前回のあらすじ
No.4との戦闘が始まり、最初は善戦していた歌野と雪花だったが、ギアギアの野菜の能力により、一気に逆転。追い詰められる二人だったが、歌野の夢を笑いものにしたNo.4に水都がキレた……⁉︎
「……うたのんの夢を笑うなッ‼︎ 今すぐ謝れッ‼︎」
「おい、何勝手に
「か、かかってこいっ。私が"三人目"だっ」
「そーか」
水都はまた小石をNo.4へ投げる。それをNo.4は難なくキャッチした。
「……で? 謝る必要がどこにあるんだ?」
スタスタ、と水都の元へ歩き出した。
「ま、待って……。逃げて!」
「嫌ッ! うたのんが、雪花ちゃんが傷付いているのをこれ以上見ているわけにはいかないもんっ」
そして、水都はまた小石を拾い上げた……。
しかし、それを投げようと顔を上げたときーー
「ーーおい、どこ見てやがる?」
「うあッ‼︎」
小石を拾う僅かな間に、No.4は背後にまわり、髪の毛を掴んで強く引っ張った。
「い、いた……い」
「みーちゃん‼︎」
「おまえも四国へ行く、とか言うクチか?」
苦痛に顔を歪ませながらも、水都は睨みつける。
「とう、ぜん、だよ。……うたのんは必ず、四国へ行って……、農業王になるんだから。私はそれを一番近くで見届けるの……」
「アタシは別にノーギョーオーを笑ってるわけじゃねぇ。聞き捨てならねぇのは"四国へ行く"ことさ」
「同じだっ! うたのんの夢を叶えるためには、四国へ行って、神樹様の恵みを手に入れることなんだからッ‼︎」
「ぷっ……」
No.4は吹き出した。
「神樹様だァ? ますますアホらしい。とんだ妄想女だぜ。そういう絵空事はぁ
「……くっ」
「様々な思惑で、四国を目指そうとする奴らの話は散々聞いた。七武勇とかな。他にも"夢"や"希望"と称する奴らもいたが、結果的には防人に捕まるか、バーテックスに食い殺されるか、だ。そのくだらねぇ夢に目が眩んだアホ共は足元に転がってる利益にも気付かず、叶いもしない幻想に振り回され死んでいく。……そして最期にゃ『夢に生きれて幸せだったろうな』。そう言われるだろう。……負け犬の戯言だよ! そういうアホ共の生き方はなァ、心底虫唾が走んだよ‼︎」
「ーーぅ!」
もう片方の手を拳にして、水都の腹部を殴りつけた。
次に、顎へアッパーを放つ。
「ーーっ」
水都は唇を切ってしまい、口元に血が垂れる。
「それでもうたのんは……、私たちは夢を見るんだ、よ……」
「何度も言わせんなァ! 夢見る時代はとっくに終わってんだよォ!」
「……」
それでも水都は睨み続けた。歯を食いしばり、痛みで涙を流しながらもNo.4へ怨嗟の眼差しを向ける。
「……気にいらねぇな、無能力者が。 勝てないとわかっていながら、一体なぜそんな目をする? 何に怒ってやがる?」
「……たから」
「あ?」
息を乱しながらも、水都は言い放つ。
「
「……?」
「みーちゃん……」
水都の脳裏によぎるのは、歌野の夢に対する想いの言葉……。
『ーー私は農業王になる夢を叶えるために死を覚悟しているつもり……』
『ーー出来る出来ないじゃない。なりたいからなるの。例え死ぬほど危険でも構わない……』
歌野は夢のために、本気で命を懸けている。
その夢を笑われたのだ。
「だから私は貴女を許さない……」
「ギャッギャッ! ……おまえに許しを乞うつもりはねぇ。アタシは大社の防人なんだからなっ」
「貴女が一体、
親友である歌野の夢を笑われることは、水都にとって……、何よりも許し難きことーー。
「うたのんの夢は、命を懸けた夢だから……。冗談で言ってるわけじゃ無いんだよ……」
水都はこの場にいる全員に向かって大声で吠えた。
「貴女たちなんかがあ‼︎ へらへら笑って、馬鹿にしていい夢じゃないッ!!!」
「ーー偉そうにほざいてんじゃねェ‼︎」
水都を地面に押さえつけ、うつ伏せになっている彼女の背中を踏みつけた。
「ーーああ"ッ‼︎」
「どれだけ吠えようと、力のねぇおまえらは無様に地を這いつくばるしかねぇ」
「ち、力がないのは、貴女も同じだ……」
「なんだって?」
背骨が軋みそうなほど力を入れられても、水都は耐え、苦笑いを浮かべた。
