前回のあらすじ(?)
Q.勇者になるとお肉が食べられなくなるそうですがどうしますか?
H「うどんがあるから問題ないわねぇ。うどんと女子力は万病にも効くんだからっ」
Y「うどんがあればそれでいいよ。あっ、でも肉ぶっかけうどんが食べられないのは辛いかなぁ」
W「うどんがあれば問題ないだろう」
G「そんなことよりイネス行こうよ。あそこのジェラートがアタシを呼んでる」
K「お肉より煮干しを食べなさい! 煮干しにはビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、DPAやDHAが豊富に詰まーー」
そうですか、ハイ……
歌野の自己紹介としては、二度目になるのだが、今回はやや、怒りを漂わせていた。
「白鳥?」
「農業?」
一緒にいたNo.29もNo.12も困惑したまま歌野を見ているが、No.4だけはある単語に注目した。
「あ? 勇者って言った?」
「うん、言ったよ」
No.4は歌野に接近する。その差15センチ程の距離だろうか。
「ふーん」
今度はチラッと歌野の後方を見た。
「ーーげっ」
目と目があい、雪花からまた妙な声が漏れた。
「なるほどね。勇者、なんて言うからアタシと同類かと思ったけど、ただの比喩か……」
「え?」
歌野から離れて背を向けた。まるで興味が失せた、と言わんばかりの態度である。
「彼女の武勇伝モドキでも聞いて感化された感じ? ……いるんだよねぇ、自分も彼女みたいになりたーい。とか、くだらない幻想抱いている奴がさー。ほら、
「ーーッ‼︎」
途端に、雪花の体はビクッと震えた。
水都が気付いて顔を見ると、どんどん青ざめていくのがわかる。
「ねぇ? いつまでもダセェ風吹かせてないで自分のこと弁えたら? ……進化体バーテックスにビビって尻尾巻いて逃げた
ガシッ
「あ?」
その時、歌野はNo.4の右腕を掴んでいた。その目にうっすらと怒りの炎を感じさせながら。
「何の話かよくわからないんだけど、雪花ちゃんの悪口を言うのはやめてくれるかしらっ」
「離せよ。お前、あれの何なんだよ」
「友達よ」
彼女の問いに即答した。
このままでは一触即発に陥るような雰囲気を漂わせている。
「アタシにこんな無礼をかますって事は随分勇気あんじゃん。……いや、お前よそ者だろ?」
「ええそうよ。今日北海道にきたの」
へー、と適当な生返事をしてNo.4は隣に声をかける。
「……おい、No.12」
「はい」
「こいつを、黙らせろ」
ドンッとNo.4は突き飛ばし、後ろへよろけている歌野の足を今度はNo.12が引っ掛けて転ばせた。
「いたっ」
ドサッと尻餅をつく。そして見上げた先には銃口を突き付けているNo.12の姿があった。
「うたのん‼︎」
その銃は空港でナルミたちが持っていた物と同等の銃である。
「……」
「へぇー、もっと動揺するかと思ったけど……」
半笑いを浮かべながらNo.4はそう呟いた。
ぐいっと銃口は歌野の胸に押しつけられる。
「え、あの、やめーー」
「うるせぇよ‼︎ また蹴られたくなかったら黙ってろッ‼︎」
見ているだけのNo.29はビクビクと震えている。
「うたのーー」
「お前も近寄るんじゃないよ! ビックリして引き金をひいてしまうかもしれないからねぇ!」
クスクスクス……とNo.12からかすかな笑い声が聞こえる。彼女たちはこの状況を楽しんでいた。人を殺してしまうかもしれない、この状況を。
「……どうしたの?
