芽吹&蓮華VS樹は終わり雪花VS風に入ります。
前回のあらすじ
芽吹の奮闘により蓮華は樹の繰り出す糸の束縛から解放。そして二人の連携により樹を撃破し鳥カゴは解除された。
芽吹と蓮華は消えていく鳥カゴを眺めていた。
鳥カゴの消失はつまり、樹との戦いの決着を意味する。
二人は大きく息を吐く。ようやく、この息のつまりそうな空間から脱却する事が出来たのだ。
「久しぶりに青空を見た気がするわ」
「そうですね。……でも、もうすぐ日が暮れそうです」
東の空を見ると少し薄暗くなっていた。もう少し経てば、空は夕焼けに染まり夜の帳が下りてくるだろう。
「ミス・クスノキ。こっちの戦いは終わったけど、地下へ行く?」
そう尋ねられた芽吹は、上半身だけ起き上がった。
「いえ、待つ事にしました。今から行っても恐らく無駄でしょう」
「そうね。……流石にこの蓮華も……疲れたわ」
「はい……」
二人は地下への入り口を見つめる。
「後は歌野達に任せます」
「そうね」
そんな二人に、どこからともなく音が聞こえてきた……。
ーーカラーン、カラーン
ーー少々時間は遡り、地下へ降りた歌野、雪花、水都は扉の前で立ち尽くす風に追いついた。
「見て歌野!」
「ええ。追いついたわっ」
「……‼︎」
風は三人へ振り向いて若干顔を歪めた。
「もう追いついてきたのね」
水都は風が扉の前で立ち尽くしているのを見て察する。と、同時に歌野と雪花も、風が扉の先に進めない事に気付いた。
「ちょっとどいてねー」
「ーー!」
扉の前にいた風へ、雪花が槍で攻撃を仕掛けた。風はその攻撃を避けて扉から離れる。
その間に、歌野と水都は扉の前に立つ。
「このドア、クローズしてるのねっ。みーちゃん、キーある?」
「鍵は入り口を開けたこれ一本だけだよ」
水都は鍵穴に差し込んで解錠する。
「よしっ。オープンして先に進みましょ」
雪花はそのやりとりを横目に、風と対峙している。
「そっかー。上で妹さんが足止めをしてくれたけど、いざ来たら鍵が閉まってて困ったー。って事だね」
「……」
風は何も答えなかったが、どうやら図星の様だ。
「あれ? ちょっと待って」
「みーちゃん?」
「扉……開かないよ」
「ええ⁉︎」
水都がいくら押したり引いたりしても扉はびくともしない。開ける者もおらず、手入れもされずで開け辛くなってしまっているようだ。
「代わってみーちゃん」
「うん」
歌野が力一杯ドアノブを引っ張りこむ。が、開かない。逆に力一杯押してみた。
……すると、ギィ と錆び付いた鈍い音を立てて扉が開いた。
「このドア、建て付けがバッドなのねっ」
「しかも開き方が上とこっちとは逆なんだ……」
当然だが、地下への扉の場合は内側に開くように出来ている。しかしこちらの扉は逆に外側に開くもののようだ。
「単純な事なんだけど、緊急時にはちょっと手間だね」
「よしっ。行きましょ!」
扉の先へ進もうとするが、足を止めて雪花の方へ振り返った。
二人の視線に雪花は少し口角を上げて応える。
「歌野、水都ちゃん。先に行って取ってきてくれない? 私は彼女の相手しておくからさ」
扉が開いた以上、当然風も
「オーケー、分かったわっ。雪花、後で会いましょ!」
「よろしくお願いします」
「うんうんっ」
二人は扉を開けたまま走り出す。それを雪花はわざわざ閉めてから風に向き合う。
「……? なんで閉めたの? あたしを完全に止めるなら鍵を掛けとけばいいじゃない」
疑問に思っている風に、雪花は笑みを浮かべた。
「歌野はね、多分私が追いつくと思ってるから開けたままにしたんだと思うよ。水都ちゃんもね」
