〜前回のあらすじ(?)〜
富、名声、力。この世の全てを手に入れた海賊王、乃木若葉。
彼女の死に際の言葉は人々を海へ駆り立てた!
若葉「勝手に殺すなッ‼︎」
ひなた「若葉ちゃん。台本と違います」
若葉「……わ、私の財宝か? 欲しければくれてやろう。……探せ、この世の全てをそこに置いてきた! ……で合ってるか?」
ひなた「はい。グッジョブです」
世はまさに、大海賊時代ッッ‼︎
……もちろんウソだ。
現在、地図でいうと山梨から東京方面に向かっている歌野御一行(といっても歌野と水都だけだが)。
「あっ、ここに果樹園があるよ。モモとかブドウが成ってる!」
歌野は樹からモモを採ってかじった。
「……デリシャス〜! 涼しさを感じるような甘みだわ〜」
「どんな感じなの? ……ってかダメだよ。人のもの勝手に採って食べちゃ。落ちてるのならまだしも」
「いいじゃない、いいじゃない。きっとバーテックスに追われて放り出した土地だろうからもう誰のものでもないっ。なら、食べてあげなきゃ損ってものよ」
「……それも、そうかも」
バーテックス襲来から人間の生活範囲は極端に狭まった。奴らは人間を喰らい、さらに人間の作った建造物などを破壊している。
絶望的な状況だったが、当時の大社の手腕や、後に四勇と呼ばれる四人の勇者の活躍によってバーテックスは日本各地でその数を減らしていた。
今では、ごく少数だが人間が生活している拠点が存在する。
歌野たちがいた諏訪もそのひとつで一年前から、バーテックスの侵攻は全くと言っていいほどなかった。
「乃木さんが前に教えてくれたんだけど、ノースジャパンにある北海道。サウスジャパンにある沖縄。……あと、ウェストジャパンの大阪や奈良とかも生存者がいるのね?」
「そうそう。あと、これから行く千葉……、っていうかその中にある成田かな? そこにも多少だけど人はいる。大社の支部があるからね」
「楽しみだなぁ。……ってことでハイみーちゃん」
ポイッとモモを渡す。
「みーちゃんも食べなよ。私たちが持ってる食糧だってすぐに尽きる。……そしたら今みたいに果樹園や農園から食べ物をいただく必要があるから。……あと、場合によっては海で魚採ったり、ね」
「うん」
水都もモモをかじる。
「……おいしい」
「でしょ〜よ♪」
二人で談笑しながら歩いて行く。また途中で誰もいない農園にたどり着いた。
「おお〜っ! 農園だぁ! ……ほら、ナスとか、トマトが熟れているわっ」
歌野がはしゃぐ。
「……うたのん。食べすぎないでよ?」
「ノンノン。食べなきゃ損々。折角成ってくれてるんだし食べなきゃ勿体無い!」
むしゃむしゃと食べている歌野。
水都は農園を見渡す。
(人の手がかかっても、農園とか果樹園には一切、壊してないよね)
バーテックスは人を襲い、施設を破壊するが、どうしても自然物関連には手を出さない。
奴らには知性があり、狙って人間を喰らい、建物を破壊している。と大社は発表していたが……。
「おやおやおや。……見たことのない。野菜が成ってる……!」
「どうしたの?」
水都の視線の先には、不思議な野菜が成っていた。緑色が主体で黄色が少し混じったような色あい。細長く、ゴーヤかバナナに似てるような……。
「こ、これはもしや山梨独特の野菜⁉︎ または新種かしら⁉︎」
「ん〜どうだろ? 私は当然だけど、野菜や果物に詳しいうたのんが知らないとなると……」
「とりあえずは食べてみましょう」
歌野は大きな口を開けてーー
「あ! ああ〜ああ‼︎ 待って! 闇雲に食べるのは危険だよ!」
「でも、気になるし……。なんか食べて〜って念を送られているような気がするのよ」
「……それはうたのんが食べたいだけでしょ」
「えへへっ」
舌を出して照れる歌野。
「とにかく、これがなんなのか気になるから。千葉まで持っていきましょ? 大社の人たちに聞けば何かわかるかも」
日本各地に支部を置いている大社はバーテックスの討伐はもちろん。その土地の調査もしている。彼らなら何か知っているのかもしれない。
「大社の人? 大丈夫? 捕まったりしない?」
「お尋ね者なら捕まるかもだけど、私たちは''まだ''悪いことはしてないからね」
「そうか。まだ! してないもんね」
歌野はその野菜? 果物? か、わからないものを採りバッグに入れた。
「じゃあペースあげていこう! もしかしたら、傷んじゃうかもしれないし」
「あ、あぁ〜! まってうたのん。どんなに急いでも千葉まで数日はかかるから〜!」
走る歌野を追いかけ水都も焦って後に続いた。
ーーそして数日後、二人は千葉に入っていた。
「明日には、空港に着くと思うから」
「今日はここで野宿ね」
太陽が西の空に傾き、真っ赤に染まっていた。
二人はここで夜を明かし、明日早くに空港へ行く。
