感想:カッケェ……。誰がとは言わんけどカッケェ。
前回のあらすじ……でもなんでもない。
どこかの親父「千景が郡家の娘だってのは事実……。たがな……親の罪を子に晴らすなんて滑稽だ……。千景がおめェらに何をした?」
村人たち「……⁉︎」
どこかの親父「仲良くやんな。決して勇者だけが特別じゃあねぇ。みんな、オレの家族だぜ」
千景「私の父親は、あの人だけよ……!」
歌野たち四人は福島から一日かけて跳び続け、群馬を跨ぎ長野県に入っていた。
「ふぅー。結構飛ばしてきたから疲れちゃったにゃぁ」
「お疲れ雪花」
「まー、歌野も水都ちゃん抱えてるから条件は同じなはずなんだけど……」
「……何よ今更」
「いや別にー」
雪花は背負っている芽吹を一瞥した後、わざとらしく目を逸らした。
芽吹は雪花の考えている事がなんとなくわかっていたので少しムッとした表情で彼女を見る。
「ちょっと一息入れようかな。この森を突っ切れば、もう諏訪は目の前だからねっ」
歌野は目の前に広がる森林を指差す。
「諏訪、かー。歌野と水都ちゃんの故郷……。二人は少し前まではそこにいたんだよね?」
「うんっ。……でも、なんかもう懐かしく感じるよねぇ。諏訪が」
「そうだね」
「旅の途中で勇者の野菜を見つけて……それを食べて勇者になって……みんなと出会って今がある……」
歌野は目を閉じ、胸に手を当てて物思いに耽っていた。
「ちょっとちょっとー。なに感慨深くしんみりしちゃうようなこと言ってんのさー」
「ソーリーっ。故郷に戻るから、つい色々思い出しちゃうんだ」
「わかるようたのん。私も、なんか色々思い出が蘇ってきちゃう」
「ふふっひ♪ だよねー」
「この調子なら諏訪に着いたら、思い出に心が埋め尽くされそうだねー」
「ーーふっ……、はっ……、ふっ……」
ブンッ ブンッ ブンッ……
「ん? どうしたの楠さん」
芽吹を見ると、彼女は一本の刀を両手で持って素振りをしていた。
「楠さん。素振りしてるんだよ。鍛え直すんだって」
歌野の問いに雪花が答える。
芽吹は刀の素振りやその場でできる筋トレを休憩がてら行っているのだ。
「三好さんとの決闘で一本折れたから、新しいのを手に入れるまでは刀一本で戦っていく必要があるの。……でも私はずっと二刀流で生きてきたから、これからはちゃんと一刀流も鍛えなくちゃまともに戦えない」
「そっかー。早く代わりの武器が見つかるといいね」
「ええ。それが一番だけどね」
芽吹はそう言うとまた、黙々と素振りを続けた。
ーーそして四人は一休みした後、森を走り抜けていく。
森を抜けると、あたり一面に田畑が広がっている場所に出た。
此処こそが歌野と水都の故郷、諏訪である。
「んん〜〜! 帰ってきたあああああ!!」
水都を下ろし、思いっきり両手を伸ばして歌野は叫んだ。
すると、その声に気付いたのか、田畑で農作業していた人たちが歌野たちへ注目する。
「……ああ! おい見ろォ! 歌野ちゃんと水都ちゃんが帰ってきてるぞ‼︎」
「ええ⁉︎ どこどこ⁉︎」
「歌野ちゃああああん‼︎ 水都ちゃああああん‼︎」
何人かの村人が手を振って歌野たちの元へ駆けてくる。
「みんなっ、ロングタイムノースィー♪ 変わらず元気そうで安心したわっ」
「それを言うなら私たちの方だよ! 元気そうだね、二人とも」
「あ、はい。……お久しぶりです」
笑顔で元気いっぱいに応対している歌野と、少し恥ずかしがりながらも嬉しそうにしている水都。
「……にゃはは。いい人たちだねー」
雪花はその様子を見て微笑んでいた。
すると、村人のひとりは雪花の顔をまじまじと見ていた。
「おっ。
「え、ええ。そう……です?」
「あなたは……
「……まぁ、そんなところです」
「……無かった人?」
初対面の筈だが、村人はなぜか雪花のフルネームを知っているのと、芽吹に向かって意味深な言葉を口にしていた。
「アレ? みんな、雪花のこと知ってるの?」
「ん? そういう歌野ちゃんこそ知らないのかい?」
「……?」
「ーーおい、誰か。
村人のひとりがそう言うと青年が走り出し、数分後、三枚の紙を持ってきた。
「これこれ。ここに写っているの歌野ちゃんと水都ちゃん、それにあなたでしょ?」
歌野、水都、雪花の手配書を見た三人はそれぞれ目を丸くしていた。
「んん⁉︎ 何コレェ⁉︎」
「その反応。知らねぇんだ? 実はな……」
村人は諏訪支部の神官から聞いた話をかいつまんで説明する。
「……私たちが北海道支部を襲撃……?」
「え、ええっ……?」
雪花と水都はポカンとした表情で話を聞いていた。
「ーーで。歌野ちゃんや水都ちゃんたちは防人を攻撃したっていうのは……本当なの?」
「えーと……。端的に言えばそう、かな? 合ってるような? 違うような?」
確かに歌野と雪花は北海道で防人のNo.4と戦闘を行った。
