前回のあらすじ
進化体バーテックスと初めて戦った歌野。結果は、お世辞にも勝利とは言えない結果だった。武器は破損。歌野はこれから、どうなるのやら……。
水都「……なんか、意外とまともなあらすじだね」
歌野「普通な時くらいあるよ……」
真夜中、歌野は目を覚ました。
「……。……?」
身体を起こすと、隣には水都が眠っている。
あの戦いの後、歌野は空港へと戻った。当然、水都には心配された。目に涙を浮かべるほどに。
ナルミとNo.25も安堵の表情を浮かべると同時に、お礼と謝罪をしていた。
「……うん、眠ったら元気になった。傷の治りも早いわ」
勇者となった影響だろうか、歌野の傷はもう完治したといえるぐらいにまで回復していた。
「……よいしょっっと」
立ち上がり、歌野は自分の荷物を漁る。そして、その中から麦わら帽子を取り出した。
その麦わら帽子には白いリボンが巻かれてある。
「偶然かな? 今さっき、
あれは、一年くらい前の諏訪でのことだった……。
諏訪にある山の麓近くの平地。
そこで、歌野は畑の中で鍬を振るっていた。
「うんうん。よく育ってるねぇ。グッド!」
土の中にあるジャガイモを鍬で掻き分けるように掘り起こしていく。
ジャガイモの中では大きい方のものばかりだ。
歌野は大きく息を吐き、かぶっていた麦わら帽子を取って汗を拭う。
「ふぅ〜。みなさぁん、休憩しましょう!」
付近の田畑を耕したり、野菜を採ったりしている大人たちへ声をかける。
「今年の野菜は上手くできそうかえ?」「ぼちぼちでんな」「農作機があればなぁ」「ぜぇたくは言えねーべ」
大人たちは口々に雑談しながら木陰に入っていく。
「ん? およよよ?」
歌野も木陰で休もうとしたが見慣れぬ女性が田畑を眺めていることに気付いた。
「見かけない顔ですけど旅人ですか?」
「む? まあ、そんなところだ」
その女性は凛々しい顔立ちで、黄色の長い髪を後ろで結えている。
その手には刀を持ち、佇まいは武士のそれと言ってもいいだろう。
「……少し聞きたいのだが、ここ最近でバーテックスの目撃情報があったか?」
「……? いえ、最近はないですね。先月は一、二体目撃したと、大社支部の方々がおっしゃっていましたが……」
「そうか……」
その女性はあたりを見渡す。
(ここの支部は防人がいないんだったな……。なのに、バーテックスに荒らされた形跡もない……。この土地由来のものか?)
「あっ、あの!」
「ん?」
「私、白鳥歌野と言います。あなたのお名前を伺ってよろしいですか」
見るからに同年代だと思うが、歌野は彼女の佇まいに気圧され敬語で話す。
「失礼。私は、乃木若葉という」
「乃木、若葉さん……」
「すまないが数日、厄介になってもいいか? この土地で調べたい事があってな」
「はいっ、それは構いませんよ」
歌野は反射で返答した。
「悪いな。……世話になる代わりに何か手伝うことはあるか?」
「……! であるならば……」
歌野はキラッと目を輝かせ鍬を若葉に渡す。
「私と一緒に農業やりませんか?」
「農業? あ、ああ。構わないが……」
歌野の誘いで若葉は鍬を手に取る。
「……! 土を耕すのにその刀は邪魔ですね。そこに置いときましょう」
「い、いや……。これは有事の際にーー」
ひょいっと歌野は若葉の刀を取り上げた。
「さぁ、今は鍬と心をひとつにしてくださいっ。農業に真摯に向き合うのです!」
歌野は生き生きしながら若葉を見つめる。
「……わ、わかった」
今では、若葉の方が気圧されている。
若葉は鍬でジャガイモが埋まっているであろう土を掘り返していく。
……が。
ザクッ
「「あっ」」
二人には確かに聞こえた何かを鈍く貫く音。
若葉にの手に確かに感じた何かを突き刺した感触。
「……」
若葉は鍬を土から出すと、先端には見事に串刺しにされたジャガイモ……。
「す、すまないっ」
「い、いえ。こんなことはザラにあるもんですから。ノープロブレムですよ」
歌野は突き刺さったジャガイモを抜き取った。
「ただ……、この子を供養してあげたいです。一生懸命生きてくれたこの子を、まともな形で食べてあげられなくなっちゃったから、みんなで集まって、遺影を飾ってお経を唱えてもらって火葬してお墓に入れてあげます……」
「そうか、そこまでのことをしてしまったんだな……」
表情を暗くしていた若葉だが、「ん?」と疑問に思った。
「そこまでするのかぁ⁉︎」
「……ジョークです♪」
「おいいいっ‼︎」
歌野は笑う。
「乃木さんがあんまりしんみりしちゃってるから、からかいたくなってしまって……。すみません。嘘です」
