白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

15 / 112
拙稿ですがよろしくお願いします。白鳥さんがミキサーにかけられた。ひと呼んで、白鳥ミ......おっと、危ない……。タブーワードだった……。


前回のあらすじ(?)
歌野が倒れる。雪花逃げる。迷走する。過去を振り返る。勇気を振り絞って歌野たちの元へ走る。
↑この間、多分世界最短記録。


第十五話 北海道を救うもの

「うたのん‼︎ ねぇ‼︎ うたのん‼︎」

 

 遠くから水都が必死に呼びかけるが、倒れている歌野から反応は返ってこない。

 歌野のそばに浮かんでいる天秤座はゆっくりと、水都の方へ向かってきた。

 

「……! こっちに来るっ」

 

 水都は慌てて天秤座から更に遠ざかる。

 

(バーテックスが私に食いついてきた。なら撒いてうたのんの無事を確かめなきゃ)

 

 水都は岩場を利用して天秤座に捕捉されないように逃げ回る。

 

(……あれ? そういえば雪花ちゃんは?)

 

 辺りを見回すと、いつのまにか雪花の姿は無かった。

 

「……?」

 

 不思議に感じつつも、そのまま大回りして歌野の場所へ戻ろうと走る。

 

 

 

 

 

 

 ーー水都は迂回して、天秤座を撒き、歌野の場所へ戻ってきた。

 

「はっ、はっ……。うたのんっ‼︎」

 

 体を軽く揺する。水都の手には歌野の血が付着したが、そんな事は関係ない。

 歌野の胸に耳を当てる。

 

(……っ。心臓は動いてるっ)

 

「う、うた……のん……。うたのんっ!」

 

 涙ぐみながら歌野に呼びかける。

 

 ーーすると、

 

「うたのーー」

「……そば」

「えっ⁉︎」

 

 歌野はパチっと目を開いて叫んだ。

 

「そおぉ〜〜〜ばあぁ〜〜〜‼︎」

 

「……え、うたのん?」

 

 歌野が目覚めたことに喜びを感じつつも、戸惑っていた。

 

「うた、のん?」

「ああ〜〜‼︎ 痛いッ! スーパー痛いッ‼︎ お腹減ったッ! 蕎麦食べたいッ‼︎」

「な、何を言って……」

「思ったこと全部‼︎ ……ふぅスッキリした〜」

「……」

 

 水都は呆れてものが言えなかったが、気にせず歌野は立ち上がる。

 

「あら? 雪花ちゃんと、進化体バーテックスは?」

「……雪花ちゃんはうたのんが倒れている間に姿消しちゃってた。進化体は私が撒いた。……でも多分もうすぐ来るよ」

「みーちゃんが? 進化体バーテックスから逃げ切れたの⁉︎」

「逃げ切れた。っていうか、向こうはノロノロ動いてただけだし、攻撃もしてこなかったよ」

「え、どうしてだろ?」

「きっと、敵は遠距離攻撃できないんだよ。……それに戦い方もうたのんたちが仕掛けてきたら対応するっていう、迎撃方法をとってた」

「う〜ん。言われてみれば、確かに……」

 

 顎に手を添えて悩んでいる歌野。

 

「……確かに、向こうから攻撃してこなかったよね、アレ」

 

 歌野が遠くに視線を向けると、天秤座がゆったりと向かってきているのがわかった。

 

「……やっぱりまだ戦うんだね。そんな傷だらけなのに」

 

 水都は暗い顔をしていた。当然のことだろう。

 

「うん。……だってこれはチャンスなの」

「チャンス?」

「敵を倒すチャンス。それに、いつまでもここ、北海道をそのままにしておけないじゃない?」

「……」

 

 水都の表情は暗いまま、歌野の手をぎゅっと握る。

 

「……血、とまってる」

「ホントだ……。勇者ってアメージングっ」

「……でも、もうこれ以上怪我しちゃダメだよ?」

「それは……、約束できないかも」

「なら……、絶対に死なないで」

「にっしっし〜♪ それなら、約束できるわっ」

 

 ポンポンと水都の頭を撫でてから、歌野は迫ってくる天秤座に向かって跳躍した。

 

 

 

 

 

「ーーさぁて、2ndラウンドといこうかなっ」

 

 敵の分銅目掛けてベルトを高速に回転させて溜めをつくる。

 

「ムチムチの〜〜! 攻城砲(キャノン)〜〜‼︎」

 

 再度、渾身の一撃をぶつける。

 しかし、その攻撃は分銅にヒビを入れるだけ。

 