「は? なら余計閉める必要無いじゃない」
「それはこの戦いを誰にも見られたくないからなんだよねー」
「……?」
雪花は槍を握る手に少しだけ力を込めた。
「きっと引いちゃうから」
そして槍の穂先を風に向けたまま、走り出す。
「ーーはああ‼︎」
雪花が繰り出す槍の刺突を風は大剣でガードする。
「そらァ!」
「……っ!」
大剣を力一杯振り払って、雪花を吹っ飛ばす。しかし雪花は飛ばされながらも槍を風に向かって放り投げる。
「
風はガードせず後ろに下がって避けた。投げられた槍はそのまま床に突き刺さる。
着地した後、すかさず床に突き刺さった槍を軸に回転しながら蹴りを放つ。
風は再度、大剣でその攻撃をガードする。
「……なるほどね」
「? 何が」
風は雪花の身のこなしから歌野に戦いを任せなかった事に納得する。
「あんたがここに残った理由よ。一人の方が楽だもんね」
「……?」
「黒っぽい髪の彼女。地上で戦った時に受けた攻撃、全然大したこと無かったのよ。おそらく、あんたたちの中で
雪花はそれをただ聞いていた。
「だから二人を先に行かせた……もうひとりは見るからに戦力にならなさそうだしね」
雪花は下を向いて考える。
(そっか……。もしかしたら歌野の腕はまだ完治には至ってないかもね)
本来ならば、歌野の攻撃力が自分より劣っている筈がない。しかし、腕の件がある。彼女はまた虚勢を張ったのか……それとも痛みがぶり返すのを嫌がって力を抑えたのか。
どちらにせよ、雪花がひとりで戦うと口にしたのは、別にそんな理由ではない。
「さっき言ったよね? "引いちゃうから"ってさ。……私の戦いはね、あんまり仲間に見られなくないんだよ。ほんっといまさらって感じなんだけど」
雪花が俯きながらも口だけは笑う。
「あんた、何言って……」
「すぐにわかるよ」
その時、風は違和感を覚えた。いや、違和感と呼べる程のものではないのかもしれないが。
「……?」
辺りを見渡しても景色は変わらず地下のまま。しかしこの拭えぬ違和感は何なのだろうか……。
「さっきさー、歌野の事をディスってたよね?」
俯いているのと、眼鏡を掛けているのと相まって雪花の目元は伺えない。
「嘆かわしいね」
「あんた……さっきから何をブツブツ言ってんの?」
「貴女の敗因はそのせいになるんだから」
「ーー⁉︎」
一瞬、風の体に寒気が走った。そして振り返るとすぐにその原因に辿り着く。
「……お、姉……ちゃ……」
「い……つき……?」
風は言葉を失った。目の前にいるのは全身を紅く血に染めた妹が立っていたからだ。
「た……すけ……」
「樹!!!」
雪花の事など忘れて歩いてくる樹に駆け寄り抱き寄せた。
「どうしたの⁉︎ ねぇ! これどうしたのよ‼︎」
樹から止まらず流れ続ける血液は、床を真紅に染めていく。
「やられたの⁉︎ あいつらに……⁉︎」
「あっ……ぁぁ……」
痙攣している指先で風を呼びさす。
「ーーお姉ちゃんのせいだよ」
「ーー!!?」
ーーそして……
仮初の世界はひび割れ、跡形も無く崩れ去っていった。
「……ぁ……ああ……」
先程まで目の前にいた樹らしき物体もまた、空想の世界に
「んー? どうしたのかにゃぁ?」
「……っ……ぁ…………」
今起こった事象に頭の整理は追い付かない。
「
「ーーッ! ァァァァアアアアアアアア!!!」
風は頭を抱えて叫んだ。
「樹にッ……! 樹の元に行かなきゃ……っ」
血液の生暖かい感触。蒼白と化す妹の顔。憎悪を宿して呟いた言葉。
……その全てが風を心を薄暗い沼の底へと引き摺り込む。
