白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。天秤座強し。


前回のあらすじ
 歌野と雪花は星屑を蹴散らし、進化体バーテックス、天秤座とまみえる。しかし、雪花の様子に異変が……?


第十四話 雪花 ランナウェイ

 歌野は天秤座に張り付いて、至近距離から攻撃し続ける。

 その攻撃は大きな分銅に引き寄せられる前に歌野の狙った場所へ命中できていた。

 

「よしよし、これを続けていけばーー」

 

 すると、天秤座が小さい方の分銅を振り下ろし、歌野を攻撃してきた。

 

「ふっ‼︎」

 

 後ろへステップを踏んで回避する。そして、また天秤座へ突っ込んだ。

 

「ムチムチの銃乱打(ガトリング)ッ‼︎」

 

 集中的に天秤座の中央を何度も何度も攻撃する。

 敵の身体は徐々に壊れていくが、倒すには程遠い。

 

「やっぱり、至近距離だから、攻撃に力が入らない……?」

 

 歌野の攻撃はある程度の距離から攻撃し、武器を加速させることで威力が上がる。

 しかし、距離が近すぎるため、また天秤座の攻撃を察知してすぐ回避行動を取らなければいけないので、全力の一撃を与える暇がない。

 

「ッ‼︎ また来たっ」

 

 振り下ろされた分銅を歌野はすぐさま離れて回避した。

 

「こういう敵は、剣か斧の方が相性いいかしら……?」

 

 天秤座を倒すには、一撃の重い武器が欲しいところである。

 最適なのは斧あたりだろうか。

 

「いっそのこと、先に大きな分銅をなんとかした方がいいかもっ」

 

 また繰り出される敵からの攻撃を避けて、少し離れた距離から仕掛けてみる。

 

「ムチムチの〜〜」

 

 ベルトを投げ縄を放るが如く、その場で回して勢いをつける。

 

攻城砲(キャノン)ーーッ!!!」

 

 今、歌野が打てる最大威力で天秤座へ攻撃した。

 

 ……それは当然、大きな分銅へ吸い寄せられる。

 

 命中した箇所に、ピキッと1センチ程度のヒビが入るのをみた。

 

「ハァ、ハァ……。全身全霊懸けても、ヒビだけ……」

 

 歌野の呼吸は乱れ、膝に手をついた。

 

「ーーえっ」

 

 ぐいっと、突然、歌野の体が敵に向かって引き寄せられたのだ。

 

「ーーきゃあああッ‼︎」

 

 引き寄せられた先にある分銅にくっ付いたあと、天秤座が勢いをつけて歌野を吹っ飛ばした。

 そして歌野は地面に叩きつけられる。

 

「い、いたた……。お、怒った?」

 

 今までは攻撃を引き寄せても、歌野自身は引き寄せられなかったのだが、敵はどうやら引き寄せる力の出力を上げたようだ。

 

「あっ、マズイッ!」

 

 すると、今度は周りの岩を分銅に吸い寄せた。

 歌野は、自分も引き寄せられないように、近くの頑丈そうな岩にベルトを括り付けて耐える。

 これでは、至近距離で攻撃できない。体ごと持っていかれてしまう。

 

「まるでブラックホールね……。あの分銅を中心として引力が働いているみたい」

 

 分銅にくっ付いている岩々は、分銅自体を覆っている。

 そして、天秤座は自身を回転させることで、デタラメに岩を飛ばしてきた。

 

「うわああーー‼︎」

「キャア‼︎」

 

 歌野の方へも、離れた場所にいた水都の方へも、岩が飛んでいく。

 

「ーーッ‼︎ ぐッ‼︎」

 

 立ちすくんでいた雪花にも飛んでいく。

 彼女は即座に槍を突き出して岩を破壊したが、その破片が彼女を襲い、雪花は地面に倒れた。

 

「雪花ちゃん‼︎ ……うわあ‼︎」

 

 後方の雪花と水都を見ていた歌野だが、また体が敵へ引き寄せられた。

 

「ッ‼︎」

 

 天秤座は回転し続けたままで、さらに速度を上げて自身の周りに竜巻を発生させていた。

 

「マズイッ! このまま引き寄せられたらーー」

 

 

 歌野の体は、また天秤座に引き込まれた。

 

 ……そう。竜巻へ。

 

