白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

114 / 114
拙稿ですがよろしくお願いします。サウスジャパン編も終わりが近付いてきました。……近付いてきただけです。



前回のあらすじ
CP.5の嵐脚と剃に苦戦した歌野。無視出来ない怪我を負いながらも戦いを制することはできた。終わった後、雪花と共に友奈を探す。しかし友奈は、CP.2に敗北していたのだった。


第百十二話 優しさ、甘さ、それが弱さ

 CP.2は歌野と雪花から目を離して後ろを振り返る。そして自分が出てきた白いオブジェに向かって息を吹きかける。すると、オブジェの一部が欠けて大小数個のシャボン玉がフワフワと宙を漂った。

 

「……友奈」

 

 友奈の身に何が起こったのかは分からない。もしかするとこれは"勇者の野菜"の能力なのかもしれない。もしくは、パシフィスタのような大社の技術の恩恵を受けたか。

 

「考えてなかった……。友奈がやられるなんて」

 

 雪花は自分で言いながらひとつの疑問が浮かび上がった。いくら敵が何らかの新技術のようなものを使用したとしても、それで友奈が手も足も出ずに負けてしまうだろうか。

 CP.2に外傷は見当たらない。完全に友奈の攻撃を封殺したということか。

 

 ……いや、あるいは。

 

「ねぇ友奈」

 

 雪花は友奈に問いかける。動けないが意識はあるので多少の問答はできる。

 

()()()()()()()? 能力者じゃない一般人だからって手を抜いたんじゃないの?」

 

 少々厳しい口調で聞いてしまった。

 

「……せっちゃん……ウタちゃん……ゴメン……」

 

 友奈はひと言だけそう呟いた。そのひと言だけで友奈とCP.2の戦いの大筋を二人は察する。

 雪花の予想は当たっているのだ。

 

「謝ってほしいわけじゃないよ。でもさ……」

「勇者として恥ずべき戦いよ。まったくもって――」

「あなたには聞いてないよ」

 

 眼鏡のフレームを整えながらCP.2は口を開く。

 しかし、雪花は彼女の方を向かないままその言葉を遮った。

 

(なっ……⁉︎ 無礼者……‼︎)

 

 即座に拒否されたことに驚きと怒りが同時に湧き上がる。

 歌野は何も言わず、友奈を抱え上げてCP.2から離れた場所まで移動させていった。

 

 

 

 

 

 ――二人が戦っていた時まで遡る。

 

 友奈はCP.2の攻撃から身を守り続けた。守りに徹することで決して自分で攻撃はしなかったのだ。

 

「どうしたの、小さな勇者さん。守ってばかりでは勝てないわよ」

「く……っ。ふっ……!」

 

 CP.2のローキックを自身の足でガードする。頭を狙いにきたその蹴りも腕でガードする。

 

 守る。

 弾く。

 避ける。

 防ぐ。

 

 しかし、友奈は攻撃しようとしなかった。いや、正確にはCP.2に命中する手前で攻撃を中断してしまう。

 

「……。どういうつもり?」

 

 その様子に疑問を抱かずにはいられない。

 

「今……ッ! 攻撃が入りましたっ……! 私の勝ちです……!」

 

 CP.2の左足の蹴りを友奈も左足の裏で小突くことで軌道を変えた。そして出来た相手の隙を狙い、横腹に右足を入れた。

 しかし、当たる直前で静止する。

 

「馬鹿にしてるのね……」

 

 止まっている友奈の腹部へ今度はCP.2の蹴りが明確に入る。

 

……ッ!!?」

「……入ったって言うのは……こういうことをいうんじゃなくて?」

 

 蹴られたお腹を押さえて、倒れずなんとか持ち堪える。

 CP.2は左足を強く踏み込んで向かってくる。そして右足で友奈の頭目掛けて蹴りを放った。

 対する友奈は、両膝を曲げて低い体勢を取った。頭上をCP.2の足が通過する。

 次に片足で立っているCP.2に突っ込んで体当たりした。

 

「なん……っ⁉︎」

 

 バランスを崩して背中から倒れる。

 見上げると友奈の足が迫ってくるのが見えた。

 

「勇者キック〜〜‼︎」

 

 この攻撃は避けられない。

 そう考えていたCP.2だったが、自分の顔の数センチ右の場所に友奈の蹴りが来た。

 つまり、攻撃は当たらなかったのだ。

 

「…………」

「ハァ……ハァ……。今、この攻撃が当たっていたとしたら……」

「無礼者……」

 

 左足を上げて友奈の腰あたりを蹴り飛ばした。友奈は吹っ飛ぶ。

 

