白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿じゃ。よろしく頼むのう。


前回のあらすじじゃ
棗とペロは奴隷を解放していく。しかしそこへCP.1が現れ戦闘を開始する。CP.1の狡猾さや独特の拳法に多少は苦戦するが、本気になった棗とペロの力で撃破することに成功したのであった。


第百十一話 山風吹く四刀流

 ペロは自身の姿を人獣型から獣型へ戻して四足で壁際まで歩いていく。しかし、その足取りは重く、すぐに棗がその身体を抱え上げた。

 

「少し……疲れた、な」

「ペロ。血が……」

「ナツメの腕も……そうだろう」

 

 お互い、負傷した場所が疼く。棗は両腕が。ペロは身体中が。

 棗は壁際までペロを運ぶと壁に背を預けられるようにペロを下ろした。

 

「ああ……これでいい。ナツメ……ゆガラは、進め……っ。彼女たちの元へ」

 

 頷いた棗は背を向けて小走りで駆けていく。CP.1と戦ってすぐは苦しいだろうが歌野たちの加勢のため今は急ぐ。

 

「……。う、は……ぁ」

 

 棗の背中を見届けながら、ペロは口元から垂れてきた血を前脚で拭う。そして天竜人に撃たれた箇所と、CP.1に蹴られた箇所へ順に手を添えてゆっくりと目を閉じる。

 

「今日……か……明日で……限界だな。……はっ、俺も歳には……勝てない、か……」

 

 自分の終わりをある程度は自覚していた。今日の出来事で予想以上に早まってしまったかもしれないが。

 

(ナツメ……)

 

 薄れゆく意識の中で、ペロは声としては外へ出さず……ただ、棗の名前を空に唱えた――。

 

 

 

 

 

 

 ――オークション会場内にて、歌野はベルトを大きく振りかぶってCP.5へ攻撃を仕掛ける。

 それを不敵な笑みを浮かべたまま避け続け、場合によっては両手に持っている()()()()で軽々と捌いていた。

 CP.5の顔は帽子を深く被っているので、表情は見えづらくはあるのだが、涼しい顔をしていることは彼の立ち回りで想像できる。

 CP.5の持ち味は機動力だ。決して物凄く速いわけではないが、右に左に、そしてしゃがんだり跳ね上がったりと立体的で惑わせてくる。

 緩急の激しいそのスピードに、攻撃のタイミングが合わない。

 

「しっかし変わり者じゃのう。余所者じゃろう? お前は」

 

 避ける最中、CP.5が歌野へ話しかけてきた。

 

「なぜ天竜人に手をあげてまで沖縄(ここ)に執着するんじゃ?」

「フールなクエスチョンね!」

 

 握る手を左右に小刻みに動かし、蛇行するようにベルトを横方向に波打たせた。

 

「誰かを助けるのに、ご立派なリーズンが必要かしらッ!!?」

 

 CP.5はその攻撃を、後ろに軽く跳んで距離を空けた後に素早く上方向に跳んで回避した。

 

「ははっ! いらんのう! それ自体が何より立派じゃ!!!」

 

 歌野の心意気を受けて、敵と戦っているはずのCP.5の心は嬉しさで躍動する。

 

(……気持ちのいい奴じゃ。敵であることが惜しい)

 

 着地した瞬間の足を狙うため、歌野は地面すれすれの高さまで腕を落として攻撃した。

 

(ソル)ッ‼︎」

 

 先端が足に直撃するよりCP.5の行動の方が早かった。

 CP.5は歌野の視界から姿を消した後、瞬く間に目の前に現れた。

 彼の両手に持っているノコギリの刃が歌野に届く距離まで接近し、躊躇うことなく横一文字に払う。

 

「あ……っぶない……⁉︎」

 

 右にも左にも避けられないことを瞬時に予感して、両膝を曲げて体勢を低くする。刃は鼻の上を通過してギリギリ回避出来た。

 避けながらも右手を手前に引っ張り込んでベルトを引き戻す。歌野のところへ戻るのに1秒かからないだろうが、その僅かな間もCP.5は待ってくれない。

 手首を90度回転させて刃の地面と垂直になる向きに変えた。そして低くしている歌野へ振り下ろす。

 

「――ッん!!?」

 

 それを見た歌野は、頭を地面すれすれまで低くして反対に、右足を大きく振り上げた。

 その右足はCP.5の左手に当たり、体勢が右へ傾いた。

 

