前回のあらすじ
北海道を後にし、目先の目標は長野にある諏訪への里帰り。しかし、歌野たちは気付いていない。自分たちが指名手配されていることに。
北海道から飛び出してから、歌野たち三人は岩手の平泉に入って、そこで夜を明かした。途中、二度ほどバーテックスの攻撃を受けたが雪花が華麗に討伐し、難なく終わる。
そして三度目。また彼女たちの元へ、バーテックスが四体接近してくる。
「あっ、また来た! みーちゃん下がってて」
「う、うん」
「いいよいいよ。今度もまた雪花さんに任せておきなさい」
「でも、昨日の移動中も両手が塞がってた私の代わりに雪花が戦ってくれて……」
「だからいいって。歌野は水都ちゃんのそばにいて新手を警戒してて」
「わかったわっ」
歌野は水都の手を握り後方の警戒と、万一雪花が危ない目にあった時のために備えておく。
「進化体ならトラウマものだけど、コイツらみたいな雑魚なら楽勝っと!」
槍でひと突きひと突き、確実に串刺しにしていく。バーテックスは刺さったそばから次々と消えていった。
「ん〜、エクセレンッ。いつもながら鮮やかね♪」
「まあねっ。文字通り朝飯前ってやつだにゃぁ」
「よし。じゃあ軽く朝食摂って出発よ!」
事前に北海道で買い溜めしておいた携帯用野菜サンドイッチや果物の缶詰を食べて三人は跳び立とうとする。
しかし……。
「あれ? 見て歌野」
「……え? あっ、またバーテックス?」
雪花の指差す方向を見ると、遠くに見える白いオタマジャクシ……もといバーテックスの集団がどこかへ移動していた。
「……こっちに気付いてない? どこかに向かってる?」
バーテックスの集団はこちらには目もくれずに遠くへ飛んでいく。
「……なにかあるのかな?」
「もしかして、私たち以外の、人……?」
「え?」
「やっぱりそう思う? 水都ちゃん」
「うん。バーテックスが一定の方向を目指して進むなんてそれしか考えられないよ」
「……みーちゃん、雪花。ちょっとここで待ってて」
「うたのん? バーテックスを追いかけるの?」
「うん。人がいるかも知れないんでしょ? もしそうだったら助けなくちゃ」
それを聞いた雪花は歌野の肩に手を置いた。
「だったら私たちも行くよ。ここで待つことなんかできない」
水都もこくっと頷く。
「そっか、ありがと。じゃあ私がアタックするから、雪花はみーちゃんヨロシクっ」
「オッケー」
「ムチムチの〜、ロケット〜〜〜‼︎」
雪花は水都を抱き上げ、先に飛び出した歌野に続いてバーテックスを追いかけた。
ーー歌野たちが見たバーテックスの集団より前に、ある場所ではひとりの少女を沢山のバーテックスが囲っていた。
「……くっ。今日はいつもより
少女は両手に持つ二本の刀でバーテックスを斬り裂いていく。
一対多なので、総攻撃を食らわないよう、足を止めることなく駆け抜けて、その通り過ぎ様に斬っていく。
「ーーふうっ‼︎」
ジャンプして頭上の敵を斬る。そして着地した瞬間、両隣に迫って来る二体のバーテックスに刀を突き立てた。
「消えなさいッ‼︎」
突き刺したまま、体を回転させて横方向に真っ二つにした。
「ハァ……ハァ。って、まだ来るの?」
ひと呼吸置いて北の方角を見ると結構な数の新手が接近してきた。
「これ……、ふっ‼︎ 無事で済むかしら……。はあッ‼︎」
この場にいる敵を減らしつつ、新手に備える。
(こんな所で死ぬわけにはいかないのよっ。私には……やらなければいけない事があるんだからっ)
……と、その時。
「ーームチムチのぉぉ、
「えッ?」
集団の後方にいるバーテックスが謎の声と共に攻撃を受けて弾けた。
「あれは……人⁉︎」
「ムチムチのぉ、
ドドドド と次々にバーテックスが倒されていく。
よく見ると長物を手にした人間がバーテックスを倒しているのだ。
