白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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 拙稿ですがよろしくお願いします。鳥カゴの中での戦い。……2対1だが、卑怯とは言うまい。


前回のあらすじ
 京都支部に保管されてある勇者御記をめぐり、七武勇の犬吠埼姉妹との戦いが始まった。しかし芽吹と蓮華は樹の発動した"鳥カゴ"に囚われてしまう。歌野と雪花、水都は地下へ降りた風を追いかけるのであった。


第四十七話 仲間割れ!? 芽吹VS蓮華

 犬吠埼樹が発動させた"鳥カゴ"の中で、芽吹と蓮華は脱出する術を考える。

 

「手っ取り早いのは発動者本人を倒す事ね」

「私も同じ事を考えていました」

「あなたたちの言う通りです。発動者である私の意識が途切れたら、この"鳥カゴ"は解除されるように出来ています」

 

 いとも簡単に樹はこの"鳥カゴ"の脱出方法を教えてきた。……それほどまでに自信があるという事だろうか。

 

「2対1……。少し気が引けるけど、悪く思わない事ね」

「……!」

 

 蓮華が鞘に手をかけ、接近してくるのを見て樹は後ろへ下がる。

 

「随分とこの蓮華を警戒しているのね。……賢明な判断よ」

 

 芽吹は真上や辺りを見渡し、自分たちを囲う鳥カゴを観察する。

 

(これ、動いてる……!)

 

 端の方を見ると樹が動く事で少しずつ鳥カゴの位置が移動しているのが分かる。つまりそれは、樹が鳥カゴの中心になっている事を意味していた。

 

(言わば彼女が核のようなものね。……彼女を倒せば鳥カゴが解除されるというのも本当みたい)

 

 そこで芽吹は樹の元へ走り出した。

 

「ーー(オニ)()り‼︎」

 

 刀と銃剣をクロスさせて突っ込む。しかしそれは、樹が()()()()()事で避けられた。

 

「……⁉︎ 浮いた!?」

 

 よく見ると、上方から垂れている糸が樹の体を支えることで宙に浮いているのだ。

 そして一旦着地したあと、今度は樹が芽吹の方へ走り出す。

 

足剃糸(アスリイト)ッ」

 

 地面を、まるでスケートリング上を滑るかのように移動する。

 

「速いッ。さっきもこれで移動していたのねっ」

 

 そしてそのスピードに乗ったまま蹴りを放つ。

 

「くッ……」

 

 武器を盾代わりにしてガードする……が、勢いは殺せず体が仰反った。

 

五色(ゴシ)ーー」

 

 追撃を仕掛ける樹だったが、急に視界に蓮華が入る。

 

「失礼するわ!」

 

 蓮華は一瞬にして樹の横腹を切り裂いていく。

 

「……っ、うう」

 

 今度は樹が横腹を押さえてよろけた。

 その間に、体勢を立て直した芽吹の刀による斬撃と、蓮華のサーベルによる刺突を食らって吹っ飛んだ。

 

「あぁあ!」

 

 倒れて地に背を付けるが、すぐに糸に吊られて起き上がる。

 

「……彼女から糸が出てるの、見えていますか?」

「ええ。繋がった先はこの糸の監獄で間違いないわ」

「ならばあれを切れば……」

「そう簡単に切らせてくれる筈が無いわね。やはり"倒す"の一択ね」

「……そうですね。最初(ハナ)からそのつもりですけどっ」

 

 すると、宙に浮き上がった樹は右手人差し指を二人へ向けた。

 

弾糸(タマイト)

「「ーー‼︎」」

 

 途端、樹の指先から弾丸のようなものが飛んできた。

 二人は咄嗟に回避を試みるが、何発か腕や肩を掠めていった。

 

「……つぅ」

「かすり傷だわ」

 

 また樹が上から、糸で生成した弾丸を飛ばしてくる。

 

「同じ手は食わない!」

 

 芽吹は銃剣を構えて発砲する。

 発射された弾丸は樹の弾を相殺させる。

 

「やるじゃない!」

 

 蓮華の場合は、回避できるものは完全に見切り、回避出来そうにないものは、サーベルを突き出して弾をピンポイント命中で凌いだ。

 

「貴女もやるじゃないですか」

「相手が止まっている以上、どこから弾丸が飛んでくるのか一目瞭然。あとはこの蓮華の技術の賜物よ」

 

 不敵に笑いながら蓮華は見上げた。"お前の攻撃はもう通じない"と言っているかのように。

 

「…………」

 

 樹はゆっくりと着地し小声で呟いた。

 

「やっぱりあなたですね」

「何か言ったかしら?」

 

 蓮華の問いには答えず、樹は地面を踏みしめる。

 

足剃糸(アスリイト)!」

 

 地面を滑るように進み蓮華の周りを動き回る。

 

「フッ。それで撹乱しているつもり?」

 

 蓮華はサーベルを鞘に収める。そして樹の動きから次の動作を先読みする。

 

「そこぉ!」

 

