前回のあらすじ
蓮華を仲間にするための条件として京都支部に向かい勇者御記を回収する事になった歌野たち。大抵の条件ならばクリアする気でいたのだが、次の条件『蓮華が白鳥農業組合のリーダーになる』事を四人は拒否したのだった。
梅田地下街から地上へ戻り、歌野たち一行は蓮華と共に京都支部跡地を目指していた。
「……やっぱり
「……この蓮華にもプライドというものがあるわ」
「プライド……」
「蓮華に命令出来るのは蓮華だけよ。鏑矢に属していた時も大社の言いなりになっていた訳ではない」
「別に命令するってわけじゃ……」
「誰かの下につくつもりはないわ。……ミス・シラトリがリーダーである事を譲れないように、こちらも譲れないものがある」
梅田地下街で蓮華が出した条件のひとつである、『
当然、条件を受け入れられなかった蓮華は歌野たちの仲間になる事を拒んでいたが、歌野はなおも食らい付いている。
「どうする歌野。諦める?」
歌野は激しく首を振って拒絶する。
「"諦める"なんて選択肢はナッシングよ」
「仮に仲間になるとして……彼女の役割って?」
「蓮華さんなら大抵の事はできそうな気がするわ! そうですよね⁉︎」
「ええ、色々出来るわ。まず、この蓮華には薬学の知識がある。それに料理だって出来るし、機器の修理もある程度可能よ。それに音楽だって得意なんだから」
「音楽⁉︎ わーお! そんな事までできるんですか!」
「ええ。昔、色々仕込まれたからね。楽器を持たせればプロ顔負けだと自負しているわ」
口角を上げ胸を張って己の自信をアピールしてきた。
「地下街のガーデンエリアでしたっけ? あそこの草花も蓮華さんが育てていたんですよね?」
「たまに皆に手伝ってもらう事はあるけど、大体はこの蓮華ひとりの力ね」
「その知識は農業に役立てられるはずだわっ。……野菜はなかったけど」
「野菜も育ててないだけで知識としてはあるわよ」
自分以上に農業の知識があるかもしれない事に歌野は心弾ませる。
「ほらみんな! やっぱり蓮華さんの力は私には必要だわ! やっぱり
「でもうたのん。蓮華さんの条件……」
「そうなのよ! ……ねぇ蓮華さん。もうちょっとイージーな条件にチェンジできませんか?」
「……ミス・シラトリがリーダーでないと、あなたたちは駄目なのよね?」
その問いに、歌野以外の三人は頷く。
「この組織のリーダーは歌野。それは変えるべからざる事なんです」
「そーだねー、歌野以外ありえないにゃぁ」
白鳥農業組合のトップは歌野である事を芽吹も雪花も否定しないし、代わりも認めない。水都に至っては言うまでもない。
「さっきも言ったけどこの蓮華は誰かに従う気はないわ」
「随分とこだわるんですねー」
蓮華のその姿勢は見上げたものだが、雪花としては疑問を抱いてしまう。
「と言うか、こちらとしてはミス・クスノキ。あなたがミス・シラトリの下で働いている事が驚きだわ。……仮にも防人のリーダーなのでしょ?」
「別に下についてる訳では無いです。歌野とは"ビジネスパートナー"。あくまで"対等"ですから」
「ビジネスパートナー?」
「私が防人に返り咲いた時、歌野の野菜を購入する事になっていますので」
「なるほど……ね」
「っていうか、私は別にみーちゃんも雪花も芽吹も、下だとは思ってないわ! ……だから蓮華さんも下に見たりは絶対にしません」
はっきりとそう宣言した。
「それでも駄目なんですか?」
「悪いわね。どうしても立場を意識してしまうのよ」
これだけ上下関係に拘るのは彼女がそれ相応の家の出だからだろうか。
心当たりがある芽吹以外の三人は戸惑いを隠せないでいる。
「この蓮華の人生史上唯一、従わせる事が出来たのはシズさん。彼女だけよ」
「ど、どうして桐生静さんには従おうと思ったんですか?」
水都の問いに対して、蓮華は目を閉じて過去を振り返る。
「昔、勝負をした事があったのよ、鏑矢時代にね。その勝負に負けて、その時にシズさんが出した条件に従った……まあ、そんなところね」
蓮華の話によると、鏑矢として始動する直前、成績上位である五名には、大社が事前に入手していた『勇者の野菜』が与えられたそうだ。
当時はまだどんな能力の野菜なのか不明だったため、一位の者から好きなものを選べる特権が与えられた。
「結果はシズさんが一位。この蓮華は僅差で二位という結果に終わったわ」
