前回のあらすじ?
歌野「棗さんの能力って身体から水が出せるのねっ」
棗「これが『ウオウオの野菜』だ。魚とはこういう能力を持っている……!!」
歌野「そうなのねっ! クジラが潮を吹くみたいなものかしら?」
雪花「え……ツッコんだら負け?」
三枚の紙に書かれていた文章を読み終え、雪花はそれを聞いていた芽吹と水都を交互に見る。
「……どう思う? これ」
「ただのお伽噺かもしれないけど隠してたってことは意図があるようにも感じるわね……」
これは水で満たされたケースを割らなければ決して見ることができなかった。
神官や防人たちは
故に、この神典と呼ばれるものは恐らく今の今まで、誰にも見つからずにいたのだろう。
問題は"一体誰がここに隠したのか"ということだが、それを知る手掛かりはない。
それに三人はそのこと以上に神典の内容と四枚目の絵に思考が囚われている。
「その絵に描かれているのって……」
水都の言葉に続いて雪花も頷きながら口を開く。
「
芽吹は黙ったまま、そこに描かれている
「絵の右側は破れていて分からないね……」
「破れたのか、破いたのか」
その破れ方から誰かがわざと破いたように感じてならない。それは芽吹や雪花、そして水都も少しだけそう感じていた。
五人の少女の視線の先にある何かを。
「ここで考えても仕方無いわね。
「戻ろっか」
「うん」
そう言って三人は療養所へ戻るため、大社支部をあとにする。
その際、改めて支部内を確認したがやはり誰も見つけられなかった。
芽吹としては沖縄支部を任されているNo.8がいると思ったのだが、結局はそのNo.8も他の防人もおらず、支部は伽藍堂状態だった。
その静かさに、同等かそれ以上の不気味さを三人は感じながら歌野たちの元へ戻る。
――療養所にて。蓮華への輸血はひと段落ついて歌野は右腕、棗は左腕を止血してもらい、包帯を巻いていた。
新手の襲撃はなかったようで、赤嶺も周囲を警戒するだけに終わっていた。
「三人が帰ってきたよ!」
赤嶺の声で歌野は上半身を起こす。そしてベッドから降りた。
三人が戻って来て早速、神典の話を始める。本来の目的は沖縄支部の
「この話は本物?」
「私たちも似たようなことを思ったよ……」
真剣な目で最後まで読んで、蓮華は三人を見る。
変な話だが、読める人間が限られる
「お伽噺だって思うけど、あんな隠され方してたから本当なのかなって疑っちゃうよね」
雪花の言葉に芽吹も水都も頷く。
ある種、伝説やお伽噺などは事実に脚色を混ぜて伝えられるものだ。本当にあったわけではないが、我々への教訓のために何かに例えて創作された話が多い。
今回もそうではないかと考える。実際に起きた話ではないが、似た何かは起こっていたのではないか。それを暗示しているのではないか、と。
「ファンタジーなのかリアルな話なのか気になって仕方がない。ライツ? みーちゃん」
水都としてはこの神典は、ある程度は信憑性があるだろうと思っている。それもただの勘なのだが。
「う、うん……。そうだね。だから、考えるだけ考えてもいいかも」
歌野にとっては、神典はあくまでもお伽噺としてしか興味を持ってないが、水都たちが興味津々なのは目に見えて分かっている。
作り話だと捨ておけばそれまで。だが、知りたい情報の手掛かりになるかもしれない。
考えるだけの価値はあるだろうと神典の解読を試みた。
「ま、私たちに無関係ってわけじゃなさそうだし。……ほら見てよ。第二世界のところ。『森の神』ってあるでしょ。これ、神樹様のことじゃない?」
雪花がその部分を指で差した。"森の神"で連想するのはやはり神樹だろう。
「確かに。神樹様は土地神の集合体だから……第一世界の『地の神』というのは神樹様を形成する前の土着の神々であることが言えるかもしれないわね」
