白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。この章は勇者部のみなさんがメインなのです。つまり白鳥さんたちは今回脇役です。
……ウソです。ちゃんと見せ場はありますよ。



前回のあらすじではない。

友奈「なんで来たんですか⁉︎ 風先輩‼︎ どうして、東郷さん……‼︎ みんな……ッッ!」
風「私は行けと言ったわよ」
東郷「ごめんね、友奈ちゃん。一人にさせた私のせいだわ」
樹「友奈さんは悪くありません」
友奈「……えっ⁉︎ 聞こえないよー!!?」

※鷲羽山上空から瀬戸大橋まで結構距離あります


第百十九話 撃鉄を起こす為に

 

 園子の能力により浮遊している3隻の戦艦の内、2隻から現れた多くの武装集団。

 彼らは少し前、壁の内側へ侵入を試みようとしていた集団である。その際、大社と一触即発の状態だったようだが結果的には大事には至らなかった。

 杏が四勇会議で話題に挙げていたことだ。その彼らが今は結城友奈奪還の為に“七武勇”に協力している。どこから仕入れてきたのか、その手には鉄砲や刀剣の類を持っている。

 バーテックスと戦い、散った軍隊や武器庫から盗んだのかもしれない。あるいは姫路城跡にて神官たちが“星屑”の襲撃で捨てていったものを拾ったのか。

 

「怯むなーーッ! 数ではこちらが勝っている!」

「撃てェーー!!!」

 

 大社陣営の銃砲が鳴り始め、またほぼ同時に空飛ぶ戦艦に備え付けられた砲塔から号砲が鳴り始めた。

 爆風や衝撃は周囲へ伝わり、瀬戸大橋に備え付けられた無数の風鈴が時折音を奏でる。

 そんな中、“七武勇”が乗っていた戦艦が地面に降りた。

 

「報告! “七武勇”が船から現れました‼︎ こちらへ向かってきます!」

 

 沢山の神官たちが武器を持ち少女たちに向かっていく。その様子を見ながら、ひとりの女性神官は指揮官型防人たちの元へ向かう。

 

(この戦い。勝っても負けても、もう今までのようにはいられないでしょう)

 

 大社もまた変わらざるを得ない。今、自分たちは時代の転換期に立たされているのだ。

 

「あれ? 女性神官さん」

 

 No.7は彼女が来たことに気付いた。仮面で顔は見えないが髪型と佇んでいる雰囲気から、自分たちの指導係だった神官だと分かる。

 

「おそらくこれが……大社という組織から降される、最(・)後(・)の(・)御(・)役(・)目(・)になるでしょう」

 

 No.7だけでなく、他の指揮官型防人たちもその御役目に耳を傾けた。

 

「“神婚ノ儀”成立まで敵の侵攻を阻止しなさい」

 

 防人たちは言い渡された御役目に言葉で応えることも頷く態度も見せずに改めて戦場を見た。

 

 その言葉を“四勇”の3人とひなたもまた聞いていた。

 

「なあ、あんず。タマたちは一体何と戦ってるんだろうな」

「それは……」

 

 杏は答えようとしたが口をつぐんだ。今から自分たちが行おうとしていることは、本来の御役目から一番遠い所にある。

 何の為に、何と戦うのか、杏も躊躇い、完全には徹し切れずにいた。

 

「敵よ。……ただ、それだけ」

「千景さん……」

 

 だがその中で千景だけは冷徹にそう言い表した。好む好まざるに関わらず大社側に付いている自分たちが出来ることはひとつしかない。

 全ては世界の為に。そして“四勇”の郡千景で在り続ける為に。

 

「この戦いに正義はあるんでしょうか……」

「伊予島さん。戦争に正義も悪も、無いわ。でも……大社側(私たち)が正義なのだと……言い聞かせるしか……」

 

 ただ、信じる。“四勇”が正義で、“七武勇”が悪であると。

 迷えばそれが弱さになってしまうから。弱ければ負けてしまうから。負ければ何もかも終わってしまうから。

 千景は自分たちのしてきたことを無にさせない為に戦うと決めた。

 そんな千景たちが見据える中、風たち5人は神官たちを押し退けて進んでいく。

 

「あの眼帯をした女がリーダーの犬吠埼風だ‼︎ あいつを仕留めれば“七武勇”陣営の士気は大きく下がるぞ‼︎」

 