「もしかして漏らしちゃったとか?」
ギャーッギャッギャッギャッ……とNo.4の品の無い笑い声が周囲を耳障りに響いていく。
「…………じゃないわ」
「……あ?」
ふいに、歌野が何かを呟いた。
「……これは、オモチャじゃないわ」
それを聞いた瞬間、No.12とNo.4は同時に笑う。
「プフ〜〜! なぁに言ってんの! ホンモノに決まってんじゃん‼︎」
「ギャーッギャッギャッギャッ! ハッタリだと思ったぁ⁉︎ 残念でしーー」
その時、銃口を歌野は右手で掴んだ。
「……もう一度言うわ。これは
「「ーーッ!?」」
歌野がその言葉を口にした途端、二人の体はゾクッと身震いした。
「う、うたのん?」
水都も不安げに彼女を見る。いつもよりどこかおかしい歌野を。
「……うん、わかってくれたみたいね。ありがと」
銃口から手を離すと、No.12が銃を下ろし歌野は立ち上がった。
そして、ニッコリと笑う。
「覚えておいて、私は白鳥歌野。いずれ農業王になる勇者。……その手始めに、ここ、北海道をあなたたちの魔の手から救ってみせるわっ」
「うたのん……」
水都がおかしく感じたのは束の間。いつもの歌野に戻っていた。……さっきのは一体なんだったのだろう。
「は、ははははー。やってみればいいじゃん。できたら、の話だけど……」
「でも、わたしたちを倒すとしても、その後の北海道をどうするのぉ? 進化体バーテックスを誰も対処できなくなるよぉ?」
「進化体バーテックス? ここにも、進化体がいるの?」
「い、います……神居山に」
それに答えたのはNo.29だった。
「そう。サンクス」
それだけ言い残し、歌野は背を向けて水都と雪花の場所まで戻る。
「うたのん、もしかして……」
「その神居山に行く。雪花ちゃん、案内してくれるかしら?」
「え、あ……う、うん」
半ば状況を理解できない二人であるが、歌野の勢いに押され商店街をあとにした……。
「……」
三人が遠ざかるのを、No.4たちは黙って見続けていた。
「あ、あの。アイツら本当に倒しに行くんですかね?」
「……だろうね。逃げ出した奴が今更ってかんじだけど……。ま、すぐに思い知るさ。勇者が必ずしもバーテックスに勝てるとは限らないってさ」
「そ、そうですよねー」
若干怯えながら、No.12が歩き出すとーー
「……で、そんな事より」
「はい? ーーッぐあッッ‼︎」
ドスッと腹部をNo.4に殴られ、地面に膝をついた。
「ゲホッゲホッ……ウ、ウウッ」
さらに、髪の毛を鷲掴みにして顔面を何度も地面にぶつけられる。
「ーー‼︎」
「なぜ引き金をひかなかったんだぁ⁉︎ 思いっきりナメられたじゃねぇか‼︎」
「……す、すみま、せん」
「アタシらの方がよそ者にビビったみたいになってんじゃねぇかよ‼︎ オイッ、どうしてくれんだよッ‼︎」
理不尽な暴力をNo.12に与え続ける。
「あーあ。別にアタシが撃ってやっても良かったんだが、アタシが撃ったら返り血がつくだろうがッ」
「は、はい……。す、すみません」
「それさっき聞いたぁ。……ったくよぉ」
手を離してNo.4は歩き始めた。手には血痕が付着している。
「「……」」
起き上がったNo.12も黙って見ていたNo.29も彼女の後ろを歩いてついていった……。
ーー歌野たち三人は商店街を出て自然あふれる川のほとりで一息ついていた……と思ったら。
「もぉ〜〜‼︎ うたのんのばかばかぁ! 私、殺されるんじゃないかって思ったんだよぉ‼︎」
ポカポカと水都は歌野の胸を叩いている。
「いた〜、くはないけどまあ落ち着いてよみーちゃん。このとおり私は元気よっ」
「それは結果的にだよぉ」
よしよし、といった感じで泣きじゃくる水都の頭を撫でる。
「……ま、それはもう置いといて」
「置いとかないでよ!」
泣き止んだことを確認した後、歌野は雪花に向き直る。
「……ゴメン」
「まだ何も言ってないわ」
雪花は暗い表情のまま謝った。
「……私、嘘ついた。勇者の事を知り合いから聞いたって言ったけど、本当は私自身が勇者なの」
「ええ。そうじゃないかって思ってたわ」
歌野は変わらず微笑んでいた。
「勇者だって言えない事情があるんだよね? そこについては詮索はしないよ。……でも、あの人たちが言った進化体バーテックスの事は聞いておきたい」
少しの間、雪花は黙っていたが、ふぅ、と息を吐いてポツポツと話し始めた。
「……ううん。進化体バーテックスの事も話すけど、少しだけ……、私のこと、秋原雪花という勇者の事を聞いてほしい」
「「うん」」
歌野も水都も頷いた。