「……夢も無く、ここで仮初の平和を謳って、その足元の利益を貪ってる貴女は……、うたのんの夢の
「夢の意味ィ……?」
「……私たちの故郷、長野の諏訪は、四国の外で、バーテックスの侵攻が、一番少ない地域なんだ……」
「諏訪……ねぇ」
「なぜなら、うたのんが中心になって農業に勤しんでいるからっ……。バーテックスは、人間が造ったモノを破壊しても、自然が生み出したモノには手を出さない……」
「じゃあ何? 農業やってるから、わざわざ地面に種植えて自然物として育ててるから、バーテックスがあんまり寄り付かないって?」
「その仮説に気付いた時、思ったんだぁ……。うたのんが神樹様の恵みを手に入れて農業王になったら、きっと……、バーテックスが今よりもっと近寄らない環境になるんじゃ無いかって……」
これ以上潰されないように、体全体に力を入れて踏ん張る。
「うたのんが農業王になることは、本当の平和に繋がることなんだって信じてる……」
押さえつけられている頭を必死で上げようとする。
「うたのんの夢はあ‼︎ 平和の象徴なんだああ!!!」
「……もう御託は充分だ。
No.4が振り返ると、ベルトを回しながら突撃してくる歌野と、槍を突き出してくる雪花の姿があった。
「後ろからブンブンブンブン、丸聞こえだったんだよ! 不意打ちなら静かにやりなァ! あと、ドタドタ足音もうるせぇ」
「みーちゃんからぁ、離れてッ‼︎ ムチムチの、
No.4は水都から離れ、先に来た雪花の刺突を避けて、カウンターの蹴りを放った。
「ーーぐぁっ」
続いて、歌野の攻撃を雪花を蹴った状態から流れるように回避する。
「残念だったなァ。今の攻撃が当たっていれば、アタシに致命傷を与えられただろうに……」
「貴女は二つ、大きな勘違いをしているわっ!」
歌野は伸ばしているベルトを、一方の手を使って弛ませた。
「まずひとつ! これはフェイクッ。避けられる前提でアタックしたのよ。
「……ここっだあ!」
避けたはずのベルトの先端は、先に蹴飛ばされた雪花の方向に伸びており、彼女はそれを槍でNo.4側に打ち返して体に巻き付かせたのだ。
「ーーちぃ」
「これで逃げられないでしょ! ムチムチの〜〜」
歌野は捕まえたNo.4を、ベルトを収縮させることで引っ張り込んで、思いっきり頭突きを放った。
「
「っつ。……っテェ」
その時、No.4が付けているバイザーに縦方向の亀裂が入った。
「……!」
「アンドォ〜〜」
No.4から離れ、歌野は力を込め彼女を一旦、宙に浮かせた後……。
「ムチムチの
地面に向かって真っ逆さまに叩きつけた。
「ーーどぉぅはぁっ」
頭から落とされ、No.4は地面に横たわった。頭からは血が流れ、バイザーは完全に壊れて地面に散らばる。
「……ふたつめっ。みーちゃんは別に時間稼ぎで言ってたわけじゃない。貴女の態度に本気でアングリーだったの……」
水都はこれまで歌野の目的をあまり口外しないように努めていた。
しかし、今はそれを気にしなくなるほどにキレていたのだ。
……No.4が倒れている様子を見て、外の二人はざわつく。
「……嘘よね? 負けるはずないよね……」
「……今の、結構なダメージだった」
No.4は仰向けのままで……。
「騒ぐな……。アタシが負けるはずねぇだろ」
そう言って立ち上がった。
「……! まだ、動くんかい……」
雪花は槍の切っ先を真っ直ぐ突き付ける。
それを見てNo.4は不敵な笑みを浮かべていた。
「……アタシを倒せた、と思ったか……? 残念」
ゆっくりと、二人に近付いていく。しかし、その足取りはどこか重く見えた。
「認めて。……貴女の負けよ」
「負け? 誰が?」
「貴女が」
「……誰が決めたんだアアアアアアアアアアアア!!!」
真上を向いて叫んだ。……と、同時に。
ガチャ……。
「「……‼︎」」
雪花も歌野の聞き逃さなかった……。
No.4の体から鳴った、
「図に乗ってんじゃあねぇよ、この雑魚がァァァ!」
一瞬にして、二人の目の前に接近し、歌野の顔を右手で殴り飛ばした。
「ーーっぐ!」
続いて、その体勢から右足を伸ばして雪花に蹴りを放った。
「ぐぅあッ‼︎」
二人とも、まったく反応できなかった。
「……どうした?