夕食は近くの畑から手に入れたジャガイモやとうもろこしを焼いて食べていた。
「うむうむ。焼きとうもろこし、焼きジャガイモ。絶品だわぁ」
「……うん、美味しい」
……そして、夜。
「なんか……のほほんとした一日だった……」
夜空を見上げて水都が呟く。
「……? どういうこと?」
「諏訪の外にはバーテックスが沢山いてさ。もっと絶望的なのかと思ってたけど、諏訪からここまで一度も出会わなかったなぁ……って」
「……この辺りはもう勇者たちが狩り尽くしたのよ」
「そういえば四勇の一人、乃木さんも前に諏訪に来てたんだよね?」
「ええ。一年前に……。その時はみーちゃん留守にしてたけど」
三年前にバーテックスが侵攻したのと同時に神樹によって当時、四人の勇者が誕生し、各々が全国へ散らばりバーテックスを掃討していった。
その時、乃木若葉は諏訪を訪れ歌野と出会った。
「乃木さんは凄い人よ。私の命の恩人で憧れ……。あの日も、乃木さんが助けてくれなかったらバーテックスに殺されてた」
「前にも言ってたよね」
「うん。何回だって言いたい。……だから、今度は直接会ってちゃんと話をしたいなぁ」
「……」
(そう言われると、なんか妬けちゃうな……)
水都は時々、乃木若葉の事を話す歌野に嫉妬する。
歌野が楽しそうにしているのは見ていて幸せだが、こればっかりはどうしようもない。
「……私も勇者になりたいわぁ〜」
「うたのんは、勇者だよ」
「えっ?」
「四勇とか、七武勇とかの一員じゃなくてもさ。こんな危険な旅に赴くんだもの。死ぬかもしれないし」
「……」
「でも、危険を顧みず夢に向かって突き進んでいくうたのんは、紛れもなく勇者だよ」
「……ありがとね。でも、それならみーちゃんの方が勇者だよ。私の無理な旅に付き合ってもらってるんだから。私は農業王になる夢を叶えるために死を覚悟しているつもりだけど、みーちゃんはそんな事無いでしょ?」
「私は、うたのんの夢を一緒に見たいんだ。うたのんが農業王になるところを誰よりも先に見たい。うたのんと一緒に見たい」
「……ならいのいちばんにみーちゃんに見せてあげる♪ 農業王となった白鳥歌野を」
水都は微笑み、歌野もそれを見てニカッと笑った。
ーーとその時、草木をかきわけるような不気味な音が聞こえた。
「「……‼︎」」
二人は立ち上がり、静かにあたりを見渡した。
「う、うたのん……」
「ええ。このタイミングでお出ましってわけね」
二人は草木の陰に隠れて様子を見る。
そして数秒後、全身真っ白なバケモノが一体、姿を現した。
(……‼︎ バーテックスッ)
手や足は無く、巨大な口を持つソレはゆっくりと、先程二人がいたあたりを漂っている。
嬉しくないが、水都が立てたフラグを見事に回収してしまった。
「……」
二人は冷や汗を流しバーテックスが去ってくれるように願う。
(どうしよう。このままじゃーー)
ーー瞬間、バーテックスが二人めがけて突っ込んできた。
「うたのんッ‼︎」「みーちゃんッ‼︎」
二人はお互いを突き飛ばした。咄嗟の判断としては考える事は同じだったようだ。
バーテックスは二人の間を通過した。
「うわっ」「痛っ」
二人は地面を転がる。
バーテックスは体を反転させ、歌野の方へ突っ込んでいった。
「ーッ‼︎ うたのんッ‼︎」
「みーちゃんは、このまま逆方向に逃げてッ‼︎ お願いッ‼︎」
歌野はそう叫びながら走っていった。
「ダメッ‼︎ ダメだよ、うたのんッ‼︎」
水都その後を追う。
歌野はバーテックスに捕まらないように、大木を挟んでジグザグに逃げていく。
「私が逃げればその分、みーちゃんが逃げのびる時間稼ぎになる……!」
しかし、バーテックスは急に方向転換させ、来た道を戻っていった。
「えっ⁉︎ どこ行くのよォ⁉︎」
バーテックスの向かう先には、水都がーー
「ーーッ⁉︎ みーちゃん⁉︎」
「うたのんにぃ! 手を出すなぁ‼︎」
叫びながら、持っていた小石やバッグを放り投げた。
……それはバーテックスに当たるが、相手には何のダメージもない。
「逃げてッ! みーちゃん‼︎」
「私だけ逃げてもダメなんだよ、うたのん。二人で生きなくちゃ……」
バーテックスは口を開け突進する。
「ーーッ⁉︎」
間一髪で水都は避ける事ができたが勢い余って倒れてしまった。
「みーちゃああああああああんん‼︎」
必死になって水都の元へ駆け寄ろうとしたが、おそらく間に合わない……。
倒れたままの水都に向かって再度バーテックスは襲いかかる。
ーーとその時、歌野は足元を見た。そこには先程水都が投げたバッグが転がっており、中からあの不思議な野菜が飛び出していた。
「……‼︎」
何故だかその野菜がチカッと光った気がした。月の光に反射したのだろうか?
