白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。この章も大詰めといったところでしょうか。歌野、雪花、芽吹。この三人が戦闘の中でどんな成長を遂げるのか。


前回のあらすじなんよ〜
 諏訪へ戻った彼女たちは改めて四国を目指すべく、ウエストジャパンへの道を着々と進む事にしたんよ〜




第二十九話 二人の追跡者、二体の逃走者

 

 現在、歌野たちは長野県西部にいた。

 

「あの山を越えればもうイーストジャパンは終わって、ウエストジャパンに入ることができる」

「……あの先には今まで以上に過酷な大地が広がっているんだね」

 

 ウエストジャパンの入口にあたるのは、長野県と岐阜県の境。

 境界線に関しては明確な位置付けはされていない。人によっては富士川を境界とすることもあるし、県境で区切っていると言う者もいる。

 

「ん? みーちゃん震えてる?」

 

 遠くに見える山を目に、水都の手足は震えていた。

 

「震えるよ……。ウエストジャパンはこれまでうたのんたちが戦ってきたバーテックスを凌ぐ強さの進化体がいるって話だから……」

 

 その言葉に雪花は肯定の意を込めて頷く。

 

「そうだねー。私たちが北海道で戦った天秤座。その前に歌野が倒したっていう乙女座。奴らなんて足元にも及ばないような個体が闊歩してるのがウエストジャパン……そして中国地方(マリンフォード)だね」

「アレよりストロングなのが、わんさかいるの⁉︎」

「わんさか、ってほどじゃ無いけど、進化体バーテックスの中には懸賞額が1000万を越えるものもいる」

「一般的に"1000万越え"って呼ばれてる。そのレベルになると支部を壊滅させられるほどの強さなんだって……」

 

 諏訪支部に関係している水都も、噂くらいは耳にしたことがあった。

 

 現在、"1000万越え"のバーテックスは四体存在し、大社の防人も戦いを避けている。

 また、四勇でも単独では勝てるかわからない、とまで言われているほどである。

 

「……ねぇ、楠さんはそのバーテックスたちについて詳しい話知ってる?」

 

「ふっ……、はっ……、しっ……」

 

「……ありゃりゃ、鍛錬中で相手にしてくれないわ」

 

 芽吹は休憩の合間、ずっと刀で素振りを行っている。

 

「まぁ確かに、ここから先は大社本部にぐんと近付いていくことになるから……、今のままじゃいけない」

 

 四国へ向かう歌野たちを阻むのは、何もバーテックスだけではない。賞金首となっている以上、中国地方(マリンフォード)に行く以上、必ず大社と衝突する事になるだろう。

 

 歌野は右手にベルトを出現させると、誰もいない方向へ伸ばしてみる。

 また、手首を小刻みに動かせてベルトを波打たせるように揺らす。

「……私も強くなる必要がある。だから『ムチムチの野菜』の能力の可能性を広げていかなくちゃ」

「可能性?」

「うん。もっと能力を理解してアプリケーションしていけばさらなる成長につながる。強くなればバーテックスも大社も関係ナッシング♪ 農業王への道がぐんっと近付くはずだわっ」

 

 はたから見るとベルトをなびかせて遊んでいるようにも思えるが、歌野にとっては自分の能力を理解するために試せる事はどんどん試していきたいのだ。

 

「私が強くなったら今よりももっとみーちゃんを安全に守ることができるのよ」

「うたのん……」

 

 少し照れながらも水都ははにかんだ。

 

「休憩終わりっ! じゃあ向こうまでひとっ跳びでーー」

 

「「うぅあああああああああああ〜〜〜!!!」」

 

「ーーえ⁉︎ なに⁉︎」

 

 突然、どこからか子供の泣き叫ぶ声が辺りに響き渡る。

 

「あっ‼︎ 見てうたのん‼︎」

 

 水都の指差す方を見ると、子供二人が悲鳴をあげながら全速力で走っていた。

 

「子供⁉︎ 何でこんなところに⁉︎」

「わからないわっ。でも助けないと‼︎」

 

 状況からしてバーテックスに追われているのだと、即座に歌野は考えた。

 この際、なぜ子供だけでこんなところにいるのかは後にする。

 

「みて()()()()()()‼︎ あっちからひとがくるよ‼︎」

「うんぼくもおもった、()()()()()()、あのひともなかまかな? ぼくたちをねらってるのかな?」

 