訓練時の成績は蓮華と静で競り合っていたそうだが、最後の最後で蓮華は凡ミスをやらかしたらしい。その結果、静が一位に輝いた。
「当時、この蓮華は年上だろうと関係なく振る舞っていたけど、シズさんに負けてからは彼女の事を"年上"として見るようになったの」
年上だろうと大人だろうと容赦なく我を貫いていた蓮華がはじめてにして唯一、敬語を使い、敬称で呼んだ相手が桐生静なのだ。
そして、それを聞いた歌野は少し考えてから口を開いて提案する。
「じゃあつまりは……蓮華さんに勝てば良いってことですね!」
「な、なんの話?」
「
「なんでそんな解釈になっちゃうの⁉︎」
驚いている水都に対して、芽吹と雪花は頷いていた。
「……いえ。考えようによってはアリね。先程の話からすれば、蓮華さんより優秀である事……蓮華さんに認められたらリーダーの座を奪わないって事になるじゃないの」
「そーだねー。桐生静さんに負けてからは彼女には従おう、ってなっちゃったんなら今回もそうすれば良い。……でしょ? 歌野」
「ええ!」
目から鱗が出たかのように水都は口を開けていた。蓮華も少し驚いているようだが、その後に少し笑った。
「……フッ。確かにミス・シラトリがリーダーに相応しいとこの蓮華が認めたなら第二の条件はクリア……って事で良いわ」
「う〜〜やったー!」
「歌野。喜ぶには早いよ」
「分かってるわっ雪花。全ては私の頑張り次第! これからのアドベンチャーの中で必ずアドミットさせてみせるわ!」
こうして、蓮華が歌野たちの仲間に正式に加わるために、リーダーとして相応しいか、否かを蓮華に査定される事となった。
「ーーさて、ちょうど区切りの良いところで、着いたわよ」
話している間に京都支部があった地域までやって来ていた。歌野たち四人にとっては数時間ぶりになる。
「警戒は怠らないように。いつ京都支部を滅ぼした進化体が現れるか分からないから」
蓮華に地下室への場所を案内される中、周りを警戒する。
「それとミス・クスノキ。No.7から受け取ったその"銃剣"。使い方は分かるかしら?」
芽吹は腰に提げている新たな武器を見る。地下街から出発する際に、No.7から渡されたのは指揮官クラスの防人が使っていた銃剣である。
「問題ないです。仮にも指揮官クラスの防人の標準装備でしたので、これの扱い方も訓練していました」
「なら良いわ。……No.7が言うには、勇者の野菜の能力者になったほとんどの防人はその武器を使わなくなったらしいからね」
「確かにそうでした。……かく言う私も二刀流でいたので先程も言ったように訓練時しか使いませんでしたが……」
弥勒夕海子により能力者を量産させている今、銃剣を使っている指揮官クラスの防人はほぼいない。No.7も自分の能力と照らし合わせて使えそうな時に使う、といったスタンスをとっている。
「……ここね」
京都支部だった場所へ到着して周りの焼け焦げた木片をどかしていると、頑丈そうな扉が見つかった。
「この蓮華と、防人だったミス・クスノキが中に入るわ。貴女たち三人は外の警戒をお願い」
「ラジャー!」
地下への扉の鍵を開ける。その後、少し重かったが何とか扉を開く事ができた。
「ミス・フジモリは異常があった時、こちらに知らせに来る事」
「はい」
雪花は小声で歌のに耳打ちする。
「いいの? 来て早速、蓮華さんの言いなりになってるけど」
「別に良いわっ。ここのつくりに関しては蓮華さんの方が詳しいだろうし。なにより背中を任せたって言われているみたいで、信頼的なサムシングを感じるのよ♪」
「……まー、歌野が良いなら良いかー」
言っている内容は分からなかったが、言おうとしている意味は伝わった。
蓮華にリーダーとして相応しいか見られているが、歌野はあくまで自分の夢を叶えるための同志や、支え合える"対等な"仲間として雪花や蓮華たちを見ているはずだ。
「蓮華さん、楠さん。後はお願いしまーー」
言い終える前に、芽吹が右手を水都の方へ出した。
「……誰、あれ」
「……え?」
五人の視線の先には、金髪の二人の少女が歩いてきていた。
その二人の顔を見た瞬間、蓮華と水都が同時に口を開く。
「「七武勇……!」」
「……!」
歌野、雪花、芽吹はそれを聞き一気に臨戦態勢に入った。
「……尾けられてたの?」
「気が付かなかったんだけど……」
「ーーそこにあったのねぇ。地下施設への入り口……」
