白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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 拙稿ですがよろしくお願いします。白鳥さんと東郷さんは本当に対極に位置する存在だと思う。


前回のあらすじ
 東郷の多種多様な武器による攻撃を凌ぎ続ける歌野。さらに自身の能力の特性を最大限に活かした戦法で戦況を有利に変えていく。そして遂に、東郷との戦いは決着を迎えるのだった。



第三十六話 一発の弾丸

 

 水都と双子座はできる限り遠くへ避難していた。

 そしてひと息つく為、木陰に身を寄せた。

 

「「ねぇあし、いたむんでしょ?」」

「うん、そうだね……」

「……」

「どうしたの?」

 

 双子座は何か言いたげな表情を浮かべていた。

 

「「あのかたなのひとがいってた……」」

「刀? 楠さんのこと?」

「「うん、あのひとはあなたがこりつするのをこっちがねらうかもっていってた。……そしていま、そうなってる」」

「……うん、楠さんは"もしも"の時の事を考えてるんだよ」

「「でも、あなたはいまーー」」

「そうだね……。でも二人は私を襲わない。私はそう信じてる」

「「なんで?」」

 

 水都は双子座に微笑みかける。

 

「人として生きたいって言ったから……。たとえ、バーテックスとして生まれたとしても……人として生きたいなら……誰かを襲わないと言ってくれたなら、私は信じる」

 

 生まれは変えられない。でもどう生きるのかは自分で決められる。それを"生まれがバーテックスだから"という理由で双子座の命を狙うのは、理不尽だと水都は思ったのだ。

 双子座が人間の姿をしている事が、より一層そう思ってしまう。

 

「ーーきっとうたのんも、そう思ったんじゃないかな」

 

 

 

 

 

 

 ーー東郷はゆっくりと体を起こし立ち上がる。

 

(攻撃の軌道が……変則的過ぎて、全く分からなかった)

 

 東郷は歌野の攻撃を避けようとしていたが、気が付いた時には体が宙を舞っていた。

 いつ、攻撃を受けて吹っ飛んだのかまったく分からなかったのだ。

 そして今も、歌野は右腕を高速に動かし、ベルトを振り回し続けているが、その先端がどこにあるのか見えない。

 

(兎にも角にも……いったん距離を取ってーー)

 

 と、その時、歌野から第二撃が飛んでくる。

 

「ワンモア……ムチムチの〜予測不可能な(イレギュラー)(ピストル)‼︎」

 

「ーーッ!?」

 

 今度は集中を切らさず、自分へ向かってくる攻撃を見切ろうと試みる。

 ベルトは大きく波打つようにしなりながら、右側から飛んでくる。

 それを東郷は体を屈んで、紙一重で避ける…………はずだった。

 

「ーーッ!!?」

 

 体を屈めた瞬間、ベルトは()()()()()()()()()()()()()東郷の腹部へ襲い掛かる。

 

「ーーうああッ!」

 

(軌道が……っ、何で……⁉︎)

 

 コンマ1秒単位で軌道が極端に変わる変則的で"予測不可能な攻撃"に、東郷の思考は置き去りにされる。

 

「くっ、ぁ……。お、恐ろしい程に曲がる……しなってくる……」

「当然っ。ムチだから」

 

 歌野は怯んでいる東郷に更に詰め寄る。

 

「……目で見切ろうとしたって無駄だわっ。今この武器は鞭の能力を最大限に引き出しているっ」

「くっ……体が……っ」

 

 目前に迫ってくる歌野に、東郷は完全に反応できなかった。

 

「ムチムチの〜〜予測不可能な(イレギュラー)(サイズ)ッッ!」

 

 ベルトが東郷へ届く前に、かろうじて体を右へ傾ける。

 

 ……しかしベルトは()()()()()()()()()

 

「ーーッ‼︎、……かはっ」

 

 腹部を横薙ぎに払われ、東郷は地面を転がっていく。

 

(何よ……一体何なのよ……)

 

