白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。図が高いぞ諸君。さぁ祝え、満を辞しての蓮華降臨を。


前回のあらすじ
 梅田地下街に到着した歌野たち。しかしそこは京都と違い、バーテックスの支配を忘れたかのように笑顔絶えない場所だった。そして蓮華と名乗る少女と出会ったのだった。


第四十二話 気高き乙女、その名は蓮華

 

 星屑をいち早く殲滅していた蓮華と名乗る少女は、自己紹介をすると懐からカードを取り出した。

 

「取り敢えず、お近付きの印にこれを渡すわね」

「……何ですかこれは」

 

 芽吹に渡されたものは写真だった。そこには蓮華本人が映っており、砕けた字で『蓮華』と描かれてある。

 

「フッ。この蓮華が映された高貴なるプロマイドよ。安心して、ちゃんと直筆サイン付きだから」

「はぁ……」

 

 芽吹は困惑気味にそのプロマイドを受け取った。

 そして蓮華は歌野たちを一瞥すると地下に続く階段へ歩いていく。

 

「何してるのかしら? 早く戻らなければまたバーテックス共が来るわよ?」

「あ……はーい」

 

 No.7が応えてその場にいる全員は地下へ戻った。

 

 蓮華が戻って来た事に地下にいた人たちは歓迎する。

 

「蓮華さんだ! おかえりなさーい!」「いつもありがとうね」

 

 蓮華はその声援に手を振りながら応える。

 

「構わないわ! 力のあるものがそれを行使して民衆を助けるのは当然の責務よ」

 

 そう言うと、蓮華は懐から芽吹に渡したものと同じプロマイドをみんなに渡していく。

 

「はい、いつものね。もちろんサイン付きよ」

「……私、これ貰うの四枚目ですよ?」

「前のは観賞用、保存用、布教用。……そしてこれが家宝用にすればいいじゃない」

「あ……ありがとうございます」

 

 少女を連れた姉は苦笑いしながら受け取り、日記帳に挟んだ。

 

 そして、蓮華は階段を降りてきた歌野たちの元にもやって来る。

 

「あなたたちにも渡しておくわね。も・ち・ろ・ん、サイン付きよ」

「ありがとうございます!」

「ワーウレシー」

「……あ、ありがとう、ございます……」

 

 喜んで受け取る歌野と違って雪花は棒読み、水都はぎこちなさそうに受け取った。

 

「で? ……話は変わるけど、なぜあなたたちがここにいるのかしら?」

 

 蓮華は真剣な表情に変わり三人を見た。

 

「え?」

「300万の賞金首、ミス・シラトリ。そしてその仲間。100万のミス・アキハラと50のミス・フジモリ……」

「……やっぱり私たちのことを……っ」

 

 雪花たちが蓮華の言葉に反応した瞬間ーー。

 

「ーーえええ!?」

「……⁉︎」

 

 歌野たちが指名手配されている事に一番驚いたのはNo.7だった。

 

「……なぜあなたが驚くの?」

「本当に……知らなかったの?」

 

 蓮華と芽吹の問いにNo.7は目を泳がせる。

 

「えっ……いやー、なんっていうかぁ……」

「おかしいわね。私はあなたたちから手配書を受け取って彼女たちを知ったのだけれど」

「い、いやー。ちゃんと確認してなかったんだぁ」

 

 No.7は頭を掻きながら愛想笑いを浮かべた。

 

「あなた……ちゃんと仕事してるの?」

「失礼な⁉︎ してますよ。さっきだってライブでーー」

「アイドルの仕事じゃなくて、防人としての仕事よ」

「防人の仕事なら、任せてあるよ。ねぇ? No.23、No.30」

 

 No.7は二人の防人を見る。

 

「してます……けど、手配書についてはNo.7(あなた)が直々に蓮華さんに持っていくと……」

「と言いますか、防人の仕事は全部こっちに投げて来て、No.7は最近アイドル活動しかしてないじゃないですか……」

「……!」

 

 目を丸くしてNo.7は沈黙した。

 

「ま、まぁいいんじゃない?」

「「良くないです」」

「……テヘッ」

 

 部下にツッコミを入れられNo.7は頭を小突いて舌を出す。

 蓮華は軽く咳払いして話を戻す。

 

「脱線したわね。……取り敢えず、世間から犯罪者扱いされているあなたたち勇者が、ここに何の用で立ち寄ったの?」

「……そうでしたね、急な事態が多すぎて失念していました」

「そうだったっ。私たちがここに来たのはですね……」

 

