白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。ここからはずっと戦いになります。


前回のあらすじ
結城友奈を使った“神婚ノ儀”は間も無く行われる。そしてその阻止に残りの“七武勇”は必ずくるだろう。大社は迎撃するためにほぼ全ての戦力を投入する。従って四国は手薄になっていることだろう。歌野たちの本来の目的を思えば四国に安全に行ける絶好のチャンスだ。しかし、姫路城にて協力してもらった恩を返す為、戦争に加わることを決意した。


第百十八話 開戦の狼煙

 歌野たちが岡山県の瀬戸大橋を目指している中、四国から沖縄へ向かう木船が一隻あった。

 それは先日、歌野がオークションで天竜人に危害を加えた為に大社から派遣された小隊である。

 その木船に乗船しているのは5人。4人の神官と1人の少女だ。

 

「ロン! “大・三・元”!!!

「ぐわー!? また敗けた〜‼︎」

「今回もまた真鈴ちゃんの勝ちですか」

 

 4人で卓を囲んで牌を並べて麻雀を行っている。

 安芸真鈴は“四勇”の副官の一人。土居球子や伊予島杏と同じ愛媛県出身の少女だ。彼女は実家が雀荘ということもあって幼い頃から麻雀を嗜んでいた。時には訪れる大人たちを相手にし、しかも勝ち越している。

 

「真鈴ちゃん、さっきは四暗刻でツモッてたでしょう〜。引き運強すぎです」

「運だけじゃないですって。ゲームの流れや捨てられた牌で次はどうくるのか、相手が何を持っていて何の役を狙っているのか予想してるだけです」

 

 叔母から沖縄へ向かう御役目を言い渡されて今日に至るまでの間、神官とずっと麻雀をしている。

 

「でも夜通しやってて……。眠いよ」

「朝が来てる……」

「徹マンなんだから夜通しやりますよ。ささ、次々〜」

 

 卓上で牌を混ぜていた彼女たちへ、見張りをしていた神官が呼びかけてきた。

 

「真鈴さん! 正面に船が見えます!」

 

 全員は手を止めて見張りをしていた神官の方を向く。

 

「船? 密猟者?」

「いいえ! 我々と同じ葦原船です!」

「じゃあ味方かぁ……」

「なら問題ないですねー。じゃあもう一戦しましょう! 見張りの貴方もどうです?」

 

 遠くに見える木船のことをさらっと流して真鈴は続きを促す。そして他の神官たちも眠気を我慢しながら麻雀を再開した。

 徹夜で麻雀をしていた彼らには、もうまともな判断を降せる者はいなかったのだ。

 

 

 

 ――発見した船は歌野たちのものである。当然、こちらも船が向かってくるに気付き、芽吹と蓮華はその目に捉える。

 

「歌野。船が見えたわ」

「おそらくあれが、大社から派遣された部隊ね」

 

 棗も赤嶺も含めて全員は甲板に出て真正面を見る。

 

「あちゃー。もしかしてと思ってたけどやっぱり出会っちゃったねぇ」

「歌野、迂回するか?」

 

 棗に問われて歌野は首を横に振った。

 

「ノーよ、棗。私たちは1秒でも早く岡山県に行かなければならないわっ。なら目的地までストレートに進むしかないっ」

 

 その言葉に蓮華も頷く。こっちが気付いた以上、当然向こうも気付いているはずだ。逃げれば追いかけてくるだろう。そうなれば余計な時間がかかるだけだ。

 ここはたとえ、戦闘になろうとも強引に突破した方が何よりの近道となる。そう考えた。

 

「戦闘開始と同時に敵の船を墜とす。そうすれば敵さん、追いかけて来れなくなるでしょ」

 

 そう言いながら雪花は船内に身を潜める。他のメンバーも甲板から離れて身を潜めた。

 相手がこちらへ踏み込んで来た時が戦闘開始の合図だ。

 

 ……しかし、向かってくる木船に人の姿は見えない。

 こっそり様子を見ている芽吹たちは不思議に思った。

 

「見える限りは誰もいない……」

「向こうも蓮華たちと同じで隠れているのかしら?」

 

 そしてそのままお互いの船はすれ違った。そしてみるみる内に遠ざかっていく。

 

「……。なんだったのかしら」

「寝てた……とか?」

「見張りも?」

 

 息を潜めて身構えていた分、何事も無く終わってしまい、拍子抜けしたかのようにその場に座り込んだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は経ち、遂に“神婚ノ儀”当日がやって来た。

 