 視界がぐらつく。血を吐き、焼けるような痛みが腹部に走る。

 

「……これで、ラストッ」

 

 歌野はトドメの一撃を放つーー。

 

「ムチムチのおおお! 予測不可能な(イレギュラー)(ピストル)〜〜〜ぅう? ……アレ?」

「……?」

 

 しかし歌野が伸ばしたベルトは大きく波打ちながら明後日の方向へ飛んでいった。

 左手で東郷に照準を合わせていたが、それとは明らかに的はずれな方向へと……。

 

「あー。さっすがイレギュラーな攻撃っ。私でさえ、予測できないわっ」

 

 シュルシュルッとベルトを収縮させて、歌野は苦笑いで誤魔化す。

 

「……締まらないわね」

 

 ふらつきながらも何とか立ち上がり、口元の血を指で拭き取る。

 

「……何度も言ってるわよね? 貴女は銃の……武器の真似事をしてるだけだって……。ムチムチの銃とか言ったって、本当に銃弾が飛ぶ訳でもない。……それなのに、どうして……()()()に銃に拘るの?」

 

 その問いに歌野は即答する。

 

「だって貴女が、銃を使うから。色々な武器(銃と弾丸)で私と戦う。それに対して私の武器はコレしかない。だからつい"張り合っちゃう"んだわっ」

 

 麦わら帽子を整えて歌野はまた東郷へ笑顔を見せた。

 

「ーー"私のムチは、(ピストル)のように強いんだ"ってね!」

 

「…………」

 

 その言葉に東郷は無言のまま、ライフルを足元に落とした。

 

「……白鳥歌野さん、あなたの強さは認めるわ。でも、だからこそ、どうしてそこまで肩入れするのかしら? 相手はバーテックス。勇者(私たち)の敵なのよ?」

「だって惜しいじゃない? 双子座(あの子たち)は、確かにバーテックスとしてこの世界に生まれちゃったけど、でもそこから先は人間として生きる事を望んでたわっ。悲しいじゃない? ()()()()()()()()()()()()()()のは」

「……!」

 

 心当たりがあったのだろう。東郷は少しだけ目を見開いた。

 

「東郷さんとー、あと……園子さんだっけ? 貴女たちは大社の上位の家にいたって言ってたわよね? でも今は大社に敵対してるときた。……生まれに関係なく生きている貴女たちは、本当にあの子たちの気持ちが分からないの?」

 

「…………確かに、そうかもね」

 

 足元に転がるライフルを見ながら東郷は少しだけ口角を上げた。

 

(そのっちはもちろん……風先輩や樹ちゃん。夏凛ちゃん。そして銀……。私たち勇者部は、その殆どが大社に関わりのある家の出。かく言う私も……。他のみんなとは少し違うけど友奈ちゃんも……みんな生まれに思うところがあった)

 

 東郷たち七武勇は、その殆どが大社に関連する家から生まれた。しかし、今はその生まれの家を放棄して、四国の外へ飛び出している。自分たちの家と敵対している。

 彼女たち七人で作った組織(勇者部)は、"生まれがどうであろうと、自分の生きたいように生きた結果"なのだ。

 

「あなたの言う通りね、白鳥さん。"生まれが全てじゃない"。それは私たち七武勇(勇者部)が身を持って示してきたことよ」

「だったらーー」

 

「でもね……世の中はそれを認めない。大社が私たちを邪険にするように。バーテックスが人間の生き方を真似ようと、誰も彼らを人間として扱ってはくれない。……悲しいけど、これが現実」

「……⁉︎」

 

 すると、東郷の足元にあったライフルが輝き出した。

 そしてそれは巨大な"浮遊戦艦"に変わり、東郷を乗せて上昇していく。

 

「……この運命は変えられない。双子座がバーテックスである以上。私たちが勇者である以上、ね」

 

(な、何アレ……)

 

 その浮遊戦艦には8門の砲塔が備え付けられており、極太の砲口は歌野に向けられる。

 