「うッ……⁉︎」

「勇者のくせに……意気地が無いのね」

 

 立ち上がって眼鏡を整えたあと、服についた埃を払う。

 

「あなたには戦う意志がまるで感じられない。何のためにここに来たの?」

 

 人を人とも思わないこのオークション。天竜人の奴隷だったという少女を最たる例として、友奈に沸き立った悲しみと怒りは本物だ。

 

「憎いでしょ? 勇者(あなた)の力があれば、簡単にその気持ちを晴らすことが出来るわよ?」

「……そ、それは……」

 

 勇者の身体能力が常人を遥かに超えているのはCP.2も知っている。その力があれば相手が訓練を受けた大人であろうと容易く制圧できる。訓練を受けていない一般の大人ならば赤子の手をひねるがごとく。

 しかしそれこそが、友奈が攻撃出来ない理由だった。

 

 

『――友奈、お前は恐れているんだろう?」

 

 頭の中で以前、烏丸久美子に言われたことが蘇ってきた。

 

『――自分の拳で、蹴りで……もし人を死なせてしまったら……とな』

 

 

 鍛錬の一環ではあったが、久美子相手にまともに拳や蹴りを繰り出せなかった。一人で行うだけなら、バーテックスとの実践ならば何の問題もない。

 しかし、どうしても対人戦に後ろ向きだった。人を殺めてしまうかもしれないという恐怖に、どうしたって足がすくんでしまう。

 伊予島杏や獣との戦いでは、気持ちが勝っていたのに……。

 

 一度、"勇者の野菜"の能力を暴走させてしまってからは、精神的にまいってしまいバーテックス相手でも暫くは戦うことが出来なかった。

 

 そして今、"普通の大人"と命のやり取りをしている。

 相手は友奈を殺すことに躊躇いはないだろう。

 

 だが、友奈は…………。

 

()()()大人だなんて……()()()女だなんて思わなくて結構。そんな甘い世界を生きてはいないわ。()()()()と共にいたのよ? "女"なんて綺麗なもの……とっくの昔に捨てたわ」

「え……」

 

 あろうことか、CP.2は天竜人のことをそう呼んだ。この会場内から運び出されたので本人たちはいないが、もし聞かれていれば制裁を食らっただろう。

 

「それに奴隷になった子たち……。はじめはあなたと同じくらい陽気でとても活発な少女だったわ。それが数日でああなるなんてね」

 

 友奈はその少女が誰のことを指すのかすぐに分かった。

 その少女の姿を、つい先程見てしまったから。

 

「初日からぜ――」

「……ッッ!!!」

 

 友奈はすぐに両手で両耳を覆った。CP.2が話そうとする少女のことを聞いてはならないと、反射的に身体が動いた。

 

 その次の瞬間、CP.2が走り出してガラ空きになった腹部を蹴り飛ばした。

 

「――ぐ……がっ……はぁ……ッ!」

「戦いの最中に、自分で自分の両手と耳を封じるなんてとんだおバカさんね」

 

 お腹を押さえてうずくまる。

 CP.2は近付きながらポケットに入れていたゴム手袋を取り出して右手に付けた。

 

「もう終わりにしましょうか。あなたの失礼極まりない態度とこの戦いにね」

 

 ゴム手袋を付けた手をもう片方の手で擦っていく。すると、手から泡が発生した。

 それはCP.2の両手から溢れ出して床に落ちる。留まることを知らない大量の泡だ。

 

「それ……は……」

「最後に教えてあげましょうか。……反撃しなきゃ、あなたは終わりよ」

 

 泡を纏った両手で友奈に接近する。そして膝をついている状態の友奈の身体中に両手を這わせて泡を付着させていく。

 

「つやつやのお肌にしてあげるわ。体の隅から隅までね。――ゴールデン・(アワー)!」

 

 手の指先、足のつま先。胸や腹、太ももを泡を纏った手で触られていく。そして触れられた部位から順に力が抜けていく。

 友奈の身体はみるみるうちに凹凸の無くなった状態へと変化していく。

 

「逃げ場はもう無いわ。"石鹸羊"(ソープ・シープ)

 

 CP.2と友奈の二人を泡は飲み込んで大きく膨れ上がっていく。

 友奈はここからの脱出を試みようともがくが泡が邪魔をして動き辛い。

 

指銃(シガン)ッ!」

 

 この泡の中で自由に動くことが出来るのはCP.2だけ。

 彼女は泡に気を取られている友奈の背後から人差し指で突き刺す。

 

「……‼︎」

 