 岡山県倉敷市から香川県へ繋がる瀬戸大橋の付近には多数の神官と防人が陣取っている。

 現在、岡山県には大社本部が置かれており、神官やその家族が住んでいる土地もあったのだが、非戦闘民は全て香川県に仮設された住宅地に避難している。

 その彼らは避難場所に設置された巨大なモニターによって“神婚ノ儀”の行く末を見守っている。

 四国各所からカメラマンや記者などもそこへ集い、情報をリアルタイムで届ける為に身構えていた。

 

「あっ! 映りました! 彼女です! 彼女が今回、神樹様と婚姻を結ばれる“結城友奈”です‼︎」

 

 拘束された状態の結城友奈がモニターに映り込んだ。白い巫女装束のような正装に身を包んでおり、後頭部辺りで髪を結え、付け髪を足して(かもじ)で留めている。

 

「美しい姿だ……」

「とても罪人だった少女とは思えない」

 

 結城友奈の姿を見て、一部の者は心奪われ見惚れる。白鳥歌野が姫路城で暴れる前は、人間の中で一番懸賞金が高かった犯罪者だ。しかし、今は神樹に見初められ、その身体と魂を捧げる純真無垢な姿をしている。

 結城友奈は瀬戸大橋の上に造られた高台に上り、所定の位置に着くと、膝をついて黙祷する。

 

「聞けば彼女の仲間は行方不明。目撃情報も皆無だ」

「新聞ではあれほど戦争だ。戦争だ。と言っていたが……まさか来ないんじゃあ……」

「来なければそれでいいさ。粛々と儀式が終わってくれればそれで……」

 

 民衆の中には“七武勇”は結城友奈を見捨てて戦争にはならないだろうと、考えている者たちもいる。戦争にならなければそれが一番幸せだと。

 しかし大社陣営はそんなこと考えていない。防人や“四勇”の少女たちなら尚更である。

 

「――何が起きても、あと数時間‼︎ 数時間後にはここで全てが終わる‼︎ 心しろ、諸君‼︎」

 

 神官のひとりが大きな声で呼びかけている。その場にいる神官たちのほとんどは橋ではなく陸地側に立ち警戒している。多くの防人たちもである。

 

「わざわざ壁の外でやんなくてもねー。香川で静かにやってくれればいいのにー」

 

 元京都支部を担当していたNo.7は不満げに呟く。その半ば独り言に元兵庫支部のNo.5が答えた。

 

「四国内でやったら“七武勇”のカバ共まで来て結局そこで戦争。折角壁の中で平和を享受してんのに、侵されたくないっしょ?」

「じゃあ内緒でやれば良かったじゃーん。どしてさ」

「私様がそんなこと知るか」

 

 争うならば壁の外で。バーテックスの脅威から守られた四国を人間同士の血で穢したくないという大社上層部の判断なのだろう。

 指揮官型防人もまた、文句の幾つかはあるが、にじり寄る決戦の時を待っていた。

 大橋の周りには銃砲が立ち並び何人かの神官が最終整備を行っている。

 その手前に立ち、構えているのが今回の戦局の鍵を握る4()()()()()()()

 3人の“四勇”と1人の副官である。

 

「まさかひなたさんまで戦争に参加するなんて……」

「私は若葉ちゃんの代理です」

「大変だなー。確かますずも沖縄に向かったんだよな」

「……上里さんも……損な役回りね」

 

 伊予島杏。土居球子。郡千景。そして乃木若葉の代理でここに立つ上里ひなた。

 

(四国の外に出るのは……何年ぶりでしょうか)

 

 若葉が御役目を放棄して四国の警護に就いた。その穴を埋める為に抜擢されたのがひなただ。他の副官である安芸真鈴は沖縄へ。花本美佳は若葉と共に四国の警護に回った。

 副官の実力は“四勇”には及ばないが、それでも今回の戦争に参加するだけの力は申し分ない。誰もがひなたの実力をそう評価している。

 

「結城……友奈」

 

 千景は大橋の上の高台にいる結城友奈に目を向ける。とある少女と瓜二つな彼女が今回の儀式により犠牲になる。少しだけ心が落ち着かない……。

 

 そしてその高台の前で堅く守るのは防人の“三大将”である。

 

「しずくさん。お怪我はもう宜しくて?」

「あれから一週間。怪我は……もう、大丈夫」

「ああ……お父さんお母さん、先に旅立ってしまう親不孝者でごめんなさい。私はどうやらここまでのようです……」

 

 弥勒夕海子。山伏しずく。加賀城雀。

 夕海子は珍しく自身に期待してくれた親の為に御役目を完遂すると心に誓った。

 しずくは御役目だと割り切っている。

 雀はその卑屈さゆえ、すでに明日の自分が無いことを悟っていた。

 