 多数の神官が銃を構える。そして大剣を振り回している風目掛けて発砲した。

 勇者といえど人間である彼女たちは一般の武器でもダメージになり、場所が悪ければ致命傷になり得る。

 妹である樹が気付いて声を掛けようとするが、風へ向かった弾丸は悉く宙を舞う刃に落とされていく。

 

「た、弾が……ッ」

「全部打ち落とされた!?」

 

 全部で二十ある刃は銃弾を防ぎ切ると園子の周りを規則正しい列を成して回っている。

 

「いきなり、クイーンは……取れないんよ〜」

 

 園子が右手を前に出すと刃もまた連動して神官たちを切りつけた。

 さらに風が大剣を大きく薙ぎ払って吹き飛ばす。

 

「うぎゃあああ〜〜〜⁉︎」

「ぐぉぉあああ〜〜〜!!?」

 

 凄まじい風圧により砂煙が舞う。視界が悪くなり銃も撃てず、神官たちは蹂躙されていく。

 

「お姉ちゃん! あんまり前に出ると……」

「大丈夫よ樹。むしろこの方が相手の士気も下がるってもんよ!」

 

 大剣を振り回しながら戦場を駆けていく。その様子にある者は身じろぎ、ある者は避けようと退がる。

 

「もんよォーーッ!」

 

 風を先頭に園子が続き、樹と夏凛が並行してついていく。

 

「樹も思いっきりやりなさいっ! なんなら今のうちにサプリ決めとく?」

「え。それはちょっと……」

 

 夏凛がポケットから出したサプリメントの容器を見て、樹は困り眉毛で断った。

 

「オイオイオイ、アイツら止まんねぇじゃねぇか!」

 

 No.4は彼女たちの侵攻に驚く。

 前線ではすでに大社側が陣形を崩していた。

 No.3は地面に腰を下ろして迫ってくる少女たちを見ている。

 

「数はこっちが多いが……奴ら相手にただの人間は時間稼ぎにもならんな」

 

 やはり能力者(勇者)には能力者(勇者)を戦わせるべきだろうとその腰を上げようとした。だがその前にNo.8が向かっていくのが見えて動きを止めた。

 

「ア? No.8のヤツ。単騎でか……?」

 

 No.8は喧騒の中、一旦瞼を閉じる。そして鼻で息を吸って口で吐く。仄かにかおる磯の匂いは、おそらくこれから消えていくだろう。砂埃と血の匂いで。

 

「最初は私だよ。雀」

 

 小さな声で呟いた。そして目を開けて同じ学校の後輩だった加賀城雀を見た。彼女は相変わらず頭を両手で押さえて絶望に暮れていた。戦いの前の、ある意味ルーティンみたいなものだ。

 いつも死ぬ、死ぬ、と言いながら今に至るまで“三大将”として曲がりなりにもやっていけているのは才能と呼べる。

 

「じゃあいこうか」

 

 防人のみんなが見ている前で、No.8は彼女たちと戦うため全速力で走る。

 

 ――たったひとりで。

 

「ふーみん先輩っ」「風ッ‼︎」

 

 ほぼ同時に園子と夏凛が名前を呼んだ。そしてその理由も呼ばれた本人は分かっていた。

 自分を狙い突進してくる影がひとつ。

 風は大剣でその影の突進を止めようとする……が。

 

「ブリリアント・パンク!!!」

「……ぐっ!」

「お姉ちゃんっ」

 

 勢いは相手の方が勝り、風はよろけながら数歩退がったのちに尻餅をついた。それを見て園子と樹が立ち止まる。

 夏凛は一瞬だけ速度を落としたがすぐに元の速度で走り出した。

 

「風‼︎ しゃがんでッ‼︎」

「んがッ……⁉︎」

 

 言うが早いか、風の頭を片手で掴み押さえて夏凛がその上を飛び越えた。そのまま相手に向かってもう片方の手に持つ剣を振り下ろす。

 しかしその刃は腕で受け止められる。当たる瞬間に鋼鉄とかち合ったかのような音が鳴った。

 

「なに……っ、アイツの身体……」

「コラーッ夏凛! 痛いでしょーがッ‼︎」

「はいはい、悪かったわよ。……そんなことよりも」

 

 踏み台のように扱われた事に怒る風を、軽く扱いながら夏凛は相手を分析する。

 

