(東郷さんの能力が強すぎる……)
前回のあらすじ
双子座を守るべく、七武勇の東郷美森と園子と戦う歌野たち。しかし、彼女たちの実力は、七武勇に恥じないものを予感させた。
そして、忍び寄る"第三の影"とは……!
歌野が東郷に突撃しようとする直前に、東郷は後ろへ後退する。
「……!」
そして、離れた位置からライフルの引き金を引いたーー。
「うわっ!」
放たれた弾丸は歌野の足元に着弾した。
「今のは挨拶代わりと牽制よ? 白鳥歌野さん」
今度は歌野がベルトを東郷に向かって伸ばす。
「はぁ!」
「……!」
東郷はそれを回避した……が、回避した後でそれが避けなくても当たらない攻撃だと気付いた。
「ふふっひ♪ 挨拶代わりよっ」
「……」
「ーーよっよっよ〜。あの"農業王"さん、面白いね〜」
「よそ見ッ?」
雪花と園子の槍撃は鋭く、所々で火花が散るほどだった。
(私の能力はもうバレてる……。その証拠に、彼女は私を"視界"で捉えてる)
園子は戦いの中で、決して雪花の槍を見ようとはしていない。目線はどこか空を見つめており、ボーッとしているかのようである。
(防人のバイザーや、私みたいな眼鏡も無しなら、それしか方法はない……けどっ)
槍を回転させて園子へ突進する。
「はあああッ!」
「……っ!」
園子は下を向いたまま、宙を漂う槍の刃を操って応戦していた。
「にゃっはは。戦いにくいんじゃない? 私の武器も見ずに、ボーッとしててさー」
「ボーッとするのは慣れてるんよ〜。そのままでも戦えるくらいにね〜」
雪花の突きは、刃を一箇所に集らせ、盾にする事で防がれる。
(問題なのは、彼女の"能力"。それを解き明かせば早期決戦にできる。そうすれば歌野の加勢にいけるけど……)
仮にも七武勇という大層な肩書きを持っている相手、一筋縄ではいかない事はわかっている。
「物を宙に浮かせる能力……。名付けるなら、『フワフワの野菜』って所かにゃぁ?」
「……!」
雪花は園子の能力を予想して、あえて口にする事で動揺を誘おうとした。
的中すればヨシ。的中せずとも園子の表情や言動で更なるヒントを得られると踏んだからである。
(ビンゴ……?)
一瞬、園子の表情が固まったが、また和やかな顔に戻る。
「フワフワの野菜……。良いネーミングセンスしてるね〜。
「……違う、けど遠からず、ってことかな」
(能力の名付け親が大社? 彼女と大社に一体何の関係が……?)
ーー歌野は、ずっと一定の距離を空けながら、矢を撃ってくる東郷にヤキモキしていた。
「ピョンピョンピョンピョン、ジッとしてくれないわねっ」
「狙撃手は寄られたら不利になる。だから必ず距離を空けなきゃいけないのは当然の事よ」
「ーーそしてここで、狙い撃つ!」
「くっーー」
放たれた矢をベルトではたき落とす。
「……何度見ても間違いない。攻撃を防いでいる。やっぱり私たちはさっき、幻覚を見せられていたのね。でも今は現実。……困った能力よ、彼女は」
「ーームチムチの〜、ロケット〜〜!」
「ーーっ⁉︎」
樹木に括り付けたベルトを使って、勢いよく東郷に突っ込んだ。
「ココは私のリーチエリアッ! ムチムチの
「ーーぐぅあ‼︎」
避け切れず、右肩に命中して東郷はふっ飛んだ。
「……やっとヒットしたわねっ」
東郷は右肩と体についた煤を払い呟いた。
「……銃というのは」
「……?」
「ーーこういう物の事を言うのよ」
ーーパァン‼︎
銃声の直ぐ後に、歌野の
東郷が撃った弾丸が掠めたのだ。
「うっ……」
「よく避けたわね。おかげで擦り傷程度で済んだ」
いつのまにか東郷の手にはピストルが握られている。
ーーパァン‼︎ パァン‼︎
「ーーっ‼︎」
二発目、三発目と放たれた弾を、今度は完全に避ける。
この時、また歌野と東郷の間に距離ができた。