水都も、No.4に向かって石をぶつけていたので、"攻撃した"と言われればそうなのだが……。
「……ってことは、やっぱり情報はデマなんじゃな?」
「どうでしょうか……。その辺りの境界線が曖昧で。悪意ある表現なのは間違いないんですけど」
「……」
「あ、
ダンダンッ と地団駄を踏みながら雪花は怒る。
「…………」
「あっ。歌野……」
雪花は恐る恐る歌野を見る。彼女はずっと手配書を眺めていた。
「あ、あのね……、歌野ーー」
「……ふ、ふふっ。ふふふっひ♪ 私たち、お尋ね者になっちゃったわっ」
「……え?」
雪花の心配などそっちのけで、歌野は大笑いしていた。
「見て見て、私を捕まえたら300万だってっ! ……いや、単位が違うか。えーっと"円"に直したら〜〜」
「450万円だね」
「ふ、ふふふふっ。すごい……。450万円……。4,500,000円……」
「一応言うけど、追われる側だからね、貰う側じゃないよ?」
「わかってるわっ。でも、なんかこう……ワクワクするっ」
「……あ、あははは……」
歌野の様子に水都はすっかり呆れ果ててしまっていた。
しかしこうなってしまった以上、他の防人は黙っていないだろう。歌野たちは確実に大社本部に狙われる形となったのだ。
「歌野、ごめんね。私と一緒に戦ったせいで……」
「なんで謝るの? 雪花は悪くないよ。アレは私がみんなを助けたいって思ってやった事なんだから、悔いはないわっ」
「そう言ってくれると気が楽になるよ」
「でも雪花だってお尋ね者よ? 150万円の」
「私もだよ……。しかも75円……」
「駄菓子くらいしか買えないね、みーちゃん」
「……もうなっちゃった後だから、とやかく言えないけど。これなら無い方がマシだよ……」
自分たちが大社から追われる立場になったというのに歌野たちは平然とした態度だった。
……と、そこで雪花が気になったのは、現在、自分たちと行動を共にしている"大社関係者"のことだった。
「楠さんは、知らなかったんだよね?」
「勿論。私は誰とも会わずに旅してたから」
「今、私たちは……、言うなれば"貴女の敵"になってる」
「……そうね。でも……どうでもいいわ」
芽吹は腕を組んだまま我関せず、といった態度を取る。
「それでいいの? ……いや、私たちとしては嬉しいんだけど」
「私は今、大社の御役目から外れて行動してる。だから貴女達を捕らえる権限はない。……それに約束の件もある。……なにより」
そこで芽吹は歌野の目を見ながら微笑んだ。
「貴女達が悪い奴じゃないのは知ってるし、
大社が、自分たちの不手際を隠し歌野たちに責任をなすりつけ、あえて悪く表現しているようなやり方を、芽吹は気に入らないのだ。
(これが……三好さんが嫌う大社の一面、なのかしらね……)
「ーーオッケー♪ 楠さんが今までどおり一緒に行動してくれるんなら私としてはハッピーなことだわっ」
「そうだねー。問題ない」
「うん」
「……わしらも、たとえ指名手配になっても、それで歌野ちゃんや水都ちゃんへの態度を悪くしたりはせん」
「そうね。二人には沢山励まされたり、笑顔を貰ったわ」
「そう言われると照れるわ〜」
「うたのんの力だよ。私なんかは全然」
「みーちゃんも胸張っていいよっ。私と共に頑張ってるんだからっ」
歌野と水都が村人たちと話し続けている中、水都はここへ来た目的を思い出す。
「あっそうだ。私、お母さんや他の神官の人たちに会いに行くんだった」
「そうねっ。それが目的だったものね」
「うたのんたちはここで待ってて」
「えっ、いいの? ひとりで」
「私は手伝いしてたから諏訪支部の事はこの中で一番詳しいし……なにより75円だから警戒はされないと思う」
水都はそう言って小走りで諏訪支部がある方向へ駆けていった。
「……う〜ん、神官の人たちも別に気にしないと思うんだけど」
「歌野は諏訪支部の人たちと面識はあるの?」
「全然ナッシングよ。みーちゃんのマミーさんぐらい」
「なら彼女だけでいいんじゃない? 貴女や本部所属の私が行ったら面倒かもしれない」
「そうかもね……。ん! わかったわっ」
芽吹に諭されて歌野は水都ひとりに任せることにした。
(歌野と一緒だとマズイんだ……。あの水都ちゃんがねー)
普段から当たり前のように歌野にくっついて行動する水都が、珍しくひとりで行くと言った……。
(あー、大社関係だから変に勘繰ってんのかにゃぁ、私は)
自分の故郷で、大社絡みの苦い思い出からか、雪花は妙に神経質になっていた……。
ーー諏訪支部内に入ると早速ひとりの神官が水都に気付き歩いてきた。
「おぉ、藤森さんの娘さんっ。お久しぶりです。村の人々が言い広めてましたよ、お二人が帰ってきたと……」
「はい、お久しぶりです。……もうそんなに噂になってるんですね」
「ええ、それはもう」
「……あ、お母さんはどこにいますか?」
「藤森さんなら今ーー」
「ーーここにいるわよ、水都」