「“勇者の野菜”の能力者ね。多分身体を硬くするタイプの」

「……それでそのまま突進して来たってワケねぇ」

 

 相手は軽く笑いながらバイザーを上げる。夏凛は自分のことを覚えていないようだがこちらはしっかりと彼女を覚えている。

 

「指揮官型防人。コードネームはNo.8。よろしくね」

 

 簡単な自己紹介を終えてNo.8は右手で殴り掛かる。風と夏凛はお互いに別方向へ跳んで回避した。

 その刹那、夏凛は敵の腕が輝いていることに気付いた。

 

「分かったわ! 身体が宝石になる能力よ!」

「なにーッ‼︎ 羨ましいわね! 宝石人間ッ‼︎ 女子力高そうだワ!」

 

 No.8の能力は『キラキラの野菜』。風は宝石人間と呼んでいたが正確にはダイヤモンド人間である。身体の一部をダイヤモンドに変化させ、攻撃力や防御力を上昇させられる。

 

「……! 血が出てるじゃない、風」

 

 夏凛に言われて額を触る。どうやら最初の攻撃を防いだときに大剣が肌を掠めたようだ。

 風は左眉の上から滲む血を拭う。本人も気が付いていない程なので戦闘には支障ない。

 

「モアモア・女子力斬りッ‼︎」

 

 大剣をさらに大きくさせて横薙ぎに払う。大剣が身体に命中する寸前でNo.8はまた自身を硬化させて攻撃を弾く。反動でNo.8は地面を擦りながら退がっていく。

 

「斬れないわね」

「全員でやるわよ」

 

 夏凛が樹と園子に呼び掛けた直後に、No.8が猛スピードで突進してきた。

 

「ブリリアント・パンク‼︎」

 

 咄嗟に剣をもう一本出現させて双剣をクロスにしてガードする。しかし夏凛もまた勢いに負けて数メートルほど吹っ飛ばされた。

 

「……ちぃ」

 

 受け身を取って直ぐに立ち上がる。そして双剣を大きく振るって斬撃を飛ばした。

 

「七十ニ(ななじゅうに)煩悩砲(ポンドほう)!!!」

 

 二線の斬撃がNo.8を襲うも、両腕も胴体も硬化している彼女は容易く受け止めた。傷も入っていない。

 

「ダイヤモンドは傷付かないよ」

 

 そして走り出す。充分に助走をつけてまた体当たりをするつもりだ。

 

「ブリリアント――」

 

 だがNo.8は走っている途中で急に動きを止めた。身体をよく見れば細いワイヤーのような糸が全身に巻き付いている。

 

「樹ナイスよ!」

 

 樹の繰り出した糸に絡め取られ動けなくなっているところに風が力いっぱい大剣を振るう。

 

「モアモア・“50倍斬り”‼︎」

「傷付かないって――うぐぅ!?」

 

 全身動かなくとも能力は使える。大剣の刃が命中する前に身体を再度ダイヤモンドの硬度へ変化させた。

 しかし身体は斬られないだけで威力は殺しきれない。No.8は吹っ飛ばされる。

 

「さっきのお返しよ!」

「それに能力の仕組みは分かったからね〜」

 

 園子は槍から分離させた二十の刃を操作させてNo.8に仕向ける。

 刃たちはNo.8の硬化していない部位を集中的に狙った。

 

「全部を硬くはさせられない。動けなくなっちゃうからね〜」

 

 つま先から頭までダイヤモンドになっては動くことはできない。よって下半身や関節部は硬化させられない。

 

「くっ……痛っつ……」

 

 これ以上、足や関節部を狙われては硬化していなくとも傷のせいで動けなくなる。

 No.8は一旦身体の元の状態へ戻す。ダイヤモンドから生身に戻ったことで糸の拘束に僅かな隙が出来る。その一瞬を使い、絡まった糸から脱した。

 

「抜けた!」

 

 足を狙ってくる園子の攻撃を回避するため飛び上がる。そして身体を硬化させて急降下による攻撃を試みる。

 

(“七武勇”の連携……なかなか厄介だったよっ)

 

 そもそも四人相手に渡り合えるほど強くないことはNo.8自身充分に分かっていた。

 風の単純な攻撃力、夏凛の剣戟、樹のトラップ、園子のテクニック、1対1でも勝つのは難しいのに、彼女たち全員を相手取ることはできない。

 ならばせめて、相手の体力を減らして後続に託す。

 

(その為にあともう少し、頑張る!)