「……狙撃弾」
ーー今度はまたライフルを握っており、東郷は即座に引き金を引いた。
「この距離は、私の間合いよーー」
そしてライフルから放たれた弾丸は、避けたばかりで体勢の良くなかった歌野の腹部を撃ち抜いた。
「ううっ! がはっーー」
弾は体の外へ脱したが、その激痛から歌野は地面に倒れ込んだ。
「あ……ああっ、くッ!」
東郷の武器はライフルから弓矢に変わっている。
「ムチムチの
歌野は腹部を押さえながら、立ち上がる。
「貴女と……同じ……?」
「ええ、そう思っただけよ。でも勇者の野菜の能力は"似たような系統"はあっても、"まったく同じ能力"は存在しない」
「ーーふぅう‼︎」
「ーーはあッ!」
歌野が繰り出す一撃を矢を放って相殺させた。
そしてまた矢をつがえ、歌野目掛けて弓を引く。
「私の能力は『ブキブキの野菜』。武器という概念ならば、質量、体積問わず、どんな武器でも変化させられる『
東郷は弓を引いていた手を離して、歌野へ矢を放ったーー。
「ーーハァ、ハァ」
「……ふ〜」
雪花は槍の刺突、そこから流れるように右方向へ薙ぎ払う。
「よっよっよ〜〜と」
それを園子軽々しく避けていく。雪花が肩で息をしているのに対して、園子は余裕綽々の姿勢だ。
「くっ。向こうは槍を見てないのに、それを苦とも思わないように捌いていく……っ」
(なにより厄介なのが、あの飛んでる刃。あれが攻撃の際は自由自在に飛んでくるし、防御の際には彼女の盾になる……)
雪花は跳んで上から槍を叩きつける。
「やああああ‼︎」
それもまた、刃が盾になり園子を守る。
「ーーちっ」
(なんとかして不意を突いて、彼女を夢に誘いたい……。じゃなきゃジリ貧でこっちがへばる)
雪花が余計と思えるほど派手に動き続けて攻撃するのも、園子は大して動かずにそれをいなしている。そして、今では一歩も動くことすらなく、宙を舞う刃を操作して攻撃と防御を交互に行っている。
このままでは、攻撃や回避に体力を使う雪花が先にバテてしまう。
「便利な能力だねーそれ。その気になれば
「よっよっよ〜。そうだね〜、私をそんな状態にできる人がいるなら、の話だけどね〜」
「随分な自信だこりゃ」
「ーーそのっち。まだ終わってなかったの?」
「ーーッ⁉︎」
その時、東郷が樹木の影から姿を現した。
「な……っ」
「あ〜、わっしーどこまで行ってたの〜? すぐ見えなくなっちゃってたからさ〜」
「……んで」
「……?」
「なんで……? 歌野はあ⁉︎」
「彼女ならーー」
そう言いながら、東郷が来た道を振り返るとーー
「ーーこおおおこおおおよおおおお!!!」
その瞬間、飛び込んできた歌野の振るうベルトが東郷を吹っ飛ばした。
「ーーうあッ‼︎」
「歌野! ……良かった」
「ハァ……ハァ……。雪花、無事?」
「あっ……う、うん。歌野……よりは……」
駆けつけて来た歌野は、右肩から血が二筋流れ出していた。それはその傷口に、先程まで矢が刺さっていた事を意味していた。
加えて、額から血が流れていた。
「……私と同じ
「タフネスなのが私の取り柄だからねっ。旅に出る前は毎日毎日畑仕事っ。スタミナもついてヘルシーに育ってるのよっ!」
「……やっぱり面白い〜」
(今、東郷美森が吹っ飛ばされたとき、彼女の気が逸れた。歌野の奇襲で完全に意識が向こうにいってた)
雪花は園子の意識が次に逸れる機会を狙い、一気に畳みかけようと考えた。
(最高のケースは歌野が先に倒して彼女の集中力が切れたときね。いや、そうならなくても、彼女の集中力が切れたら
ーー歌野は東郷に追い討ちをかけるべく、また突っ込んでいく。
「……っ、馬鹿のひとつ覚えみたいにーー」
「だったらねッ! 止めてみてッ‼︎」
腕を高速に動かせることでベルトによる多重攻撃を行う。
「ムチムチのぉ!
