しかし滞在日数は、白鳥さんが肉を口にして倒れ防人とのいざこざがあった(1日目)。天秤座倒す(2日目)。No.4倒す(3日目、今ココ)
前回のあらすじ
北海道支部にて賞金をもらう歌野たち。しかし、そこで見た奇妙な紙切れ。それは勇者御記と呼ばれるものだった。存在意義が不明なその紙を水都は諏訪支部で見たことあると言うが……?
「諏訪で見た事あるって、リアリー? みーちゃん」
水都は う〜んと唸りながらも昔の記憶を辿っていたが、やがて頷く。
「……うん。一度だけなんだけど、こんな奇妙な文字が書かれた紙切れがガラスケースに入れられて丁重に保管されてたのを、見た気がする」
「気になりますね……」
以外にもNo.29がその言葉に食いついた。
「諏訪支部に保管しているとの情報は知らなかったのですが……」
「えっ? そうなの?」
「はい。……私の確認ミスかもしれませんが、
「指揮官クラスって、No.4とか?」
「はい。ご存知の通り北海道はNo.4、京都にNo.7、兵庫にNo.5、沖縄にNo.8、無くなった山口支部にはNo.6がいました」
「だったら千葉支部にはないね。それに諏訪は防人自体いないから」
「そうなんだ? 今どき防人がいない支部なんてそこくらいじゃない?」
雪花は旭川市にいるが、全国に人が住む場所があり大社支部が所々に存在している事は知っていたが、そこに必ず防人がいるものだと思っていた。
「うん、今思えば不思議よね」
「……う、うん」
人が住んでいる場所でも、そこに大社支部がないケースは珍しくないが、大社支部があるのにそこを守る防人がいない諏訪は、確かに不思議である。
「確か、乃木さんが諏訪を訪れた時も同じこと言ってた気がする」
「か、考えてもしょうがないと思うよ」
「そうだね」
水都の言う通り、考えても答えは出ない。
「気になるなら諏訪に寄ってみる? 四国へ行くならどっちみち諏訪に立ち寄れるから」
「ん! そうだね。そうしよう」
そして、歌野たちは賞金が入ったアタッシュケースを大事そうに抱えて、大社支部をあとにした。
……商店街付近まで来た歌野は。
「……こんな大金、持ってたってしょうがないよね」
「……? どうしたの急に」
歌野は笑いながらケースを開けて札束を取り出した。
「もうこの場で使っちゃお!」
「「ええ⁉︎」」
当然、水都と雪花は驚く。
「これ持ったまま旅続けたとしても、出番がないわっ。諏訪はお金のやり取りしないし、ウエストジャパンまでまだまだ長いし……。なら、今ここで使っちゃお」
「むむむ……。確かに、その通りかも」
今わかっている時点で、お金の価値がバーテックス侵攻前と変わらないのは、四国と、沖縄と北海道だけ。ほかの大社支部も、時々来る闇市で使う程度と聞いたことがある。
「じゃあいっそ、ここで使い切ろうか。これからの旅に必要なものも揃えてさ」
「うん!」
そして三人は、ひとり175万円を手に商店街を歩き回りだした。
ーーそれからしばらくして、三人は旅館に集合した。
せっかくなら旅館に泊まり、疲れをとって明日出発することにしたからである。
「……ビューティフル! ここの料理デリシャス過ぎる〜! ほら見てカニさんよカニさん! ハロー♪ ご無沙汰してま〜す」
「私たち、カニなんてそうそう食べないもんね」
「旅館の人に頼んで肉類は遠慮して貰ってるからじゃんじゃん食べていいよー」
目を輝かせて歌野はカニの鋏と握手している。
「ほら見なさいな。旭川ラーメン! ん〜、コクが違うよー!」
雪花は個別に頼んだ旭川ラーメンを美味しそうに食べている。