「なんだ……」
「まぁ、傷付けちゃったジャガイモはそれ相応に扱いますけど、そこまではしません。っていうか、火葬した時点で跡形もなくなります」
「そうだろうな」
歌野と若葉は笑い合いながら、農作業を続けていった。
次の日、調査を終えた若葉はまた畑仕事を手伝う。前日のようなミスはもうしなくなっており、さらにキュウリの採集も済ませた。
「乃木さん、この後は山菜取りに手伝ってくれませんか?」
「山菜取り? 畑はもういいのか?」
「はいっ。乃木さんが物凄く働いてくれているので今日できることは終わっちゃいました」
「む、そうか。ならば少し準備をーー」
「いえいえ準備物はここに揃ってますから……と言っても山菜を入れるカゴだけで充分なのでこのまま行きましょう!」
「あっと、おいおい押さなくてもいいだろ」
「えっへへ〜」
歌野は完全に舞い上がっていた。この地域で歌野と歳が近いのは水都ぐらいだが彼女は今、泊まりがけで少し離れた場所にある大社支部として使っている諏訪神社にいる。
その水都も、農業に関してはあまり乗り気ではないので(おそらく体力的な問題もあるため)若葉の働きぶりは素直に嬉しいのだ。
そして、二人は山へ山菜を採る。
「白鳥さんはもうずっと農業を営んでいるのか?」
「そうですね。と言ってもどっぷりハマったのはバーテックスが攻めてきた時からですのでニ年くらい前でしょうか」
「やっぱり食料確保のためか?」
「第一の目的としてはそれですね。ですが、私はこんな世の中でも『日常』を大切にしていきたいって思ってます。……みんなで畑を耕して種を植えて立派に育てたものを採って食べて……。バーテックスがいなかった時でも変わらずやっていること。その日常を大切にしていきたいんです」
聞いていた若葉はうっすら微笑んだ。
「そうか。良いんじゃないか? 私はバーテックスを倒すことを目的としているが、結局のところその理由は襲来前の世界を取り戻すことだ。……白鳥さんが言うような日常を取り戻すためだ」
「んん? 乃木さんってバーテックスを倒しにきたんですか?」
「言ってなかったか? 私は勇者と呼ばれていてな。バーテックスを討伐するためあちこちまわっているんだ。まぁ、ここにいるのは私用に入るんだが……」
「それは知りませんでした。もしよければその辺りもお話を……」
「ははっ。あまり面白い話でもないぞ?」
そうして雑談を交えながら山菜を採り終えて二人は帰ろうとする……が。
突然、ガサガサッと茂みを掻き分ける音が聞こえたのだ。
「ーーッッ⁉︎」
「ッ‼︎ まずいっ、行くぞっ‼︎」
若葉と歌野はすぐさまカゴを放り出し、駆けていく。
「あっあの‼︎ 乃木さん!」
「わかっている! だからこうして逃げているんだ!」
「え、え⁉︎」
……すると、後ろから白く異形なバケモノが姿を見せた。
「くっ、囲まれるな……」
若葉はくるっと歌野へ振り向く。
「白鳥さん、頭を屈めてジッとしてくれないか?」
「えっ?」
「頼むっ」
「は、はいっ」
歌野は言われるがままにしゃがんだ。
「……」
そして、若葉は周りにいる五体のバーテックスを睨みつけた。
「失せろ」
その瞬間、バーテックスの身体は停止してドサドサッと地面に落ちる。
「……?」
歌野には、バーテックスが落ちている様子しか見えなかった。
「乃木さんが何かしたのかしら……?」
歌野は身体を起こそうとした。
「……白鳥さん。できれば目を閉じていてくれないか? あまり見られたくなくてな」
「え? あ、はい」
歌野は疑問に思いながらも再び伏せ目を閉じた。
「ありがとう。……さて」
若葉は拳を強く握った。
(刀を置いてきてしまったのは、迂闊だったな……。まぁ、いいか)
若葉の視線の先には、倒れているバーテックスとは違う大型のバケモノがいた。ソイツだけはなぜか倒れていない。
そのバケモノは全身が透けた液体でできており、左右にひとつずつ人が入りそうな水泡を構えていた。
「こればっかりは私も本気でやるしかないな……」
目を閉じたままの歌野にはその先のことはわからない。
ただ、若葉が戦っている音と、炎の熱を感じたことだけは確かだった……。
ーー数分後。
「……もう目を開けていいぞ」
若葉の声で目を開けて立ち上がる。
「ーーッ!」
歌野はその光景に驚いた。
周りには
そこには何かが燃えた後のように真っ黒になっている。
……なにより。
「あ、ああ……」
「ん? どうしたんだ」
「乃木、さん……」
歌野は恐る恐る若葉の方へ指を指す。
……正確には若葉の手を。