「じゃあ……神樹様と、戦っているみたいに書かれているこの『太陽の神』が……バーテックス……?」
「太陽〜? あれが〜?」
「確かに全然似てない。丸くないものね。……この作者は何を見て『太陽の神』と名付けたのかしら」
「強いて言うなら……獅子座?」
"神"と書かれた部分に自然と目が集まりそれぞれ考える。第一世界では、太陽の神が現れ、それにより地の神が怒り、"業炎の蛇"と共に世界を死と闇で包んだとある。蛇のことは分からないが、神典の通りなら、神樹とバーテックスの間で戦いが起こり、その結果自分たちの住む世界が余波を受けて荒らされた。
「森の神を神樹様と仮定すると……魔を遣わせたというのは"勇者の野菜"……ということかしらね」
確かに"勇者の野菜"の能力が魔法のような力なのは間違いない。通常では到底信じられない不可思議な現象がその"野菜"により数多く起こっている。
「つまり第一世界で、
雪花がそうまとめてみんなに告げる。
それを聞いた蓮華はひとつ、胸の内に疑問が芽生えていた。
(引っかかるのは"太陽の神"が現れた原因。……この文では隷人……人間が願ったから来たと読めるわ。なら、バーテックスが来た理由は人間のせい……?)
"人は欲望に負け禁断の太陽に触れた"の部分からあまり良くない印象を受けた。
蓮華の頭に浮かんだのは『イカロスの翼』の話や『バベルの塔』の話だ。
人類が、負の方向へ増長した欲望や傲慢により神の天罰を受けるという話。こういった話は珍しくない。驕りや欲は禁物だという教訓だ。
バーテックスを"神"と呼ぶのなら、神は人類の悪しき増長を防ぐために攻めて来たということだろうか。
(そして初めて聞く言葉。"月の人"。"半月の人"。それらは一体何? もしくは……誰?)
今分かっていることはその程度のことだった。いや、神樹とバーテックスが戦っていたかもしれないというのが、分かっただけでも大きな収穫といえるだろう。
……そして四枚目の絵に全員の目は集中する。
「芽吹、雪花、水都……。あなたたちはこれをどう思っているのかしら?」
四枚目の絵を見た蓮華は三人をじっと見る。
その質問が何を意図して発せられたのかは、三人も分かっているのだが答えることができない。
「前の三枚と関係があるのか、ないのか。この五人の少女が誰なのか。
雪花たちが発見したときも非常に困惑していた。答えの出ない問いを延々と悩み続けていた。
その絵に登場している少女たちは五人。
『黒色の長い髪の少女』
『黄色の長い髪を首辺りで二つに分けている少女』
『黄色の短髪の少女』
『茶色の髪を頭頂部辺りで二つに分けている少女』
『桃色の長い髪をひとつに結った少女』
五人全員、白い装束に身を包んでおり、同じ方向を見ている。その視線の先は破れていて何が描かれていたのかは分からない。
だがそれを見ている蓮華たちは、その少女たちの姿が自分たちの知る者たちの姿と重なっていた。
「風と樹だ」
今まで黙っていたが、棗は黄色の髪の二人を見て口を開いた。
二人だけではない。この絵に描かれた五人のうち、四人が"七武勇"のメンバーと似ているのだ。
『東郷美森』と。
『犬吠埼風』と。
『犬吠埼樹』と。
『三好夏凛』と。
似ている、というひと言では済まされない。顔は描かれていないが、彼女たちを模して描かれたといっても過言ではないくらい姿がそっくりだ。
違うのは、描かれているのは五人だけということ。そして桃色の髪をした少女がいるということ。"七武勇"の中では結城友奈が近いだろうが、彼女の髪は赤色で桃色ではない。
「あら……? 友奈は……?」
「赤嶺さんは見張りだよ」
