血が滴っている。

 

「ナツメ。さっきの子は?」

「彼女に任せた。……独りにさせていない」

 

 奥を見ると少女を抱きかかえていた棗のクラスメイトがいた。棗が抱えていたままではCP.1の餌食だったので彼女が来てくれて助かった。

 

「こ……古波蔵様のためにできることは……この程度、ですので」

「来てくれて助かった。それと……」

 

 片方の手で少女の頭をひたすら撫で続けている。

 その様子を棗は微笑ましく思うのと同時に、クラスメイトの自分に対する呼び名に困り眉毛になる。

 

「"様"はいいと前にも言ったぞ」

「い、いえ……。私たちのために戦ってくださる方を、たとえ同い年だろうと馴れ馴れしく話すなど不敬です」

「……。前にも聞いた、な」

 

 棗はそう呟いて彼女に完全に背を向けた。口角は少しだけ上がってはいたが眉は下がったまま、その背中から寂しさが漂っていた。

 

「ペロ、ありがとう。ここからは私がやろう」

「いいや、一緒でだ。やるぞナツメ」

「ああ。……わかった」

 

 棗とペロはお互いに少し離れてCP.1と相対する。そして同時に走り出してCP.1の周りを回り続ける。

 CP.1は首を左右に振って動き続ける棗とペロを追い続ける。

 

「撹乱つもりかァ? ――"嵐脚(ランキャク)"ッッ‼︎」

 

 CP.1が足を振りかぶるとそこから三日月型の衝撃波が放たれた。

 しかしそれはどちらにも当たらずに壁に衝突して切り込みが入った。

 棗はCP.1が攻撃を繰り出した瞬間を狙って背後から蹴り付ける。

 

「ぐおッ⁉︎ てんめ――ぅごあ⁉︎」

 

 蹴られた後に背後を振り返ると、その瞬間にペロの突進が背中を襲う。

 棗とペロによる連携攻撃に翻弄されていく。棗に攻撃を試みればその隙をペロが狙い、ペロを返り討ちにしようとすれば即座に棗からの邪魔が入る。

 

「こうなりゃァ……"鉄塊(テッカイ)"だッ‼︎」

 

 業を煮やしたCP.1は身体中に力を入れた。

 そこへ棗の蹴りが入る。

 

「……ッ⁉︎ 硬、い……っ」

「さっきと同じか……⁉︎」

"狼弾"(オオカミハジキ)ッッ!!!」

 

 蹴った棗の方がダメージが大きかった。CP.1が大きく身体を仰け反らせるとその反動で棗の身体が後方へ吹っ飛ばされた。

 一種のカウンターのようなものである。

 

鉄塊拳法(テッカイケンポウ)――"狼牙(ろうが)の構え"!」

 

 両足をつま先立ちにし、両手指の関節を曲げた変わったファイティングポーズをとる。

 そして飛び掛かるように一気に棗に距離を詰める。

 

「オラァッ‼︎ オラ‼︎ オラァッ‼︎」

 

 両手で交互に殴りかかる。棗も防御体勢のままじりじりと後ろへ退がっていく。

 

「離れろ‼︎」

 

 背中にペロが飛び掛かる。しかしCP.1は大きく振りかぶった拳の一撃を棗に食らわせたあと、もう片方の手でペロの首根っこを鷲掴みにした。

 

「離れんのはてめェだ……狼牙(ロウガ)ッッ‼︎」

 

 右足から放たれる強烈な蹴りがペロの腹部に吸い込まれた。

 ペロはその痛みに吐血し、壁まで飛ばされて激突した。

 

「……かッ、は……」

 

 動かなくなったペロを見て勝利の笑みを浮かべて振り返る。棗が立っていることが分かったからだ。

 

「最後に……礼を言わなきゃァな」

 

 棗の目には怒りの炎が宿っていた。だがそれすらも滑稽に嘲笑う。

 

「今までバーテックスから沖縄の奴らを守ってくれてありがと、よ。おかげでおれたちァここまで鍛えることが出来たんだぜ?」

 

 礼を口にしてはいるが、視線は棗でもペロでもなく別の場所を向いていた。気持ちの欠片も感じさせない、完全に舐めきった態度だ。

 

「もう勇者なんざ必要ねェ。これからは大人が世界を守っていくからよォ。……だから――安心して死ねェェェェェェェェェェ!!!」

 

 右手を大きく広げて、棗の顔を握り潰そうと走り出した。

 