「あ、ああこれか。……白鳥さんは気にしなくていい」
……真っ黒になっていたのは何も地面だけでは無かった……。
「で、でも乃木さんの、右手が……っ!」
「だから気にしなくていいんだ。……怪我はないか?」
コクコクッと頷く歌野は涙を浮かべ、体は震えていた。
「ならよかった……。これくらいは安いものだ。白鳥さんが無事だったのだから」
若葉は歌野の無事を確認すると安堵の表情を浮かべていた……。
ーー空は真っ赤に染まり夜の帷が下りようとする。
「……ごめんなさいごめんなさい。乃木さんはこういう状況のために刀を常に持っていたというのに……」
「大丈夫だ。勇者はこのくらいではへこたれない。時間が経てば治るものさ」
若葉は何度も謝罪する歌野の頭を撫でる。
状況を聞いた他の人たちも若葉に感謝した。
「あのバーテックスはおそらく、諏訪湖を生息区域にしていたのだろう。だが、奴は討伐した。だから心配はいらない。親玉がいなくなったことで奴らも襲ってくることはないだろう」
「本当なのかい?」
大人の一人が訪ねる。
「ああ。これは大社の調べだが、その土地に根付いているバーテックスは親玉を失うとたちまち霧散する。そして、その土地へ戻ることはないという。……まぁ、親玉が数体固まって根付くケースもあるが、私の調査で今回はないと判断した」
「ならもう!」
「ああ。ここ諏訪はなぜか元々バーテックスが近付かないようだから、おそらく襲撃はもうないだろう」
その言葉に周りは喜ぶ。
「やったー」「本当かオイ」「これで安心できるな!」「でも諏訪だけの話だべ?」「だとしてもだ」
若葉はその様子を微笑ましく見ていた……。
そして、次の日。
若葉は白んできた空の下、荷物を持って歩いていた。
「……もう言っちゃうんですか?」
「……! ああ」
若葉が振り向くとそこには歌野がいた。
「バーテックスも倒した。この土地もあらかた調査した。……もうここでの私の役目は終わったんだ。みんなにはサヨナラ言えずに去って悪いと思うが、急ぎなんでな」
「……だったら昨夜に言えば良かったじゃないですか……」
「……お別れを言うのは苦手なんだ。……不器用だからな」
若葉は愛想笑いを浮かべた。
「……乃木さん。私、まだあなたに言えてないことがありましたっ」
「……?」
歌野は頭を下げる。
「助けてくれて、ありがとうございました‼︎」
「……ああ」
若葉は歌野を背にして再び歩き出そうとするが、
「乃木さんっ、乃木さんのここでの役目はまだ終わってないですよ!」
「えっ?」
また若葉は振り返った。
「だってここには、毎年沢山の、素晴らしい野菜や果物が採れるんですから! それに、乃木さんのおかげで生活範囲が広がったのでもっと田畑を増やせますっ!」
「……!」
それがどういう意味か、若葉はすぐに理解した。
「ふっ。そうか」
「ええ! ですから私、ずっと待ってますから!」
出会って僅かだが、歌野にとって若葉は恩人であり友達と呼べる存在になった。
「そうだな、なら……」
若葉は後頭部に手を伸ばして結えていた髪を下ろした。
「このリボンをここに
「……!」
歌野に差し出されたのは若葉が髪を結えるのに使っていた白いリボンだった。
「いつか、私の役目が全て終わった時、この忘れ物を取りにこようかな……」
「ーー‼︎ はいっ‼︎」
歌野はリボンを手に取って笑った。
……この時はまだ二人とも知るはずがない。一年後、若葉が歌野の元へ行くのではなく、歌野が若葉の元へ訪れようとすることを……。
ーーあれから、歌野はそのリボンを麦わら帽子に巻いて大切にし、農作業時には必ずかぶるようにしている。
……後で支部から戻ってきた水都の話によれば乃木若葉は四勇のひとりでリーダーに値する人物だという。
「……今ならわかる。乃木さんは能力を使って私を助けてくれた。なら、私も乃木さんみたいに人助けをやってみたい。農業王になる道の半ばに。だから、私はあのバーテックスを倒すわ。ここのみんなが安心して暮らせるように、またみんなで農業をするために」
歌野はぎゅっと麦わら帽子を抱きしめた後、バッグにしまった。
……そして、偶然かそれとも運命か、あの進化体バーテックスはまた彼女たちのもとへやってくる……。
ーー再戦の時は、すぐそこーー
若葉は赤髪のあの人みたいな立ち位置になった。
乃木若葉:能力は現段階では不明
(どうやら刀が無い状態で進化体と戦った後、右手に火傷を負ったようだ。それは果たして敵の攻撃か、自分の能力の影響なのか……)
次回 再戦! 進化体バーテックス