 

 狙うのは夏凛。重力加速度を攻撃力に加えて渾身の一撃を放つ。

 

 ――そう思った時、下を見たままNo.8の表情は固まった。違和感を覚えたからだ。

 “七武勇”の全員と戦っているつもりでいたが、実際に今いるのは4人。

 

(東郷美森はどこに――)

 

 瞬間、耳に飛び込んだのは一発の銃声。ほぼ同時に首元に激痛が走った。

 

「がッッ……⁉︎」

 

 風たちは上空を一直線に通過するレーザー光線を見た。No.8を正確に撃ち抜く一筋の光を。

 

 東郷はビームライフルでNo.8の首元を正確に貫通させたのだ。

 No.8は出血している部位を手で押さえながら頭から地に落下した。

 

「……ぁ……か、ア」

 

 立ち上がることはできない。血は止まらず流れ続ける。押さえていた手はすでに真っ赤だ。

 

「行くわよ」

「お姉ちゃん……」

 

 風は動けないNo.8に背を向けて走り出す。

 

「こういうのがこれからもっと続いていく。友奈を取り戻すまで」

「覚悟してきたつもりよ。……私たち全員」

 

 自分たちが全力で友奈を奪還するなら、相手もまた全力で阻止してくる。それぞれが命を懸けて。

 夏凛も風に続くと、園子と樹も背を向けて走り出した。

 

(行っちゃっ……た)

 

 No.8はボヤける視界の中で夕海子に言われたことを思い出していた。

 

『――あなたに特別な御役目が神官長から言い渡されました。開戦時に“七武勇”へ攻撃を仕掛けていただきますわ』

 

 開戦前に告げられたその御役目。いくら能力者と言えども彼女たちへ一人で立ち向かうなど無謀な作戦だ。

 つまりこれは、戦死してこいという意味になる。

 戦争に対して、まだ完全に覚悟が決まっていない者たちが防人の中にいる。10代の少女たちだ。同じ人間と戦うのを恐れても無理ない。しかし士気が下がっては戦争には勝てない。それを防ぐための犠牲だ。

 No.8が“七武勇”と戦って死ねば、他の者たちも自覚する。戦わなければ今度は自分が殺される、と。

 

『劇的な死が、必要ですか……?』

『流石に死ぬことは本意ではありません。……ただ、あの人は見る者を奮い立たせるような戦いを御所望ですわ』

 

 自分は士気をあげる為の捨て駒。そしてNo.8はその役を演じることにした。

 

(……あ、ここもやられてた)

 

 腕の部分に青痣が出来ていることに気付く。夏凛の剣を受けた時に出来たものだ。受け止めたと思ったが、内部を攻撃されていたのだ。

 

(もう……動けないや……。派手に散ってやろうって……考えてたけど……)

 

 大声で大社の正当性を叫ぶことも、“七武勇”に罵声を浴びせることも考えたが、結局は何も出来ずに終わってしまった。

 

(報いを受けたんだ。……きっと)

 

 自分が担当していた沖縄では大社の存在はあってないようなもので、権力は天竜人が握っていた。

 天竜人がすることを全て見て見ぬふりをしてきた。その結果がこれだ。

 流れるままに身を任せ、波風立てずに言われるままに生きてきた。その罰を受けたのだ。

 こんな自分の姿を見て他の防人たちの士気は上がるだろうか。雀は立ち向かおうとするだろうか。

 

(あぁ……。もう考えるのも……疲れてきたなぁ)

 

 いつの間にか視界は真っ暗になっていた。戦場に響き渡る銃砲の音や喧騒の中で、何人かの少女の叫び声が聞こえた気がする。

 何と言っていたかまでは分からない。

 

「死んじゃダメだよ! 先輩……‼︎」

 

 だが意識を手放す直前に、その言葉だけは小さいながらもはっきりと聞こえた――。

 




・No.8(女でーす):『キラキラの野菜』を食べたダイヤモンド人間。身体をダイヤモンドに変えられる。加賀城雀と同じ学校であり今でも機会があれば連絡を取り合っている。天竜人たちの所業に頭を悩ませながらも大社側の人間であることや自分ひとりではどうにもできないという諦観から看過していた。


次回 進撃する“七武勇”
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