「私の奥の手……。この浮遊戦艦の活動時間は短く、負担も大きいから使いたくはなかった。それに、出力を間違えたらそのっちまで巻き込んでしまうから……」

 

 しかし今の東郷の状況を鑑みると、そうは言っていられない。また、先の猛毒煙弾を撃った時、園子が巻き込まれないように距離を取っていたおかげで、この最終手段を取る事ができた。

 

「ーー我、敵兵ニ総攻撃ヲ実施ス」

 

 すると、8門の砲塔それぞれから光が収縮しているのが見えた。

 

「……⁉︎ まさか、レーザー攻撃⁉︎」

「主砲、用意……」

 

 歌野の体に震えが走った。あの攻撃をモロに食らえば、たちまち粉微塵になってしまうのだと予感したからだ。

 

(どうすれば……っ!)

 

 歌野は即座にひとつの考えに至る。それは"言ってみれば刹那の攻防"。遠距離から一方的にやられるか、懐に飛び込んで一気に片をつけるか。

 

 ……つい先ほど、芽吹に否定された一か八かの策を行使する時が、今訪れたのだ。

 

「やああああああああああ!!!」

 

 歌野は思いっきり叫びながらベルトを樹木に括り付け、浮遊戦艦目掛けて飛んだ。

 

「ムチムチのォォォ! ロケットォォォ‼︎」

 

 弾丸のように空へと昇っていくーー。

 

「……! あくまで向かってくるのね。なら、全主砲……」

 

「プラス、ムチムチのォォォ……」

 

 飛んでいる最中、歌野はベルトを回転させて溜めを作る。

 

予測不可能な(イレギュラー)攻城砲(キャノン)ーーーッ!」

 

「放てェェーーーッ!」

 

 各砲塔から放たれたレーザーは瞬時に一つへ結集され、大きなレーザー砲へと変わる。

 と、同時に歌野から渾身の一撃が放たれる。その攻撃はしなる事でさらに速度を増していった。

 

「それでこの攻撃を相殺させる気? 力の差は歴然。あなたのちっぽけな武器じゃーー」

 

 しかし、一つになったレーザー砲が歌野へ放たれる直前、東郷はバランスを崩してその場に片膝を付いた。

 

「……ッ⁉︎ な、何が……。ッ!?」

 

 東郷がバランスを崩した原因は、戦艦自体のバランスが崩れたからだった。

 

「ーーこの一か八かの大勝負! 私の勝ちだわっ!」

「ーー⁉︎ ま、まさか船底にッ⁉︎」

 

 歌野の放った一撃は、東郷を狙ったわけでは無く、ましてやレーザー砲を相殺させるためのものでもないーー。

 

「外された……っ」

 

 狙ったのは浮遊戦艦の船底。そこへ攻撃し、戦艦を傾かせた事でレーザー砲を外させたのだ。

 

 歌野の真横を通過したレーザー砲は地表へ着弾すると、木々を吹き飛ばし大地を抉ってクレーターを作った。

 

「わぁお! ビッグな威力っ」

「くっ……次弾、装填用意!」

「ーーこっち方が速いわっ! ムチムチの! 予測不可能な(イレギュラー)ロケット‼︎」

 

 ベルトを思いっきり伸ばして、戦艦に備えられている砲塔のひとつに巻き付いた。

 

「そおおおおおりゃああああーーー!」

 

 引っ張られる歌野の体は、ベルトをしならせる事で不規則に動き、砲塔の照準に定まる事なくさらに上空へ昇っていく。

 

「ーーッ⁉︎」

 

 歌野は戦艦より高く飛んで東郷の上を取ると、砲塔に巻き付いていたベルトを収縮させ、左手を下方向に向けた。

 

「ムチムチのぉ、予測不可能な(イレギュラー)(アックス)ーーー‼︎」

 

 そこからさらにベルトを天高く伸ばし、"標的"目掛けて一気に振り下ろす。

 東郷は咄嗟に腕を交差させて防御体勢に入る。

 

