白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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 拙稿ですがよろしくお願いします。友奈の一族。勇者の野菜。神樹様の恵み。について少しだけ謎解きを行って……ってなにィ⁉︎ 新たな謎だとォ⁉︎


前回のあらすじ
 諏訪へ帰ってきた歌野たち、白鳥農業組合。だがそこで知ったのは自分たちがお尋ね者として大社に狙われる身になったと言う事実だった。そして水都は勇者御記について母に尋ねるが……。


第二十八話 精霊を宿した野菜

 

「友奈の一族……? それって結城友奈の"友奈"……?」

 

 "友奈"という名前に関して、真っ先に水都の頭に浮かんだのは、七武勇のひとり、結城友奈だった。

 

「確かに一番有名なのは結城友奈ね。でも、その他にも友奈の名を持つ少女はいるの。まぁ、一族と呼ばれていても血縁関係があるわけじゃない。大社が"友奈"って名前の少女たちを一括りにそう呼んでるだけ」

 

 別に同じ名前の少女など、探せばいくらでもいるだろう。結城友奈の他に、友奈と名のつく者がいても血縁者だという方が珍しい。

 

 しかし、母が言いたいのはそんな事ではない。

 

「その名前は、一体なんなの?」

「友奈の名を持つ少女は特別でね、聞いた話じゃあ、"神に干渉する力"を持っているのよ。人間であれど、神と同位置に立ち、対話する事ができる……そんな()()()のような存在」

 

 そう言いながら母親は一枚の手配書を見せてきた。

 結城友奈の手配書である。

 

「七武勇の中で一番懸賞金が高いのは結城友奈よ。大社は彼女の持つ力に目をつけているの。……他にも彼女は影響力を持つ人間で、これまでにも大社に不満のある者、四国へ行きたい外の者を、煽動しているって話」

 

 現在、結城友奈の懸賞金額は590万ぶっタマげ。

 また、母は他の七武勇の手配書も見せた。

 

「あの三好夏凛さんよりも高いんだ……」

 

 芽吹を一方的に叩きのめしていた三好夏凛は480万ぶっタマげである。

 七武勇は、人々に多大な被害を及ぼすバーテックスと違い、懸賞額は低めにされている、とは聞いていたが、それでも『天秤座』や『乙女座』よりも断然高い。

 結城友奈と、七武勇で一番低い"三ノ輪銀"の290万ぶっタマげと比べると二倍の差。

 

「……そういった摩訶不思議な力の影響で、勇者御記(ポーネグリフ)の暗号を解読できるってわけ。……可笑しな話でしょ? 理屈なんかわからない。でもそんな"友奈"を、大社は警戒してる。今の時代に見られては困る内容も書かれているらしいから」

「……」

「と、同時に大社は"友奈"の名を持つ少女を手元に置いておきたいとも考えてるみたい。……()()()()()()のために」

「いざという時?」

「神に干渉できる力を持つ"友奈"を使って何をするのかはわからない。建前は『人類を救う』なんて言葉で誤魔化しちゃいるけど、実際のところどうなんだか……」

「そうなんだ……勇者御記(ポーネグリフ)の成り立ちや意味なんかはわかったよ」

「他にも聞きたいことがある?」

「うん……諏訪から北海道までの往復でも、色々聞きたいことができたんだよ」

 

 水都は他にも気になっていたことを母に聞く。どれだけ知っているのかわからないが、少なくとも水都が今、建てている仮説の確証の手助けにつながるだろう。

 

「話していいわよ。……お母さんね、実は諏訪支部のみんなに相談したの。"もし、水都や歌野ちゃんが知りたがっているのなら、()()()が知っている範囲くらいは教えてあげよう"って、それが諏訪支部(私たち)の責任……になるかもしれないから」

 

 『責任』

 

 母が言うその言葉の意味をなんとなく水都はわかっていた。

 

「うたのんの人生はうたのんのもの……、大社本部やここのみんなが何を考えていたって、うたのんを操る事なんて出来ないよ」

「そうよね、私もそう思う。……だからやめたのよ。私たちの意思を、歌野ちゃんに勝手に託すのは、ね。大人はただ、あなたたちの夢が叶うのを手助けすれば良かったのよ。勝手にレールを敷くんじゃなくて」

 

 水都はそれを聞いて少し安心していた。

 

