前回のあらすじ
雪花の能力が判明。それはユメユメの野菜。しかし、それは全く使えないもので、進化体バーテックスに歯が立たなかった彼女は、皆にお払い箱扱いされていたのだった……。
「……ここは本当に寒いよねぇ……」
微かにそう呟いた雪花は、それからしばらく黙っていた。まるで、全てがどうでも良くなったかのような虚な瞳をして……。
彼女は歌野たちに会った時、自分のことを道産子だと言ったが、今の彼女は、自分の生まれた地への愛着など、微塵も感じられないようであった。
ここにはもう、未練がないような、関心がないような……。
「……ってゴメンねー。暗い話になっちゃってー」
すると、いきなり雪花は明るく笑って見せた。
「まぁよーするに、私はどーしよーもない落ちこぼれってやつさ」
明らかに不自然なその態度に歌野と水都も違和感を覚えつつも、彼女のその明るさは、これ以上の介入を拒んでいる様にも思えた。
「さてさて、例の進化体バーテックスの話だけど、やっぱり明日説明するよ。神居山へ行く道中にって感じで」
「どうして?」
歌野は今すぐにでも進化体バーテックスと戦う気でいたのだが、彼女は肝心な事を忘れていた。
「うたのん。雪花ちゃんの話では、24時間は能力を使えないんだよ?」
「……? ……あっ」
今思い出した、と言わんばかりの反応である。
「そうだよー。だから今日は思いっきり休んで、明日行こう」
「オーケー」
「明日は、微力ながら支援するからさ。一緒に頑張ろうねっ」
「ええ。サンキューね」
そして、三人は近くで野宿することとなった……。
……そして翌日。三人は神居山へ向かう。
「……敵は『天秤座』って呼ばれててね。見てくれは確かに秤に似ているんだよ」
山を登りながら雪花は敵の情報を語る。
「そして、敵の能力についてなんだけどね、奴はあらゆるものを吸い寄せる能力なんだ」
「吸い寄せる?」
「そう。奴は左右に分銅を携えていてね。それが周りのものを吸い寄せる。変わった能力なの」
「……なんか、能力っていうと、うたのんたち勇者みたいだよね」
「うんそうだよ? バーテックスも私たちと同じような能力を持っているんだ」
「バーテックスが? 私たちと同じ?」
「そう。詳しい事はまだわかっていないんだけど、バーテックスも私たちと同じで勇者の野菜を食べたんじゃないかっていうのが有力な説になってる」
「へぇ。バーテックスも勇者の野菜を食べれば能力を手にできるのね」
「あくまで仮説の域を出ないけどね。……まったく、あんなものをよく食べるよねー」
「あんなもの? ……もしかして勇者の野菜って、美味しくないの?」
味を知らない水都は二人に尋ねる。
「美味しくない、のレベルじゃないね。マズイ、食べものじゃないよっ」
「へ、へえ……」
雪花のまるで苦虫を噛み潰したような顔に、水都の顔もひきつる。
「そうかしら? 変わった味だったけど不味いってわけじゃないと思うわ」
「うたのんの場合は不味くなかったの?」
「でも、勇者の野菜って全部チョー不味いって話だけど」
「『美味しい』『不味い』は人の感性だわ。甘い。とか、苦い。ならわかるけど。人の感性ってのは曖昧だから、私にはよくわかんないわ。確かに私が食べたムチムチの野菜は、苦いって表現に近い味だったけど、それもひとつの『おいしさ』だと思うのよ」
「な、なるほど……」
「うたのんは好き嫌いとか無いもんね」
「無いってわけじゃないけど、基本的に食べられるものは食べるわ」
「あっ、じゃあさ、バーテックスとか食べたりするの?」
「「えっ……?」」
急な雪花の言葉に、二人は戸惑う。……いや、内容が、内容なのだから当然だが……。
「え? バーテックスを? ……食べる?」
「何を言ってるの?」
当然、困惑した表情を浮かべている。
「まあ、端的に言えばそうなるよね。……えっとね、勇者はなぜか、お肉が食べられなくなるでしょ?」
「ええ、イエスタデイで私が倒れたわね。おまけにさっきまで能力が使えないときた」
きっかり24時間経過しなければ、能力が使えない。なので歌野の能力が戻ったのを確認してから出発したのだ。