 芽吹は蓮華とNo.7の前に立つ。続いて歌野も二人の前に立つ。

 

「こちらに負傷者がいます。もし宜しければ薬を恵んで貰えませんか?」

「怪我をしている人がいて治療が必要なんです。お願いできませんか?」

 

 二人共同時に頭を下げた。

 

「……!」

「……」

 

 その様をNo.7や部下の防人たちは軽く驚いて見ていた。蓮華に関しては腕を組んで黙っている。

 

「私からもお願いします」「お願いします」

 

 続いて水都と雪花も頭を下げた。

 

「……まぁ、頭を上げて? まず負傷者っていうのは誰?」

「芽吹です」「歌野よ」

 

 歌野と芽吹は同時にお互いの名前を口にする。

 

「……え? どっち?」

「芽吹の方です」「歌野の方よ」

「あの……両方です」

 

 二人の意地の張り合いが再来する前に水都が割って入る。

 

「うたのんは右腕の骨に異常があるみたいなんです。……楠さんは胸に大怪我を負っていまして……」

「ふむふむ……」

 

 No.7は頷きながら説明を聞いていた。

 

「……ですのでどうか、私たちを助けてはくれませんか?」

「貴女たち大社防人が私たちと敵対している事は承知の上ですけど。それでもお願いします」

 

 雪花も頼み込んだ。大社や防人には思う所はあるが人にモノを頼む以上、敬語を使う。

 

「なぁるほどぉ」

 

 その頼みを聞いたNo.7の答えは……。

 

「いいよー」

「……!」

 

 あっさりとした物言いだった。

 

「やったわ! 良かったわね芽吹!」

「良かったのは歌野よ」

「えっ! あ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます」

 

 四人はまた礼を言い頭を下げる。

 

「……と言ってもこの梅田地下街では蓮華さんがヘッドだから、蓮華さんがどう言うかですけど……」

 

 チラッと横にいる蓮華を見る。

 

「……構わないわ。困っている者を手助けするのは、この蓮華の当然の責務よ」

「だそうだよ。よかったね、元隊長っ」

「感謝するわ……貴女にもね」

「……!」

 

 お礼を言われたNo.7は驚いた様子だったが、すぐににこやかな表情に戻る。

 

「それじゃあ蓮華さんっ。『ガーデンエリア』まで案内よろしくお願いしまぁす」

「あなた……いい加減ここの地理覚えたら?」

「いやぁ無理ですねぇ。少なくとも週一で足運んではライブしてますけど、未だにこのダンジョンを攻略できません」

「……まったく。この蓮華は初見で9割9分9厘覚えたわよ」

 

 そう言って蓮華は薬草がある場所へ向かう。それに歌野たちも追従する。

 蓮華に案内され、四人+No.7は薄明かり漂う長い回廊を歩いていく。

 

「少し聞きたい事があるのだけど」

 

 芽吹はこの梅田地下街の状況をNo.7に尋ねた。

 

「ここの人たちはみんな楽しそうよね? このご時世なのに大したものだわ」

「うーん、そうだねぇ。私が防人の御役目の一環でここに来た時もなんだかみんな笑顔だったねぇ。まー、わたしのおかげでもっと笑顔だけどっ」

「全部が貴女のお陰じゃないの?」

「最初からは違うよぉ。ねぇ蓮華さん?」

 

 No.7は蓮華へ話しかける。

 

「ウエストジャパンは京都支部を軸として、物資を大阪のここと、奈良へ送っているの」

「奈良にも?」

「ええ。奈良(むこう)には『ミス・カラスマ』が代表して防人とやり取りをしているの。ああ、もちろん大阪代表はこの蓮華ね」

「ならば、あなたは()()()からずっと地下街の人たちを守ってたって事なんですね」

 

 歌野の言葉に蓮華は首を横に振る。

 

「いいえ違うわ。ここに来たのはおよそ二年前よ。防人より前なのは合っているけどね」

「なら、バーテックスが現れた三年前からは、誰が……」

 

 前を向いたまま蓮華は淡々と答える。

 

