白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。東郷さんならマジで出来そう。戦闘機とか戦艦の操縦……。


前回のあらすじ(?)
歌野「一体なんなの⁉︎ 貴女の能力っ」
園子「私は『トリトリの野菜:モデル"カラス"』なんよ〜」
雪花「どこの世界に貴女みたいなカラスがいるのさ!」
東郷「そのっち。ちゃんと"鴉天狗"って言ってあげて。鴉か鴉天狗かでは大きな違いがあるわ」



第三十二話 完全なる敗北

 

 芽吹と水都は双子座の手を引いて、森の中を突き抜けて行く。

 

「ね、ねぇ、楠さん」

「……何?」

「今さらに、なるんだけど……楠さんは、一応は大社の人、だよね? いいの? この子たち側にいて」

「……」

 

 少し黙っていた芽吹だったが、双子座を一瞥した後、口を開く。

 

「確かに今更ね」

「「……っ」」

 

 双子座は芽吹の目線に身体を震わせた。

 

「私がこっち側にいるのは、歌野の言葉があったから。取引相手でもあるしね。それに私はまだ、双子座を信用してる訳じゃない」

「え、それって……」

「あの場に私が残って3対2で戦う構図もあった。でも……だったら貴女は一人になる。それを()()()()()()()()()どうするの?」

「えっ?」

「ぼく、そんなっ」「わたし、そんな」

 

「ーー私は可能性の話をしてるのよ」

 

 芽吹の一言で三人は沈黙する。

 

「歌野は二人をまったく警戒して無かったけど、それが作戦っていう可能性もある。……そして、二人が本当に無害である可能性もある」

 

「「「…………」」」

 

「別に私はどっち側かに揺れてる訳じゃない。……でも、双子座を"信じる"も"疑う"も、どっちかに頭を傾けてたら、いざ真相がその"逆"だった時、次の瞬間の出足が鈍ってしまう。……言っている意味、分かる?」

 

「う、うん。……なんとなく、だけど」

 

 双子座もコクコクと頷いている。

 

 それからまた、黙ったまま走り続けた。

 

 

「ーーあっ……はぁ、はぁ……」

「……疲れてきたわね」

「「だいじょーぶ?」」

「う、うん。……でも走らなきゃ、さっきも安全だと思ったのに、上から来てた……」

「ええ、そうね。きっと黒髪の方の彼女は私達の居場所が分かるんじゃないかしら? あの戦闘機には、レーダーが搭載されていてもおかしくないから」

 

 一旦立ち止まり、呼吸を落ち着かせる。と言っても、芽吹や双子座と比べて体力がない水都だけが呼吸を荒くして、地面に座り込んでいる。

 もっとも、水都の場合は歌野の荷物も持っていることが、体力を余分に使ってしまう要因でもあるのだが。

 

「楠さん。私を置いていっていいよ。あの二人の狙いはこの子たちだもん」

「それは分からないわ。もしかしたら、貴女を人質に双子座を渡すよう指示してくるかもしれない」

「そんなこと……」

「無いとは言えないわ。……まぁ、歌野たちが負けても同じ事をするかもだけど……」

「楠さんは……うたのんと雪花ちゃんが負けるって……?」

「仮にも彼女達は"七武勇"……だからね」

「あっ……」

 

 芽吹は一度、七武勇のひとりと戦っている。それもつい最近の事である。

 七武勇の実力を、歌野たちの中で誰よりもよく知っている。

 

「三好さんが特別強いって可能性も考えられる。でも、同じくらいの力はあるんじゃないかって思うわ。あの二人は……」

「東郷美森さんと……園子さん」

 

 水都は東郷と園子の手配書を諏訪支部にて確認している。彼女らの懸賞金の額も。

 しかし、水都は名前しか無かった園子に対して疑問を抱いた。

 

「園子さんには、苗字が描かれてなかった。……あれ、なんでなんだろう?」

「さあ? 私は三好さん以外眼中に無かったから気にも留めてなかったけど……」

 