「サマーソルトキックじゃと……⁉︎」

 

 全体が右へ傾いたことで刃は歌野には当たらなかった。

 そして歌野は蹴りの勢いで空中で一回転して地面に両足を着地させて体勢を立て直すことに成功する。

 

「機敏に動くのう。わしの二つのノコギリによる攻撃もなんなく対処とは……」

「二刀流の人を見るのはファーストタイムじゃないわッ!」

 

 芽吹と夏凛が頭に浮かぶ。あの二人の戦いに比べれば、CP.5の二刀流などそれほどの脅威はない。充分に捌ける。

 

 それを聞いたCP.5は口角を僅かに上げると、また歌野の前から姿を消した。

 

(ソル)っ‼︎」

 

 間合いに入り、振るわれる二本のノコギリを歌野は腕を斜め右、斜め左と動かすことでベルトを操り攻撃を弾き防ぐ。

 

「もらったわ‼︎」

「――っお⁉︎」

 

 歌野の操るベルトがCP.5の左手をはたく。持っていたノコギリは落とさなかったが、はたかれた衝撃で片方の腕にノコギリが当たり、少しだけ腕に切り傷が入った。

 さらに歌野は、CP.5の両手首をベルトで巻き付ける。

 手錠のように右手と左手の自由を奪われたことでノコギリを振るうことが出来ない。

 

「これで、フィニッ――」

嵐脚(ランキャク)ッ‼︎」

 

 勝ちを確信して踏み込んで蹴ろうとする歌野。しかし、CP.5はその場で軽く跳ぶと、右足と左足を順番に振り上げてきた。

 両足から放たれた切れ味のある鎌風が、歌野の両肩を斬りつけた。

 

「う……。く……ぅ」

「二刀流と言ったか? 悪いが……四刀」

 

 両肩の傷に怯んでいる歌野の隙に両手を縛っているベルトの拘束を解いた。

 

「わしはこの両手のノコギリと両足から放つ嵐脚の計四本の"太刀"で相手を仕留める」

「足に自信があるのね……っ」

 

 肩から流れる血を気にしながら歌野は歯を食いしばり痛みに耐える。

 

「幼い頃は野山を風の如く駆け抜けて遊んだもんじゃ。そしてその鍛えられた脚力から放たれる風圧は……カマイタチのそれじゃ」

 

 いくら足が速くともその足から発生する風圧で人を襲うことなど普通は考えられない。

 しかし今、それが現実となって歌野を襲っている。この痛みが何よりの証拠。

 

「バーテックス襲撃前は沖縄漁船の船大工の手伝いもしとった。今じゃあ懐かしい思い出じゃな」

 

 CP.5は視線を天井に向けて過去を振り返る。

 消えたように動けるのも、斬り裂くような風圧も、"勇者の野菜"の能力ではない。すべて鍛えられた人間が身に付けた技だ。

 

「まだまだいくぞ」

 

 嵐脚と呼ばれるものを歌野に見せてからは、惜しみなく使っていく。

 

嵐脚(ランキャク)‼︎」

「くッ‼︎」

(ソル)!」

 

 ノコギリを振るう。歌野がバックステップで距離を空けると蹴りの衝撃波が飛んでくる。

 

嵐脚(ランキャク)‼︎」

 

 ノコギリ二本よりも手数が多く、回避や捌くだけでやっとだ。座席に身を隠したり離れたりして回避し続ける。

 CP.5の猛攻は止まらない。

 

「はっは! さっきと真逆じゃのう!」

 

 今度は歌野が敵の攻撃から逃げ続けることしかできない状態だ。

 

嵐脚(ランキャク)‼︎」

 

 遮蔽物として使っていた座席はいとも簡単に破壊されていく。徐々に歌野とCP.5の周りが平らになっていく。

 

「視界が広がってきたのう! ――(ソル)!」

 

 距離を詰められる。ノコギリによる近距離攻撃。少し離れると嵐脚による中距離攻撃。この二つを何度も繰り返して歌野を苦しめる。

 

嵐脚(ランキャク)手裏剣(シュリケン)‼︎」

 

 両足から交互に名のとおり手裏剣のような形状の斬撃を乱射する。

 これまでのサイズで見れば小さいが、それゆえ小回りは効くようで、回転しながら座席と座席の間をすり抜ける。

 