「名前は『桐生静』。彼女が三年前からここの人たちを、バーテックスの脅威や不安から守っていたわ」

「……桐生静……さん」

「三年前、バーテックスを掃討するために四勇のサポートとして大社から派遣された部隊『鏑矢』。そのひとりだった彼女は当時、ここの存在を知った。……もともと大阪が好きだった人だから尚更役に立ちたいって思っての事でしょうね」

 

 説明している蓮華の様子は、彼女と知人であるかのような口振りだった。

 

「詳しいんですね。ここの人達から教えて貰ったんですか?」

「…………着いたわよ。ここが『ガーデンエリア』と呼ばれている区画。ここの草花から飲み薬や塗り薬を作っているの」

 

 蓮華は芽吹の問いには答えなかった。

 

「ここが……」

「へぇ〜! 薬草がこんなに!」

 

 回廊の中央に大きな花壇があり、草花が生い茂っている。

 

「ここの中から薬品を作る材料を採取しているの。二人は怪我してたのよね?」

「はい。私は胸の傷を治したくて」

 

 芽吹は服を少しはだけさせて傷の一部を見せる。

 

「私は右腕に力を入れると多少痛いんです」

 

 歌野も右腕を捲って蓮華に見せる。

 まだ少しだけ赤くなっている。

 

「痛み止めならこの薬草ね……。あとは傷口に塗る用だけど……」

 

 蓮華は呟きながら草花を摘み取っていく。

 

「あ、あの。手伝いましょう……か?」

「詳しいの? あなたは」

「い、いえ。わかりません」

「ならいいわ。こっちの領分だからね」

 

 水都たちが手伝おうと提案するが断られる。彼女たちには薬学の知識が無いので蓮華の作業を終始、見ているだけに終わった。

 

「素敵な場所だよねー。草花が元気に咲いてくれてる」

「ミートゥーよ雪花。でも、野菜が無いのが残念ね」

「歌野の頭にはそれしかないにゃぁ……」

 

 花壇の周りを歩いている歌野と雪花だったが、ふと()()を見つけて立ち止まる。

 

「……? 何コレ」

「石? っていうか……」

 

 見れば、縦長で両手で持つぐらいサイズの石が無数に立ち並んでいた。

 そしてそれぞれの石の前には一輪の花が横たわっている。

 

「よく見たら、石ひとつひとつに何か彫ってあるわっ」

「ホントだ。……『ミス・アルファ』『ミス・ブラボー』『ミス・チャーリー』」

 

 人の名前とも取れる文字が一つの石に一つずつ彫られてある。

 

「どうしたの? うたのん」

「……? なにこの石の行列」

 

 水都と芽吹、蓮華とNo.7もやって来る。どうやら採取は終わったようだ。

 

「何か知ってますか?」

「……知ってるも何も……」

 

 歌野は二人に問いかけた。するとNo.7は蓮華に視線を送る。

 

「この蓮華が建てたお墓よ。一応ね」

「お墓⁉︎」

「やっぱりなんだ……」

 

 名前らしきものを刻まれた縦長の石。その手前に添えられている花。確かにお墓そのものだった。

 

「と言ってもそこには誰も居ないわ。私が()()()()を勝手に弔ってるだけ」

「彼女たち?」

 

 蓮華は手前から四番目に建てられている『ミス・デルタ』の墓の前に腰を下ろす。

 

「ミス・クスノキ。さっき聞いてきたわね。『桐生静』の事をここの人たちに聞いたから詳しいのか? って」

「ええ……」

 

 芽吹は思っていた。おそらく、()()()()()()()()()()()()()()()()、という事を。

 

「"シズさん"……桐生静は共に鏑矢として大社に勤めていたわ。少しの間、だけどね」

「「「!?」」」

「……!」

 

 歌野と雪花と水都は驚いた。芽吹も別の理由で少し驚いている。

 

「ここにあるお墓。全部で25人分あるの……。()()()()()()()()()()()()()()()のものよ」

 

 昔、芽吹は夕海子から聞いた事があった。

 防人の前身となる部隊『鏑矢』。四勇をサポートする目的で大社が設立し、最後は『岡山・香川の乱』にてバーテックスの襲撃を受け全滅した、と。

 

「私が聞いた話だと、鏑矢のメンバーは全滅したって事でしたけど」

「蓮華さんは()()()()の生き残りだよ。私も当時それを知った時は驚いた。大社の記録じゃあ鏑矢のメンバーは全員死亡扱いされてるもんね」

 

 No.7も蓮華の過去を知っているようだ。

 