 そこまで言って、芽吹は少しの間考え込んだ。

 

「……? 楠さん?」

「……大社は、不都合な事を抹消しているんじゃないかしら? 知られては不味い事を。もし彼女が、大社のお偉い人の血縁者なら……」

「大社のお偉い人? 神官長とか?」

「またはもっと上。……って考えたら、"五老星"ぐらいになる、わね」

 

 "五老星"とは、バーテックスが現れた日、迅速に行動して四国内の人々を導いた大社。その基盤を築いた五つの家の当主のことである。

 現在は表立つことはない。(まつりごと)は子や孫、下に連なる家々や、神官長をはじめとする者たちに任せてあるそうだ。

 

 『乃木』『上里』『鷲尾』『安芸』『弥勒』

 

 つまり、この五つの家によって大社が始まったといえる。また、あくまで五老星とは、上記の家の"現在の当主"を指す言葉であって、家の事ではない。

 

「七武勇の園子は……、ーーっ!」

 

 "七武勇の園子は、その五人の誰かの血縁者なら、苗字も隠されているのも頷ける"。

 

 そう、芽吹は言おうとしたが、何かが近付いてきたのを感じて口を閉じた。

 

「? 楠さん?」

「誰か来るわッ」

「「ええ⁉︎」」

「そんな⁉︎ じゃあうたのんと雪花ちゃんがーー」

「そっちからじゃない‼︎」

 

 芽吹は水都と双子座の前に立ち、進行方向だった方角を睨み付ける。

 

「……貴女っ」

 

 すると三人の防人の装備を身に付けた者たちが姿を現した。

 

「あっれ〜? あれあれあれ〜? 芽吹()()じゃん!」

 

「……No.6」

 

 首元のプレートに『06』と描かれた少女が、ニヤリと笑う。そしてその隣には、『27』『14』の防人兵。

 

「こんなところで何してるんです? ……()()()と一緒で」

 

 

 

 

 

 

 

 ーー歌野と雪花は、東郷の言葉に黙ったまま耳を傾けていた。二人の中で段々と戦意が薄れていくのを感じながら。

 

「私とそのっちは、大社の中でも特に権力の秀でた家にいた」

「貴女たちが……大社にいた……? は? じゃあなんで……」

 

 ーーなぜ、大社にいた者が大社に敵対しているのか?

 

 その疑問を口にする途中で、雪花は気付いた。

 三好夏凛は大社に関わる家のひとりである。その夏凛は大社の闇を知り、防人を……芽吹の元を去った。

 東郷と園子が大社の上層の家に居たとしたら、そのような噂を知る事だって可能な筈である。

 そう思った時、同時に雪花は北海道支部がいかに氷山の一角であった事にも気付いてしまった。

 

「じゃ、じゃあ……大社本部は……」

 

「ーー"勇者の野菜"は神に見初められた少女にだけ宿る力。穢れなき身だからこそ、神威を振るえる。……大人はもちろん、男性では野菜を口にしても能力は手にできない」

 

 しかし、能力者は多いに越したことはない。ゆえに大社は科学者の力を借りて勇者の野菜を研究した。

 すでに能力を得ていた四勇から血液を採取し、そこから"血統因子"を見つけ出す。

 

「四勇の血縁者はそのっちだけだった……。だから彼女が矢面に立たされた」

 

 そしてその後は、彼女の体を使っての人体実験を行う。

 真相に気付いた東郷ともうひとりの手によって救出され、大社を離反する事となった。

 

 そして大社はその実験から、また勇者の野菜の新たな発見をしたという……。

 

「……少し話しすぎたかしら」

 

 東郷は拳銃を歌野に向けた。

 

「……っ!」

「私もそのっちも……大社を潰してしまいたいと思ってる。でも、バーテックスがいなければこんな事にはならなかった」

 