地面に横たわっている歌野に蹴り付け、追い討ちをかける。
「ーーッ‼︎」
「ギャッギャッギャッ‼︎ やっぱり雑魚が地に突っ伏している姿は無様で良いなァ」
「くっ、うう……」
「ああそうだ、さっき諏訪って言ってたよな。知ってるか? 長野と
「……ど、どういう」
「アタシはな。"超資本主義社会"をこの旭川市で実現させてんだ。少し歪に見えるがな。……おまえらもこの街にいたんなら知ってるだろう? 商品の価格が異様に高騰してんのが」
「……!」
それは雪花はもちろん、歌野と水都も商品の価格を見たときに真っ先に感じたことだ。
「普通なら手を出し辛い値段だ。だが買わなきゃ生活できない。じゃあどうする?」
「……だから住民のみんなを過剰に働かせているのかっ」
雪花が片膝を付けて起き上がりながら答えた。
「そうさ。働かざるものってやつだ。物が欲しけりゃ働いて稼げ。そうやって金まわりを激しくしてこの街を作り上げた。だからここは他二つと違って都会で裕福なんだよっ」
「……そんなの嘘っぱちだっ! 無理矢理働かせて奴隷のように扱って、それが侵攻前の文化を倣ってるだってぇ⁉︎ 笑わせんな‼︎」
雪花は声を荒げた。自分の暮らしていた街の真実の姿を今、それを敷いている本人から聞かされたから。
「アタシがやってるのは、あくまで"超資本主義社会"さ。……それに奴隷って言うなよ。 "奴隷産業"は沖縄でやってる
「「なっ……!」」
「残る諏訪は一次産業ばっかやってるって聞いた。 ああ、だから農業で王様になりたかったのか。……今、合点がいった」
「……許さない……」
「ん?」
「雪花ちゃん」
雪花は立ち上がり、槍を片手に大きく仰け反った。
「貴女がいるから……、この街は寒くなる一方だ」
「あぁ? 何の話だ?」
「この街の人たちが寒くなるのは貴女のせいだと言ったんだッ‼︎ ……
仰け反った状態から槍を、No.4の頭目掛けて投げ飛ばす。
「ーー!?」
しかし、No.4は頭を傾けてそれを避けた。
「……やたら
「くっ……」
「この街の奴らは働くことでしか生きていけない。それ以外の事には構ってられないのさ。今はもうおまえに関心がないのも、他人に構う余裕がねぇからだ」
「ーーそれは貴女のせいじゃないかァァ‼︎」
「雪花ちゃんッ‼︎」
雪花は殴りかかろうと拳を大きく振りかぶったが、No.4に掴まれ、一本背負いで投げられた。
「くうっ……」
「言ったろ?
「ーームチムチの〜〜」
そこへ、歌野がベルトで攻撃する……。
しかし、
「邪魔だ」
「……⁉︎」
ベルトを伸ばした時には、No.4は歌野の懐に入り込んで胸に掌打を当てる。
「ぐっっふ」
口から血が滲む。肋骨にヒビが入るのを感じ、そのままうつ伏せで倒れる。
さらに、No.4は倒れている歌野の右腕を掴み上げて、本来
ゴキッ
「〜〜〜っあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"‼︎」
激しい痛みに苛まれ、ベルトから手を離した。
「もう片方の腕もイッとくか?」
No.4が痛みに悶えている歌野の左腕に触れた瞬間ーー
「ーーこのぉッ‼︎」
「っんがッ!」
後ろから雪花に頭を蹴り飛ばされた。
「せっ、か、ちゃん……」
「……っ」
「……いい感じに邪魔だな、秋原雪花ァ。 アタシはもう、とうにキレてんだ。だからイテェの食らわせてくれた
No.4は右手の親指以外の四本指を真っ直ぐに伸ばして……
「まずおまえからだなーー」
「…………え」
気が付いた時には、雪花の胸は……。
「ーーうっ、ウウ‼︎ ……ガハァアッ‼︎」
No.4の手によって貫かれていた……。
「せ……っか、ちゃん?」
歌野も水都も、防人二人も、その光景に衝撃を受けていた……。
「
「せっーー」
ズボッ と雪花の体から右手を抜き出した。
そして、血に染まる手を見ながらNo.4は嘲笑う。
「そして次はおまえが死ぬ番だ、白鳥歌野。……夢に生きれて幸せだったか?」
「雪花ちゃあああんん!!!?」
雪花はスローモーションに陥ったかのように、ゆっくりと地面に向かって倒れていく。
「……あれ……? 私死ぬの……」
地面に絶え間なく流れ続ける血液を目に、雪花の体は徐々に動かなくなっていく。
「……歌野ちゃ……。私……実は……歌野ちゃんの夢……一緒に見たかっ……。ゴメ……」
蚊の鳴くような声で何かを呟いていたが、おそらく誰にも聞こえていないだろう……。
そして、雪花は虚ろな目をしたまま、口や胸から大量の血を流し、息を引き取った……。
・・・・・・・・・
「……っていう夢を視たの?」
「ーーッ!?」
パリーーーン!!!