「う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"‼︎」

 

 竜巻によって体が切り刻まれ、普段の歌野からは考えられないような悲痛な叫びが響く。

 まるで巨大な扇風機、またはミキサーに体を削られているかのような感覚。

 

 ガガガガガガガガ……と削られ、それでも歌野は竜巻から解放されることはなく、ついには、回転が止むまでそれを続けさせられた。

 

 ドサッと、敵から解放された歌野は力無く、そこに倒れ込む……。

 

「……っ。うたのんっ。うたのん‼︎」

 

 水都が遠くから必死に叫ぶも、反応はない。

 歌野の周りには赤色の絵の具が撒き散らされているように見える。

 

「あ、ああ……」

 

 水都の顔は青ざめた。全身から血の気がひくのを感じる……。

 

 

 

あああああああああああッッ!!! うたのんッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ーー雪花はただ、走っていた。

 

「ゔ、ゔ……」

 

 無我夢中で、下り坂となっている山道を駆ける。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ‼︎」

 

 泣き叫びながらも、その悲鳴は辺りに虚しく木霊する。

 

「ーーああッ‼︎」

 

 雪花は石に躓いて倒れた。

 猛スピードで走っていたために、坂を転がりながら下っていく……。

 

 

「……あ、ハァ……。ハァ……」

 

 擦り傷まみれになったまま、うつ伏せで雪花は涙を流す。

 

「う、うううっ……」

 

 顔は、涙や鼻水でぐしゃぐしゃになっていく。

 

 

 見てしまった……。あの光景を……。

 歌野が竜巻に吸い寄せられ、体を切り刻まれ、血まみれになって横たわっていたあの凄惨な光景を……。

 

 おそらく、歌野は助からーー。

 

「ハァ、ハァ……。ウッ! ウウッ‼︎」

 

 急に喉から込み上げてきた何かを、即座に口を抑えることで堰き止めようとしたが、耐えきれずそれをぶち撒ける。

 

「ーーうおええッッ‼︎ ーーううっえ‼︎」

 

 バタン、とその場にまた横たわる。

 

「い、いやだ……。も''う''イヤだぁ。やっぱり勝てるわけなかったんだっ!」

 

 泣きながら少しずつ這って移動していく。

 

「少しでもいけそうって思った私が馬鹿だったよ! なんでそう思っちゃったんだァ‼︎ 普通に考えたらわかるはずだよ‼︎ あんなデカいヤツなんかに、敵うわけないって……」

 

 誰に問うわけでもない。返答などありはしない。

 ただ、ただ、雪花は意味もなく叫ぶしかなかった。

 

 

 

 ……彼女の心は完全に壊れていた。

 

 一体いつからだろうか……?

 水都が星屑と言っていた、あの量産型と戦っていた時は、真逆の感情だった気がする。

 

 アイツだ。進化体バーテックス。天秤座が現れてからだ。

 

 進化体……。バーテックス……。星屑……。天秤座……。

 

「星……。天……」

 

 雪花は頭を地面に擦り付け、呟く。

 

「……空」

 

 ーーそう、呟いたとき、急に頭へ激しい痛みが襲った。

 

「ーーうぐぅ‼︎」

 

 体に震えが走り、平伏したまま動けずにいた。

 

「……空が……()()……」

 

 自分でも何を言っているのか、分からなかった。ここへ来る時は、敵と戦うまでは、そんなことはなかったはずなのに。

 しかし言葉通り、雪花は地面に顔を突っ伏して、決して上を向こうとしない。

 

「う、うう……。ううう……」

ーーねぇ? 最初の威勢は どうしたの?

「……ッ⁉︎」

 

 どこからともなく聞こえた声に辺りを見るが、ここには雪花以外誰もいない。

 

「……? ……⁉︎」

 

アイツが来たら態度が変わってさー。ピンチになったらすぐ逃げ出す。……あの頃とまるで変わってない……。自己中なヤツ……

 

 雪花は必死になって、自分の顔に両手を当てる。

 

(……? ()()()()()……)

 

 今、自分は槍を()()()()()()

 

ああ、可哀想……。彼女、きっと死んじゃうねー

「……めてよ」

 

ーーでも、アナタが望んだことよね? そうよね? だってーー

「やめてよォ‼︎ なんなのよ、あなたはァァーーッ‼︎」

 