「――琉球空手(りゅうきゅうからて)・"矢武鮫(やぶさめ)"」

 

 向かってくるCP.1に対抗して、棗は手のひらからスーパーボールぐらいの大きさの水球を五つ出現させた。そしてそれを相手に投げ付けた。

 

「……ちっ。こんな水滴なんぞ……‼︎」

 

 両手で振り払うようにガードした。ダメージを受けているようには見えない。

 ただ、向かってくるスピードが落ちただけ。

 

「――槍波(やりなみ)

「いってェェ!!?」

 

 すると今度は細長い水の槍を出現させて放った。その槍は一直線にCP.1の右太ももを穿つ。

 

 CP.1は前のめりで倒れて呻く。

 

「怒りで力が増す、というのは本当なんだな。今回は……特に怒ったぞ、私は」

「こっちは鉄塊(テッカイ)使ってんだぞッ⁉︎ それがなんだって……」

琉球空手(りゅうきゅうからて)"鮫肌掌底"(さめはだしょうてい)っ!」

 

 棗の方から近付いていき、一気に間合いに入る。そして手のひらでCP.1の顎を捉え、打ち上げて脳に衝撃を走らせた。

 

「くっ……うごぉ……」

「不可思議な能力で身体の外側を硬化させようとも、内側は脆い」

 

 軽い脳震盪により足取りはふらつき、視界を黒い砂嵐に覆われる。

 

「これで終わりだ。琉球空手(りゅうきゅうからて)――」

「ちょ、ちょっと待てッ……くださいっ……‼︎」

 

 右の拳に力を集約させていた棗に両手のひらを向けて静止を促す。

 

「わ、悪かった……! お前らの強さを甘く見ていた! それだけの力があれば()()()()を任せられる!」

「役目……?」

 

 CP.1は情けない声をあげて命乞いをする。そして懐から金色の鍵を取り出して床に置いた。

 

「こ……これは、天竜人の部屋に入れるマスターキーだ。その部屋にはまだ何人も奴隷共がいるんだ! 奴らを解放してほしい!」

「…………」

「その中には……おれの妹もいる! おれァ今まで潜入してチャンスを狙っていたが、今なら……お前らなら信頼できる! 頼む‼︎ 妹を助けてくれッッ!!!!」

 

 棗はその話を黙って聞いていたが、CP.1の頭を下げるその姿勢に、無表情のままだが僅かに頷いた。

 

「そうか……。わかった」

 

 棗は了承して床に置かれた鍵に手を伸ばす。

 

 ――そしてその隙を……決して見逃さない。

 

「…………なワケねぇだ――」

狼牙(ろうが)。……か?」

 

 下を向いた棗に殴り掛かろうとしたが、その拳を片手で受け止められた。CP.1の思考は停止し、それに伴い身体も動かせない。

 

「……え?」

粗鮫(ソシャーク)

 

 手に力を入れて掴んでいた拳を強く握りしめた。CP.1の拳は骨の軋む音を立てて変形する。

 

「い……ッッてええ!?」

「私は怒っているぞ」

「まっ……ホントにま――」

 

 痛みと恐怖によりCP.1は離れようと試みる。しかし、棗が掴んだ手を離さない。さらに力を入れられている。

 

 そのとき、いつのまにか背後に迫っていたペロが両手に力を込めて背中へ渾身の一撃を放つ――。

 

黒蹄(こくてい)――"仏桑花(ハイビスカス)"ーーッッ!!!」

「どぅへぇ、あァ……⁉︎」

 

 "鉄塊"により防御力を高めていようとペロの本気の一撃の前にCP.1は呆気なく沈んだ。

 

「身体を硬化しているのなら……本気の一撃で砕くだけだ」

 

 鉄塊を使用していたことが逆に仇となってしまった。身体を鉄のように硬くしたが故に棗やペロも本気で攻撃することができたのだ。本気の攻撃の前ではその鉄の身体も容易に突破される。

 

「獣の膂力を甘く見るな。天竜人の"走狗"が……!」

 

 ペロは微動だにしなくなったCP.1相手にそう捨て台詞を吐いた――。

 




・CP.1:中国風な髪の長い男。おそらくボディガードの中では一、二位を争うほどの実力者。身体を鉄の硬度まで高められる不思議な能力を扱い戦う。これでも人間です。もし、"勇者の野菜"の能力者だったとしたら、棗もペロも結構危なかったと予想される。ちなみにオオカミが大好き。一番好きなオオカミはエゾオオカミ。


次回 山風吹く四刀流
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