「私も、頼んであるわよ!」
「あっはは。……ってうたのんそれ‼︎」
歌野の前に出されたのは旭川ラーメン、ではなく……。
「な、なんですってェ‼︎ 麺が……。お蕎麦になってるぅぅぅ!?」
「ふふっひ♪ 名付けて、旭川蕎麦!」
歌野は旭川蕎麦なるものを勢いよく啜っていく。
「う、うたのん! お、怒られるんじゃない⁉︎ 色々」
「ノープロブレムっ。……んん〜! 蕎麦がっ! マイハートにインパクトを刻み込んでいるぅ〜!」
「な、なんという邪道な……」
「ノンノン! 王道ばかり気にしては新発見なんて出来やしないわ」
「ぷっ……。あっはっはっはっは‼︎ やっぱり敵わないにゃぁー、っと! いかんいかん、気が緩みすぎた」
三人は賑やかな雰囲気に包まれて、その日を終えるーー。
ーー翌日。
歌野は麦わら帽子を被り、朝早くから畑を耕していた。
そして、商店街で購入したタネイモを植えていく。また隣の畑にはタマネギの苗を植えていく。
「……うたのん、早いね」
「おっ! おはようみーちゃん」
「そういえば千葉にいた時も畑、耕してたよね」
「ええっ。農業に必要なものは昨日買ったから。それにちゃんと周囲の人たちにも苗とか種渡して、布教しといたからっ」
「流石だねー。うたのんは」
「みーちゃんもやってみる?」
比較的軽めの鍬を水都へ渡す。その鍬も購入したものだ。
「そうだね。虫とかいなさそうだから、耕すくらいはできるかな」
二人で畑を耕していると、雪花も合流した。
「こんなところにいた」
「ハロハロー雪花ちゃん」
「う、うん……」
「……?」
雪花は何か言いたげそうな雰囲気を出していた。
「どうしたの? なんか顔、引き攣ってるけど」
「あのね、私をさーー」
「勇者様だあああ‼︎ みんな! ここにいたぞ‼︎」
「え?」
雪花の言葉をかき消して、大人たちが三人の元へ駆け寄ってきた。
「およ? これは一体?」
「……」
その面々に雪花は見覚えがあった。"元"旭川市市長をはじめとする"元"権力者たちだ。
「いやー、話は聞いたよ。君たちが防人の暴走を止めてくれたんだってね!」
「おかげで助かったわっ」
「え、いやぁ、あのー」
突然のことに歌野は困惑していた。
どうやら、No.12が昨日の件を彼らに話していたらしいのだ。
「私達もあの悪政には嫌気が差しててねぇ。この街を救ってくれた英雄だよ!」
「白鳥歌野さん、だっけ? それに……、あなたは?」
一人の女性が水都の前に立つ。
「……え、えっと、藤森……、水都、です」
すっかり萎縮してしまい、俯きながら名前を告げる。
「藤森水都さんね。本当に助かったわ!」
握手を迫られ、水都は恥ずかしながらもその手を握った。
対して歌野は満更でもないように笑顔で対応している。
「大したことなんてしてないですよっ! ただ、友達が困ってたから手を貸しただけです。雪花ちゃんも頑張ってくれてたんですよ」
「……そう」
大人たちは雪花の方に向き直る。
「
「ああ、本当だよなぁ!」
大人たちは口々に雪花を褒め称えていた。
その様子を見て、雪花はニコッと微笑んだ。
(…………は?)
雪花の口は確かに笑ってはいるのだが、目はどこか諦観したかのような、暗闇に沈んでいた。
(コイツら……、まるでわかってない。自分たちが苦しんでいることを人のせいにばかりして、防人なんて子供に執政権奪われておいて、いざ楽になったら、かつて見放した小娘を、過ぎたことは忘れましょーって笑いかけてきやがって……。なに? 褒めればなんでも許してくれると思ってんの? 子供だからチョロいでしょって……?)