 子供二人は向かってくる歌野たちに困惑していたが、後ろから迫ってくる"敵"の恐怖により、方向を変えず走り続けるしかなかった。

 

「……! ねぇ、あの子供たち!」

「うんっ。酷い格好……」

 

 近付いていくと子供の姿がはっきりとしていった。

 二人は顔立ちがよく似ている白髪の男の子と女の子だった。さらに二人の衣服はボロボロの布切れだけ。その布切れから走るたびに見える素肌は、真っ白の中に所々傷跡があり、血痕が付着している。

 

「歌野、雪花。子供は私と水都が保護するから、貴女達は敵を倒して」

「了解よ! ……そこの二人共‼︎ こっちへ‼︎ 私たちが守るから‼︎」

「「ーーええ⁉︎」」

 

 芽吹の指示により、歌野と雪花は子供二人を飛び越え、後ろにいるはずの敵に対して戦闘体勢に入る。

 

 

 

 ーーが。

 

 

「……え?」

「いない? バーテックスじゃないの?」

 

 二人ともその場に固まった。

 

「……もう大丈夫だよ、二人とも。あの二人がバーテックスをーー」

「ち、ちがうよ。ぼくたち」「わたしたちをおそってきたのは」

 

 二人の子供は口を揃えて水都へ告げるーー

 

「「にんげんだよ‼︎」」

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 ーー歌野と雪花は辺りを見渡す……が、それらしい敵はいない。

 

 ……すると、()()は上から降りてきた。

 

「あっ! 歌野、上見て!」

「上? ……!」

 

 上を見た二人の目の前には、ひとりの少女がゆっくりと降りてきた。

 

「ん〜? あなたたち誰〜?」

 

「ひ、ひと……?」

 

 その少女は白金の長髪を靡かせ、後頭部に白いリボンを付けていた。

 そして少女は、空想の物語で魔女が箒に乗って空を飛ぶように、槍に座ったまま宙を漂い続けていた。

 

「よよよっと〜」

 

 座っていた槍から降りて綺麗に着地する。

 

「雪花……。今、空に浮いてたわ」

「うん。そういう能力者って事なの……?」

 

「ーーあ、あのひとだよ。ぼくたちをおっかけてきたの」

「ねぇねぇ、ほんとにわたしたちをまもってくれるの?」

「え? う、うん……」

 

 水都もこの状況に困惑していた。子供を狙ってきていたのはバーテックスではなく人間だったからだ。

 

「……水都。少し離れなさい、彼女は能力者よ」

「……ってあの人」

 

 少し離れた位置からだが、水都はその少女に見覚えがあった。つい最近の事である。

 

「うたのん、雪花ちゃん! その人、"七武勇"だよ‼︎」

「えっ⁉︎」

「この人が?」

 

 少女は槍を手に微笑んでいた。そして、槍の穂先が開くと、六本の刃が分かれ、槍の先端部周辺を()()()()()()

 

「七武勇……三好さんの仲間ね」

「ん〜? にぼっしーの事知ってるんだ〜。そうなんよ〜、世間ではそう呼ばれてる、勇者部(七武勇)の"園子"なんよ〜」

 

(にぼっしー?)

 

 おどけた口調で話し続ける、園子と名乗る少女はその変わった槍を歌野と雪花に構える。

 

「「ーーあ、あのひとだけじゃないよ‼︎」」

「え?」

 

 二人子供がまた同時に水都へ告げる。

 

「ぼくたちを!」「わたしたちを!」

「「おってきてるのは、もうひとりいるの! ()()()()()()()()()()()()‼︎」」

「うってくる? 狙撃手って事?」

「「たぶんそれだよ」」

 

 水都と芽吹はお互いに頷きあう、そして障害物となりそうな木の影に入った。

 

「歌野、雪花! 敵には狙撃手もいるわ‼︎ 多分、七武勇のひとりよ‼︎」

「狙撃手……? どこからか狙ってるって事?」

 

 二人は目の前の人物と、どこにいるかわからないもうひとりに警戒する。

 

「もうひとり‼︎ 隠れてないで出てきなよ!」

 

 雪花は槍を周囲に向けて言い放つ。

 

「よっよっよ〜。出てこいと言われて出てくるほど……」

「ーーここよ」

「……あれ〜? わっしー出てきちゃったの〜?」

「……彼女たちが気になったのよ」

 