また、その後方にはもう一人いて、誰かを抱えていた。合計三人の姿が少女の眼に映る。
「あっ! いたよ雪花ちゃん。やっぱり人‼︎」
「うん。それに、あの服装……」
雪花は地面に着地して水都を下ろした。
「えっと、お怪我は……?」
少女は両手の刀を鞘に納めて水都と雪花を見た。
「……大丈夫。……で? 今度は私から聞くけど、貴女達は誰?」
「え、えっと……、私は藤森水都と言います。今、バーテックスの集団を倒しているのはうたのん……じゃなくて白鳥歌野って言います」
「……秋原雪花だよ」
「そう。貴女達が何故こんな所に居るか分からないけど助かった。感謝するわ」
少女は頭を下げた。
「いえ、全部うたのんが倒してるので……」
「これで、ラストォ‼︎」
と、同時にバーテックスを倒し終えた歌野も駆け付けた。
「ふぅ〜。フィニッシュ♪ ……とりあえず無事で良かったわっ」
「貴女にも感謝しなくちゃね」
「いえいえ。困った時はお互い……さま?」
歌野はその少女の服装を見て疑問に思った。
いや、彼女だけではない……。水都も話しながら気付いていたし、雪花はひと目見た瞬間から彼女の格好に気付いた。
……正確には彼女の所属する
「私は、大社防人所属。名前は"楠芽吹"よ」
防人の戦闘服を着て、首元のプレートに『No.1』と描かれている少女、楠芽吹はそう告げた……。
「ーーやっぱり防人なんだ」
雪花は"もしものとき"を考えて槍を構えた。
その槍を見た芽吹の表情が強張る。
「雪花ちゃん……?」
「貴女達、
「アタリだよ。……で? No.1さんがこんなところで何してるの?」
半ば威圧するように芽吹に問いかけた。
幸い芽吹は、戦いが終わりバイザーを外しているので、現在も
「雪花。槍をしまって」
「でもーー」
「大丈夫。戦いなんて起こらないわ」
「……そう」
雪花は手に持っていた槍を消した。
「ごめんなさい。防人にはあんまり良い思い出がないから警戒しちゃってさ」
「別に良いわ」
「貴女、どうしてここに?」
「私は半年以上前から大社防人を離れていてね。ある人物を探しているのよ」
「ある人物……」
歌野たちは北海道でNo.29たちが言っていた事を思い出す。
(もしかして、三好夏凛を追って?)
「もしかして三好夏凛って人を探しているの?」
水都と同じことを考えていた歌野は芽吹に問いかけた。
「ーーッ‼︎ ええそうよっ三好夏凛を見たの⁉︎」
ぐっと詰め寄ってくる芽吹に歌野は一瞬たじろいだ。
「うわっとと。いえ、見てはいないわ。でも北海道の防人の人たちが貴女の話をしてたから」
「北海道……? ああ、No.4が居るところね」
「……」
「もしかして知りません?」
「何が?」
水都も……、おそらく雪花も、芽吹を警戒している理由は、No.4のような悪政を敷いた防人のリーダーだからだ。親も親なら子も子、とは違うが、楠芽吹も"そういう"人物だと思ってしまう。
「北海道はNo.4をはじめとする防人たちが悪政を敷いていたんですよ?」
「……? それ本当?」
「はい」
「……私はもう長い間、人と会ってないから今の大社とか防人の状況をまるで知らないのよ」
「後のことは弥勒夕海子って人に任せて?」
雪花は少し強気な物言いになっていた。
「そうね。私の後の事は弥勒さんや雀、しずくに任せてあるわ」
「じゃあその人たちが何しようとまるで関係ないってわけ?」
「ちょっとちょっとステ〜イ。雪花、クールダウンっ」
「あっ……。ゴメン、頭に血が昇ってた」
熱くなりかけていた雪花の前に入り、落ち着かせる。
「ねぇ、楠さん。話を戻すけどこの近くに三好夏凛さんがいるの?」
「それも分からないわ。イーストジャパンとノースジャパンの境で見かけたっていう情報から私は此処にいるから」
「でもそれって半年以上前の情報なんだよね?」
「そうよ」
「ならもう三好夏凛さんは移動してるって場合もありえるんじゃあ……」