 樹は右手から糸を伸ばして周囲を囲む鳥カゴと結び付けさせる。そして自分を引っ張らせる事で蓮華の居合を回避した。

 タイミングは完璧だったので、樹の咄嗟の回避行動がなければ直撃していただろう。

 

「ちょこまかと……」

 

(確かに、これじゃあスパイダー人間と呼ばれてもいいわね)

 

 心の中で嘲笑し蓮華は樹にまたサーベルを向ける。

 

「よく回避した……と褒めてあげたいところだけど、この蓮華ばかり見惚れていても駄目よ」

「……!」

 

 その言葉に樹が気付いた頃には、銃剣と刀を平行に構える芽吹の姿が目前に迫っていた。

 

「ーーしまっ」

「弐斬り・"登楼(トウロウ)"!」

 

 武器二本を下から上へ樹ごと突き上げた。

 

「うあッ!」

 

 今度は糸によるものではない、樹は宙を舞う。

 

「"砂紋(サモン)"!」

 

 そして続け様に芽吹はジャンプして樹の上から銃剣と刀を振り下ろした。

 

「ーーぐッ、あッ!」

 

 一瞬で地面に叩きつけられ、樹の視界は半ば白む。

 

「……まずい。早くしなきゃ」

 

 小声で呟くと、樹は指を()()()()()向けた。

 

(何か仕掛けてくる……?)

 

 樹が指を向けているのは()()()()()()()()()が、その行動に身の危険を感じた。

 

(何かする前に、一気に片を付ける‼︎)

 

 芽吹は刀を鞘に収め、もう片方の手に持っている銃剣から手を離して地面に落とした。

 そして身を屈めて居合の型を取る。

 

「一刀流・居合ーー」

 

 樹にトドメを刺すーーかに思われたが、その刀が鞘から抜かれる事は無かった。

 

「!?」

 

 ーー突如、視界に"何か"が横切る。

 

 それが何であるかを確認するより先に、直感的に体が動き回避した。……でなければ芽吹の頭に直撃していただろう。

 

「ーーなっ、何を⁉︎」

 

 ……その正体は、蓮華が繰り出すサーベルの刺突攻撃だった。

 

「れ、蓮華さん⁉︎ 一体何をやっているんですか!」

 

 当然、芽吹は蓮華の行動に困惑している。

 

 ……しかし、

 

「ち……違う、わっ……!」

 

 一番困惑していたのは、蓮華本人だった。

 

「体が……ッ、()()()()()()()!」

 

「……え?」

 

 突然の事態に思考が追いつかない二人を、立ち上がっていた樹は眺めているだけだった。

 

「……蓮華、さん! 落ち着いて下さい! 一体何がッ⁉︎」

「この蓮華にも分からないのよ! 自分の意思とは裏腹にあなたに向かって攻撃してしまう!」

 

 芽吹に向かってサーベルを振り回す蓮華は、確かに思考と体が隔絶されているかのようだった。

 

「ーーくっ……! ちっ……」

 

 芽吹は刀一本で攻撃をいなし続ける。

 先程、居合を繰り出すために地面に落とした銃剣を拾うにも、蓮華の攻撃に阻まれ回収出来ない。

 

(蓮華さんが錯乱している訳じゃない。……だとしたら)

 

 樹の方を一瞥する。彼女は茫然と突っ立っているように見えるが、その手は不審な動きをしていた。

 ……まるで蓮華の行動と指の動きが連動しているかのように。

 

「……! 貴女、蓮華さんを操っているのね!」

「何ですって⁉︎」

 

「…………」

 

 芽吹の言葉に蓮華は頭だけ、後ろへ送る。

 樹は無表情のまま、淡々と答える。

 

「……気付くのが早いですね。その通りです」

「……!」

「これは"寄生糸(パラサイト)"。イトイトの能力で、相手をマリオネットのように操る技です。……私の実力では対象はひとりだけですが、この状況なら問題ありません」

 

 蓮華の体を糸で操り、芽吹との同士討ちを起こさせていたのだ。

 

「……さて、そういえばひとつ、言っておく事がありました」

「……?」

「"2体1"。少し気が引けますけど、悪く思わないでください……」

 

 そして樹は芽吹に接近して大きく手を振りかぶった。

 

五色糸(ゴシキート)‼︎」

「ーーッ‼︎」

 

 それを間一髪で避けた……が、その間を縫って入るように蓮華がサーベルを突き出す。

 

「避けなさい‼︎」

 

 体勢が万全では無かったため、蓮華の刺突が芽吹の肩を掠めていった。

 

「……ぅあッ!」

 

 しかし攻撃は止まない……。今度は樹の背中から五本の太い糸が出現し、頭上を大きく通り越して、芽吹に降り注いだ。

 

降無頼糸(フルブライト)!」

「ーーああああッ!!!」

 

 五本の内、三本が芽吹の体を貫いた。

 

「ーーがッ……っハッ……」

「ーークスノキィィィ‼︎」

 

 片膝を地面に突いた芽吹へ、なおも蓮華のサーベルが直撃した。

 

