白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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 拙稿ですがよろしくお願いします。作者は戦いを始めたくてウズウズしています。


前回のあらすじ(?)
蓮華「図が高いわ! この蓮華を誰と心得る!」
歌野「何⁉︎ あのとめどない見下し方ッ」
水都「凄い体勢……」
雪花「見下し過ぎて逆に見上げている!?」
芽吹「…………。……?」



第四十三話 必ず帰ると言ったのだから 

 

 蓮華はあの日、鏑矢として戦いの鎮圧にあたっていた。

 

 四国へ避難しようとする人たちと、自分たちの居場所を奪われたくないと考える人たちが始めた戦い。『岡山・香川の乱』

 本島という優位性をひけらかし香川県を見下していた、岡山県民をはじめとする本島側と、いざ困ったら泣きついてくる彼らを邪険に思う、香川県民をはじめとする四国側との、なんとも()()()()()()()()

 バーテックスという人類にとって共通の敵がいながら、人類は未だひとつに成りきれず、互いに"しがらみ"や"固定観念"、"コミュニティ"、同じ国内での"文化の違い"により元々あった軋轢は修復しようがないくらいに広がってしまった。

 

 ……鏑矢は岡山陣営にも、香川陣営にもつかず、第三勢力として両成敗にあたる。

 しかし、結果的にその戦いを終わらせたのは、()()()()であるバーテックスだった。

 人間同士の醜き争いはバーテックスによって終わらされた、など皮肉も良いところの話である。

 

 当の蓮華はバーテックス襲撃の際に瀕死の重傷を負ってしまった。

 次に目が覚めると戦いは終わっており、死体の山と嘔吐く程の血の匂いや死臭が充満する地獄と化していた……。

 

「……歩くのがやっとの状態で、あの場所から大阪を目指したわ。シズさんに"ウチになんかあったら、梅田地下街のみんなのこと、気にかけてやってやー"なんて言われてたからね……」

 

 そして本当に"何か"が起こってしまった。桐生静自身も冗談のつもりで言ったかもしれないが、悪い予感というものは理不尽な程に当たりやすい。

 

「そしてこの蓮華が……シズさんの代わりに皆を守っていこうと決めたのよ。皆は彼女の知り合いという事で、すぐに受け入れてくれたわ」

 

 今の蓮華を見ていると、桐生静への思い出に安らぎを感じつつも、死んでしまった事への腹立たしさを感じさせていた。

 

「話さない……んですか? ここの人たちに。その……桐生静さんが亡くなった事を」

 

 水都の質問に蓮華は首を横に振った。

 

「今となっては……むしろ言えないわ。最初の頃も。……だって皆、キラキラした目をしていたのよ。この世界を頑張って生きようとする意思を感じ取れる程にね。……そんな彼らに言える訳……ないわ」

 

 墓石を強く握り締めていた手を離す。

 

「あの日からずっと、ずーっと……帰って来るのを今か今かと待ち侘びているのよ。……あの人の"必ず帰る"という言葉を信じて」

「…………」

 

 梅田地下街にもし、桐生静がやって来なければどんな悲劇が訪れていたのか。彼女の存在がどれほどここの人たちに活力を与えてくれていたのか。歌野たちもはっきりとわかる。

 No.7もその想いを汲んでアイドル活動を始めたのかもしれない。

 

 ……桐生静の意思を、同じ鏑矢であった蓮華と後任部隊である防人のNo.7が受け継いでいるのだ。

 

「シズさんは……皆に()()()()のよ。確かにっ。……ならその責務を果たさなきゃ駄目じゃないのよ」

 

 鏑矢の御役目は命懸けである。それは彼女自身もよく分かっていた。この世界は決して生温くはない事も……。

 

 ーーそれでも生きて、ここへ帰って来なければいけなかったのだ。彼女はーー

 

「無責任に死んでしまったあの人を、ここの皆が許してくれるとは思わないのだけれど……身勝手な約束をして声も届かない遠い空から、"死んでごめん"じゃないでしょう……」

 

 蓮華の脳裏に桐生静と交わした言葉の数々が過ぎるーー。

 

『ーーなんやー、ロックはいつもキビキビしとんなー。もっと肩の力を抜いてええんやで? ここにはウチとアカナしかおらんさかいなっ』

『ーー約束は大事やで。"信頼関係"言うんは些細な約束を違えてしもうて……そっから壊れていくもんやからなー』

『ーーウチに二言はない! 任せときーや! アンタらより若干お姉さんやからな』

 

 ーーどんな状況下であったとしても、生き残らなければいけなかったのだ。

 