「ーーぐあ、ーーうわ、ーーあがッ!」
流石に迫る全ての攻撃を避け切れず、東郷の体は攻撃を食らうたびに後ろへ後ずさる。
「……ガトリング? ごめんなさい、やっぱり横文字は苦手なのよ……」
「……」
「でも、機関銃って……こういう物でしょ⁉︎」
途端、東郷は両手で機関銃を持ち、歌野へ連射させた。
「負けないわっ、ワンモア……
ダダダダダダダダダッ。
「やああああああああ‼︎」
東郷の銃撃と歌野の攻撃が衝突したその瞬間ーー
バチバチバチィッ‼︎
「「ーーッ!?」」
摩擦で放電が起こったのか、ベルトと弾丸との接触部から黒いアークが発生した。
「わっしー! 大丈ーー」
異変に気付いた園子がかける声をかき消すかのように歌野は追撃をかけ、東郷も応戦する。
「ーームチムチの、
「何度言わせるの⁉︎ 銃とはこういう物よッ‼︎」
歌野が伸ばしたベルトと東郷の放つ弾丸とが衝突したときーー
バチッ‼︎
今度ははっきりと、黒い稲妻のようなものが走った。
「うわっ」
「ぐっうっ」
その衝撃で双方はよろけて地面に尻餅をついた。
「ーー今の……やっぱり」
園子はその応酬をつい眺めてしまっていた。
……
(ーー今だッ‼︎)
雪花は園子が意識を歌野と東郷の戦いに向いた瞬間を待っていた。
この場にいた者ならば、誰もが視線を向けてしまうであろう歌野と東郷の応酬も雪花の視野には入っていない。
「
「ーーっ⁉︎」
僅かな気の緩み。そしてその瞬間を狙って、この戦いで初めて槍を放り投げたことで、雪花は園子の不意を完全に突いたのだ。
ガンッ!
「……あっ」
園子は飛んできた
「…………」
「ーー勝ったッ!」
微かに曇った園子の表情とは正反対に、雪花は歓喜の表情を浮かべた。
……勝利を確信した笑みを。
「
「ーーッ!?」
そして、園子は立ったまま動かなくなった。
眼は開いているが、どこか虚空を見つめたおり、体は力無く、宙を漂う刃は、園子の持っていた槍と共に地面に落ちた。
「……え? そのっち?」
「や、やったのねっ」
相手を催眠にかける事ができ、雪花と歌野は勝利を確信する。
「大変だったよ。まあでも、ここまで、だねー」
雪花は槍を拾い上げ、動かない園子へ穂先を向ける。
「そのっち‼︎ 起きてッ‼︎ ねぇ⁉︎」
「大声出されたら、起きるかもねっ。……でもその前に討つッッ‼︎」
雪花はそのまま突撃する。
そしてその槍は園子の体へ吸い込まれーー
ーースカッ
「……?」
「……⁉︎」
園子の体が右へ傾いて槍の刺突を
「
次に雪花は横薙ぎに払う。
ーースカッ
今度は体を屈めることで攻撃を回避した。
……園子は未だ夢の中にいる。
「ね、寝相が悪いんだねー!」
雪花は園子の頭目掛けて槍を振り下ろした。
「…………」
ーースカッ
「……は、はぁ?」
ここまで来れば、嫌でもわかってしまう。
園子は夢の中にも関わらず、雪花の攻撃を避けているのだ。
「ーー流石ね、そのっちは」
東郷は大砲に変化させて真上へ空砲を放った。
パァン!!!
「「ーーッ⁉︎」」
「ーーはッ⁉︎ あわわっ、お母さんごめんなさいっ!」
大きな音だけが周りに響き渡り、その音で園子が目を覚ました。
「誰がお母さんよっ」
「……あれれ〜。もしかしてまた私寝てた〜?」
「そうよ。……ったく、槍に注意してって言ったでしょ?」
「えっへへ〜。ごめんね〜」
「「…………」」
歌野と雪花は何も言えなかった。ユメユメの野菜の能力は上手くいったのに、その状態から動けるとは思ってもみなかったからだ。
「でもわっしー、おかげであの能力の正体わかったんよ〜。槍を見ると催眠をかけられちゃう。わっしーご名答〜」
「ええ、やっぱり間違いではなかった。それに彼女が眼鏡をかけている事から、恐らくレンズやガラスなどの遮蔽物越しならば、催眠にはかからない」
東郷はライフルを持ち、片目を瞑りもう片方でスコープ越しに雪花の槍を覗く。
「……どうかしら? 私を夢に誘ってみなさい」
「……くっ」
雪花は歯を食いしばり、何もできない事を悔やむ。
「図星、のようね」
「それにわっしー、両眼を閉じて戦えば関係ない事に気付いたんよ〜」
「……え?」
園子は目を閉じて雪花の方へ歩いていく。
「な、何馬鹿な事を……。貴女、ふざけてるの、かな……?」