「芽吹。鏑矢って?」

「歌野たちは知らなかったわね。説明するわ」

「私もNo.6と戦った時に少し聞いただけで詳細はわからないや」

 

 芽吹は鏑矢について知っている事を歌野たちに説明した。

 

「そっか。前に楠さんが言ってた……」

「そう言えば貴女と前にそんな話してたわね」

 

 水都も芽吹と出会った頃の話を思い出した。

 

「これ知ってます? 『不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)』っていう場所の火災テロを……」

 

 芽吹の説明の中に出てこなかった鏑矢に関わる単語を雪花が口にした途端ーー。

 

「ーーッ!!?」

 

 蓮華の目が見開かれ、体を震わせた。

 

「あっ。薬草が……」

 

 薬草を入れていた袋を落とした事に気付いた蓮華は、すぐさまそれを拾う。

 

「……?」

「雪花? No.6から聞いたの?」

「え? う、うん。……楠ちゃん、知らなかった?」

「ええ。私は知らないんだけど……」

「…………」

 

 蓮華は何も言わず、また仲間たちの墓を見る。

 

「えーっと……。その話は禁句なんだ」

 

 代わりにNo.7が答えた。

 

「四国民を守った出来事って聞いたけど……禁句なの?」

「守ったのは本当だよ。()()()()()()()ね……」

「……過程」

 

 意味深な言葉に雪花と水都の背筋に悪寒が走った。

 

「私が聞いたのは『不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)』っていう四国外から来た避難民の居住区画で起きた火災テロを、鏑矢が鎮圧したって事。そしてなぜかその事件は()()()()()()()()()()されたって事だけ」

 

 "大社による情報統制"という不気味な単語に周りの空気はより一層重くなっていく。

 大社の闇の一端を、園子たちから聞き、真に受けている雪花は特に。

 

「何か裏があるんだね。その火災テロにも」

「まぁ、昔の事だから防人には関係ないけどねぇ」

 

 No.7はあっけらかんとした態度で場の空気を変えようとする。

 

「あぁ、えらく脱線したけど話を戻すね。……当時の梅田地下街はバーテックスの襲撃に怯えて精神的にも衛生的にも悪かったんだって。そこに桐生静が現れてその状況を改善しようと努力した。……ここのみんなは笑顔でしょ? それも桐生静さんのおかげだって」

「……ええ、あの人はお笑いが好きだった。こんな世界でも笑顔が人を幸せにするって、ひとりで漫才の練習をしていたわ」

 

 桐生静の話に戻ったからか、蓮華はまた話し始めた。

 

「最初はあまりウケは良くなかったらしいわ。でもあの人は負けずにここの人たちへ笑顔を届けていた。……こんなご時世だもの、たとえ無理矢理にでも笑っていなきゃ、心なんて簡単に折れてしまう」

 

 そう言いながら蓮華は『ミス・デルタ』の墓を撫でる。

 

「あの人の鏑矢でのコードネームはミス・デルタ。当然、この蓮華にもコードネームがあった。『ミス・ウイスキー』」

「ミス・デルタ……ミス・ウイスキー……」

 

 歌野はオウム返しに呟いた。当然だが、ざっと見た限りで『ミス・ウイスキー』と描かれた墓は見当たらない。

 

「あの戦いで奇跡的に生き残り、ここへ辿り着いた……。前々からシズさんに梅田地下街の事を聞いてたから。……実際に来たのはあの日が初めてだったけど」

 

 そして昔の記憶を辿りながら、散っていった仲間へ想いを馳せる。

 

「あの人はこの蓮華が抱く、数少ない尊敬する人物だった。……けど、彼女は死んでしまった……。大切な約束を置き去りにして……」

「約束?」

 

 ゆっくりと頷く。

 

「ーーここの人たちは、未だにあの人が帰って来るのを待っているのよ」

 

 そう口にし、墓に触れていた蓮華の手は、いつの間にか強く握りしめられていた……。

 




不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル):誰が名付けたのかは分からないが、バーテックスの襲撃により本島から避難してきた者たちの居住区画の事。家族や友人が四国にいてアテがある避難民の場合はそこで住んでいるが、大抵の避難民はここの仮設住宅地で住んでいた。今はもう、何も残っていない。

 いつか不確かな物の終着駅(グレイ・ターミナル)の真相も解明したいと思います。まぁ、予想は付くけどね。


次回 必ず帰ると言ったのだから
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