突如世界が……、No.4の見ている光景は、ガラスのように粉々に砕け散った。
そしてそれら破片は、地に落ちると跡形もなく消滅していくーー。
「なっ……、なにが……? ーーってああ⁉︎」
気が付くと目の前には、ベルトを
「ど、どういう……」
「ーー
いつのまにか後ろにいた雪花は、槍を投擲してNo.4に命中させる。
「ーーグアアッ!」
(なぜだ? アタシは白鳥歌野の右腕を折って、秋原雪花を突き刺したはず……っ)
何が起きたのか思考が追いつかず、歌野の方へ吹っ飛ばされた。
「ムチムチの〜〜、お
「ーーぐッッッふうッ!」
歌野はベルトを
「アンド、ムチムチの〜〜
「ーーぐはっ! ーーガバっ! ーーうおッ! ーーゲホォ!」
そして縮こめた体を、ベルトを解きながら思いっきり伸ばす。そして、手と足で四方八方に拳や蹴りを食らわせた。
「ーーネタバレが知りたい? さっきのはね。私の"ユメユメの野菜"の能力なんだよ!」
「……っ⁉︎」
「私の能力が備わってるこの槍を
先程投げた後にすぐ回収していた槍を携え、雪花はNo.4に向かって薙ぎ払った。
「貴女は、私を殺した夢を視て、さぞ愉悦の極みだったでしょうねっ」
「ーーがっ」
「相手をねむりへ誘い、
雪花と歌野による相互攻撃に、No.4は意識を保つのに必死だった。
ーーそしてそれは、No.4にとって耐え難い屈辱でもあった。
「ウウウアアアアアアアアアァァァ!!! アタシはァァァ! 大社の防人だぞォォォ! この世界を支配している組織のNo.4だぞォォォ!」
「貴女がぁ!
歌野はベルトを後方へいっぱいいっぱいに伸ばして、さらにそれを手元で小刻みに回すことで捩りを加えていく。
「これでファイナルッ」
「
ガッ……、ガリガリガリガリ……。
「……⁉︎ か、体が」
No.4の体から異音が鳴り響き、体が思うように動かなくなった。
「ギアが噛み合わねぇ⁉︎」
「あたりまえだね。貴女のギアが四段目になったのは、夢の中だったんだからねッ」
そして歌野は、最大限捩じったベルトを、一気にNo.4へ放つーー
「うおおおおおおおおおお!!!」
「ア、アタシが負けるはずないッ! この旭川市を!この北海道を支配する者なんだからあああ!」
「ーー貴女はそうやってええ!この
「アタシが負けーー」
ドーンッ!!!
「ムチムチのッ!
「ーーギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
No.4の腹部に命中した瞬間、捩れていたベルトが元へ戻ろうと、No.4の体ごと高速に回転して吹っ飛ばす。
吹っ飛んだ後、体は地面を何メートルも転がっていく。
「…………」
そして、No.4は仰向けの状態のまま、口を開け、白目を剥き、動かなくなっていた。
「……ね、ねぇNo.29」
「な、なに……?」
しばらくその様子を見ていたNo.12とNo.29だったが、他に表現が出来ない
「No.4、気絶してない……?」
「う、うん」
それが意味することは、つまり……。
「No.4が……、敗れた……」
秋原雪花:装備型勇者の野菜。ユメユメの野菜の能力者。それは、リンクさせた武器を肉眼で視たときに、その人の脳を睡眠状態にさせ夢を視させる、というもの。雪花の場合は槍の刃の部分にリンクさせている。勇者の野菜は本人にも作用してしまうため、雪花は必ず眼鏡をかけて戦う。鏡花水月じゃねぇか
次回 勇者御記