白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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 拙稿ですがよろしくお願いします。今回で『ロード トゥ ウエスト編』は終わりです。
 三十三話の前書きにあった『ここから芽吹が死ぬほど頑張ります』から芽吹がやった事。
 No.6を倒す→傷口が開く→歌野と雪花が来るまで時間稼ぎ→雪花と共に園子の能力を見極める→単独で園子と戦闘→生き埋めからの脱出→園子撃破←今ココ(本当に人間か? コイツ)


前回のあらすじだよい
 雪花はNo.6、芽吹は園子をそれぞれ撃破したよい。そしてこの戦いに終わりが訪れるんだよい。



第三十九話 いざっ、ウエストジャパンへ!

 

 雪花はNo.6が完全に見えなくなった空を少しの間、眺めていた。そうしたあと、水都の元へ歩み寄る。

 

「水都ちゃん、戻ろう? 歌野と楠さんが待ってる……」

「…………」

 

 水都は心ここにあらずといった様子で双子座の残骸を見下ろしていた。頬には、乾いた涙の跡がうっすらと筋を残している。

 

「ほら立って、歩き出そう? 水都ちゃんは双子座のおかげで死なずに済んだ。……生きているのなら、水都ちゃんは今までどおり歌野と進まなきゃ。……じゃないと何のために双子座が命を懸けたのか、わからなくなる」

「…………」

「双子座は最期まで、人として生きようとした。人のまま死ぬ事を望んだ。儚くも可憐に散っていった」

 

 水都は右手で目を擦った。真っ赤になっていた目はより一層赤みを帯びる。

 

「……うん。……うん」

 

 何度も、何度も頷く。

 

「うん……。もう、くよくよするのは終わりにするよ。双子座は、命を懸けて私を助けてくれたからっ。私もあの二人の分まで精一杯頑張らないと、だね……」

 

 水都は雪花の手を取って立ち上がる。

 

 雪花は双子座とNo.6の言動から、"人"と"化け物"の定義を疑問視していた。

 

(人間のような心を持った化け物(バーテックス)……。バケモノのような強さを持った人間(勇者)……。この世界は、歪な程に曖昧だ。……あやふやで不安定だ)

 

 雪花は虚しく感じながら空を見た。

 何度見てもそこにはいつもと変わらぬ青空が広がる。

 

(……怪物と戦う者はその過程で自らが怪物と化さぬように用心せよ……って誰かが言ってたっけ? ……その通りだにゃぁ)

 

 水都もまた空を見上げて少しだけ微笑んだ。おそらくその笑みは、表情として表れているかどうか、分からない程だったが。

 

 そして二人は歌野と芽吹の元へ歩き出した。

 

(私たちは先に進むよ。……本当にありがとう!)

 

 

 

 

 

 

 

 ーー芽吹と園子の戦いが終わると同時に、歌野は目を覚ました。

 

「……ん。んん? みーちゃん?」

 

 網の中でモゾモゾと動く。

 

「いっ、たたぁ……」

 

 右腕を押さえながら、なんとか網の中から抜け出た。

 

「……はっ! 楠さん!」

 

 倒れている芽吹の体を揺する。芽吹は目を開けて歌野を一瞥する。

 

「……痛い」

「あっごめんっ。今、動かしたらダメよねっ。……でもとりあえず、解けている包帯だけでも」

「いやいいわ。この体勢の方が楽。……地面に圧迫されてとりあえず出血は止められているから……」

「わかったわっ。……それで、みーちゃんと雪花は?」

「二人は別の場所……。そこからは分からない」

「……そう」

 

 歌野は向こうに倒れている園子を見た。

 彼女に意識はあるが、どこかボーッと空を眺めている。

 時折、雲が風に吹かれて形が変わっていくのを目で追っていた。

 

「あ〜、あの雲……わっしーの武器みたい〜」

 

「……ねぇ」

 

 芽吹はうつ伏せで倒れている状態のまま、先程まで相対した敵へ問いかける。

 

「貴女……最後の一瞬……気を抜いたでしょ?」

「…………」

「私の居合の構えを見て動きが固まった。……走馬灯でもよぎったの?」

 

 園子は仰向けのまま呟く。

 

「あなたのね……その構えが、()()()を思い出させてね〜、それでちょっと揺らいじゃったんよ〜」

「……その人って"乃木若葉"の事でしょ? そうよね? "七武勇の()()()()"」

 

 芽吹の言葉に園子は驚き、顔だけ上げて彼女を見た。

 

「えっ、なんで私の本名を知ってるの〜?」

()()()()そうなのね……」

「……あ〜。カマかけたんだ〜。いじわるだな〜」

 