それを見た歌野は直感で理解した。
そして、その野菜を……。
「あむっ」
歌野は口に入れ、飲み込んだ。
ーー水都は絶体絶命の窮地に目を閉じて頭を押さえた……が。
「……え?」
不思議な事に、目を開けるとバーテックスが吹っ飛ばされていたのだ。
数秒後には殺されると覚悟していたが、今も水都は生きている。
「……う、うたのん……?」
視線の先には歌野が立っていた。
そしてその手には細長くしなやかな棒のような物が握られていた。
「みーちゃん、少しそのままでいて」
歌野は右手に持った物をクルクルと回転させる。
「……えいっやぁぁぁぁぁ‼︎」
それを思いっきり伸ばすと、その先にいたバーテックスに命中し、相手ははじけた。
「バーテックスを……倒し、た?」
水都は起き上がり歌野の方へ駆け寄る。
「みーちゃん、もう心配ないよ。今度はあのバケモノから私が守るから」
歌野は真上を見た。
そこには、二体目のバーテックスがおり、口を開けて真っ逆さまに落下してきた。
「ーーッ‼︎ うたのん、上ッ‼︎」
「わかってるっ」
歌野は棒上の物を今度は小さく縮ませた。
(一年前、何の力もなかった私を、乃木さんは助けてくれた。……なら今度は私が、みーちゃんを守るッ‼︎)
そして一気に、縮こませた棒を真上に伸ばした。
「ムチムチのぉぉぉ、
ドカァァァン‼︎ と歌野が持ってい物がバーテックスに命中した。
そして、敵は粉々に砕けた……。
「他には、いないわね……」
あたりを見渡す歌野に、呆気に取られていた水都は呟いた。
「……うたのん、それ、どうしたの?」
「え? ああ。前に見つけてバッグに入れてあった不思議な野菜か果物かわかんないやつあったじゃない? アレを食べたらいきなり力が湧いてきて、そして、近くにあった枝木を掴んだら、あら不思議、鞭のようにしなる武器に変わっちゃったのっ」
水都は唖然としている。
「……ソーリー。何を言ってるかわかんないよね。私も何が起こってるのかわからないの」
「私、それ知ってる……」
「え……?」
水都はガシッと歌野の手を掴んだ。
「それ、『勇者の野菜』だよ! 食べる事で常人を超える戦闘力を身につけ、特殊な能力が備わるっていう。うたのんはっ、勇者の野菜を食べて勇者になっちゃったんだよーッ‼︎」
歌野は数秒ほどポカーンとしていた。
勇者といえば、若葉たち四勇や、七武勇をはじめとする凄腕の人たちの事だ。
「わ、私が、勇者……?」
「そう! さっきうたのん、ムチムチの……って言ってたよね?」
「う、うん。何か必殺技みたいなものを叫んで攻撃した方がパワー沸き立つかな〜って……」
「偶然じゃない。……きっと、勇者の野菜のひとつ、『ムチムチの野菜』を食べたんだよぉ‼︎」
「えっ…………」
ーー10秒後ーー
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーッ!!!?」
『勇者の野菜』それは、食すと通常ではあり得ないような異能力を得ることができ、そうした者は『勇者の野菜の能力者』=『勇者』と呼ばれる。
(要は悪魔の実だ)
白鳥歌野が今回食べた勇者の野菜。名は『ムチムチの野菜』
''装備型''の勇者の野菜のひとつ。能力者が所持する武器が鞭のようにしなる。伸縮も自在。(どこかの主人公の能力に似てるなぁ…)
装備型は、武器は通常別空間に存在させ、必要な時に手元に呼び出すこともできる。
……別に歌野の身体がむちむちになるわけではない……。
次回 進化体バーテックス