「お母さん‼︎」
水都は駆け出して母の胸元に飛び込んだ。
「ただいまっ、お母さんっ」
「おかえり。……見ない間に逞しくなったわねぇ」
「逞しく? ううん、全然。変わらないよ?」
「私からはそう見えるもの。男らしくなったっ」
「……それあんまり嬉しくない」
「そうかしら? お父さんに似てきた気がするわ」
「えーそうかなー?」
水都は無邪気な幼子のように母親に甘えていた。
近くに歌野たちがいないので恥ずかしい思いはしなくて済む。
……それもひとりで来た理由に含まれるだろう。
しかし、水都はすぐ真面目な表情で神官でもある母に告げる。
「ねぇ、お母さん……」
「……手配書の件かしら? あの情報を、私たちは鵜呑みにはしてない。けど、全国があなたたちを標的とするのは時間の問題。いえ、もう大社の手は迫っているかもしれない」
「……」
「水都。旅をやめてずっと諏訪にいる? なら、私たち諏訪支部はあなたたちを匿うわよ?」
その言葉に水都は頬を緩めてニッコリ笑った。
「……ありがとう、お母さん。でもね……うたのんはそれでも、四国へ行く事を諦めないよ? 神樹様の恵みを手に入れて農業王になりたいんだもん」
「そう言ってたわねぇ。歌野ちゃんは」
「それに、私はその夢を一緒に見たいんだ。うたのんが農業王になる姿を一番近くで見ていたいの。……それが私の夢」
「……ほんっと、見違えるようになったわね、水都」
「えっへへ」
これからのことを考えると確かに不安はあるだろう。それでも歌野は夢を諦める事はないだろうし、水都も歌野と一緒に居続けたいと願う。
「でね、旅をしてていくつか気になった事があるの。お母さんは知ってる?」
「何かしら?」
「"
「……!」
その言葉を聞いた瞬間、母の表情が固まる。
この問いの答えなど。口に出さなくてもわかってしまった。
「私、前にここで見たことあるもん。大事そうに保管されていた、意味のわからない文字を使った紙切れ。……でもあれは大切なものなんでしょ?」
「…………」
少し間を開けて、水都の母は息を吐いた。
「そうよ。あれはね、後の時代に必要になるから……後世に残しておかなくちゃいけないものだから、保管してあるの。今、この世界で起きている真実を、後の時代を生きる者たちに伝えるために」
「わからない文字なのに?」
「
そう言った後、水都の母親は施設の奥へ歩き出した。
水都もその跡を追う。
「見て。これが、諏訪支部が管理している
「ーーっ!」
水都はそれを目撃して黙り込む。そこには北海道支部にあったものと似たものが目に映った。
そしてこれは確かに前にここで見たものだ。諏訪支部が設立され、その手伝いとして施設内を歩き回っている際に、ひと目だけ見たこの異様な紙……。
It’s shine and dark.
Because, It has the sprit in vegetable.
The spirit can have a negative effect on our bodies.
There is a possibility to can build up miasma.
「……ねぇ、お母さん。文章が所々消されているのは、わざとなんだよね?」
「ええそうよ。大社書史部がね、残しても問題ないと判断したものだけ消さずにしてる。だからこれは検閲した結果ね」
「どうして検閲するの? 後世に伝えなきゃいけないのに」
「
今、何か深みのある言い方をした。
「だけじゃない? じゃあこの文字を作った人は? その人も大社にいるの?」
「……正確にはいた、かな。今はもういないの」
「もういない? ねぇ、どういう……」
「話すわ。……でも、それを知る前に、
「……っうん」
とりあえずは話を聞いて母の言葉の真意を確かめることにした。
「
「英語? これは英語なの?」
「見てもわからないようになっているのは"ある人"が暗号化したから。その人は英語からこの文字へ書き換える事が出来たの」
さらに母親が詳細に話す内容によると、
「……でも一年ほど前に病を患ってね。"暗号化する人"は大社を辞めたの。そしてその友人でもあった"翻訳する人"もそれに付き添って大社を辞めて、そのあとは作られてない。原本だけ書史部が持ってるって話」
「そうなんだ」
「ーーで、ここからがあなたの知りたがってた話。今の流れだと、大社は
「うん」
「今の時代にね、大社以外でこの暗号化された文字を解読できる人たちがいるの」
「この文字を? ……っえ、人
「なぜ解読できるかはわからない。でもね、ある共通点を持つ"少女たち"だけは読めるみたい。話では人によって読解力の差はあるらしいんだけど……」
その少女たちとは……。
「大社はその少女たちのことを、"友奈の一族"と呼ぶわ」
少しずつ……。この世界の謎を解いていきましょう。
次回 精霊を宿した野菜