 友奈は声をあげず、痛みに負けぬよう歯を食いしばった。そして背後から攻撃を食らった勢いに押されて一歩二歩と前を歩いて泡の外へ抜け出ていく。

 

 そして泡を抜け出た先で、力尽きて倒れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ――雪花は歌野が友奈を運んでいくのを見送る。

 だが、CP.2が動き出す気配を察知して槍を構えて大きく薙ぎ払う。

 今、CP.2は友奈にとどめを刺すために動いた。いや、正確には抱えている歌野と共にだ。

 

「あら……良い反射ね。それともすぐ動けるように警戒してたのかしら?」

「目の前で油断しないでしょ……!」

「そうね。……でもあの子はそうじゃなかったわよ?」

 

 CP.2は視線を運ばれていく友奈と歌野に移した。

 歌野は雪花が防ぐことをあらかじめ分かっていたのか、特に反応を示さなかった。

 

「ほんとうに……ゴメ……ン……」

 

 腕の中の友奈は泣いていた。悔しさと惨めさで心が押し潰れそうなほど、自分の行いを恥じている。

 

「友奈っ。無理だと思ったら、いつか……助けを求めてくれると嬉しいわ!」

「ウタ……ちゃん……」

 

 友奈が自分ひとりで背負い込んでしまう性格なのは、歌野も雪花も分かっている。

 勇者は何かと自分を蔑ろにしがちな面が目立つが友奈は特に、だ。

 

「歌野の言うとおりだよんっ!」

 

 CP.2を押し飛ばす。

 以前、伊予島杏と戦った時は友奈は攻撃していたので、あくまでも一般人相手では躊躇ってしまうのだろう。

 一般人は傷付けたくない。その気持ちは別に否定はしない。だが、自分の身を疎かにすることはしてほしくない。

 

「もし、逃げることも……助けを求めることも……友奈の志す"勇者"に反するのなら、せめて()()()()()()()()

 

 身体はCP.2に向けたままの雪花が友奈へ告げた。

 能力を得たからではなく、"勇者"として立ち向かわなければならない時はあるだろう。だが、決して一人ではないのだ。

 自分だけで無理なら助けを求めて欲しい。そう雪花は願う。

 

「おねえさん。私は友奈みたいに優しくないよ」

「奇遇ね、私もよ。案外と気が合いそう。……眼鏡どうしだからかしら?」

 

 雪花は勢いをつけるために槍を一旦引いて、即座に押し出す。突き出された刺突攻撃をCP.2は右手の甲で滑るようにいなす。そして、左手の人差し指を雪花の胴体目掛けて突き出す。

 

指銃(シガン)ッ‼︎」

「くっ――」

 

 反射的に腰を捻って回避行動をとる。おかげで人差し指は脇下を通過した。

 突き出していた槍を戻すと同時にCP.2目掛けて大きく薙ぐ。

 それを()()()()()()()()()()()()()"泡の壁"でガードし、これもまた滑るようにして進行方向をずらした。

 

「見間違いじゃない。……そのゴム手袋が泡を生み出してる」

「うっふふ。気付いたようね」

「"勇者の野菜"の能力? でも大人でしょ? なら大社の開発した能力を使える道具?」

 

 姫路城にて友奈が戦ったという神官長。彼が持っていた剣は動物の象になれた。

 無機物に"勇者の野菜"を食べさせる大社の技術だ。それをCP.2も手に入れて使用している。

 

「一体、何の能力……っ? 何をして友奈をあそこまで……っ」

 

 そこまでは想像できるが、問題は何の能力を備えているか、だ。

 

「そんな不思議を解くのも、"能力者との戦い"の醍醐味じゃなくって?」

 

 CP.2の余裕の態度に多少イラつきながら、チラッと自分の槍を見た。

 先程CP.2の片手に触れた箇所が光に反射するほど綺麗になっていた。そして少し丸みを帯びてもいる。

 

「ま、予想はつくけどね。……さしずめ泡を作り操る。そして汚れや凹凸を無くす……『アワアワの野菜』の能力……かにゃぁ?」

「…………」

 

 CP.2の表情が固まり、こめかみから汗が流れていく。

 

「で……でもっ! 例えば能力が分かったとしてもっ、あなたに勝機があるわけではないわ‼︎ 無礼者ッ!」

 

 まんまと能力を当てられ、明らかに狼狽えていた。

 

(思ったより……天然。……あ! いや、油断すんな私)

 

 雪花は半ば呆れていたがすぐに我に返り槍を握りしめる。

 