 弓矢を携えた少女が遠くから跳んできた。『濡羽色』と表現するほどの美しい黒色の長髪に整った顔つき。女性らしさを充分に備えた体を持つ少女だった。

 また、園子と名乗った少女と色違いで、青のリボンをしていた。

 それを見た雪花は槍を二人に向ける。

 

「貴女たち二人はどうしてここに?」

「ん〜? どういうこと〜?」

「貴女たちはどうして子供たちを追いかけていたのって聞いてるの」

 

 雪花の問いに園子はポカンとしていたが、少しするとニコッと笑った。

 

「あの子供たちを仕留めるんよ〜」

 

「「ーー⁉︎」」

 

「だから邪魔しないでくれるかな〜?」

 

 園子の持っていた槍の穂先にある刃が周囲を漂い、二人に切っ先が向く。

 

「どうしてあのチルドレンッを?」

「え〜。だって危険なんだから当然だよ〜」

「危険……?」

 

 園子の答えに二人は謎が深まるばかりだった。

 

「ちょっとちょっと、そのっち」

「ん? どうしたのわっしー?」

 

 園子から変わった名前で呼ばれている黒髪の少女は園子に耳打ちしている。

 

「……あ〜、そういう事か〜」

「ねぇ、逆に聞くのだけれど、貴女達はなぜそれを庇うのかしら?」

「庇うのは当然じゃないっ。襲われていたんだから」

「そう……。なら」

 

 わっしーと呼ばれた少女は少し下がって矢をつがえた。

 

「……押し通るわっ。()()()()に味方する人なんて、私が射抜く!」

 

 

 

 

 

 ーー水都と楠は子供二人を抱えながら走り、後に続く()()()()()は追ってくるかもしれないあの二人に備える。

 

「今のところはノープロブレムよっ!」

「うん、森を突き抜けてるから、射線は通らない」

「雪花ちゃんのおかげだね」

「……それにしても、『ユメユメの野菜』の能力で、あの七武勇二人を撒けるなんて」

「にゃっはは。肉眼でなきゃ意味ないけど、決まれば楽なもんよっ」

「ほんっとスーパーな能力だわっ」

 

 雪花はあの瞬間、二人に対して能力を発動させた。そして相手が能力にかかった瞬間、全員でその場を脱したのだ。

 狙撃手がいると聞いて、周辺に槍を向けていたのも、もうひとりの視界に槍を捉えさせるためだった。

 

(まぁ、正直に出てきてくれたから、完全に催眠にかけられたけど)

 

「でも、私の能力はずっと続かないから。もしかしたらもう解けてるかも」

「いえ、充分よ」

 

 一度立ち止まり、子供を下ろしてひと息つく。

 

「あ、みなさん。ほんとうにありがとうございました!」

「まさか、ほんとうにわたしたちをたすけてくれるひとがいるなんて……」

 

 子供は丁寧にお辞儀する。

 

「あったりまえよ。困った人を助けるのは当然っ」

「そうだねー。酷い人たちがいたもんだよ」

「……」

 

「「……?」」

 

 芽吹はじっと少年少女を見続けていた。

 

「どうしたの? 楠さん」

「……ねぇ、どうしてあの二人はこの子達を襲ったのかしら?」

「それもそうねっ。ねぇ貴女たち、何か悪戯とかバッドな事したのかな?」

 

「……おにいちゃん。やっぱりきづいてなかったんだね」

「うん。ぼくもそんなきがしてた」

 

 二人は四人に向かってまた頭を下げた。そして同時に口を開く。

 

「ぼくたちのほんとうもしらずに」「わたしたちのほんとうもしらずに」

 

「「ーーどうもありがとう! そしてごめんなさい」」

「……え? ごめんって? それに、本当ってどういう……」

 

 水都はそこで、ようやくこの子たちの()()に気が付いた。

 芽吹も、"もしかして"とは思っていたが、確証が持てなかったのだ。

 

 

 ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「みーちゃん? ……楠さん?」

 

 水都は驚き黙ったまま、芽吹は腰に差した刀に手をかける。

 

「「ちゃんとじこしょうかいします」」

 

「ぼくたち」「わたしたちは」

 

 

 

「「ーー"ヒトヒトの野菜:モデル『双子』"をたべた……バーテックスだよ」

 




双子座:人の言葉を話すバーテックス。ヒトヒトの野菜:モデル双子を食べた人に近いバーテックス。懸賞額は200万ぶっタマげ(進化体内で一番低い額)


次回 双子のバケモノ
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