「ひょっとして戻ろうとしてる? だったら最初から妹さんと二人でいればよかったんだよ」
背中を向けている風を槍で斬りつけた。
「ァガッ!」
「まぁ、今から行っても遅いか……。あの二人は私より強いからねー多分」
風は背中の痛みに歯を食いしばり、雪花へ振り向いた。
「さっきのは……オマエかッ……⁉︎」
「うん。私の能力だよ」
「このォォァアアアアアアア!!!」
怒りに身を任せて大剣を振り回す。
しかしそれは雪花には届かず空を斬る。錯乱した風はもはや自分と敵の間合いすら掴めていない。
「にゃっはは……どこ狙ってんのさ」
雪花は空を斬り続ける大剣の隙間を縫って入り込み、風を槍で突き飛ばした。
「ーーガァッア!」
呼吸を取り乱し風は大の字で床に転がる。
「大した事ないのは貴女の方だよ。
柄の部分で立ちあがろうとする風を殴り付け、さらに右足でローキックを放つ。
「懸賞額はメンバーの中じゃ結城友奈や三好夏凛に次ぐ"三番手"。リーダーの癖にね」
風を追っている最中、参考までに水都から情報を得ていた。彼女は七武勇のリーダーであり、懸賞金額は『444万ぶっタマげ』である。
そこに雪花は違和感を覚えた。
歌野がそうであるように、リーダーの懸賞金額はそのチームのメンバー内で一番高い筈なのだ。にも関わらず、風は夏凛や結城友奈より劣っている。
「って事は貴女よりその二人の方がよっぽど脅威ってわけさ。大社にとってはね」
「…………あ?」
風は雪花を睨み付けた。しかし雪花は動じる事なく槍撃を繰り出す。
「ひょっとして結城友奈が
「ンガッ!」
風は自身の持つ武器の重さに翻弄され、雪花の攻撃をいなせない。
(剣が……重いっ……)
風は半ば錯乱状態に陥っていた。普段は使い慣れている筈の大剣がより一層重く感じられる。能力も使っている余裕が無い。
「
そう雪花が呟くと、風の視界が一瞬揺らいだ。
「な……に……? これ……」
地震でも起こっているか、または目眩が起きたのか、地面が揺れている。
すると、風の体は上下真っ逆さまになり、そのまま頭から下へ落ちていく。
「……⁉︎ ちょ! 一体何なのよ‼︎」
まるで数百メートルの高さのビルから落ちるような感覚。
「うわああああああーー!!?」
引き裂かれるような風圧を全身に浴び、地面に到達する事なく落下し続ける。
「ッ!!!」
「……っていう夢でも視たのかにゃぁ?」
ーーそして唐突に、その"夢"は終わりを告げた。
「ハッッ⁉︎ …………ハァ、ハァ」
目を見開いた風は跪いた状態で呆然と辺りを見渡す。全身は汗びっしょりになっていた。
「スカイツリーから落っこちたような夢視た気分?」
「…………」
風の体は震えたまま動けずにいた。
「まぁいいやー、じゃあ……終わりにするね」
頭上に掲げた槍を、そのまま風に降ろした。
「ぐぅああッ!」
左肩から斬りつけられ、風は仰向けで倒れた。まだ意識がハッキリとしていないのか、半ば放心状態に陥っている。
「……終わったね」
心ここに在らずの状態の風を見下ろしていた雪花は失笑混じりに呟く。
「七武勇のリーダーといえどこの程度。……
実際、彼女と正面から戦えば雪花に軍配が上がる事はなかっただろう。しかし、雪花には『ユメユメの野菜』の能力がある。
風は、能力を宿らせている雪花の槍を戦いの中で何度も目にしているので簡単に夢へ誘う事ができた。
だから雪花はひとりで風と戦うと言い出した時に、歌野や水都も反対しなかった。
雪花なら勝てると信じていたからだ。
相手がどんなに強くとも、
「……!」
風に背を向けて歩き出そうとする雪花の足を掴んだ。
「……どこ……行こうとしてんのよ」