「……シズさん! あなたが一度っ! "必ず帰る"と言ったのだからッ‼︎」

 

 いつの間にかひとりの世界に入っていた蓮華は、声を荒げて目の前の墓に叫んでいた。

 

「……! ごめんなさい。あなたたちが居ながら……情けない姿を晒してしまったわ」

「……いいえ、そんな事無いですよ」

 

 立ち上がった蓮華の表情は、ここに来る前の毅然としたものに戻っていた。

 

「さぁ戻るわよ。この薬草からすぐに薬を調合しなければいけないからね」

 

 そう言って蓮華はもと来た道を歩き始めた。それに歌野たちも追従する。

 その時の蓮華は、なぜか早歩きだった……。

 

 

 

 

 

 

 ーー調合を始めて数時間したのち、薬品店から蓮華は顔を出した。

 

「できたわよ。痛み止めの飲み薬。それと傷口への塗り薬。あとこれ。患部に貼りなさい」

 

 粉状の飲み薬。コロイド状の塗り薬。そして湿布を渡される。

 

「わ〜お! 本当にありがとうございます!」

「助かりました」

 

 歌野と芽吹が礼を言うと、並んで水都と雪花も頭を下げた。

 

「困っている人を助けるのはこの蓮華の責務。そう言ったはずよ」

「それでも、本当に助かりましたっ」

「……ああ、ミス・クスノキ。折角だから塗ってあげるわっ」

「……? いえ、ひとりで塗れますが……」

「フッ。()()()()()()()()わ!」

「……わっ。あ、ちょ」

 

 芽吹の上半身の服を半ば強引に脱がせていく。幸い、ここには歌野たち女性陣しかいない。

 

「はい、万歳しなさい」

「……」

 

 芽吹は観念して両手を上に伸ばす。

 

「……しかし、えらく斬り込まれたわね。傷が完全に塞がるまでは結構かかるわよ?」

「そうなんですか」

「ええ。あなたは勇者じゃないのでしょう? なら、治りの遅さに納得だけど……。それにしてもよく生きてたわね」

「……まぁ、鍛えてますから」

「フッ。()()()()か。そう言えば私の仲間にもいたわ。体を鍛える事を喜びにしている可笑しな人が……」

「そう……ですか……」

 

 薬を塗り終わり、芽吹は服を着ようとする……が。そこでNo.7から制止がかかる。

 

「あっ待って、元隊長。よく見たら防人装束ボロボロだよねぇ?」

 

 芽吹が頷くと、No.7は後ろに持っていた新しい防人装束を芽吹に差し出した。

 

「……! これ」

「私の予備。指揮官クラスの防人装束だよ。これあげる。そんな見窄らしい装束じゃあ何かと不便でしょ」

「でも貴女は……っ」

「いいのいいの。予備なんだから。……あっ、でも胸のサイズは大きく感じちゃうかも。テヘッ」

「いえ、問題ないわ。……重ね重ねありがとうね」

「…………ほえー」

 

 芽吹のお礼にまたもやNo.7は驚いていた。

 

「なんか……変わったよね、元隊長」

「貴女から見ても、そう思うかしら?」

「うんうん。元隊長が隊長だった頃は、なんかこう……ギラギラしてた。自分以外の防人の事を()()()()()ための"駒"としか思ってないような。そのぐらい冷徹な人だったよ」

「言い過ぎ……じゃないわね。……確かにあの頃はそう思われても仕方ない程に切羽詰まっていたと思う」

 

 芽吹は苦笑いを浮かべ、渡された装束を着る。

 

「三好さんに喝を入れられてね……。あれから考えるようになったのよ。この世界の事や、大社の事……私達がいた防人の事を」

 

 あの日の決闘で夏凛に敗け、その際に彼女に言われた事を芽吹なりに考え続けていた。

 芽吹自身が積極的に京都支部へ行こうと考えたのも、今の防人の現状を知りたかったから。という理由も含まれていたのだ。

 

「No.6や貴女と会って……。自分が防人で何をしてきたか。そして帰った時にどうすべきなのか……。よく考えてから答えを出すわ」

 

 いつか、大社本部に行き、夕海子やしずくや雀と会って話をしたいとも考えている。

 ……あの頃と違って、きちんと彼女たちと向き合いたい、と。

 

「……? いやぁ、帰って来なくてもいいと思うよ?」

「え?」

 

 しかし、No.7からは冷めた解答が返ってきた。

 

「少なくとも今の防人は、元あなたの部下である夕海子ちゃんたち"三大将"のおかげで順風満帆だからねぇ」

 

