前回のあらすじ(?)
風「催眠の能力使いの対策に今度から眼鏡を掛けることにしたわ」
樹「それでどうして瓶底眼鏡……?」
風「乃木から貰ったのよ……。優等生に見えるんよ〜って」
廊下を走り、地下施設の最奥部の部屋に来た歌野と水都はすぐさまガラスケースの中に保管されてある紙切れを発見する。
「えいやぁ!」
歌野はベルトを振るってガラスケースを壊す。ガラスの破片で手を切らないように中身を取り出して水都に手渡した。
「はいこれ、みーちゃんが持ってて」
「ありがと、うたのん」
水都は受け取った紙切れーー
気にはなるが、文字が読めない以上ここに留まってはいられない。
「すぐに戻ろう。中身の確認とかは帰ってからでいいから」
「そうねっ。雪花も待たせてあるし、芽吹と蓮華さんに至っては首をロングにして待ち侘びてると思うわっ」
水都は念の為、他に物がないか辺りを見渡すが、
「……みーちゃん?」
「あっ、なんでもないよ。行こう」
そう言いつつも、やはりポケットの中が気になっており、やや歩くスピードが遅い。
「どうしたのみーちゃん。ディフィカルトな事シンキングしてる?」
「……ねぇ、うたのん。気にならない? ここに描かれてある内容の事……」
「あの人たちが言ってた事? 確か……大社が保有するウェポンのインフォメーションが記されてる……だったかしら?」
「うん……その兵器ってさ、何のためにあるんだろうって。大社本部の人たちはどうしてそれを保有してるんだろうって……」
水都は"兵器"という単語を聞いた時から疑問に思っていた。
「実際、これまでの歴史の中にも"兵器"と呼べるものはあったんだよ」
「あー、ファットボーイとか?」
「……なんか混ざってるけど……うん、そういうのとか」
いわゆる核兵器と呼ばれるもの。まだバーテックスが存在しておらず、外国と呼ばれる国々と争いをしている際に用いられた兵器。またそれに類似するもの。
「そういう類いの兵器なら一般常識としてみんなが知ってる筈だよね?」
「えっ。ま、まぁそうねっ」
大社が保有している兵器がもしそれならば、わざわざ
「私たちが知らないような兵器……。大社の人たちが独自に作り上げたものなんじゃないかな。……そして多分」
……恐らくは、
(この
と、そこで水都の思考は途切れた。
「ーーッ‼︎」
「貴女はッ⁉︎」
元の場所へ戻ろうとする二人は向こうからやって来た犬吠埼風と対峙する。
「……目当ての物は……あった……かしら?」
「…………」
風を目にした歌野は真剣な表情になり、水都は動揺を見せた。
「そんな……じゃあ雪花ちゃんはーー」
「みーちゃん、少しだけバックしてて」
水都を安全と呼べる位置まで退がらせる。風は呼吸を荒くして苦痛に顔を歪めていたが、すぐに笑顔を作った。
「当然持ってんでしょ?
「良いわっ。私を倒せたら」
風が虚勢で作り上げた笑みはすぐに失せ、大剣を歌野目掛けて振り下ろす。
「モアモア・
歌野はすんでのところで回避できたが、振り下ろされた衝撃で床のタイルが抉れ、破片が散らばる。
「ーーあ‼︎」
「モアモア・
風は破片を左手で鷲掴みにして歌野へ投げつけた。すると破片のひとつひとつの速度が急激に増して飛んでくる。
「ーーウッ、くぁっ。ーーいつッ!」
歌野もベルトで払い退けようとするが、いくつかは命中してしまった。
「破片が異常な程に加速した。……まさか!」
そこで水都は気付いた。
風は地上での戦いで、あのただでさえ大きな剣をさらに巨大化させて振るっていた。巨大化させると重さも同様に増すのかは分からない。
しかし、今の風はあからさまに疲弊している。それこそ巨大化させていない大剣を振り回すのに一杯一杯の状態だ。
「……ハァ、ハァ、ハァ」
「破片が銃弾のような威力に⁉︎ なかなかにデンジャラスな攻撃ねっ!」
「余裕……ぶっこいてんじゃ……っ、ないわよ」
目の前には辛そうな表情で大剣を構えて歌野と戦う彼女の姿が映る。
……いや、あれは構えているというより辛うじて支えているように見える。
「ムチムチの〜〜
歌野がベルトを大きく振りかぶる。それを体をよじって回避する。
「そこから〜〜」
歌野は伸ばしているベルトを一方の手で掴んで大きく弛ませる。
「
大きく波を打つ事で風の体に命中させる。
「……ッ。小賢しい真似ーーをっ」
その時、風が口元を手で押さえて咳をした。
「ゲホッ、ゲホッ! ……ゴフッ」
口元を押さえていた手のひらは血に濡れている。
「……モ、モアモア……
「ええッ⁉︎ 消えたッッ⁉︎」
「後ろだよ! うたのん‼︎」