 耳を塞いでも聞こえる声。

 その声は、雪花によく似た、いや、雪花そのものの声だった……。

 

ーーどんな手を使っても生き残るんでしょ? (アナタ)

 

 ……そう。たとえ、何を犠牲にしたって……。

 

 

 

 

 

 

 

「……私は、何も、変わってない……」

 

 頭の中に、また別の声が響き渡ってきた。

 

『ーーさすが勇者ね!』『勇者様がいてくれるから、なんとかなるでしょ!』『アナタ、御両親亡くなったんでしょ? もし、良かったらウチに来ない?』『いえいえ、でしたら我が邸宅へ』『彼女がいればバーテックスなんて関係ないなぁ!』『勇者様がーー』『よっ。平和の象徴っ』

 

(違う……。勝手なこと言わないでよ……。勝手に期待しないでよ。背負わせないでよ……)

「何も知らないくせに……」

 

 

 

『ーーおまえは選ばれし者だ。その意味を考えろ!』『大を生かすために小を犠牲とすることを厭うな』『なぜ我々を先に助けない! この土地において我々の重要性がどれほどのものかわかっているだろう!』『……彼女、市長たちを見殺しにしようとしたんじゃない?』『ああ、最近偉そうだったから……』『……自分が私たちの生殺与奪の権利を持ってるって主張したいんじゃない?』『しっ! あんまり大きな声で言ってると、助けてくれないかもよ?』『お姉ちゃんっ、ありーー』『やはり、我々のそばに置いた方が便利だろう。監視もしやすい』

 

(私は……、私はアナタたちの道具じゃないんだよ。勝手なこと言うなよ……)

「私のこと、何も知らないくせに……』

 

 不快な声は未だ鳴り止まず、頭の中を駆け巡る。

 

『勇者は?』『彼女、戦わなかったらしいわよ』『クソッ、俺たちを見捨てやがって……』『あーあ、こちとら非力な市民だってのに……』『防人の方たちが追い払ってくれたって!』『さっすが大社防人。人類の味方ッ‼︎』『これからは防人が我らの平穏を守ってくれるそうだな』

 

(何……、それ……。勝手に期待しておいて。持ち上げておいて。使えなくなったらお払い箱? あっさり手のひら返して……)

「ふざけないでよ……」

 

 

『……』

『………』

『…………』

『……………』

 

 

 ーーもう誰も、彼女を気にかけるものはいないーー

 

「ふざけんなッ‼︎」

 

 雪花はうずくまりながらも、吠える。

 

「私だって人間なんだよ! 死ぬのは怖いんだよっ! 死にそうになったら逃げ出したいに決まってるじゃないかッ‼︎」

 

 ダンダンッ、と拳を地面に叩きつけて泣き叫ぶ。

 

「期待するんなら最後まで支えて欲しかった‼︎ 最後まで期待したままでいて欲しかった‼︎ 最後まで協力して欲しかった‼︎ 捨てないで欲しかったッ‼︎ ……勝手すぎるよ‼︎」

 

ーーアナタと何が違うの?

「……っ」

 

 地面を叩き続けていた手が止まる。

 

(ち、ちが……う。私は、アイツらとは、違う……)

 

ーー何が違うの?

 

 雪花と同じ声をした()()によって、彼女は自分の言葉を顧みる。

 

 

『ーーいけるって思ってた。歌野ちゃんもいるし』

 

 

「……あっ、ああっ」

ーーアナタだってあの勇者、白鳥歌野に、勝手に期待してたじゃない。支援する、とか言いながら背負わせてたじゃない。……そして、状況がマズくなったら見捨てたじゃない。今っ、ひとり逃げ出して

「……」

 

 雪花自身も、歌野に期待していた。……歌野なら、歌野となら天秤座を倒すことができるのではないか、と。

 だが、雪花は天秤座とは戦わず、歌野ひとりに任せっきりだった。

 そして、敵の攻撃で歌野がやられると、次は自分だと……。そう感じて一目散に逃げ出してきた。

 

(私は……、アイツらと、変わらない……?)

 

 結局、雪花は自分の事をお払い箱扱いしていた、市長たち権力者と何も変わらなかった。

 いや、戦う力を持っている分、雪花の方がタチが悪い。

 

ーーこれで、白鳥歌野が死んだら、アナタは最低の勇者ね。……アナタは死にたくなくて逃げ出したけど、彼女はどうかしら?