「ウッ⁉︎」

 

 手裏剣の軌道がブーメランのようにカーブして、いくつかが歌野の上腕部や肩甲骨あたりを掠った。

 

嵐脚(ランキャク)(セン)ッッ‼︎」

 

 今度は一直線に突き進む嵐脚を放つ。

 歌野は真横に大きく跳んで回避し、前転しながら受け身を取る。

 

嵐脚(ランキャク)! ――(ソル)‼︎」

 

 CP.5は離れた歌野との間を一気に縮める。しかも事前に放った嵐脚よりも速くである。

 歌野へ二本のノコギリを振るう。歌野はその攻撃を回避する……が、避けた方向に嵐脚の刃が向かってきていた。

 

「うッッあ!!?」

 

 自分の攻撃にわざと逃げ道を用意していた。今度は避けきれずに右腕を斬られてしまう。

 そして追い討ちと言わんばかりに左足で歌野に蹴り上げる。歌野の上半身が蹴りにより仰け反った。その開いた横腹にノコギリの刃を当てて一気に引く。ギザギザの刃が歌野の横腹を削った。

 

「んん"〜〜〜ッ!!!?」

 

 歯を食いしばり痛みに耐える。だが相手は間髪入れず接近してくる。

 歌野はカウンターとしてベルトを持った手を素早く後ろへ引いて前へ突き出す。

 

「ムチムチの〜〜(ピストル)〜〜〜!!!」

「――(ソル)‼︎」

 

 CP.5はすぐさま回避に応じ、一瞬で歌野から離れた。

 

「うおっ……と。僅かに当たっていたようじゃ」

 

 右腕が痛む。まともに攻撃をもらったわけではないが、やはり一般人でしかないCP.5にとっては、かすり傷でも戦闘に支障が出る。

 

(さっきもらった左手も……まだ痛いしのう)

 

「ん〜〜! 当たらないっていうのはもどかしいわっ‼︎」

「ちょこまかと動く相手は苦手かのう?」

「ええ! ……でも、もう慣れた!」

 

 吹っ切れたかのように歌野の表情が変わった。

 何かを狙っている目だ。

 

「ほお……。なら、何が変わったか……楽しみじゃっ‼︎」

 

 CP.5は歌野の挑発とも取れる言葉に不敵に笑う。そして歌野へ走り出す。

 両手のノコギリを交互に歌野へ振り下していく。

 それを歌野は半身を右へ左へと傾けながら後退して避けていく。

 ノコギリを振るうCP.5の速度が下がった瞬間に、歌野はバックステップで距離を空けた。

 

「逃げられんわい! 嵐脚(ランキャク)‼︎」

「きた‼︎ この……っ! タイミングッ‼︎」

 

 距離が空いたことでCP.5は嵐脚を放った。これまでと戦法は同じだ。

 

 ――そしてそれを、歌野は待っていた。

 

 歌野は右手に持っていたベルトを斜め左の方向に伸ばした。また、自身は伸ばしたベルトと逆方向である斜め右へ走り出す。

 

「……ッブッッ!!!?」

 

 CP.5の放った嵐脚は、伸びているベルトの中間部分に命中する。すると、命中した部分がくの字に曲がり、先端が急に軌道を変えてCP.5の顔を捉えた。

 

「狙っとったのは……これ、か……っ」

 

 顔に当たった衝撃で目を瞑り仰け反る。その隙を歌野は逃さず接近して左の拳を胴体へ一発。左膝でもう一発。

 そしてCP.5の顔に当てたベルトを首に巻き付けて逃がさないように締め付けた。

 

「ムチムチの〜〜」

「ぐ……っ、首……が……ッ」

 

 ベルトを掴んだ手を引っ張り込んでCP.5をこちらへ無理矢理引き寄せる。そしてその腹部の中央を、今度は右足で蹴り飛ばした。

 

「スタンプ〜〜〜!!!」

「――ぐッッほ……ぉ」

 

 蹴られた身体は歌野から離れる……が、歌野はまた引っ張り込んで引き寄せる。

 一度逃すと次はないと考えてのことだろう。CP.5が倒れるまで首に巻きついているこのベルトを解く気はない。

 

「ムチムチの〜〜〜」

「なら……真っ向勝負じゃ!!!」

 