 ……それぞれ想いは多岐に渡れど、今、考え得る限りの正義の力が、結城友奈奪還の為に攻めてくるであろう“七武勇”を、迎え撃たんと待ち構えていた。

 

「あーマイクテスト……マイクテスト……」

 

 高台に神官長が上がってきた。神官長は拡声器を右手に持ち、左手にはこれから言う内容を記したメモを持っていた。

 

「……諸君らには話しておこう。今日この場で結城友奈が“神婚ノ儀”で死ぬことの大きな意味について」

 

 神官たちや防人。そして中継を見ていた人々は困惑の表情を浮かべた。

 

「まず、我々大社の科学者たちの知見によると……神樹様の力が弱まっている。それに伴い壁の結界も徐々に弱まり、バーテックス共の侵入を許す未来もそう遠くない」

 

 話を聞いていた民衆はざわついている。唐突に説明された結界の脆弱化と四国への脅威の再復活。その意味を理解し顔が青ざめている者もいる。

 

「あのバケモノが襲来して早3年。神樹様は絶えずその御力で四国を、我々を守ってくださった。その御慈悲に我々も報いなければならない。そこではじめは“奉火祭”を行い、敵の力を削ぐ計画を考えた!」

 

 ここで神官長は奉火祭について軽く説明した。バーテックスの力を抑える為に犯罪者を生贄に捧げようとしたこと。そしてそれが白鳥(ホワイトスワン)農業組合(のうぎょうくみあい)なる者たちによって邪魔されたことを。

 

「奴らは人間でありながらこの計画を邪魔し、姫路城を破壊した。……だが! 実はそれは結城友奈を誘き出す為の偽りの計画だったのだ‼︎」

 

 その言葉にNo.7は口元を押さえて笑うのを堪えていた。大社は奉火祭を阻止されたことに対して面子を守る為に結城友奈を捕えるための囮だったと表明した。

 

「偽りって……。思いっきり本気だったくせに」

「素直に阻止させられましたって言うとダサいからね」

 

 No.6もまたつまらなさそうに話を聞いていた。だが実際に結城友奈を捕らえたことで奉火祭を行わなくて済んだのは事実だ。水都が取り返された今、大社はもう一つのプランである6人の巫女を生贄にしようとしていたのだから。

 

「――神樹様は思し召しくださった! 結城友奈と婚姻を結ぶことでバーテックス全てを退ける強大な力を手にできることを! 我々人類は神の眷属となり、神樹様の御加護をより一層受けられることを! 故にこの“神婚ノ儀”はバーテックスとの戦いを終わらせられる唯一の“希望”なのだ‼︎」

 

 最後の締めに入ろうとするところで神官長は拳を強く握り、大社の決意表明を言い切る。

 

「たとえその結果! “七武勇”と戦争する結果を招いたとしても! “神婚ノ儀”を執り行うことは世界の平和のため、非常に意味のあることなのだ!!!」

 

 ――その瞬間、一部の者たちは身震いした。

 杏や千景はいち早くそれに気付き、空を見上げる。

 瀬戸大橋とは反対の鷲羽山側からそれは迫ってきた。

 

「来た……!」

 

 球子も迫り来るそれの正体をその目に捉える。

 

「まさか()()()()()なんてなっ」

 

 そこで大社陣営の全員が気付いた。“七武勇”が3隻の戦艦を率いて空からやって来たことに。

 

「おい⁉︎ 船が空飛んでるぞ! 葦原船でもないのに」

「こんな芸当ができるのは、ひとりしかいませんわ」

 

 ざわつく神官に夕海子が答えた。

 触れたものを浮かすことができる乃木園子の能力だ。

 

「……何年ぶりかしらねぇ。大社をぶっ潰すのは」

「ぶっ潰したことは無いよ? お姉ちゃん」

「ぶっ潰すのはこれからよ、風」

「大社と喧嘩したのは2年ぶりなんよ〜」

「私もそのっちと同じよ」

 

 空を飛ぶ戦艦のひとつに彼女たちはいた。結城友奈と同じ“七武勇”のメンバー。犬吠埼風。その妹の犬吠埼樹。三好夏凛。乃木園子。そして東郷美森。

 別名、“勇者部”。

 

「……無事なんでしょうね。あたしたちの大切な部員は」

 

 結城友奈が瀬戸大橋の高台にいることに気付く。そして結城友奈もまた船に乗っている風たちに気付いた。と、同時に視界が涙で滲んできた。

 