背の高い方が笑いながら歩くスピードを速めた。
「何故七武勇がここに……なんて質問は、要らなかったようね……」
地下への入り口を探していた、という事はその先にある物を狙っているという事だ。
「大社防人がいるってことは当然"あれ"を取りに来たんでしょ!」
「貴女達の目的もそれって事ね……」
走り出した少女は身の丈程の大きさを持つ大剣を振り翳してきた。それを一番近かった雪花が槍で受け止める。
「くっ……おも……っ」
「
「わ……私たちは」
雪花が大社と関わりがない事を伝える前に、芽吹が相手に飛び蹴りを放つ。
「らァア!」
「うわっっ」
相手は横腹に蹴りを入れられ、よろけながら後ろへ退がる。
「どーも。楠ちゃん」
「ええ。……でも彼女」
芽吹は蹴りを入れた彼女に対して、疑問を抱く。
(何処かで……)
「お姉ちゃん!」
「樹、大丈夫よ。問題ない」
「焦らないでいいから……」
背の小さい方が姉と呼んでいる彼女を気にかける。
「姉?」
「あの二人……。"犬吠埼風"と"犬吠埼樹"。手配書で名字が同じだからもしかして、と思ったのだけれど」
蓮華は腰に提げている刀に手をかける。
「あの二人はシスターって事ね。あちらさんも色々事情あるようだけど……」
歌野がベルトを伸ばして攻撃のモーションに入る。
「黙ってやられるわけにはいかないわっ。……ムチムチの
姉である犬吠埼風へ放たれた一撃は、彼女の持っていた大剣により阻まれた。
続いて芽吹は、妹の犬吠埼樹へ刀と銃剣をクロスさせて突撃する。
「久しぶりにこの技が使えるなんてね……。"
「ーーッ! させないわよ!」
風が大剣を芽吹と樹の間に向けると、突然
「ーーえ?」
「芽吹⁉︎」
進行方向に伸びてきた大剣に激突して芽吹は横に転がる。
「……何、今の」
すぐさま起き上がった芽吹は風を睨み付ける。
(大剣が"伸びる"……? 歌野の能力じゃあるまいし)
……すると今度は、樹が芽吹の間近に迫ってきていた。
「ハッ! 速い⁉︎」
樹は五本指を構え、芽吹に振りかぶって引っ掻こうとした。
「……
「ーーくッッ!」
芽吹はすんでの所で回避でき、指に触れる事は無かった……が、防人装束に"何か"が擦った痕が出来た。
「……? 避けたはず……」
不気味な攻撃を警戒して、蓮華の元まで退がる。
「歌野……。あの二人、変わった能力を使う」
少しの間の攻防だが、芽吹たちは二人の能力について共有する。
「犬吠埼風……だったっけ? 彼女は刀身の長さを変えていた」
「変えるというより、あの剣自体が大きくなったように見えたわっ」
あの時、風の一番近くにいた歌野には、風の持つただでさえ大きい剣が、一層巨大になったかのように見えていた。
「妹の方は……まだ分からない。完全に避けたと思ったけど、薄い線のようなものが装束に出来てた。能力で見えないのか、見えにくいのか……」
「"見えない能力"では無い事は確かね。……そういう能力者は他にいるもの」
「そうなんですか?」
「ええ、No.7の事よ。同じ能力は二つとない」
蓮華はそう言って歌野たちの元から離れる。
「さてと……もっと情報が欲しいから、この蓮華も彼女たちと一戦交えるわね」
「……?」
歩み寄って来る蓮華を、怪訝そうに見つめる風と樹。
……しかし次の瞬間。
「……え?」
「……!」
歌野たちの前から……犬吠埼姉妹の目の前から……蓮華が
「ーーッ、違う樹! 後ろよ‼︎」
「え、ええ⁉︎ いつの間に……」
二人が振り返ると、蓮華は眼前で刀を鞘に収めようとしている姿が映った。
「……
「「……ッッ!?」」
蓮華が刀を完全に鞘に収めたその時、二人同時に肩から出血した。
「……ぁ。な……っ」
「……ぇ」
肩を押さえる二人に対し、余裕のある笑みで蓮華は振り返る。
「ああ、そうだ……言い忘れていた事があったわ……。この蓮華は『カネカネの野菜』を食べた"金属人間"よ」
改めて刀を鞘から抜くと、その刀ーーサーベルはプラスチックで出来ていた。
しかし、蓮華が地面を叩くと、カンッと
「そしてもうひとつ言い忘れていた事があるわ。……"最初に言っておく"けど、この蓮華はかーなーりっ強いから」
・蓮華は『カネカネの野菜』を食べた金属人間。装備した対象物の材質をあらゆる金属に変えることができる。……金属人間だが、レンチ人間ではない。
風と樹については次回明らかに。さてさて、何の能力でしょう。
次回 鳥カゴ