 その言葉に雪花の表情が軽く曇る。

 

「夕海子ちゃん、最近すごく頑張ってるんだぁ。それこそ、あなたより良いリーダーになってるんじゃないかなぁ」

「ーーちょっと聞き捨てならないね。貴女は北海道支部の事を知らないのかな?」

 

 我慢出来ず雪花がNo.7の言葉に食い付く。

 

「北海道? ……ああ、No.4の()()()()でしょ? 話しか聞いてないけど、面白かった?」

「……! あのねぇ……」

「たかだか中学生の小娘が、民衆をまとめ上げる事なんて不可能でしょ。まぁ、No.4(彼女)はバーテックスを上手く利用してたみたいだけど」

「……知ってたのね。貴女達は」

「みんな知ってると思うよ。知らないのは出ていったあなただけ。上手く()()()()()()()()()()()()()、三好さん退治に行ってたんだから」

「弥勒さんに、追い出された?」

 

 先程からNo.7の言葉には疑問に思うものばかりだった。

 

「これも知らなかったの? ホントに頭の中は三好さんだらけだったんだねぇ。……教えてあげるっ。あなたに伝わった三好夏凛の居場所。情報の出処は夕海子ちゃんだよ。彼女があなたを"出来るだけ遠く"に追い出したかったから、あの情報を持って来させた」

 

 ここにいる全員は静まりかえる。

 

「……ど、どうして楠さんを?」

 

 辛うじて口が開いた水都の問いにNo.7は半笑いで答えた。

 

「欲しかったんだろうねぇ。"隊長の座"が。彼女も一応は名家のご令嬢だから……ね? 蓮華さん」

「…………」

 

 蓮華は何も言わなかった。

 

「……私のやり方が、そんなに不満だった訳ね」

 

 芽吹はそれだけ口にした。

 

「全部が全部、悪いわけじゃないよ? そんなあなたの姿に憧れを抱いた子もいたし。……だから当時は結構荒れてたんだよねぇ。夕海子ちゃんが後釜じゃ納得いかないって人が結構いて……さ」

 

 実際に、夕海子が芽吹の代わりを務めてから、防人を辞めた者。不満を漏らす者や反発する者。彼女自身や周りの人にあたる者は少なからず存在した。

 

「周りから"ポンコツ"だとか"似非お嬢様"だとか"名家の汚点"だとか好き勝手言われててさ。……でも彼女はそんな陰口を物ともせず、努力してたよ。『誇り高き弥勒家の娘』としてね」

「…………」

「影で凄く努力し続けてた……ずっとね。けど楠芽吹(あなた)と違って彼女の努力は報われない。……私はそんな夕海子ちゃんだからこそ従ってるんだぁ。あなたが隊長のままだったら、私は夢の片鱗すら見れなかったわけだから」

 

 No.7は胸に手を当て、自分の夢を告げる。

 

「私の小さい頃の夢は、ホントにアイドルになる事だったんだよ。バーテックスのせいで、夢のまま終わりそうだけどね」

「随分と弥勒夕海子を買ってるんだねー。でも私は……あなたには悪いけど、今の大社と防人が正しいとは思えない。楠ちゃんの方がマシだよ」

「勘違いしてないかな? 大社と防人の御役目はバーテックスの討伐。そして世界の安寧だよ。間違ってもいち個人に執着するようじゃいけないんだよ。その点、夕海子ちゃんは()()()()()

「分かってる? 何が……」

 

 ーーとその時。

 

「ーーんん〜〜アメイジングだわっ♪ 薬と湿布のおかげでもう痛くなくなりましたよっ! 蓮華さん!!」

 

 唐突に歌野は右腕をぶんぶん回して喜んだ。

 

「…………へ?」

 

 歌野の言葉で場を満たしていた緊張の糸が切れる。蓮華は半笑いでそれに応えた。

 

「あらそう? それは良かったわ」

「本当にありがとうございます♪ ……あっ! そうだ蓮華さん! 農業に興味ないですか⁉︎」

「えっ? 農業?」

 

(うわっ、まずい……っ。この展開はーー)

 

 水都はいつかのデジャヴを感じて制止しようとした……がすでに遅し。

 

「蓮華さんっ。私の仲間になりませんか!(私と農業しませんか)!」

 

「……?」

 

「ーー!!!?」

 

 

 ……重苦しい雰囲気に包まれていたこの場の空気は、歌野が突如口にした爆弾発言によってぶち壊されてしまった……。

 




 はうぅえっ⁉︎ 
 ……ちょいちょい、白鳥さんよい。


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