 芽吹は園子の手配書の件や、東郷の反応から乃木若葉と何らかの関わりがあると見抜いていた。

 先程の問いも、ほぼ確信している状態から裏を取ったに過ぎない。

 そして歌野自身も、園子と若葉は決して赤の他人ではないと思っていた。

 東郷が言った、四勇のひとりと血縁関係な事や、園子と東郷が、歌野の持っているリボンに過度な関心を示していた事も、その根拠に繋がる。

 

「貴女は一体何なの? 乃木若葉との間に……」

「知ったところで。だよ〜」

 

 園子は芽吹の詮索を制止する。

 

「貴女は大社所属の防人……。でも、()()()()()を何も知らない」

「……ええ、知らないわ。私は防人の隊長でありながら、その大元である大社の内情を把握する術が無かったもの。……知る気も無かった」

「それでいいんよ〜。この世界には、知らなくてもいい事。()()()()()()()()()()が沢山ある」

 

 四勇のひとり……つまり若葉から『人造勇者の野菜』が作られ、園子がその力を宿した。そしてその彼女への何らかの"人体実験"を行っていたと、東郷は言った。

 それは若葉が、大社と結託して、()()()()()()()()()という事だろうか。

 

「ま〜でも、一言だけ言うのなら〜、私は()()()()()()()()()()()()……かな〜」

「……?」

「乃木さんに、なれなかった?」

「でも今は……()()()()()()()()()()。……そんなどっちつかずな存在なんだ〜、私は」

 

 曖昧な回答は、芽吹と歌野を余計に困惑させた。

 

「でも、別に私はオリ……乃木若葉ちゃんを恨んでなんかいないよ? 大社も。正しいとか間違いとかわからない。だって初めてだらけなんだもん〜。その中でみんな、もがき苦しみながら手探りで希望を見い出す」

 

 園子は自分の物である白金の髪を触り、口元が綻ぶ。

 

「でもわっしーは、()()()()()()()。始まりである彼女たちを。そして大社を……」

 

 "園子の前で『乃木若葉』の名を口にするな"

 

 あの時の東郷の反応から、若葉を強く恨んでいる事がわかる。

 

「私が実験で不幸な目に遭ったのを、彼女は許さない。だから大社を潰すって。……たとえ四勇や大社が、後に続く者たちへ希望(バトン)を託したつもりでも……()()()()()()()()()()()()、それはただの……無責任な(バトン)にしかならない」

「「……」」

「私はわっしーとミノさんのお陰で救い出された。だから私も大社崩壊に手を貸すんよ〜。……たとえそれで世界(四国)が瓦解しても、ね」

 

 この世界の、全ての原因はバーテックスの筈だ。若葉たち四勇を恨むのはお門違いの筈なのだ。

 

 ……しかしそれでも、彼女たちを恨まずにはいられない。

 東郷たちは、四勇を、大社を責めずにはいられないのだ。

 "四勇"などと大層な呼ばれ方をされ、英雄のように扱われてはいるが、結局のところ、彼女たちは()()()()()()()()()()()

 

 ……乃木若葉が、郡千景が、土居球子が、伊予島杏がいながら、今なおこの世界はバーテックスに侵され続けているのだから……。

 

 

「ーー楠さんっ、うたのんっ」

「あ、終わってるんじゃん。……さっすが楠さん」

 

 ……と、そこへ雪花と水都が姿を見せた。

 

「……! みーちゃんっ、無事だったんだね。雪花もありがとね」

「いんや、水都ちゃんを助けたのは双子座だよ。あの二人が()()()()()水都ちゃんを守ってくれた。私は間に合って無かったから……」

 

「……!」

「……」

 

 雪花の言葉で、歌野と芽吹は向こうの状況に察しがつく。

 

「そうか……みーちゃんを守ってくれたのねっ」

 

(双子座は……()()()()に居てくれたのね)

 

 芽吹は双子座を警戒していたが、それは杞憂だったようだ。

 

「ごめんなさい。うたのん、楠さん。私……守れなかった」

 

 水都は深々と頭を下げる。

 芽吹はゆっくりと立ち上がり、左手で傷を抑え、水都の頭に右手を置く。

 

「……いいわよ。私も……迂闊だった。肝心な時に、貴女達から目を離してしまった」

 

 歌野は二人を見て首を横に振る。

 

「楠さんも、みーちゃんも、誰も悪く無いわっ。みんな出来る限りの事をやった」

 

 歌野は水都と雪花を包み込むように抱きしめた。

 

「二人が無事で本当に良かった。双子座(あの二人)にお礼言いたかったわねっ」

「代わりに言っといた。水都ちゃんを守ってくれてありがとうって」

「私も……ごめんばかりで直接は言えなかったけど。ありがとうって想ったよ……」

「なら、これからはより強く進んでいこうねっ。二人のためにも!」

「うんっ」

 

 それを聞いていた園子は、むくっと起き上がる。

 

「そっか〜。双子座は死んじゃったか〜」

 