「ありがと、お母さん。……でね、聞きたい事だけど……大社所属の防人は今、勇者の野菜を集めてるって知ってる?」

「もちろん。情報くらいは届いてるわ」

「その勇者の野菜なんだけどーー」

 

「ーー食べた人間の"精神"に異常はないのか、ってこと?」

 

「……‼︎」

 

 水都が考えていたことを母は理解していた。

 

「あなたの考えどおりよ。まず勇者の野菜はね、食べた瞬間、"お肉が食べられなくなる"」

「うん、知ってる。実際に見たもん」

 

 北海道へ行ったその日、歌野が口にした瞬間、倒れたことは記憶に新しい。そして能力も使えなくなっていた。

 

「肉体に作用するデメリットがそれ。なぜ肉だけなのかはわからない。仮説はあるけどね。……で、問題なのは精神的なデメリット」 

 

 実は水都は天秤座の戦いの後、眠っている歌野をよそに、()()()、雪花の身に起こったことを聞いていたのだ。

 

「今いる、私の新しい友達は勇者なんだぁ。そしてある時に、自分に負の感情が襲いかかってきたっていうの」

 

 雪花はあの場で逃げ出した。そしてその途中、ドス黒い感情が彼女を支配して幻聴が聞こえた、と話していた。

 自分と同じ声の何か。てっきり雪花は、『ユメユメの野菜』の能力を自分に向けて発動してしまったのかと考えたが、状況的にそれは違った。

 

 ……今でも、その答えは雪花にもわからない。

 

「そして、他の人たちからも聞いたの。北海道にいた能力者、防人No.4。そして三大将のひとり。弥勒夕海子って名前だったかな……?」

 

 No.4は前と性格が変わったという。夕海子に関しても芽吹がいた時は目立った行動を起こしてなかったと聞いた。

 No.4の悪政、弥勒夕海子の台頭。それらはどちらもおよそ()()()のことである。

 

「楠さんが防人を離れて、弥勒夕海子って人が防人の体制を少しずつ変えたんだって……」

 

 そこに関して問題はない。改革を進めることで()()()()なるのなら。

 しかし実際は、防人内での空気の悪さ。No.4による北海道での悪政。

 

『ーー実はNo.4は、前からあんな性格ではなかったんです。ここの人たちを苦しめる事を笑顔でやるような人では……』

 

『ーーその中で特に目立つのはNo.20…いえ、弥勒夕海子。その人が三大将の中心となっています。……その彼女自身も以前とは違う雰囲気でして』

 

 その口振りからすると、まるで以前と性格が異なってしまった。前は違った……。

 そんな言葉が、水都の中である仮説を形作ったのだ。

 

「……もしかして勇者の野菜は、食べた人の精神に悪影響を及ぼすものなんじゃないかって。楠さんがいなくなったから防人がおかしくなったんじゃなくて、勇者の野菜を食べたから……」

 

 夕海子が集め、防人が勇者の野菜を食べた。そう思われる時期と、防人全体の雰囲気が悪くなった時期が重なるのだ。

 

「……」

 

 水都の母はその仮説にこくっと頷いた。

 

「まずね、勇者の野菜を二つ食べる事はできない」

「……?」

「大社に属する研究者によると、野菜を二つ、口にしたものは体が跡形もなく弾け飛ぶらしいの。……なぜなら、野菜に宿る"精霊"が体内で暴走するから」

「精、霊……?」

 

 馴染みのない単語に水都は固まってしまう。

 

「勇者の野菜には精霊が宿るって話。その精霊は、土着の神に由来するものらしく、慈愛よりも怨念を糧とするものが多々存在する。その精霊の力の一部を宿したものが、勇者の野菜。……だから生半可な覚悟や、脆弱な精神、繊細な心を持つ者は、得てしてその精霊に染まり、負の感情が心身を支配していく。……陳腐な言い方をすれば"闇に堕ちる"とでも言うのかしら」

 

 野菜に宿る精霊の影響で、能力者の心は時に不安定になり、時に交戦的になる。

 ……そんな眉唾物の話をなぜか水都は否定できなかった。

 物的証拠などないが、辻褄が合ってしまうからだ。

 

「じゃあうたのんは……」

「でも、野菜を口にした者が必ずなるとは限らない。心を強く持てば、内に潜む精霊を屈服させる事もできるって話もある」

「精霊を屈服させる……」

 

「それを『心身が能力に追い付く』って四勇の人たちは表現しているみたい……だから歌野ちゃんなら、大丈夫……だと思うわ」

 