雪花は微笑みながら、歌野と水都の手を引いた。
「ゴメンネーみなさん。ちょっと二人は急用があるらしくて」
そのまま、走り出した。
「ちょっと雪花ちゃん⁉︎ 荷物が……」
「ほとぼりがさめたら取りに戻るからっ」
……そして、雪花はとある場所へ二人を連れてきた。
「ここは?」
「何かの洞窟? 防空壕にも見える」
目の前にあるのは、小さな洞窟だった。
小さいとはいえ、歌野たちなら簡単に入れるほどの大きさだが。
「……これはね。勇者になってから、私がずっと掘り続けている洞穴だよ」
「……! これを、雪花ちゃんが?」
「うん。私はね、自分が
雪花は自分が勇者になってからの事を歌野に話し始めた。
「前にも言ったよね? 私は勇者になったけど、それを利用する大人たちに囲まれて嫌気が差したって。そして、進化体が現れて、勝てなくて、死にたくないって逃げて。この中に隠れてた。そしたら、防人が彼らを守った」
「うん。言ってたわね」
「No.4が……。防人がいつから彼らを掌握しようと画策してたのかはわからない。でも、そのNo.4を倒したら、変わるんじゃないかって。この街の寒さが、和らぐんじゃないかって……期待してた」
しかし大人たちの態度は変わらなかった。雪花が彼らのために働けば雪花に取り入れ、防人が台頭してくれば易々と雪花から鞍替えし、今ではまた雪花、いや、今度は歌野に手を伸ばそうとしていた。
「私はね。もう
その時の雪花の表情は、歌野たちに過去の自分を話してた時と同じ、全てに失望し、未練を無くしたような表情だった。
「だからさ、歌野ちゃん。……ずっと言おうとしたけど、邪魔が入らないうちに言うね」
雪花は歌野に頭を下げた。
「私をっ……。歌野ちゃんの仲間に入れてください。……私を、秋原雪花を、四国へ行く旅に連れていってください……」
地面に涙の雫を落としながら雪花は切に願った。歌野と共にいることを。ここから抜け出すことを。
それを見た歌野は……。
「……」
無言で彼女を包み込むように抱きしめていた。
「ーーえ?」
当然、雪花は困惑する。
「……あ、あの。歌野、ちゃん?」
「うたのん?」
「……」
歌野は黙ったまま……。
「こ、これはOKってこと、かな……?」
「今まで、本当によく頑張ったのよね」
「ーーッ」
「たったひとりで戦っているのに、敵はもちろん、本来味方であるはずの人たちからも重圧を浴びせられ続けて……、それでも懸命に戦ってくれたのよね? ずっと、ずーっと」
耳元で囁く歌野の声は、少しだけ心地良かった。
「違う、違うよ? 私がずっと戦ってたのはみんなのためとか、綺麗なもんじゃない。……ただ、死にたくなかっただけだよ。生き残るために戦った。死にたくないから戦った。私は生きるためならどんな手を使ってでも……。それこそ、みっともなく逃げる事だって厭わない……。それこそ、歌野ちゃんを見捨てたみたいに……。私は、とても醜い人間なんだよ……」
雪花はそれ以上、言葉を紡ぐのをやめた。自分で口に出しておきながら、それは彼女自身を蝕んでいくように感じていたから。
しかし、歌野は首を横に振った。
「私だってね。乙女座と戦った時、怖くなった。逃げ出したいって思ったこともある。それが普通よ。でも、それ以上に雪花ちゃんは辛い目にあって、それでも彼らのために戦ってくれた、私と最後まで戦った、でしょ?」
「……」
「だから醜いなんてことはない。誰だって怖くて逃げ出したい事もある。……生きたいんだもん。生きる事は何よりも美しい。……だから雪花ちゃん」
歌野は抱きしめる力を少しだけ強くした。
「生きていてくれて、ありがとう」
「ーーッ!」
その言葉を聞いた瞬間、雪花の体は微かに震える。いや、体だけではなく、声すらも震えていた。
「な、なん、で? ……なんでお礼を言うの?」
「勇者になって、たくさん悩んで、苦しむ事があって……。それでも生きていてくれたから。雪花ちゃんが生きているおかげで私たちは出会えたんだから」
「……は、ははははっ……」
雪花は渇いた笑い声を発した。
「……おおげさだよ?」
雪花は目元に右手で覆った。
「……でも、なんでだろう? ……やっぱりここの人じゃないからかな?」
「……?」
「歌野ちゃんは、とっても温かいや……」
「きっと、私だけじゃないと思うわ」
抱きしめていた手を離し、正面に向き直ると歌野は雪花に笑いかける。
「見て。後ろ」
「え?」
そこには、何人かの子供たちがいた。
「私の、同級生の子たちだ……」
雪花は勇者になってからは、彼女たちと会えずにいた。勇者としての御役目で関わるのは市長たち大人ばかりだったし、ずっとバーテックス退治に奔走していたからだ。
「きっと噂を聞きつけたんだね。うたのんと雪花ちゃんがNo.4を倒したって……」
水都は雪花を見るが、その表情は暗いままだった。
「……」
雪花は黙って同級生たちに背を向けて歩き出す。
「あら、どこへ?」
「もうここでの用は済んだから……。あと、歌野ちゃんが連れて行ってくれないなら、私はひとりで旅をするよ……」
雪花は走り出そうとした……が。
「ムチムチの〜〜」
「え?」
「
「えっ、ちょ⁉︎ ええっ⁉︎」
歌野は雪花の体にベルトを巻き付けて捕まえた。
「そ〜〜れっ」
「……!?」
そのまま、雪花を彼女たち側へ放り投げた。
「……った〜〜い。なにすんの……さ」
倒れた雪花の目には同級生の女子たちが。
「せ、雪花ちゃんっ」
「……なに?」
少し威圧感を出していただろうか、雪花はバツが悪そうに起き上がると……。
「今まで本当にありがとう‼︎」
「……えっ?」
同級生の子たちはみんな頭を下げていた。今度は、逆に雪花が彼女たちを見下ろす形になっている。
「なかなか会えなかったから、言う機会がなくてごめんねっ。でも、ずっと言いたかったよ。雪花ちゃんのおかげで今の私たちが生活できているんだって。バケモノからずっと守り続けてたんだって。だからありがとうって言いたかったの‼︎」
「……!」
『ありがとう』なんて言葉にすれば簡単なものなのに……。今の雪花にはその言葉が心に響いていた。
……そういえば、あの大人たちは、一言でも雪花に『ありがとう』と口にしたことがあっただろうか……?