目の前にいた筈の風は、いつのまにか歌野の背後にまわり、大剣で斬り掛かった。
「サンクス♪ みーちゃんっ」
歌野からすれば背後を取られた形になるが、後方にいる水都の掛け声ですぐ振り返り、振り下ろされる大剣を避け、カウンターを放つ。
「ーーなァあ⁉︎」
「ふふっひ♪ お返しよっ」
腹部に蹴りを入れ、風を仰け反らせる。さらに、ベルトを風の体に巻き付けて自由を奪った。
「くっ……この……ッ」
「貴女、ビッグになったりスピーディーになったりしてるけど、それも"勇者の野菜"の能力なのよねっ」
水都と同様、歌野も気付いていたようだ。彼女の能力は対象物を巨大化させる
「でも、こうやってキャプチャしたら身動き取れないでしょっっ」
「うあッ」
捕らえていた風を自分の元へ勢い良く引っ張り込む。
「ムチムチの
歌野の頭突きが風の額にクリーンヒットする。
「いっーー」
「まだまだ〜」
一旦距離が出来ていた風へ、身体を縦回転しながら迫り、踵落としを放った。
「
「ぶっっ! …………くあぁ」
風は意識が飛びそうになるのを歯を食いしばりながら必死で繋ぎ止める。
しかし体に巻き付いたベルトは離れない。
「さらにーー」
「好き勝手させるかッ‼︎」
風は巻き付いたベルトを逆に利用して歌野を振り回す。歌野はベルトを握りしめたまま宙に浮いた。
「うわあああ〜〜⁉︎」
「モアモア・
「……⁉︎」
高速の勢いをつけて歌野を振り回そうとしたが、体が耐えきれなかったのか、風は血を吐き動きが止まってしまった。
("加速の反動"に……体が追いつかなくなるなんてっ)
「……! 悪いけどチャンスだわっ」
歌野は風目掛けて飛び蹴りを放った。
「ムチムチの〜〜スタンプッッ!」
「ぐああっ」
背中に食らい、歌野の靴裏の跡が残る。
「せいっっやあああ‼︎」
さらに歌野は後ろを向き、同時に力いっぱいベルトを背負うように風を投げた。
「ムチムチの〜〜
「ーーッ!!?」
床に叩きつけられ、その衝撃でようやくベルトの拘束が解かれた。
「……ふぅ……はぁ……ふぅ……」
流石の歌野も今の攻防で息が上がっていた。
「うたのん……倒したの?」
水都に尋ねられると首を横に振った。
「……ううん、きっとまだ」
その言葉通り、倒れている相手は拳を強く握り起き上がろうとしていた。
「犬吠埼……風さん……よね。貴女はもう限界の筈だわっ。それなのにまだ立つの……?」
「……ふぅっはは。……意味の無い質問ね……」
風は大剣を床に刺し、それを支えに肩で大きく息をする。先の雪花との戦いで受けた、左肩から真下に伸びる裂傷が疼く。ここへ辿り着くまでにも何回か倒れそうにもなった。
左眼が見えなくなった事で生まれた弊害。
狭まる視界。立体的にものが見れず、距離感が掴めず、バランス感覚も狂う。
それでも風は歌野に戦いを挑んだ。
「まっさか……同情してる? あたしの目が見えない事に」
「…………」
歌野の沈黙を、肯定と受け取る。
「ナメ、んじゃ……ないわよ」
風は『モアモアの野菜』の能力を応用して剣を振る
そうしなければ、剣の元々の重さに引っ張られまともに戦えないからだ。
そしてそれを水都は分かっているし、歌野も勘付いている。
「あんたがあたしの目を気遣うこと自体がそもそも間違いなのよ。これはあたしが
風は雪花の能力を破る為に、こうせざるを得なかった。傷付いたのが偶々左目だったという事以外は風が望んでやった事だ。
「あの子……強かったわよ。目を犠牲にするくらいの覚悟見せなきゃあたしは敗けてた。でも……あたしはそれを"逃げる理由"にしたくない」
「……!」
「"勇者の戦い"はいつだって真剣勝負。卑怯なんて言葉は存在しない。……例え目が見えなくたって足が動かなくったって、勇者が戦うと決めたからには、そんなのは言い訳にもならないのよ」
風の眼光は歌野を捉えて離さない。
「たとえ……あんたが左目の死角から攻撃したとしても……ね」
しかしその表情は先程よりいくばくか穏やかになっている。
「そのスピリッツは好きよ犬吠埼風さんっ。私は貴女をリスペクトするわっ」
「ふぅはは……。そう? ありがと。……あとあんたに謝っておくわ。"一番弱い"って言った事を」
「え? そんな事言ってたかしら?」
「こっちの事で……ね」
その覚悟を汲んだ歌野はベルトを最大限伸ばして不規則に波打たせる。
「"イレギュラーヒーロー"」
「……?」
「貴女へのリスペクトを表して私が出来る最大モードでいくわねっ」
「今まで……本気じゃなかったの?」
「ノンノン♪ 私は充分本気だったわっ。でも