「……って言っても、大した話じゃないんだけどね。……ただ、力を与えられた勇者が周りに振り回されて心が病んでいったってだけ」
「心が病んだ?」
「そう。私は今から一年前に勇者の野菜を食べて能力を得た。……後にそれは『ユメユメの野菜』という名前が付く」
「「ユメユメの野菜」」
ここに来て初めて聞いた、歌野以外の勇者の野菜の名前を。
「どんな能力なの?」
「これがビックリするぐらい弱いの。ただ、夢を見る。それだけ……」
秋原雪花はユメユメの野菜を食べて勇者となった。しかし、彼女はこの能力をあまり好意的に思っていないようだ。
「後で気付くことになるんだけど、私の能力は、夢を見ないものには効かないんだ。つまり、睡眠を必要としないバーテックスには役に立たない。だから、当時の私は能力を使わずに戦ってた」
雪花は右手を広げる。
すると、そこには突然、槍が出現したのだ。
「ユメユメの野菜は
「ああっ。あの時」
こくっ、と雪花は頷いた。
「で、半年ぐらい私は、たまに侵攻してくるバーテックスをこの槍で倒しまくった。……当時はそりゃあもう英雄扱いだよ。……そう、本当に英雄
「……?」
「この街のお偉いさん方はね。どうにかして私の力を手中に収めようとあれやこれや企んでた。……私は勇者になる前に、家族をバーテックスにやられちゃったから、私を養子に欲しがる人たちは結構いてね。勇者を手元に置いとけば安全は保証されるからね。……まぁ思うところはあるけど、形はどうであれ偉い人から評価してもらえるのは嬉しいことなんだよねー」
うっすら笑ってそう言ったが、明らかな皮肉である事は歌野と水都もわかっていた。
「それに対して私は、得意の愛想笑いとうわべだけの優しさでうまく立ち回ってた。……あの時までは」
雪花が勇者となって半年経ったある日、バーテックスがまた攻めてきたのだ。もう何度目かわからない襲撃。
その時、雪花は老人と子供が襲われそうになったのを助けた。当然、二人は雪花に感謝していた。
「さっきあの人たちが言ってた子供はその助けた少女のこと。彼女はとびきりの笑顔でありがとうって言ってくれた……。でも、バーテックスの襲撃はまだ続いてたんだ。私が二人を助けている間、当時の旭川市市長の家が襲われた」
すぐさま駆けつけた雪花の手によって市長やその関係者の命は助かったが、市長たち権力者の救助を優先しなかった雪花のことを、彼らは激しく糾弾した。
助ける順番を見誤るな、と。有事の際には社会にとって有力な者から救助せよ、と。
そのことは、雪花の心に暗い影を落としていった。
ーーああ、なんだか色んな意味で寒いなぁーー
そしてまた、悪い出来事は立て続けに起こる……。
「その数日後にね。今までの数を超えるたくさんのバーテックスが襲来したんだ。そしてその中に、他とは違うバーテックスがいた。後でそれは進化体バーテックスって呼ばれるようになった。大社は『
今までのバーテックスとは比べものにならないくらいに強く、勇者の能力は使わず、身体能力だけで戦っていた雪花に太刀打ちすることなど不可能だった。
その時彼女は初めて、己の死を連想した。実感した。と同時に死への恐怖が彼女を支配した。
そしてそれは、今まで溜まっていた権力者たちへの鬱憤、疲弊した体。崩壊していく精神への決定的な一撃となった。
ゆえに、彼女は……。
ーーこのままじゃあ私が死ぬ……? マジで? んん〜〜。……じゃあもういいや。私は今までよく頑張ったでしょ! 帰るわーー
戦いを放棄して逃げ出した……。
「……そしたらさ。タイミングよくあの人たち、防人が現れて進化体バーテックスを撃退してた。進化体は襲撃を諦めて帰っていったよ……」
……その日以降、もう秋原雪花を勇者として敬う人たちはいなくなり、権力者たちも手のひらを返したかのように彼女のことなど忘れ、大社を崇め、その恩恵に擦り寄っていった。
「それから私は、ひっそりと暮らしてる。ここ、
ーー"秋原雪花は勇者で
ただ今は、誰からも見向きされないひとりの少女ーー
「……ここは本当に寒いよねぇ……」
No.4とかNo.12とか誰? と思うかもしれませんが、コイツらは『楠芽吹は勇者である』に存在だけ記されている連中です。折角32人の防人部隊なのに楠隊しかスポットライトあたっていないのは寂しい! という理由で、登場させました。なので、前に出てきたナルミ(No.2)も然り、これから先せめて、指揮官クラス(No.1〜No.8)は登場させていきたい。
まぁ、基本的に敵サイドとして。
次回 神居山に巣食うもの