友奈繋がりで桃色の髪をしているのは赤嶺の方だ。そのことについて聞こうとしたが、周りに赤嶺はいなかった。
さっきまでいたような気がしたのは気のせいだったか……。
「まぁいいわ。間違いなく友奈ではないと思うから」
赤嶺と"七武勇"の関係性は一切見えない。この絵の少女も結城友奈と赤嶺友奈に似ている他人だろう。
そう仮定すると蓮華にひとつの仮説が浮かんだ。
「おそらくは"七武勇"の祖先……といったところかしら。そう考えると似ていることに説明がつくわ。この桃色の少女も結城友奈の祖先」
その仮説に他のメンバーも迷いながらではあるが頷き合った。
結城友奈たち"七武勇"は四国出身で、ほぼ全員は大社と関係がある家の出だからその祖先が昔の大社のような組織に属していたとしても不自然ではない気はする。
しかし、納得がいかないのも事実である。故に発言した蓮華も含めて全員の反応はいまいちだった。
それは乃木園子や三ノ輪銀がいないこと。そもそも描かれているのが"四勇"ではないのはなぜだ、という疑問もあったからだ。
「……なら、その祖先……? の人たちは何をしていたんだろう?」
「それはこの破かれている部分が分からない以上、知る術はないわね」
少女たち全員が同じ方向を見て構えているのなら、何かと戦っている絵ということになる。
ならばその祖先がいた時代。つまり2015年のあの日よりずっと昔に、今のような戦いがあったということになる。それが今回と同じくバーテックスの襲撃という可能性もあるのだろうか。
(第一世界はその戦いの話……?)
ここに来る前、赤嶺から"友奈"の名前は呪詛と呼ぶべき力と共に受け継がれてきた、と説明された。
ならばこの桃色の髪の少女が、受け継がれる発端となった『始まりの友奈』と呼ぶべき存在なのだろうか。
「……少し考えるわ」
蓮華はみんなの話を聞いて、またこれまでの経験から頭の中で幾つかの仮説をまとめてみた。
――第一世界は土着の神々とバーテックスとの戦いが勃発した話。その結果、自分たちを襲った星屑が現れた。
第二世界は土着の神々が結集し、神樹が生まれた。神樹は"勇者の野菜"を作り少女たちにバーテックスと戦うための力を与えた。"半月の人"や月の人"と呼ばれる者も戦いに関与したのだろう。
第三世界は、今までの戦いに終わりが来たのだと解釈できる。しかし、バーテックスのことを示すと思われる"太陽の神"が笑って世界を終末へ導くのならば戦いは
「単なる予言かお伽噺……だといいのだけれど」
これは蓮華の根拠のない仮説に過ぎない。蓮華本人もまだ完全には神典の情報を読み解いてはいないし、それは水都や芽吹もそうだ。
あくまでもこのメンバーの中では、一番真実に近付いているのは蓮華。……そんな気がするだけだ。
ただ、
神典について解釈していたその時間は、医師とペロが扉を開けてこちらへ来たことで終わりを告げた。
「ペロ……! 身体は……。もう動いていいのか……?」
棗のその問いにペロも医師も何も答えなかった。ペロの身体はかなりの量の包帯で巻かれていた。見るだけでこちらが痛みを感じる。
「棗ちゃん、それは……」
言いかけた言葉をペロを見て飲み込んだ。医師の表情は神妙な面持ちで暗いものだった。棗が輸血を頼んだときと同じくらい……いや、それに加え悲しげな表情も含まれていた。
その顔を見た棗は、嫌な予感が胸の内に生まれ、頬を一筋の汗が流れていく。
「……ナツメ。散歩に行かないか?」
四本足で棗の元へ歩き、ペロはひと言だけそう言った――。
ここまでは開示していい情報と、まだ隠しておく情報がごっちゃになってきました。本当は全部暴露したい!
ちなみに神典にあった"月の人"はすでに作中に登場しています。
次回 虹の橋を渡る