「んもぉ〜! さっき与えたダメージは修復してるし、今攻撃した箇所も後で元通りになる……。ズルいったらないわっ」

 

 天秤座の反撃に備えて、また距離を空ける。

 

「……遠いと、私の攻撃は大きな分銅へ。近いとまた竜巻に吸い込まれるし。……なにかひとつ、決定打がほしいわ」

 

 天秤座を隈なく観察しているが、これといって思い浮かぶ策は……。

 

「いや、待って……?」

 

 歌野は天秤座のある部位に注目する。

 

「狙うのは分銅じゃなくてーー」

 

 ーーその瞬間、天秤座の背後から何かが飛び掛かった。

 

「うおおおおおおおおおおッッ‼︎」

 

「ーーッ⁉︎ 雪花ちゃん⁉︎」

 

 雪花は叫びながら天秤座の中心へ槍を突き刺した。

 

「ゔゔゔぅぅ〜〜‼︎」

 

 そしてそのまま突き刺した槍に力を込めて真下へ敵の身体を破壊しながら滑っていく。

 

「ーーっあああ‼︎」

 

 思わぬ攻撃を受けた天秤座は真下にいる雪花に向けて小さな分銅を振りかざす。

 

 ドカッ!!!

 

「ーーぐああッ‼︎」

 

 その攻撃を槍で受け止めたが、その勢いに耐え切れず雪花は吹っ飛ばされた。

 

「雪花ちゃん‼︎」

 

 歌野は慌てて雪花の元へ駆け寄り、抱きかかえて敵から遠ざかる。

 

「ハァ……ハァ……。歌野ちゃん、元気そうで良かった……。あ、ありがと。……そしてごめん」

「え?」

「べ、弁解の余地はないよ……。ホントに、謝っても済むことじゃないんだけど……」

「な、何が?」

 

 唐突な雪花の謝罪に、歌野は戸惑っていた。

 

「……後でちゃんと謝るから。いま、だけは……。アイツを倒すまでは……」

「え、ええ……」

 

 雪花は槍を地面に刺して、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……でも、倒し方なんてわかんないんだよね。は、ははは」

 

 ぎこちない笑い方で天秤座を見る。

 

「いえ、なんとなくだけど、分かったわ」

「え?」

「アレの倒し方」

 

 歌野はベルトを長く伸ばしてリーチを広くとる。

 

「そのためには、危険だけど、敵に張り付かないとダメみたい」

「張り付く? でも、また竜巻に引き寄せられたらっ」

「ええ。でも、それを利用しなきゃ倒せない」

 

 歌野はそう言い残し、天秤座に向かって走る。

 

「ムチムチの〜、拘束(バインド)ーッ‼︎」

 

 長くしたベルトを大きな分銅に絡み付かせた。

 

「これを〜、引っ張る〜!」

 

 綱を引くように分銅を天秤座から引き千切ろうとしている。

 

「う、うたのん……?」

 

 遠くから見ている水都も、雪花も困惑していた。

 

「い、意味ないよ歌野ちゃん! そんなので取れるわけが……」

 

 すると歌野の体は逆に、天秤座へ引き寄せられていった。

 

「あっ‼︎ あれがくるっ‼︎」

「うたのん、逃げてぇ‼︎」

 

 二人とも、引き寄せた歌野を、また竜巻で切り刻むのだと思った。

 

「きたぁ! ここでっ」

 

 歌野は分銅に引き寄せられると同時に、ベルトを収縮させた。そして、分銅に密着させられる。

 

「いたっ! ……でも、これならイケるかもっ」

 

 歌野はそこから、ある部位を集中的に狙って攻撃した。

 

「……接合部?」

「そうか……!」

 

 歌野がベルトで何度も殴りつけている箇所は、天秤座の身体が大きな分銅を吊り下げている接合部である。

 

「これをっ、切り離せばっ、引き寄せる能力が使えなくなるかもしれないっ」

 

 すると、天秤座は接合部を攻撃されるのを嫌がったのか、分銅にくっ付いている歌野を振り解こうと分銅を振り回す。

 

 そして歌野の体は分銅の引力に解放される。

 

 そこを狙ってーー

 

「ーー今だっ‼︎ ムチムチの〜、(スピア)ーーーッ‼︎」

 

 飛ばされながらも勢いをつけてベルトを伸ばす。

 それはブレの無い一直線で天秤座の頭部らしき箇所に飛んでいく。

 

(私を振り解く瞬間は、引力がなくなる! じゃないと私を引き離せないからっ)