「そう、ご明察! 私のこの右手のゴム手袋はあらゆる汚れを落とす『アワアワの野菜』の能力を得ているの! みんな私のことを"石鹸人間"と呼ぶわ。そして……あなたたちにとって相性の悪い能力」

「相性が悪い? なにが……」

「すぐに分かるわ」

 

 雪花から距離を置いてCP.2は右手を、友奈との戦いで作った巨大な泡の塊に突っ込む。

 

「――羊雲(ひつじぐも)"大 津 波"(タイダル・ウェイブ)!!!」

 

 突っ込んだ手を、勢いをつけて雪花の方へ向ける。すると、巨大な泡が広がり津波が如く押し寄せてきた。

 

「ちょっ……うわ!?」

 

 避けられず泡の波に雪花は呑まれる。流石に雪花の身体が浸かる程の量ではないが、頭から被り泡まみれだ。

 

「わーおッ!!?」

 

 後ろにいた歌野もまた、波に巻き込まれてしまう。

 その様を見てCP.2は不敵に笑っている。勝利を確信した笑みだ。

 

「あ……あれ……身体、が……⁉︎」

 

 雪花と歌野は自分の身体の異変に気付いた。頭から足まで起伏の無くなったピカピカの身体になってしまっていたのだ。

 

「うっふふ。……綺麗でしょ? 泡に触れた箇所は、あらゆる人も物も美しい光沢を得る。最高の美肌よ、羨ましいわ」

 

 CP.2は呑気なことを言っているが、技を食らった雪花、そして歌野は戦闘の続行に難色を示す。

 足の踏ん張りが効かない。歩くと滑って転んでしまいそうだ。そして極め付けは手。持っている武器が滑り、落としてしまう。

 拾おうと身を屈めると足が滑り、雪花は膝をついて四つん這いになってしまった。

 

「力が……入らない。……やば」

 

 武器を握ることも歩くのも難しい。友奈はこれにより戦闘不能にさせられたというわけだ。

 

(まんまと同じようにやられるなんて……っ)

 

「……とどめね。三人ともさようなら」

 

 前髪をかき上げたあと、CP.2が右手の人差し指をこちらに向けて構えた。そして走り出す。

 

 ――だがその時、ステージ脇から突如として現れた棗の蹴りがCP.2の右手を蹴り上げた。

 

「……⁉︎ 棗さんッ!!」

 

 棗は雪花と後ろの歌野、その更に後ろに倒れている友奈を見て、大体の状況は把握した。

 

「把握した。……すぐ終わらせる」

「あら、急に出てきて……。無礼者ね。――"石鹸羊"(ソープ・シープ)!」

 

 棗が来たということはCP.1は倒したのだと察する。

 CP.2は即座に両手を擦り合わせてゴム手袋から泡を生産させた。

 そしてそれは即座に、友奈ごと包み込んでいた先程の、巨大で羊に似た泡の塊を形成させた。

 

「何人来ようと関係ない!! 羊雲(ひつじぐも)・"リラックス(アワー)"!!!」

 

 その塊が右手に導かれるように棗へ襲いかかる。

 

「……っ。これは」

 

 棗が回避行動を取る前に、泡は左右に拡散して逃げ道を塞ぐ。そして挟み込むように棗の両手両足に纏わり付いた。

 泡は棗の予想以上に精密な動きをしてきた。CP.2が巧みに操作したのだ。

 棗の両手両足は力が入らず、その場にしゃがみ込んでしまう。

 

「泡か……」

「そうよ! 加勢に来たつもりが、結局は同じ轍を踏んだだけ」

 

 嘲笑するCP.2。しかし棗はそのクールさを一切崩さずに立ち上がり、彼女の方へ歩いていく。

 

「え……っ⁉︎ なんで動けるの……⁉︎」

 

 転ぶ様子はない。棗はただ普通に歩いている。CP.2と雪花は困惑している。

 

「――琉球空手(りゅうきゅうからて)

「あ……、なん――」

 

 退がろうとするが、その前に棗の拳から放たれる衝撃波が顔面を正確に、それでいて無慈悲に捉えた。

 

"唐草瓦正拳(からくさがわらせいけん)"っっ!

 




・CP.2:ボディガード唯一の女性。金髪のロングヘアでどこか色っぽい。『アワアワの野菜』を食べさせたゴム手袋を右手にはめて戦う。彼女が生成する泡は触れた対象を綺麗にさせ起伏を落とす。この能力と自身の身体能力を駆使して友奈を敗北させ、雪花と歌野を一瞬で無力化させた。おねえさんつよい。



次回 沖縄支部に眠る神典
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。