「……でもね、例外があるんだ。昨日は色々あって説明出来なかったけど、
「えっ⁉︎ そんなドリーミーな食材が⁉︎」
もう二度とお肉が食べられないと、諦観していた歌野だったが、希望の光が差すのが見えた……と、思ったが。
「生物、と言えるかは謎だけど……」
「雪花ちゃん、それって……」
水都はその正体に気付いたようだ。
「そう! バーテックスの肉は食べても平気なのさっ!」
「「……」」
当然、二人は固まる……。
「実際に食べた人がいたらしいよ。……誰かは知らないけど、確か四勇の、なんとか、って人だった気がする……」
「どうして食べようって発想になるんだろうね」
「四勇って……。まさか、乃木さんじゃあ無いわよね?」
四勇と言われると、歌野はまず若葉が浮かぶ。なぜなら、歌野は若葉以外の四勇を知らないのだから。
「違うわね。きっと懸賞金の単位を考えた人に決まってる。バーテックスを食べるなんてまともじゃないもの」
食に寛容な歌野でさえも、食べ物か否かの分別はついているつもりだ。
「まぁ、都市伝説の域を出ないけどね。味も食えたものじゃないって話だし……。と、確かこのあたりなんだけど」
無駄話に花を咲かせていた雪花だったが、バーテックスがいると思われる場所までくると、彼女から真剣なオーラが漂ってくるのを感じた。
「「……!」」
歌野も水都も、真剣な顔に切り替える。
「……あっ、見て。あそこにバーテックスが」
雪花の指差す方向を見ると、たくさんのバーテックスがオタマジャクシのように、うようよと宙を泳いでいた。
「星屑……」
「ん? 星屑って?」
「え、ああっ。アイツらのこと。一部の人たちは進化体バーテックスと識別させてそう呼んでるらしいの」
水都はあの時の少女の話を覚えていた。
「そうなんだ。……まぁ今が夜だったら確かに星に見えるかも。……気持ち悪いけど」
雪花は槍を両手で持ち、臨戦体勢をとる。
それを見て、歌野も右手にベルトを持ち、構えた。
「あの星屑? を倒していけばきっと親玉の進化体バーテックスが出てくるよ」
「なら、邪魔されないように倒しておかないとっ」
二人はバーテックスに向かって跳躍する。
「みーちゃんは隠れていてねぇぇー‼︎」
「う、うん‼︎」
跳びながら叫ぶ歌野を見て、水都は不安な表情をしていた……。
ーー二人は一気に星屑の集団との距離を詰める。
「ムチムチのぉ、
歌野の攻撃が一体の星屑を捉える。敵は、攻撃をモロに食らい粉々に飛び散った。
「まだまだぁ‼︎」
勢いよく着地したあと、周りに漂う数体の星屑に向けて再度、鞭のようにしなるベルトを振るう。
「ムチムチの
薙ぎ払いながら一掃した後、また飛び掛かってくる星屑にベルトを振り回して粉砕していく。
「……ヒュ〜、それがムチムチの野菜の能力かー。文字通り鞭みたいにしなってるね」
雪花も無双している歌野を横目に、槍を使って星屑を串刺しにしていく。
「よっ、よっ、よっっと! ……歌野ちゃんみたいに派手じゃないけど、そこそこに殺りまっせ!」
背後から迫る敵も、槍を地面に突き刺してジャンプして躱す。まるで、軽業師の如き身軽さを見せた。
「それそれ〜」
すぐさま槍を地面から抜いて、星屑を突き刺して殺す。
「グゥレイト! それで能力を使ってないのよね」
「いやー。流石にいっぱいいっぱいですよー」
そうは言うが、雪花は余裕の笑みを浮かべている。
「……って。わあっ、あっぶないなぁ‼︎」
雪花の元へ数体の星屑が四方から襲い掛かってきた。
しかし再度、地面に突き刺した槍を軸に回転しながら向かってくる星屑に蹴りを浴びせる。
「もう! バーテックスめ、いい感じに邪魔だぁー‼︎」
素早く槍を抜き、思いっきり薙ぎ払って四方の星屑を蹴散らして撃破した。
「WOW‼︎ エクセレンッ‼︎」
「……雪花ちゃん、すごい……」
戦っている歌野も、影で見ている水都も、雪花の立ち回りに感心した。
「ふっ、はああっ‼︎」
一体一体確実に刺し殺している雪花の姿は、とてもブランクのあるようには見えなかった。
(もしかして、雪花ちゃん。密かにバーテックスを討伐しに行ってたのかな……?)