「ちょっと待ってなさい友奈。今、そこから助けてあげるから」

 

 神官長は空を飛ぶ戦艦へ勢いに気圧されないよう叫ぶ。

 

「出やがったな‼︎ 反逆者共があ‼︎ 覚悟――」

「なんで来たんですか⁉︎ 風先輩‼︎ どうして、東郷さん……‼︎ みんな……ッッ!」

 

 その隣にいた結城友奈もまた大声で叫んで神官長の言葉を遮った。自分を助けるためにやって来た彼女たちへ。

 当然その声は周りの者たちや中継を見ている者たちにも聞こえている。

 

「私が勝手にやったことなのに……!」

「友奈。あたしは()()()()()()わよ」

「え……。そんなこと……」

「奉火祭ってのがあったんでしょ? それを阻止する人たちの手助けをしたんでしょ? それって勇者部の活動方針じゃない。……そうよね、みんな」

「そうね」

「ごめんね、友奈ちゃん。一人にさせた私のせいだわ」

「友奈さんは悪くありません」

「その場にいたらゆーゆじゃなくてもみんなそうするんよ〜」

 

 勇者部のメンバーが全国に散っていたのは大社の援助がなく、バーテックスの脅威に晒されている人たちを助けるためだ。他にも衣食住を主として生活に必要な物品を調達したり、作ったりするためだ。

 

 ――人の助けになることを勇んで行う。それが“勇者部”だ。

 

「だから友奈。待ってなさい。神婚ノ儀とかいうふざけた儀式も、大社も、全部ぶっ潰してあげるから!」

 

 風たちの意志は変わらない。本気で大社と戦う気でいる。

 そのことに神官長は嘲笑いながら叫ぶ。

 

「大社を潰す? 笑わせんな‼︎ あの象徴(バッヂ)を見ろッ反逆者共ォーー!!!」

 

 右腕を上に向け、瀬戸大橋の支柱のひとつに掲げられている旗を指差して語る。

 風たちもその旗に目を向ける。

 

「あのマークは7つの支部と、瀬戸内海(グランドライン)にある四国との結束を示すもの!!! これが世界(大社)だ!!! 盾突くにはお前らがどれほどちっぽけな存在だかわかってんのか!!? この“神婚ノ儀”がどれ程重要な儀式かわかってんのかァ!!?」

 

 旗に描かれているのは、7本の枝に分かれている神樹を模した絵。それぞれの枝が『北海道』『千葉』『諏訪』『京都』『兵庫』『山口』『沖縄』を表し、枝を繋いでいる幹と根っこは『本部』即ち『岡山』と『四国』を表す。

 それが大社のシンボルだ。

 

「……分かってるわよ。……あんたたちがどんだけの組織かってこと……嫌になるほど分かってるわよ」

 

 

 ――しかし、それでも。

 

 ――いや、だからこそ。

 

「東郷」

「はい」

 

 風は悠然と海風に靡かれている大社の旗を指差して言い放つ。

 

「――あの旗、撃ち抜け」

「了解」

 

 東郷はスナイパーライフルを出現させてスコープを覗き込み、引き金を引く。

 放たれた弾丸は大社の旗に命中して射抜く。すると射抜いたそばから発火し、旗を燃やしてしまった。

 黒い煙が天に昇っていく。

 

「あッッ!? あいつ! やりやがった〜〜‼︎」

「旗への攻撃の意味わかってんのかァ〜〜!!?」

 

 それは四国全土を含め全てを敵に回す宣戦布告を表す。

 

「正気かてめーらァァァ⁉︎ 世界を敵に回して生きられると思うなよッッ‼︎」

望むところよッッ!!!

 

 全員は叫ぶ。そして武器を持ち戦闘体勢に入った。

 

「行くわよ‼︎ ()()()!!!」

「オオーーーッッ!!!」

 

 その声を合図に、残る2隻から武装した沢山の大人たちが姿を現し、吠える。

 

「なんだあいつら⁉︎」

「5人だけじゃないのか!?」

 

 動揺している神官たちの中、夕海子たちはレイピアを構える。しずくは右手を握る。雀は怯えて踞る。

 

 

 

 ――遂に戦争の火蓋が切られた。

 

 攻め入るは『七武勇(勇者部)』率いる反逆者たち。

 迎え撃つは大社の二大勢力『防人』並びに『四勇』。

 誰が勝ち、誰が敗けても、時代が変わる!

 




 遂に戦争が始まりました。きっと大勢亡くなることでしょう。……戦争ですから。

 覚悟はいいでしょうか。


次回 撃鉄を起こす為に
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