「……ッ…………ァ」

 

 後方へ吹っ飛ばされ、地面を滑るように転がる。

 

「……カァ……ハァ…………ァァ」

 

 か細い呼吸が口から漏れ出る。芽吹は仰向けのまま動けなかった。

 

「ミス…………クスノキ…………」

 

 蓮華は悔しさと情けなさで押し潰れそうだった。唇を力一杯噛み、血が滲み出る。

 

「……次はあなたでーー」

 

 その時、ピクッ と芽吹の指が動いた。樹は蓮華へ向けた手を一度下げた。

 

「まだ……動けるのですか?」

「…………」

 

 ゆっくりと体を起こしていく。

 

「ハァ、ァア…………ハァ、ァア……」

 

 今にも途切れそうな息をしながら、芽吹は立ち上がる。その両手はしっかりと刀を握り締めて。

 

「ミス・クスノキ……。申し訳ないわ……。この蓮華とした事が……」

 

 敵の術中にまんまと嵌り、味方を傷付けてしまった。……己の不甲斐無さに蓮華のプライドは砕かれ、崩れかけている状態だった。

 

「"私"はいつも……肝心なところでミスを冒す……。それも致命的なミスを……」

「…………」

 

 芽吹は無言のまま、刀を握り締めたまま構えている。

 

「……くっ、ぅぅ。ミス・クスノキ……。頼みがあるの……。こんな醜態を晒した上に、ボロボロのあなたへ頼み事をする恥ずべき私を……許してほしい……」

 

 今にも泣き出しそうな程の声色で話し続ける。

 

「……私を……止めて……。"殺して"でもッ」

 

 蓮華自身も、可能であるならば今すぐにでもーー。

 

「すみませんが……その頼みは聞けません」

「……え」

 

 疲労で下を向いていたため、芽吹の表情は窺えなかったが、確かに"頼みを聞けない"と言った。

 

「貴女は……歌野が気に入った人です。白鳥農業組合(わたしたち)の大事な仲間になる予定の人です。……殺しませんよ。……死なせませんよ」

 

 体が自由になれば、その責任に押し潰されて、"自害"しかねない予感がしたので釘を刺しておく。

 

 "未来の農業王"の仲間が、無駄に命を散らさないように……。

 

「でも……ちょっと痛い思いをするかも知れません。そこは我慢……願います……」

 

 そして息を整えながら、樹を睨み付けた。

 

「よく聞きなさい、七武勇。確かに貴女は強いわ。……乃木園子もそうだった……」

「……! 園子さんを知っているんですか⁉︎」

「……でもね、私は……犬吠埼樹(あなた)よりも……乃木園子(かのじょ)よりも"強い人"を知っている……」

 

 芽吹はいつも傷だらけになっている。ボロボロになりながらも戦い続けている。

 普通に考えれば勝てない勇者(相手)との戦い。……それでもなお、芽吹は決して屈しない。折れたりしない。

 

「貴女達よりも……どんな相手よりも……三好さんの方が遥かに強いわッ!」

 

 その剣幕に樹の背筋に悪寒が走った。

 

「確かに私より夏凛さんの方が強いです。でも、今のあなたでは夏凛さんはおろか、勇者部の末席を汚す私にさえ勝てません」

 

 それを聞いた芽吹は思わず笑った。

 

「ははっ……。"そういう意味"で言った訳じゃ無いけど。……でも……そうね……。今は取り敢えず、末席(あなた)にくらい勝てないと、到底掴む事も出来ないわね」

 

 ぐっ と足に力を込めて走り出す。

 

「ハアアア!!!」

 

 二人に近付いた所で、自分の足元の地面向かって刀を振り下ろす。

 刀が地面に接触した事で、砂煙が舞い上がった。

 

「……うっ、けほっけほっ。……砂煙が」

 

 死角からの攻撃を警戒して、蓮華を前に立たせた。

 

「くっ……」

 

 しかし、芽吹からの攻撃は来ず、煙はすぐに晴れた。

 

「……あっ!」

 

 そこには銃剣を拾い上げた芽吹の姿があった。

 

「……? 落とし物を拾ってきただけよ」

 

 すると芽吹は銃口から弾丸を放つ。

 

「……! 五色糸(ゴシキート)!」

 

 蓮華を操っていない手の指から糸を出し、弾丸を切った。

 

「言い訳にしかならないけど……。やっぱり銃剣(これ)だと攻撃力は劣るわね」

 

 薄ら笑いを浮かべて芽吹は構えを取る。

 

「蓮華さん。今暫く待っていて下さい」

「……!」

「貴女を助け、彼女を倒しますから。…………白鳥(ホワイトスワン)農業組合(のうぎょうくみあい)がひとり……楠芽吹の名に懸けて」

 




 芽吹は二刀流で「鬼斬り」を放っているので、左右に逃げ場は無いが上方向への回避は可能。樹は即座に判断して宙に浮いて回避しました。……樹って意外と戦闘センスあるな。そして怖いよ。


次回 邪魔をするな!
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