自分たちが助かったことへの喜びしかなかったように思えたが。
彼らは、頭を下げて感謝を伝えてくれたことが、あっただろうか……?
(もう、覚えてないや)
すると、ひとりの少女が雪花の手を取った。
「あっ。きみ……」
「あの時はありがとう! おねーちゃん‼︎ えーっとね、それでね……。いつもありがとうっ」
「……っ」
その少女は、いつか老人と共にバーテックスに襲われていたところを助けた子だった。
少女のうしろには、その老人も頭をペコペコと下げていた。
「う、うん……。無事で良かったよね。……ホントにさ」
「私ね。おねーちゃんみたいなすてきなれでぃーになりたいなぁ。きれいでつよくてね。みんなを守れるようになりたいもん」
「そう……。そっかぁ……」
雪花の目から、ひとつずつ涙の雫が落ちていく。
この子のような純粋な子供は、きっと、表とか裏とか無く、本音で言っているのだろう。
……だからこそ、雪花の心に刺さるのだ……。
(ああ……。そういや私は、大人たちばっか相手にさせられてて。この子たちのことなんか、考えてもみなかったんだ。あの大人たちが、さも旭川市全体だと思ってたんだ)
雪花は、大人たちに振り回され続けて、その寒さにあてられて……、大人たちの言動が、旭川市みんなの言動なのだと、勘違いをしていた。
「ーー雪花ちゃん」
拘束を解いてベルトを消し、歌野は近寄った。
「……?」
「さっきのアンサーだけど。あの時に出すのは、色々フェアじゃないなって思ったから先延ばしにしたけど、今だったら……」
歌野は雪花に手を差し出す。
「今の雪花ちゃんに言うわっ。……私と一緒に四国へ行かない?
「……!」
雪花はその手を迷わず取った。
「行くよ! 私は歌野ちゃんと……
「〜〜〜! ええっ、オフコース!」
親指を立てて、笑顔で応える。
そして、雪花は同級生の子たちの方へ振り返る。
「ゴメンネ。私は歌野と行くことにした。これ以上、貴女たちを守れないけど、そこは防人とかが上手いことやってくれる、と思う」
すると、彼女たちの内の一人が呟く。
「……寂しくなるね。けど、雪花ちゃんは今まで、私たちのために頑張ってくれたんだもんっ。だからこれからはね、雪
そして、すぅー とみんなは息を吸い込んでーー。
「いってらっしゃあああい‼︎ 元気でねえええ‼︎ いつでも待ってるからああああ!!!」
大きな声で叫び、手を大きく振った。
「…………にゃっはは」
雪花は微笑みながら歌野と水都の手を取り、歩き出した。
「私はもう、
そして振り返り、彼女たちに満面の笑みを向けた。
「多分ね……」
『ノースジャパン編』 完!
新章『ロード トゥ ウエスト編』 開幕!
物語の中でキャラの呼び方が変わるのって良いよね。信頼関係が変わっていくのを、目に見えて感じられるから。だから、若葉と白鳥さんが互いに呼び捨てで言い合うところを早く描きたい。(すんごい先の話になるけど)
次回 300万の勇者