 

 歌野の攻撃は天秤座に命中し貫通した。

 そして、地面に着地したあと、すぐさまベルトを収縮させる。

 

「これで……」

 

 天秤座は歌野の攻撃でぐらついていたが、体勢を立て直すと、自身の身体を回転し始めた。

 そしてそれは、竜巻のように突風を巻き起こす。

 

「よっ、とっ、と!」

 

 先のことから、歌野は急いで雪花のいる場所まで距離をとった。

 

「……また竜巻。どうする歌野ちゃん」

「ちゃんと考えてあるよ。アレの攻略法」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「……?」

「少々危ないことするけど、私を信じてくれる?」

 

 そう言った歌野の表情から雪花は強い意志を感じた。おそらく止めたとしても歌野は従わないだろう。

 止めるつもりもないが。

 

「……うん、信じるよ。歌野ちゃんを」

「ありがと。じゃあ合図を出すまで構えて待っててね」

 

 歌野はこの周辺で一番高い場所へ行き、竜巻を纏い近付いてくる天秤座を見据える。

 

「これで終わりにするっ。もうアナタにはチェックメイトがかかってるんだから! ……ムチムチのぉ〜〜、ロケット〜〜‼︎」

 

 歌野は思いっきりジャンプして天秤座の真上を取る。

 

「そぉぉこぉぉだぁぁーー‼︎」

 

 そこから竜巻の中へ吸い込まれていく。

 

「ま、まさか……、うえから……、竜巻の目を狙って……⁉︎」

「うたのん‼︎ 大丈夫なの⁉︎」

 

 歌野は竜巻に突撃しながらベルトを大きく回転させる。

 ベルトは天秤座の纏った竜巻の風を纏って徐々に小さな竜巻となっていった。

 

「アナタの竜巻っ、利用させてもらうわっ!」

 

 荒れ狂う突風の中、歌野の体はまた切り裂かれていくが構わず、ベルトを回し続ける。

 

「うおおおおおおおーーーッ!!!」

 

 歌野は天秤座の頭から突っ込み、竜巻を纏ったベルトを振りかざした。

 

「ムチムチのおおおおお! 暴風雨(ストーム)ーーーーッ!!!」

 

 今、天秤座は回転しているため、引力の核となっている分銅も回転している。

 歌野自身も回転しながら攻撃を繰り出す。

 それは天秤座の頭を貫き、身体を破壊させて分銅に直撃した。

 

 

 ドォーーン!!!

 

 

 そのまま歌野は地面に落下した。

 

「歌野ちゃんッ‼︎」

「ーー今ッ‼︎ 雪花ちゃんッ、今なら接合部を破壊できるッ‼︎」

 

 地面に不時着していた歌野はすぐさま起き上がり雪花へ追撃の合図を出す。

 

「んッ! わかったぁ!」

 

 雪花は跳び上がり、真上から分銅を吊るしている接合部に向けて槍を放り投げた。

 

飛翔する槍(オプ・ホプニ)ィィィィィィ!!!」

 

 槍は一直線に破壊すべき対象へ向かっていく。

 

「真上のこの位置からなら、たとえ引き寄せられたとしても先に接合部を貫けるはずっ‼︎」

「いっっけぇぇぇぇ!!!」

 

 そして槍は見事に、接合部を破壊して大きな分銅に突き刺さった。

 

「ーーっっよぉっし!」

 

 天秤座から離れた分銅は地面を転がっていく。

 

「ナイスッ雪花ちゃん!」

 

 歌野は地面に転がった分銅にベルトを巻きつけた。

 

「ムチムチの拘束(バインド)ッ!」

 

 そして、分銅を力一杯持ち上げる。

 

「う、ううっ……」

 

 次に歌野はハンマー投げのように、体を回転させて分銅を浮かせていく。

 目的は分銅を、疲弊している今の天秤座へ食らわせ、トドメを差すこと。

 

「こ、れぇ、でぇ〜! ……アナタを倒すッ‼︎」

 

 天秤座を倒すには一撃の重い武器が必要だと思っていた。

 一番適しているのは斧だろうと。

 

「斧、以上に重い、一撃を〜」

 

 そして、ほぼ頭上高い位置に分銅を浮かせて、そこから一気に天秤座へ振り下ろすーー

 

 

「ムチムチのぉぉぉ! 大槌(インパクト)ーーッッ!!!」

 

 

 

 渾身の一撃は天秤座の身体を粉々に破壊した。

 と、同時に分銅も壊れ、それらの残骸がガラガラッと音を立てて周りに散らばった。

 