 

「歌野ちゃんなら……、多分、逃げて、くれるはず……」

 

 生きているのかわからないのに、雪花は自分に言い聞かせるように呟いている。

 

「生きてるのならっ、きっと、逃げて……」

 

 歌野だって、勇者である前に人間だ。死にたくなんてないはずだ。

 自分が真っ先に逃げ出したから、きっと彼女も逃げのびるだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 ……本当にそうだろうか?

 

 

「……ああ、彼女はきっと、逃げてくれないね」

 

 あの時、彼女は胸に突きつけられた銃をものともしなかった。

 ハッタリだという根拠もないのに……。

 

「いや、歌野ちゃんは、()()に、逃げてくれない……」

 

 よろけながら、雪花は立ち上がる。

 

「……今もまだ、戦っているのかもしれない。この地を救うために。水都ちゃんを守るために……」

 

(なら、私はどうすればいい……?)

 

 

 少しの間、立ち尽くしていたが……。

 

 

「ああ……。どうするか、なんて。答えはとっくに出てたじゃないか……」

 

 そして、ゆっくり、ゆっくりと、足を前へ出す。

 俯く中、汗が頬を伝っていく。

 

「ハァ……。ハァ……」

 

 雪花の真上で輝き照らす太陽すらも、彼女にとってはおぞましきもの。

 大気がない宇宙空間で照らされているような威圧を感じながら、それでも歩き続ける。

 

「動け……。動け、私の体……」

 

(天秤座から逃げる時はあんなに速く走れたじゃないか。……走れよ。……走れ、私の足ッ)

 

ーーん? 今更どこへ行くの? ()()()()へ行くんじゃないの? まさか戦いに行くの?

 

 すると、また声が聞こえてくる。

 

「……ちょっと黙ってて」

 

ーー何で? どうして? ……それは、アナタがーー

 

 

 

 ーー秋原雪花は勇者であるから?

 

やかましいわいっ‼︎

 

 つい、勢い余って変な(素の)口調になってしまった。

 

 雪花自身も今の自分に問いたいぐらいだ。

 自分がどうしたいのか。なぜ、そうしたいのか。

 

「……‼︎」

 

 途端、雪花は走り出した。坂を駆け上がっていく。

 

(自分でもわかんないさっ! 何でそうしたいのか! また()()()へ逃げ込めばって思ってたのに。……理由なんてわからないさ。いや、どうでもいいんだよっ)

 

 

『何の話かよくわからないんだけど、雪花ちゃんの悪口を言うのはやめて』

『離せよ。お前、あれの何なんだよ』

『友達よ』

 

 

 No.4との諍いの際、歌野は言ってくれた。会ったばかりの雪花に対して、友達だと。

 

(……あのときっ、なんか嬉しかったんだっ。心があったかくなったのを感じたんだ。あの時も、そう)

 

 

『お姉ちゃん、ありがとうっ』

 

 見知らぬ老人とその孫を助けた時、少女は笑って、雪花に感謝してくれた。

 

『ん。良かったね無事で。……怖かった?』

『うん。……でも私負けないもんっ』

『そっか。偉いね』

『勇者様がいてくれるから』

『……それじゃ』

 

 

 寒いばかりだと思ってた雪花にとって、あの二人の存在は……、どこか暖かく、安心する気持ちになった。

 例えるなら、炬燵にいるような……。そんな感じだ。

 

「はっ……。まったく、嫌になるよ」

 

 鼻で笑う。

 これからまた死地へ向かうというのに雪花は笑っていた。

 戦いから逃げだし、しかしそんな自分も嫌でまた逃げ出した。

 

 

 ……いや、今回は『弱い自分』から逃げ出すのだ。

 

 

(どうか、どうか間に合ってっ! 歌野ちゃん!)

 

 

 そして雪花は歌野たちの元へ、全速力で向かう。

 

 

 

 

 

 ーーもう、空は怖くない。

 

 




 ミキサーにかけられた白鳥さんの出血の量は常人なら絶命レベルでしょうね。
 でも、アニメの高嶋さんはそれを超える量の出血で生きてたから多分大丈夫でしょう。


次回 北海道を救うもの
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