 逃げられないのなら真正面から立ち向かうまで。

 CP.5は引き寄せられた勢いを利用して歌野への反撃を試みる。

 歌野の額が迫ってくるのを、自分の()()迎え撃つ。

 

「――(カネ)ッッ!!!」

「――鼻銃(ビガン)ッ!!!」

 

 歌野の額とCP.5の鼻。双方がぶつかり、その衝撃が突風となり辺りに吹く。

 

 至近距離で睨み合ったまま、二人は10秒ほど静止する。

 

「…………。は、はははっ!」

 

 CP.5は乾いた笑い声をあげる。自分の鼻が歌野に負けて折れ曲がってしまっていた。

 

「……ほんとうに、折られるとはのう…………」

 

 ゆっくりと歌野から後退りで離れていき、背中から床へと落ちる。

 

「まいった……!」

 

 CP.5は笑って目を閉じた。

 

 歌野は呼吸を荒くしてその様を見下ろしていた。すると、赤い雫がポタポタと床へ滴っていくのが分かった。

 

「血が……止まらない」

 

 左手で額を押さえて止血しようとするが、止まる気配はない。

 頭部の出血は予想以上に多かった。CP.5の攻撃とまともにかち合ったのだから当然といえば当然のことか。

 おそらく常人や、他の勇者では撃たれたように眉間にぽっかりと穴が空いてしまったかもしれない。

 かくいう歌野も、重症と呼ぶべき状態なのだが。

 

「あらら? 切れ目が……」

 

 ベルトに切り込みが入っていた。カウンターを狙って嵐脚を受けた時だろうか。それとも今までの戦いの中で徐々に耐久性が落ちていたのか。

 

「この武器も、もうお別れかしらね」

 

 思えばイーストジャパンで"乙女座"と戦ったときからずっと共にしてきた武器だ。それ相応に愛着も湧いているので、寂しい気持ちもあった。

 しかし代わりとなる武器はすぐには用意出来ないので、この付き合いはまだ続きそうだ。

 

「歌野……ッ!」

 

 ちょうどそこへ雪花が駆け寄ってきた。

 

「雪花。そっちは?」

「倒した。手足縛っといたから目が覚めたとしても大丈夫だよん」

「無事で何よりだわっ」

「それより歌野! 血がすごいんだけど!」

「止まらないだけでノープロブレムよ」

「いや……問題大アリじゃん」

 

 雪花が心配しているのよそに、会場内を見渡す。

 同じ会場内で戦っていたが、戦いに集中していて周りの状況は分からなかった。

 それだけ目の前の敵が予想以上に手強かったということだ。

 

「友奈も終わったのかしら?」

「あ、そういえば見てないね。……どこだろ」

 

 雪花も辺りを見渡す。友奈ともう一人の女性のボディガードはいない。CP.2と呼ばれていた女性と戦う場所を変えたのだろうか。

 

「ん……? なにかしら、あれ」

 

 歌野はステージ斜め下を指差す。

 壁際に何やら白いオブジェが存在していた。

 

「あんなの最初からあったっけ?」

 

 わたあめのようなモクモクとした物体。雲のようにも見える。

 そして、その中から負傷した友奈が現れ、数歩歩いて倒れた。

 

「友奈……っ⁉︎」

「ウソでしょ!!?」

 

 歌野と雪花は走って友奈の元へ寄る。

 友奈の身体はボロボロになのだが光を反射してなぜか()()()()()()

 

「う……う……うぅ」

 

 意識は朦朧としている。体に触れるとなぜかツルツルとして摩擦が少なく、友奈自体のシルエットも凹凸がない異様な姿と化していた。

 

「あら……お次はあなたたち?」

 

 二人は顔を上げる。

 そこには、白い物体から出てきたCP.2が片手だけにつけているゴム手袋を整えながらこちらを見て嗤っていた――。

 




・CP.5:角ばった長鼻が特徴の男。帽子を深く被り目元が見えにくくはあるが、実はパッチリおめめの可愛らしい顔だったりする。コードネームは入った順番で付けられるので実は彼が一番若い。そしてボディガード内でトップクラスの実力者。鉄塊をものにしていれば歌野も今以上に苦戦させられたでしょう。ちなみに好きな動物はキリンじゃ。キリンジャーじゃのうてキリンじゃ。


次回 優しさ、甘さ、それが弱さ
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