 

「だぁ……、はぁ……、ぜぇ……、はぁ……」

 

 歌野は肩で息をしながら、完全に破壊された天秤座を見ながら……。

 

「……」

 

 

 どさっ

 

 

「うたのん‼︎」

「歌野ちゃん‼︎」

 

 その場に倒れ込んだ彼女に水都と雪花は駆け寄る。

 

「大丈夫? うたのんっ⁉︎」

 

 水都が呼びかけたが、反応はない。

 どうやら気を失っているようだ。

 

「……多分、貧血かも。戦いが終わって気が抜けたんだよ……」

 

 二人は眠っている歌野の顔を眺めながらその場に腰を下ろした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……次に歌野が目を覚ましたのは真夜中だった。

 

 

「……ん? んん? ……そっか、私寝てたんだ」

「あっ、起きたんだね」

 

 雪花は体を起こした歌野の横に座る。

 

「ハロー。雪花ちゃん」

「……うん」

「みーちゃんは?」

「そこで寝てるよ」

「ホントだ」

「……」

「ん? どうしたの?」

 

 雪花は歌野の正面に座り直し、頭を地面につけた。

 

「ごめんなさいっ!」

「……え?」

「ちゃんと謝りたかった。……いや、途中で逃げて見殺しにしようとした私が、謝っても許されることじゃないのはわかってるけど、でも、まず謝らなきゃって……」

「……」

 

 雪花はあの時、戦いから逃げ出したことを謝罪してきた。

 しかし、一時的に意識を失っていた歌野にとっては身に覚えのないことだ。

 

「私には雪花ちゃんが何について謝ってるのかわかんないけど、頭を上げて?」

「歌野ちゃん……」

「許すも何も、私は怒ってないわ。気にしてない。結果的に私は生きて、ここにいる」

「……」

「それに雪花ちゃんは逃げてないわ」

「え?」

「ただ、一旦隠れて進化体の目を離した隙に後ろから攻撃した。……そう、これは作戦だったのよ」

「ち、違っーー」

「違わない」

 

 歌野はあくまでも雪花の逃走を、作戦と称することで雪花の重荷を解こうとしているのだ。

 

「……で、でも、一歩間違えたら死んでたかもしれないのに」

「死んでない。私は生きてる。雪花ちゃんもみーちゃんも無事。そして敵は倒した。それで充分じゃない?」

 

 それを聞いた雪花の目から、涙が溢れ出した。

 

「……ホン、トにゴメンね。そして、ありがとう……」

「だからもう謝らなくていいんだって。……それに私はね、死ぬことなんて怖くない。"農業王になる"っていう偉大な夢のためならね」

「どうしてそこまで? 農業王っていうのになるためには、四国に行くんだよね? そこまで行くのに一体どれほどの危険が待ち受けているか……」

「それでも、私は"農業王になる"って決めたんだもん。……出来る出来ないじゃない。なりたいからなるの。例え死ぬほど危険でも構わない。……そのために戦って死んじゃうんなら、それはそれで良い」

「……歌野ちゃん……」

 

(夢のためにそこまでの覚悟を……)

 

「ーーあ痛っ」

 

 突如、歌野の頭に水都からの軽いげんこつが入った。

 

「う〜た〜の〜ん〜」

「あっ、起きたんだ。ってか怒ってる?」

「怒ってるよっ。死ぬのは良いって⁉︎ 良いわけないよ‼︎」

「わかってるわっ、約束したもんね。私は死なない。だから私は絶対農業王になるっ」

 

 歌野はゆっくりと立ち上がって夜空を仰ぎ見る。

 

「私の人生は、死ぬか、農業王になるか、の二択。……そして、私は絶対に死なない。つまり農業王になるのは確定なのさ♪」

「……?」

「えーっと……」

 

 歌野の謎理論に二人の思考は追いつかなかった。

 しかし、水都はもちろんだが、雪花も歌野の夢が実現することは不可能ではない、と思ってしまう。

 

 ……歌野なら、実現できてしまうのではないかと……。

 

 

「……よっし! 進化体バーテックスも倒したし、明日、防人を倒しにいこうっ!」

「やっぱり行くんだね……」

「当然だよ、みーちゃん。まずここ、北海道を救わなきゃいけないからねっ」

 

 

 

 

 ーーそして、彼女たちは一夜を明かし、防人の元へ向かう。

 

 




 天秤座の倒し方は、大体みんな同じ。上からドーン! これでヨシ。


次回 大社防人、No.4の実力!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。