 『大丈夫』

 

 それが気休めの言葉である事はお互いにわかっていた。

 

「……ごめんね、水都」

「ううん、私も知らなかったんだよ。それに……根拠は無いけどうたのんなら大丈夫って勝手に思ってる自分もいるの」

「そう……」

 

 母の表情は、微笑みながらもどこか悲しさを漂わせていた。

 

「うたのんが勇者になったのは、状況的に仕方無かった。二人とも死んでたかもしれない。……だから『なぜ教えてくれなかったの?』ってお母さんを責める気持ちにはなれない。だからこの話はこれで終わりでいいの」

「……ありがとね」

 

 勇者の野菜のリスクをあらかじめ教えられたとしても、結局は歌野はそれを口にしていただろう。

 

 あの状況下では他に選択肢など無かったのだから。

 

「……うたのんや雪花ちゃんにはこの話を後でするとして……最後の質問」

「ええ、なんでもいいわ」

 

 水都は大社に勤めている母だからこそ、この質問をしてみたかった。

 そしてこの質問は、歌野と共にここへ来ることを嫌がった第一の理由である。

 

「ーー"神樹様の恵み"って何?」

「……」

 

(こんな質問、うたのんが聞いたら怒っちゃうかもだし……。『今更何聞いてるの』って)

 

 農業王を目指す歌野が、必ず手に入れたいもの。

 ……それが神樹様の恵み。

 

「七武勇の三好夏凛さんに会った時、うたのんが二つほど問いかけてたの」

 

 歌野が夏凛へ質問した事は二つ。

 

『三好夏凛をはじめとする七武勇も神樹の恵みを狙っているのか』

『七武勇は全員四国出身なのに、なぜその時に神樹の恵みを手に入れなかったのか』

 

「……彼女はなんて?」

「三好さんはね、『最終的はそうなる』って言ってた。でも、七武勇が豊かな土地や豊富な野菜の種を手に入れてどうするんだろう、て思ったの」

 

 歌野は七武勇も農業王を目指している競争相手と思っているようだが、水都はそうは思っていない。

 

「そして、一番引っかかったのは二つ目の質問。三好夏凛さんはあの時、うたのんの質問に()()()()()()()()()()

 

 

『ーー私たちはとある事情で四国の外に出たの。そしたら、戻れなくなった』

 

 

 夏凛はあの時、四国から出たが、戻れない。だから、神樹の恵みを手に入れられない。という回答をした。

 歌野の問いの、『なぜ四国にいる時に手に入れなかったのか?』に回答していなかったのだ。

 

「……後々考えてみておかしいって思ったんだぁ。もしかして、神樹様の恵みは、"うたのんが欲しがる物も手に入るけど、()()()()()()も手に入るんじゃないか"って」

 

 歌野は若葉に言われたから、四国を目指す旅に出た。

 なら若葉はなぜ、歌野にそんなことを言ったのか、という疑問も生まれてしまう。

 

「歌野ちゃんが欲しがってる、"農業をする上で誰もが欲しがる物"は確かに恵みの中に含まれる。……でもそれは、神樹様の恵みの一部……副次的な物なの。……それくらいしかわからない。ただ言えるのは、"悪意を持つ者"が手に入れてしまえば、四国が崩壊するって事だけ」

「崩壊……。やっぱり四国は神樹様のおかげで平穏を保っているんだね」

「ええそうよ。進化体も()()も侵攻できないのは神樹様のおかげ。……これも恵みの効力のひとつね」

 

 そして…… と母は後に続ける。

 

「四国に住んでいると、その恵みはあたりまえのものになっている」

「あたりまえ?」

「さっきの回答。七武勇の三好夏凛さんは、四国にいる時は必要としなかったんじゃないかしら? でもいざ四国の外に出ると、神樹様の恵みのありがたみを感じた……だから手に入れようと四国へ戻ろうとした。でも大社がそれを阻止している。……これが答えじゃないかしら」

「……‼︎ そうなんだ」

 

 歌野が欲しがっている物は、四国内では()()()()()()()()()

 言わば、酸素と同じようなもの。

 あたりまえにそこに存在しているが、いざ無くなれば、それは致命的な事態に陥ってしまう。

 

 それが『神樹様の恵み』なのだろう……。

 

「わかったよ、お母さん。ありがとう、ここに帰ってきて、私が知りたい事は充分に知れた」

「……じゃあもう行くのね」

「うん」

 