 歌野は見ているだけだったが雪花は念の為、戦いに備える。

 

「あれ? あれあれ〜? わっしーどこ〜?」

「……? 東郷美森の事なら、そこにいるけど?」

「あっ、本当だ〜。……びっくりした〜、お母さんかと思った〜」

 

 園子は東郷を抱き抱えて背を向けた。

 

「じゃあ私は行くんよ〜。双子座が倒された今、もうあなたたちと戦う理由は無くなったから〜」

「そうだね」

「じゃあ元気でね〜。……次、何かしらの理由でまた戦わなければならなくなったら、()()()()全力で頑張るんよ〜。そして、あなたとも決着をつけよう〜」

「……!」

 

 雪花に向けての言葉だとわかり、彼女は顔を強張らせる。

 

 園子はニッコリと笑って宙に浮いた。

 

「あっ、最後にひとつ……言っておきたい事があったんよ〜」

 

 園子は歌野と被っている帽子、そしてそこに付いてる白いリボンを見て笑う。

 

「そのリボン……似合ってるね〜」

「……!」

 

 そして園子は空を飛ぶ。歌野たち四人は、それを見えなくなるまで目で追っていた……。

 

 

 

 

 

 ーーそれから、四国を目指す旅を再スタートさせる。

 

 長野県と岐阜県の県境に四人は立つ。

 

「……ここがイーストジャパンとウエストジャパンの境界線、って事になってる場所」

「ここから先が……」

 

 歌野は生唾を飲み込んで、高鳴る心臓を感じた。

 すると、雪花がある提案を持ちかける。

 

「よしっ。じゃあウエストジャパンへ踏み出す記念すべき日として、新天地へ進むための儀式でも行おうかっ」

「儀式?」

「まー、ウエストジャパンから四国までの旅の成功を祈願しましょう……ってやつかにゃぁ。みんなで"叶えたい夢"を口にして拳を合わせるのさ」

「へぇ!」

 

 雪花は歌野の前に立つ。

 

「私の夢は歌野と共に全国を旅して四国を目指す事。四国は北海道と何が違うのかを知りたいからね。……でも共に旅をする歌野のために何が出来るだろうって考えたらさ、やっぱり浮かんできたのは服飾関係だったんだよ」

 

 北海道で自分を救ってくれた歌野のために、雪花が出来る事。

 

 自分の好きな事が歌野のためになるのなら……

 

「私はファッションが好き。着るのも作るのも……。だからそれを歌野のために役立てたい。だから四国で私は"農業王の服を作る"よ」

「服? 私のために?」

「うん。歌野が農業王になって農作業を行うための服。つまりは"作業服"だね。ツナギとかオーバーオールみたいな感じの服を」

「ワーオ! それは嬉しいわっ!」

「でしょー。暑さも寒さも耐えられる、年中農業したって体の負担を最低限に留めてくれる……そんな夢みたいな作業服を作りたいっ」

 

 雪花は左手をグーにして歌野に向ける。

 

「楽しみにしててねっ」

「ええっ!」

「……なら、次は私ね」

 

 芽吹は雪花と歌野の斜向かいに立つ。

 

「私はもちろん、最強の防人を目指す事。現在の防人の全員と、三好さんを越えるっ。そして防人のトップに返り咲いて農業王の野菜を買う"御得意客"になる」

「何卒ご贔屓にっ!」

 

 芽吹もまた右手で拳を作り、前へ出す。

 次は水都が芽吹の前に立つ。

 

「わ、私は……うたのんと一緒に四国へ行く。そして、うたのんが農業王になるのを一番近くで見届ける……。今はこれが私の夢」

「うんうんっ。よろしくね、みーちゃん」

 

 水都も右手をグーにして正面にいる芽吹の前へ……。

 

「……歌野」

「うたのん」

「にゃっはは」

 

「……ふっふふふっ♪」

 

 三人に見つめられた歌野は満面の笑みで応える。

 

「私はもちろん"農業王"! そのために四国へ行き、"神樹様の恵み"を手に入れてみせるわっ!」

 

 そして歌野が左手をグーにする。

 

 四人は拳を突き合わせ声を張り上げた。

 

さあいこう‼︎ ウエストジャパンへ!!!

 

「「「おおーッ!!!」」」

 

 

 

 そして彼女たちは一歩踏み出す……。

 

 そこで待ち受ける数々の試練を……絶望を……知らぬまま……。

 

 




『ロード トゥ ウエスト編』完!

ちなみに、白鳥さんたちが最後に拳を突き合わせたやつを調べたら『フィスト・バンプ』と言うらしい。

次回から『ウエストジャパン編』開幕……と思ったけど、物語の1/3が終わったので次回はキャラや組織、歴史をおさらいする総集編みたいな回になります。


 ここまで観てくれてありがとう!
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