「……そうね。でも私は勇者じゃないから数日で岡山からここまで来れないし他に方法が無いのよ」
「あれ⁉︎ 楠さん勇者じゃないの?」
「そうよ。私は勇者じゃない。飛行機も時期が合わず乗らなかったから徒歩で此処まで来た」
「アメイジング……。凄すぎるわ」
衝撃を受けた歌野は ガッと芽吹の両手を掴んだ。
そして、上下にブンブン振りまくる。
「ちょ、ちょっと何やってーー」
「そのスピリットに私、感激したわっ!」
「は、はぁ?」
満面の笑みを浮かべてーー。
「ねぇ楠さんっ、農業に興味ない⁉︎
「「「……は?」」」
芽吹だけではなく、水都と雪花もポカンとした顔で呆けていた。
「良いよね⁉︎」
「「えええええええええええ!?」」
「嫌よ」
「「えええええええええええぇぇぇ!!!」」
……間髪入れず、二連続で水都と雪花は叫んでいた。
「ちょっと! リアクション中にリアクションさせないでよ⁉︎」
「いや、貴女達が勝手に驚いてるだけでしょ?」
芽吹はうるさそうに耳を押さえていた。
「そういえばなんで楠さん、三好夏凛さんに会いたいんだっけ?」
「会いたいんじゃない、倒すのよ。三好夏凛を」
「……倒す? 七武勇だから?」
「それもあるけど、三好夏凛は二年程前、大社に居たのよ。当時、私達と一緒に防人になる為、トップ争いをしてた……」
三好夏凛との思い出を語る芽吹の表情は、少し哀愁を帯びたものだった。
「私か彼女、どっちが防人のトップになるか分からなかった。最初は差があったけど、私は必死で努力して……、彼女の二刀流を模して。けど……」
そこで芽吹は拳を強く握った。
「防人として正式に通達する前日に
「なーるほどねー。つまり、向こうが勝手にいなくなったから不戦勝って感じで防人のリーダーになっちゃったわけか」
雪花は腕を組んだまま頷いていた。
「そして彼女は、各地で大社に不信のある者たちを煽り、大社を潰そうと企むテロリストの一味に加わってた」
「それが七武勇ね」
「そうよ」
すると、芽吹は二本の刀を抜き、茂みを見据えた。
「……? どうしーー」
歌野がその方向を見ると、バーテックス二体が口を大きく開けて向かって来ていた。
「バーテックス⁉︎ また⁉︎」
「ーーだから私は三好夏凛を倒す。そう
芽吹は両腕をクロスさせ、一気に突撃する。
「
「「「ーーッ!?」」」
三人が気付いた時には、芽吹はバーテックスの後方に立っており、肝心のバーテックスは、斬られて宙を舞っていた。
「は、はやっ……」
上空に舞い上がるバーテックスは二体とも消滅していった……。
「裏切り者を粛清する為に……。私が本当の意味で防人のNo.1になる為に……」
チャキ と刀を鞘に納める。
「本当の意味でNo.1……。つまり"最強の防人"になるのが貴女の夢ってことね!」
先程の剣技に雪花と水都は呆気に取られ何も言えずにいたが、歌野はニッコリと微笑んだ。
「そういう事になるわね……」
「ますます気に入ったわっ! "最強の防人"‼︎ 農業王の仲間になるなら、それくらいなってもらわなくちゃ私が困るっ! だからさっ、
「嫌って言ったでしょ? それに何よ農業王って……」
「私は農業王になるのが夢なの! 四国に行って、神樹様の恵みを手に入れる。そのためには頼れる仲間が欲しいって思ったの!」
「ちょ、ちょっとうたのん⁉︎」
正気に戻った水都が慌てて口を塞ごうとしたが遅かった。
「楠さんは防人なんだよ⁉︎ 大社関係の人たちは私たちが四国へ行くのを阻止しようとしてる事知ってるよね⁉︎」
「歌野……。No.4との話、忘れてた?」
「ううん、覚えているわ。でも、だからこそ、楠さんを仲間にすべきだと思う。防人のトップの人がいれば、スムーズに四国へ行けるかもでしょ?」
「……!」
歌野の言葉に水都はハッと気付かされる。雪花もその意図に気付いた。