「……」
雪花の足を強く握りしめる。
「ふーん……まだやるんだ?」
「あたしは……まだーー痛ッ!」
雪花は掴んでいる風の手を、反対側の足で踏みつけた。
それでも風は離さず、むしろ力を込めて引っ張った。
「やらァァ‼︎」
「ウッ!」
足を引っ張り込まれ、腰を低くした雪花の顔に頭突きを放つ。
「……いっ、つつ」
涙目になり赤みがかった鼻を押さえる。
「……随分痛ぶってくれたじゃない! おかげで頭が冴えたわよッ! それにッ、あたしのこと侮辱されて相当キてんのよッッ‼︎」
風は大剣を握りしめ、雪花に振りかかる。
「ちゃああああああ‼︎」
雪花はそれをヒラリと避ける。
「しつこいにゃぁ……。だったら……またトラウマものの夢でも視させてあげるッ!」
「ーーッ‼︎」
槍を一直線に投げ飛ばした。
「
「うぅりやぁぁあああ!」
飛んでくる槍を大剣で払い退けた。
(馬鹿丸出しっ)
雪花はほくそ笑む。風は飛んでくる槍を見て大剣で払い退けた。
(同じ七武勇でも、槍を見ずに戦ってた
「ううおおおおおおおおッ!!!」
風は叫びながら、丸腰の雪花目掛けて走りだす。
「遅いよっ……終わりだよ! ーー
「!!!?」
その瞬間、風は大剣を構えたまま前のめりで倒れたーー。
「…………」
「にゃっはっはっは! いくら凄んだところで、貴女じゃあ私の能力にはーー」
「勇者部部長の覚悟ッ! ナメんじゃないわよォォ!」
「えッ?」
何が起こったのか分からないまま、気付けば雪花の身体は吹っ飛ぶ。
「"モアモア・100倍速斬り"ーーーッ!」
風の大剣により
「ーーッ⁉︎ がはッッア‼︎」
猛スピードで壁に激突した衝撃で、身体の節々が悲鳴を上げた。
「……か……っ………なん……っで……?」
立ち上がる事が出来ない雪花は恨めしそうに風を見上げた。
ーーそして気付いたのだ。
「いっ……つつ」
風の左眼からは、痛々しく血が流れている。
「まさか…………
「…………」
風は必死に探していたのだ……雪花の能力のカラクリを。そのために二回目は特に抵抗はせずあえて術中に掛かった。そして雪花の能力のトリガーが槍である事に気付いた。
……ではその対処はどうするのか?
風には園子のような相手の気配で攻撃を見切るような芸当は持ち合わせてはいない。
……だからこうするしか無かった……。
音ならば鼓膜をーー。匂いならば鼻をーー。味なら舌をーー。
そして今回は……"眼"だった。
「……いったすぎて
風は前のめりに倒れた時、大剣の刃が
そして皮肉にも、刃は左眼を傷付け、その激痛で眠気を払い退けた。
(嘘……でしょ? 私の能力を封殺するために……片目を犠牲にするなんて)
「これが……あ、たしの覚悟よ……。ハァ、ハァ……しょ、勝負あったわね」
そして風は、重い足取りの中、扉を開けて先を急いだーー。
「…………」
ひとり取り残された雪花は、風が開けた扉の先を見る。
「……あー嫌だなー。油断して敗けたぁなんて……二人になんていえば良いんだろ。敗けちゃってごめん……かな?」
周りに誰もいない中、ひとりで言い訳をし続けた。
「あと一歩だったんだけどねー。いやー、お互い良い勝負だったんだから。まさに死闘って感じでさー。あっ、傷はもう大丈夫だからさー。……とかかな?」
静かな地下で呟いた独り言はただ……虚しく消えていく。
「…………あークソ。何やってんだろ私。…………みっともない」
目に涙を浮かべ歯を食いしばり、己の不甲斐なさを呪った……。
【悲報】風先輩が隻眼になりました……。
そして、京都での戦いもあと少し。
次回 恨みっこなし