 水都は真剣な表情をしながらも、どこか笑っているようでもあった。

 

(それに話の中で、お母さんはバーテックスの事を星屑と呼んだ。お母さんは本部の人だったんだ)

 

 本部に関わっている者の話なら、信憑性は高い。そう考えていた。

 

「ーーじゃあ最後に。四勇、乃木若葉さんから、歌野ちゃんへ伝言を預かってるの」

「ええ⁉︎ 乃木さんから⁉︎」

 

 歌野が指名手配された後、若葉は諏訪へ通信を試みた。

 その時は水都の母が対応し、歌野が居ないことを告げた。

 

「そうだったんだ。……確かに乃木さんとうたのんは偶に通信してたんだよね」

「その乃木若葉さんから歌野ちゃんへ……『四国にて待つ』って」

「そっか。伝えておくよ」

 

(乃木さんは、立場的に言えば大社側。……賞金首で、なおかつ四国へ行くうたのんを、待つ……?)

 

 水都は若葉の伝言の真意を考えていた。しかし、本人に聞くしか方法はない。

 

 そして、水都は母に別れを告げる。

 

「じゃあね、お母さん。いつかまた……」

「ええ、いつでも待ってる。だから突き進みなさいっ。あなたたちの道を」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーそして、水都は歌野たちの元へ戻り、母から聞いた内容をかいつまんで話した。

 

「ーーそっかー、勇者の野菜にねー。私に起こったあれもそうだったってわけかー」

「……三好さんの言う防人の現状が、それってわけね」

 

 雪花はあの時の事を思い出して納得していた。

 芽吹は今の防人の現状について夏凛に言われた事と照らし合わせていた。

 

「もお、みーちゃんったら、なーんかシリアスな表情浮かべて行くからどうなんだろうって思ってたけど、勇者御記(ポーネグリフ)の他に神樹様の恵みについても聞いてたんだぁ」

「うん……」

「みーちゃん、神樹様の恵みは、確かに乃木さんからの情報だけで他の事はシークレット。でも、そういうのをひっくるめて確かめに行くのよっ」

「だよねっ。ごめんねっ、余計なことまで聞いて」

「ううん。知りたい、っていうのはみーちゃんの自由だからそこは問題ないよ」

 

 歌野は四国のある方角に人差し指をビシッと向けた。

 

「私は農業王になるっ。神樹様の恵みの"本質"がなんであれ、私にとって必要な物があるのなら……手に入るのなら、目指すしかない! それがマイウェイ‼︎ よーしっ、待ってて乃木さんっ!」

 

「ーーにゃっはは。歌野らしい」

「そうね」

「うんっ!」

 

(良かった……。勇者の野菜の影響は問題なさそうだね、流石うたのん)

 

 水都は変わらずいてくれる歌野の姿に安心し、同時に嬉しくも感じた。

 

 

 

 ーーそして、四人は歌野の実家で一晩過ごし、西へ……ウェストジャパンを目指す。

 

 

 

 

 

 

「ーーよろしかったのですか? 藤森さん。娘さんに言った事が本部にバレれば……」

 

 水都が去った後、諏訪支部内で神官と水都の母親が話していた。

 

「ええ、誰かが本部に話せば、私も諏訪支部も、大社本部に処理されるわね……」

「それでも、ですか?」

「それでも、よ。私たちは勝手に歌野ちゃんに背負わせてしまっていた。……私たちの思惑を。大社本部の……果ては四国への()()()()()を……」

 

 水都の母は空を見上げて呟く。

 

「夫と、歌野ちゃんの両親はそれを危惧してたのに。……だからもし、誰かが私を粛清するのなら甘んじて受ける。それが私なりの責任の取り方……」

 

 隣にいた神官も頭を縦に振る。

 

「……そうですね。あなたがそう判断するのなら、私たちもそれに殉じましょう。未来ある若者のため」

 

 

 

 

「ーーこれからの時代を切り拓いていく、子供たちのために、ね」

 

 




もし、『ひとつなぎの大秘宝』が最後の島にあるとして、その島に住人がいたとして、その人たちは『大秘宝』をどう思っているのか? という疑問がありました。
多分、「なんとも思っていない」または「ありがたいけど、あって当たり前だと思っている」のではないかと考えます。

『神樹様の恵み』もそんなイメージ。


次回 二人の追跡者、二体の逃走者
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