 園子も目を薄く開け、槍を構え穂先に刃を浮かせている。

 

「それでもバーテックスを庇うのなら、あなたたちもまとめて……っ、私は撃つッ!」

 

 放たれた数発の弾丸を歌野はベルトを振るい、防いでいく。

 

「……卑怯、とは言わないわよね……」

 

 東郷の手に持っている拳銃がロケットランチャーに変わる。

 

「……ッ‼︎」

「追尾型爆撃弾」

 

 東郷はランチャーのスコープから歌野をロックオンする。

 

「ーー発射‼︎」

 

 ランチャーから放たれたミサイル弾が歌野目掛けて飛んできた。

 

「ーーくっ⁉︎」

「逃げても無駄よ? これは追尾型、あなたに当たるまで追い続ける」

 

「あッーー」

 

 ーードカァン!!!

 

 ミサイル弾から逃げ続けるも、遂には追い付かれまともに食らってしまった。

 

「ーー歌野ッッッ‼︎」

 

「…………」

 

 爆炎の中、歌野は全身に火傷を負い、その場に倒れていた。

 

「勝負は着いたわね。……命までは取らないから、もう立ち上がらないで」

 

 歌野にまだ息がある事を確認した後、東郷は応答が無い相手に呟いた。

 

「勇者の野菜は使用者の知恵や工夫次第でいくらでも強化できる。現に私はあらゆる武器を使いこなす為に努力した。……大砲、戦闘機や戦艦、戦車、とかね」

「…………」

 

 それを歌野が聞いているかはわからない。

 

「白鳥歌野さん。貴女は鞭の特性を理解出来ていない。銃の真似事をしたって所詮は真似事。本当に弾丸が飛び出る訳でもない。……もう少し、自分の能力を顧みることね……」

 

 

 そして東郷は、雪花と園子の決着を見守る。

 

 

「そ、そんな……」

「ーー今度は、あなたがよそ見だ〜」

「ーーッがあッ!」

 

 園子自らが動き、雪花の槍をはたき落とし、蹴り飛ばした。

 と、倒れ込んだ雪花に、宙を浮かんでいる刃がその首を通過した。

 

「……⁉︎」

「はい〜、これで一回〜」

 

 槍を持たない雪花は園子の槍撃に襲われる。

 

「ーーぐっ! ーーあっ! ーーうぐぁ!」

「それそれ〜」

 

 体中傷だらけになりながらも、辛うじて雪花は立っている。

 

「後ろ後ろ〜」

「……え?」

 

 後頭部に違和感を感じて振り返ると、そこには刃の切っ先が向けられていた。

 

「はいっと〜」

「……ッ‼︎」

 

 それに気を取られ、園子にまた蹴り飛ばされる。その最中にも、空中の刃は雪花の体に近付き、何もせず素通りする。

 

「はいっ」

「……ぐっ。……さっきから、何のつもり……」

 

 倒れ込んだ雪花に園子が馬乗りして槍を雪花の顔の真横に突き刺す。

 

「……これであなたは10回死んだんよ〜」

「……‼︎」

「バーテックスは手心なんて加えてくれないよ? ……たとえ、()()()()()()()()()()でもね〜」

 

 雪花からはもう戦う意志を感じなかった。それほどに圧倒的な差が二人の間にはあった。

 なにより、園子が()()()だったなら、雪花はもうすでに死んでいたという事実は、彼女からより一層戦意を奪う要因にもなり得た。

 

「……あ、ああ……」

 

 雪花の表情は暗く、絶望に染まっていく。

 

「バーテックスと勇者は相容れない存在。人の姿で誤魔化せても、結局はバーテックス。いつ、本性を現し人を襲うかわからない」

 

 園子の口調は徐々に淡白した物言いに変わっていく。

 

「だから理解してね。あなたたちのやっていることが、いかに世間から逸脱したものなのか……」

 

 最後にふふっ と微笑み、園子は雪花から離れて東郷の元へ歩いた。

 