 ーーしかし歌野の攻撃は、東郷がいる場所とは違う方向へ向かってしまった。

 

「……ここで外すなんて……っ、運に見放されたわねっ。白鳥さんっ」

「ノンノン♪ 私が狙ったのは、こっちの方よおっ!」

 

 歌野はベルトを東郷ではなく浮遊戦艦に叩き付けた。

 

「この大きさなら、狙わなくても当たるからねっ!」

「ーーくっ、うう」

 

 先程とは違い、船体が大きく揺れた。

 

「主砲……放ーー」

 

 ーーとその時、浮遊戦艦が姿を消してライフルに戻ってしまう。

 

「そんなっ! 活動限界⁉︎」

 

 足場を無くした東郷は落下していく。

 歌野もまた落下していくが、その目は東郷を捉え続けている。

 

「今度こそ……ラスト!」

「まだよッ‼︎ まだ私は終われない!」

 

 東郷は落下しながらも、ライフルの銃口を真上にいる歌野へ向けて引き金を引いた。

 

「捕獲弾!」

「ーーッ⁉︎」

 

 東郷が撃った弾丸は歌野の目前で爆ぜ、中から巨大なネットが現れ歌野を包み込んだ。

 

「……うわっ! こ、この……っ」

「これで身動きは取れないっ。このまま受け身も取れずに不時着するのもいいけどっ、その前に確実に仕留めるッ‼︎」

 

 東郷は網の中でもがく歌野に狙いを定める。

 

「このぉ〜! ……はぁあ!」

 

 必死にもがいた事で何とかベルトを持った右腕だけ、網目の隙間から出すことに成功する。

 

「これで……っ、いける!」

「その不安定な状態から、果たして当たるのかしらッ⁉︎」

「当てる! 当ててみせる‼︎」

 

 ベルトを伸ばして、力一杯東郷へ放つーー。

 

「ムチムチのーーッ、"(ピストル)"ーー!!!」

「ーーッ!!?」

 

 ここに来て、変速軌道を描く攻撃ではなく()()()()()を歌野は繰り出してきた。

 東郷は、まんまと意表を突かれた形となる。

 

 僅かに東郷の撃った狙撃弾の方が早かったが、歌野の一撃はそれを跳ね除けて、東郷へ襲いかかるーー。

 

「たああああああああああああ!!!」

「ーーぐぅああああああああッーーー!!!」

 

 顔に直撃し、そのまま重力加速に勢いが加わり東郷は地面に叩き付けられた。

 

「…………」

 

 東郷は自身が作ったクレーターの上で倒れ、仰向けで意識を失っていた。

 

「……ふ、ふふ…………」

 

 歌野もまた集中力と共に体力が完全に尽きて身動きが取れず、重力に身を委ねる。地面へ到達するまでに、小さな声で東郷に語りかけながら。

 

「東郷……さん。貴女のアロットオブな武器の数々、ホントにすごかっ、たわ。でも……いくら"無数の武器"を持っていようとも……"一発の弾丸"に負ける事だって、ある……」

 

 ドスゥン……。

 

 ただでさえ身動きが取れない網の中。そして疲労により、歌野は何も出来ず地面に墜落する。

 

「ーー私の胸に宿る、決して折れない弾丸(信念)に……ね……」

 

 ……そして歌野は、とうに限界を迎えていた体への労いの意味を込めて、ゆっくりと意識を手放した……。

 

 

 




・イレギュラーヒーロー:白鳥さんが考えた、鞭の特性を最大限に活かした予測不可能な攻撃。"鞭のしなり"を最大限活かす事で0.1秒単位で軌道が変わる攻撃を行う
 例えるなら『ゴムゴムの大蛇砲(カルヴァリン)』が全ての技に付与されるようなもの。ただしこの場合は追尾性能は無く、あくまで白鳥さんが敵を狙って撃つ。(外れる事もアリ)


次回 死せど本望
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