「……!」
水都は驚く。てっきり歌野の言葉通り完治したと思っていたからだ。
「嘘……ついてたの? うたのん……」
「えっ⁉︎ う、嘘じゃないわっ。痛みがリバウンドする危険性がナッシングとは言えなかったし」
水都が目を細くして訝しげに見てくる。その視線を受けて、歌野は目を逸らす。
「あっ、ソーリー。……じゃあいくわね」
「やってみなさいっ白鳥歌野!」
「ご覧あれ! 貴女はもう……手も足も出ないわっ」
ごくっ と風は生唾を飲み込む。そしていつでも反応できるように前屈みで膝を曲げる。
「ムチムチのぉぉ〜〜〜
「「!!?」」
振るわれた"予測不可能な攻撃"は歌野の足元の床で跳弾し、歌野本人の顔面にヒットした。
「……ぁ……かっ」
バタンッ と歌野はうつ伏せで倒れる……。
「うたのんーーー!!!?」
「…………た、確かに手も足も出なかったわね……」
風は呆れ果てて突っ立っていた。
「うたのん! うたのん、しっかり‼︎」
「……。ーーはッ⁉︎」
水都が身体を揺すると歌野は勢いよく顔を上げた。
「……や……やるわね」
「いや……何もやって無いんだけど……」
「ワンモアプリーズっ。……よしよし集中、集中」
胸を開いて呼吸し、落ち着かせる。
……と、その時、風が動き出す。
「待つ理由は……無いわよね?」
「……⁉︎」
「モアモア・
風は高速で歌野に斬りかかる。
ーーしかし歌野は同時に攻撃を繰り出す。
「ムチムチのぉぉ〜〜
「ーーッ!? ゴホッ! ……ァ」
一直線に歌野へ向かっていた風は右からくる攻撃を横腹に受け、飛ばされた。
「ワンモア!」
「ーーゥッッ……っ」
最大限しならせたベルトは風の虚を突き、彼女の左頬を殴り付ける。
「な……なによ……今の攻撃……」
まともに命中して脳を激しく揺さぶられ、風の意識は朦朧とする。
(や……やば……っ)
視界が黒粒の砂嵐に覆われる。倒れるの防ぐために大剣を床に刺して耐える。
「あた……し……は……」
「こっれっで! ファイナルアタックよ!」
ベルトを大きく回転させて"溜め"を作る。そしてそれを風に向けて放つーー。
「ムチムチの!
ベルトの先端はここにいる誰もが、目で追えない程に加速して風の腹部を吸い込まれた。
「ーーぐぅぅぅうう!」
ズザァァ と立った状態のまま後方へ押し飛ばされる。
「っアガ!」
壁に背中がぶつかりようやく勢いは止まる。
「ハァ、ハァ、ハァ……ぐっ……ダァ……ハァ……」
壁にもたれたまま風は歌野を見て笑う。
「……わーお。今のクリーンヒットしたからフィニッシュかと思ったけど」
「凄い……胆力」
勇者の耐久度はやはり尋常ではない。……いや、この場合は風の精神力が為せる技か。
「ふぅ……はっは……」
「やるわね風さん!じゃあ今度こそフィニッシュでーー」
ーードサッ
「……!」
風は笑ったまま倒れた。
とうに限界を迎えていた意識はたった今、休息を手に入れる。
「エクセレントだったわ! 風さんっ」
風は、最後の最後まで戦意を喪失するなく、歌野に向かってきた。雪花との戦闘でズタボロだった筈なのに。
「…………行きましょう、みーちゃん。みんなが待ってる」
「う、うん」
歌野は風の体を背負って歩き出す。
「重くない?」
「んー、ノープロブレムよ。ドアの鍵は全部閉めるから、ここに置き去りは出来ないし」
「そうだね」
そして歌野たちは地上を急ぐ。
ーーその地上では、
「ーーハァ……ハァ……。こっのっ!」
「芽吹!
(しまったっ! 遅かっーー)
低音が周囲に鳴り響く。
両耳を塞いだ芽吹だったが、少し遅れて爆炎が襲い掛かった。
「ーーぐっはぁあ‼︎」
「芽吹‼︎」
黒い煙幕から出てきた芽吹が地面を転がっていく。
「か……は……はぁ」
防人装束は煤で汚れ、露出している肌には火傷が見られる。
「ふざけん……じゃ……ないわよ」
芽吹は"敵"を見上げて睨み付けた。
頭上にある金色の鐘が下品に光る、牡牛座バーテックスをーー。
・犬吠埼風:七武勇(勇者部)のリーダー。『モアモアの野菜』を食べた倍化人間。対象物を巨大化させる。また、その速度も上昇させる事が可能。実戦では、大剣を振る速度を上げたり、持っている自分を高速移動させたりできる。懸賞金額は444万ぶっタマげ。
以前、うどんに自身の能力を使って『モアモア・100倍うどん』なるものを作ったそうな。流石の風先輩も完食に1時間要したとか。
親は大社で働いているが、自分達が大社の敵に回った事で、どれほどの迷惑が掛かっていることやら……。
次回 誰が為に鐘は鳴る