「……行きましょうそのっち。私の能力なら、まだ間に合う」

「うん〜。よろしくね、わっしー」

 

 東郷はまた、上空に戦闘機を出現させた。

 

「ま……待て」

「「……?」」

 

 ゆっくりと雪花は立ち上がる。

 

「もう立ち上がらなくて良いよ〜? 私もわっしーも、命まで奪うつもりはないんだから〜」

 

「それでも……私は」

「そのっち、ちょっと私を抱えててくれる?」

 

 東郷は園子に捕まったまま、一旦戦闘機をライフルに変化させた。

 

「そこでじっとしてなさい」

 

 ーーパシューン!

 

「ーーうっ⁉︎」

 

 雪花の胸元に少しの痛みが走った。すると、目の前がじわじわと暗くなっていく。

 

「麻酔弾よ。……最初のお返し。目が覚めたらもう終わってると思うから……」

 

「うっ……くっ……」

 

 雪花は頭がボーッとし始め、地面に跪いた。

 

 薄れゆく意識の中で、遠くへ飛んでいく二人を睨みつけながら……。

 

 

 

 

 

 

 ーー芽吹はNo.6たちを見据えたまま、腰の刀に手を掛ける。

 

「キキキッ。芽吹隊長、知らないんですか〜? そいつら双子座バーテックスなんですよ?」

「知ってるわよ」

「……おかしいなぁ? なら何でそいつらを庇うような立ち位置になってるワケ?」

 

 芽吹は刀を抜き、No.6へ向けた。

 

「訳あって一緒に行動してるのよ。ウエストジャパンまでね」

「……」

 

 No.14とNo.27は首を傾げていた。芽吹の言っている意味がわからないからである。

 

「なになに? 頭おかしくなってるワケ? 防人の御役目をほっぽり出して何をしてるかと思えば、バーテックスと仲良しごっこ?」

「今は防人隊長としてではなく、ひとりの楠芽吹として動いているのよ」

「いっや、それが意味わかんないって言ってんの」

 

 No.6は重いため息を吐いた。

 

「……あまり失望させないでよ? 隊長。アンタはウチの憧れでもあったのに」

「……」

「まぁ、今ではウチの方が強いか。……勇者の野菜の能力者になったウチの方が、ね」

「やっぱりそうなのね」

 

 防人を離れていた芽吹にとって久しぶりに会う同僚。彼女もまた、能力者となっていた。

 

「アンタがなんでそこまで落ちぶれたのかは知らない。興味ないしね。でも、バーテックスを庇い、防人に楯突くようなら……わかるよね?」

 

 すると、No.6は自身の着ていた防人特有の鎧から細長い剣状の突起物が生え、それを手にした。

 

「久しぶりに決闘しようよ。ほら、防人のリーダーを決めた時みたいに、さ」

 

「……良いわよ」

 

 芽吹は背後にいる水都と双子座に少し離れるよう伝える。

 

「楠さん。大丈夫……なの?」

「何が?」

「いやだって……。この状況を見られちゃったから……」

 

 芽吹が完全に大社を裏切り袂を分かった、と見られてもおかしくない状況になってしまっている。

 

「別に良いわ。……それに、ここで戦う事には、私なりに意味があるの」

「意味?」

「ええ。上下関係を教えるために獣を再度躾けるだけよ。防人では日常茶飯事なの」

 

 そして、お互いに向かい合う。

 

「だからここで見ていて。……楠芽吹が、再び防人最強に返り咲く、その始まりの瞬間を」

 

 

 芽吹は自身の思惑により、No.6に戦いを挑む。双子座を守るため、というのは、もはや"ついで"に他ならない。

 

 最強の防人になる、という約束を果たすために。

 




 最後のアドバイスは東郷さんの生真面目さが出た瞬間でもあった。でもそれが後に歌野の成長に繋がり得る。


次回 隊長としての意地
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