「そう思うならやってみてよ〜。ほらほら〜」
「ーーくっ!」
チープな挑発に耐えかねた雪花は冷静さを失い、槍を園子の顔目掛けて突き出した。
「ああああーーー‼︎」
「……私の顔を狙ってる〜」
「ーー⁉︎」
園子は目を閉じたままその刺突を、首を傾けるだけで避ける。
「はあああ‼︎」
「私の顔に右足で蹴りを入れてくる〜」
「ーーはああ⁉︎」
雪花は右足で園子の顔を蹴ろうとしたが、園子は屈んでまた避ける。
そして同時に、雪花の地面に着いていた左足を蹴り飛ばして転ばせた。
「あっ……くっ」
地面に座るも、即座に立ち上がり、思いっきり槍を掲げる。
「上段から勢いをつけて振りかぶってくるね〜」
「ーーチィ」
園子の言ったとおり振りかぶった。しかしそれも横にヒラリと回避される。
「一体……、雪花に何が起こっているの……?」
歌野は東郷との戦いを中断して雪花と園子の戦いを見ていた。
「ーーうあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「……私から見て、左から右に横薙ぎして、その後ーー」
雪花は園子を右から横方向に槍を薙ぎ払った。それは当然、園子から見れば左から右に流れる。
「避けた私のお腹目掛けてまた右足で蹴りを〜〜って、やめちゃうの?」
「……っ⁉︎」
薙ぎ払った槍を避けた園子へ、即座に蹴りを入れようとしたが、また片足を払われると懸念した雪花はバックステップで距離を取った。
……そして、ここまでが全て、
「どういう事……っ。貴女の能力は……」
(彼女の能力って……)
「物を浮かせる能力じゃないの⁉︎」(物を浮かせるだけじゃないの?)
雪花と歌野の疑問を、園子は笑みを浮かべながら答える。
「私の能力は、触れた物を浮かせる能力で間違いないんよ〜? でも今のこれは、あなたの"気配"や"攻撃するという意思"を感じ取っただけなんよ〜」
「……な、何を言って」
「ーー改めまして私は園子。……『トリトリの野菜』を食べた鳥人間なんよ〜」
園子は自身の能力名をカミングアウトした。
「トリトリ……?」
「鳥、なの……?」
「うん〜。あなたさっき、私の能力知りたがってたじゃない〜? だから教えてあげたんよ〜。あ〜でも、『フワフワの野菜』って名前も気に入ったからそう呼んでもいいよ〜」
「ーーふ、ふざけるのもいい加減にしてッッ‼︎」
雪花は槍を園子に向ける。園子は以前目を閉じたままで、東郷は視線を雪花に向けないようにする。
「鳥ぃ!? どこの世界に槍の穂先を浮かす事ができる鳥がいるのよ⁉︎ 自分が浮いて飛ぶだけならわかるっ。……いや、翼も無しに飛ぶ鳥なんてやっぱり
声を荒げて意見する雪花に、東郷が答える。
「確かにあり得ないわね。……
「特別……?」
東郷は園子を見た。園子は東郷に全部説明して良いと思い、頷く。
「そのっちの能力はね……。『トリトリの野菜:モデル"鴉天狗"』。鳥系の能力を手に入れられる、『トリトリの野菜』の中でも希少な……"幻獣種"よ」
「幻獣、種……?」
……聞いたことのない言葉に、雪花と歌野は固まる。
「……でもね、驚くべきなのはここからなのよ。……そのっちの場合は
「なに、を……」
「どういう意味?」
雪花と歌野は畳み掛けられる新事実に、頭を追い付かせる事で一杯だった。
「大社はね。
「……」
園子は薄く瞳を開けて、悲しげな表情を浮かべた。
「ーー私たちは、元は大社に所属していたの。……そしてそのっちは、"大社の闇"によって作り出されてしまった……犠牲者なのよ」
東郷美森:『ブキブキの野菜』の武器人間。リンクした物をあらゆる"武器"に変える事ができる。(変化させる事はできるが使いこなすには勉強と鍛錬が必要)
武器を装備する事から、"
彼女は好んで遠距離系の武器を使う。(懸賞額は380万ぶっタマげ)
園子(苗字は隠している):『トリトリの野菜:モデル"鴉天狗"』の鳥人間(幻獣種)。
四国でしか入手出来ないといわれる"幻獣種"のひとつ……のようだが彼女の場合、
その勇者の能力と比較して『モデル"小天狗"』とも呼ばれている。(懸賞額は425万ぶっタマげ)
・東郷、園子、そして銀は初めて勇者で賞金首になった。
次回 完全なる敗北