水都はその姿を見て思う。おそらく歌野も似たようなことを考えているだろう。
「必殺ッ‼︎
雪花は飛びあがり、星屑がいる方向へ槍を放り投げた。
「うああ‼︎ 槍を投げたぁ⁉︎」
投げ飛ばした槍は進行方向上の敵の体を次々と貫通していき、地面に刺さった。
「私の槍は本来、投擲を目的として造られたものなんだっ」
雪花は素早く槍を回収しに向かう。
「まあ、一旦手放すと回収しに行かなくちゃいけないのが難だけど……」
突き刺さった槍を抜いてまた、構える。
「私も負けてられないねっ。……最大リーチでぇ、ムチムチの
ベルトを最大限伸ばす。それは距離を取って様子見していた星屑へ命中し撃破に成功する。
「あっそこまで届くんだー。いいなー私みたいにいちいち回収しなくて済むからー」
歌野の戦いに見惚れながら呟く。
そして、歌野と雪花の周りにいた星屑は撃破し尽くした。
「……これで全部だね」
「増援はもうなしっと」
およそ30分くらいぶっ通しで戦い続けただろうか……。
少しだけ、歌野と雪花は肩で息をしていた。
ーーすると、
「ーー! きたよ。歌野ちゃん」
「あっ! あれが……、今回の進化体バーテックス……」
歌野と雪花の目の前に現れた進化体バーテックスはゆっくりと近付いてきた。
「……確かに天秤だわっ。こっちから見て左側に大きな分銅が一つ。右側に少しだけ小さな分銅が三つ付いてる」
「あれが『天秤座』。見ての通りさっきまでの雑魚とは違うよ。気を付けて」
歌野は気を引き締め治して、ベルトを進化体へ向ける。
「先手ビクトリー! ムチムチの
ベルトの先端は、矢のように勢いよく伸びていく……が。
それは、不自然な軌道を描いて天秤座の大きな分銅に命中した。
「えっ⁉︎」
今、歌野は天秤座の中央目掛けて攻撃した筈だが、彼女の意思とは関係なく曲がったのだ。
「歌野ちゃん、今のがそうっ!」
「アレが吸い寄せる能力ってわけね……! 実際、目で見ると確かに厄介ね」
「遠距離攻撃は意味をなさない……。私の槍の投擲も……、吸い寄せられたことがあるの……。しかもあの部位はすごく頑丈……」
雪花は敵の能力を改めて解説する……が、どこか様子がおかしかった……。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「……?」
雪花から冷や汗が流れる。その上、呼吸も荒くなっている。
「雪花ちゃん、大丈夫?」
「へっ⁉︎ う、うん……。大丈夫だよ」
笑顔で返すが、その顔は僅かに引きつっている。
「引き寄せる前に命中してしまえば良いわっ」
歌野は天秤座に向かって突っ込む、と同時に再度、ベルトを天秤座へ伸ばした。
当然、それはまた大きな分銅に引き寄せられる。
「それを利用してぇ〜、ムチムチの〜ロケット〜〜‼︎」
歌野は相手に向かって飛んでいき、ドロップキックを浴びせた。
「〜〜ッ‼︎ いったああああい‼︎」
しかし、歌野の体も分銅へ命中して、両足に強い衝撃が走った。
「う、うう……」
「っ‼︎ 歌野ちゃん‼︎」
雪花が叫ぶ。歌野が気付いて上を見ると、天秤座が小さい方の分銅を振り下ろしてきたのだ。
「ーーぐゔッ‼︎」
直撃は避けたが、分銅が地面にぶつかった際の衝撃波を軽く受け、地面を転がっていく。
「ハァ……ハァ……。やっぱり強いわぁ、進化体……」
よろけながらも、拳を地面につけ、それを支えにして立ち上がる。
「……でも、コイツを倒さなきゃ
神居山を出発する前に、雪花から聞いていた。
No.4は偶に侵攻してくるバーテックスを倒すことで、一応は旭川市の平穏を守っている。
つまり、No.4をただ倒すだけは意味がない。雪花をはじめとする旭川市の住民が彼女の悪政を見過ごしているのも、バーテックスの脅威を自分たちだけでは振り払えないからである。
噂では、No.4が天秤座を完全に討伐しないのは、住民たちをバーテックスへの恐怖で反抗させないためと聞く。
ゆえに今戦っている天秤座を倒さなければ、No.4を倒して本当の平穏を勝ち取ることはできないのだ。
「……私はなんとしても倒してみせる。アナタはただの通過点にすぎないのだからっ」
歌野はまた、天秤座に突っ込んでいった……。
……その様子を、雪花は見ているだけだった。
「……」
先程まで星屑と戦っていた様子は、なりを潜め、体は震え足を前へ動かすことができずにいるのだ。
(……いけるって思ってた。歌野ちゃんもいるし。……でもなんで? 体が……、言うことを、聞かない……)
ーーそして彼女の心に、ドス黒い影が差していくーー
進化体バーテックスも、白鳥さんたち勇者が使う能力を持っています。
なぜ、持っているかは今は秘密。
今回の天秤座然り、先の乙女座然り、水瓶座然り…。
ちなみに、水瓶座の能力は『ミズミズの野菜』です。
後の二体はワンピースに出たことある能力なので、予想してみるのも良いかも。
次回 雪花 ランナウェイ