「つまり、防人トップである彼女を利用して四国へ入るつもりね」
「利用する、とは違うかな。私はあくまでも、一緒に農業したいと思ってるから。……でも楠さんは防人のリーダーとしてやらなくちゃいけないことがある……」
「ええ、農業なんて興味ないわ。……それに今、私にとって大事なのは三好夏凛を倒すこと。四国に行きたければ行けばいい」
どうやら芽吹は大社の方針より、自身の目的を優先して四国へ行く歌野たちの邪魔立てをしないと言っている。
「ねぇねぇ、本当に私たちの仲間にならない? 農業しないのはわかったから……」
「しつこい」
「うたのん、なんで頑なに楠さんを誘うの?」
「あのね、みーちゃん。北海道で雪花を誘った時思ったの。未だ遠い四国へ行くには、支え合う仲間の存在が大事なんだってっ。最初はみーちゃんと二人で行くつもりだったけど、雪花も仲間に加わって私は今、とってもハッピーなの♪ だからもっと色んな人と会って、一緒に農業できたらなあって思うっ」
「うたのん……」
「今はみーちゃんと、雪花だけ。……最低でもあと五人は欲しいかなっ。賑やかなの好きだし。……それに」
ニィと歌野は笑いかけたあと、また芽吹に向き直る。
「……しつこいって言わなかった?」
「取引しない?」
「……?」
「貴女が三好夏凛を倒すのに、協力してあげるっ」
「ええ⁉︎ うたのん、何言ってーー」
「そ・の・か・わ・り、私が農業王になったら貴女たち防人みんな、私が育てた野菜買ってね♪」
「……は?」
「「え?」」
芽吹と水都と雪花は眼が点になっていた……。
「農業王として私の育てた愛すべき野菜たちを全国へ普及させる手助けをしてほしいのよっ。仲間になるのが嫌なら、取引相手になってっ! ……そうっ、これは契約ねっ」
黙っていると歌野が勝手に話を進めてしまうので水都は口を挟む。
「うたのん! 待って。楠さんも理解が追いついてないから、もう少し詳しくーー」
「具体的には何をしてくれるの?」
「ぅえっ⁉︎」
さっきまで呆けていたが、意外にもその話に芽吹は食いついてきた。
「私たち勇者は、身体能力が常人以上だから足になれるわ。それと情報収集。それと、もし三好夏凛さんとの戦い中に、今日みたくバーテックスが乱入してきたら私たちが排除する。……これでどう?」
「……」
芽吹は目を閉じて考えている。
「ねぇ水都ちゃん」
「……なに?」
「私たちを置き去りにしてとんでもない話になってきてるよねー」
「本当だよね……」
二人は驚きの連続で疲れ、ヘトヘトになっていた。
「……いいわ」
「お!」
「三好夏凛が居ると思われるのはイーストジャパンとノースジャパンの間。 その間を、隅々まで調べ尽くしてもらう。そして、三好夏凛を見つけたら私のところへ連れてくる。……それを条件として白鳥歌野……って名前だったわね、貴女の野菜を購入する事を
「〜〜‼︎ やったあああ!!!」
「ま、まじでかい……」
「ああ……。四国がまた遠ざかっていくね……」
飛び跳ねて喜ぶ歌野と、前途多難な道草を食う羽目になり、遠い目をする雪花と水都。
「じゃあ楠さんっ。これからは、貴女と私たちはお互いにクライアントでパトロンってことでよろしくねっ‼︎」
「ええ、宜しく。約束は必ず守るから安心しなさい。だから貴女も約束は守りなさいよね」
「オフコース♪」
……こうしてふとした出会いから、防人"楠芽吹"と"白鳥歌野(たち)"との奇妙な関係が出来上がったのだ。
そしてこれを機に、楠芽吹と三好夏凛との間は、急速に狭まっていく。
二人が対峙するのは、その翌日のこと……。
白鳥さんが農業王になれば、作った野菜を防人のみんなが買うように(勝手に)約束……ってか契約した芽吹。
他の防人からしたら、知らない間に借金の連帯保証人にされていたような感じ、か……?
次回 その足跡を辿り