白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。VS牡牛座バーテックスです。
 この場に居合わせてしまった牡牛座に少し同情する。


前回のあらすじ
 勇者御記を手に入れた歌野と水都は風と対峙し倒して地上へ帰る。一方地上では、蓮華、芽吹が突如現れた牡牛座と戦闘を行っていたのだった。


第五十一話 誰が為に鐘は鳴る

 気を失っている風を背負ったまま、歌野は水都と共に小走りで地上を目指す。

 そして雪花と別れた扉の前に着く。

 

 歌野が扉を開けようとする瞬間、勢いよく扉が開かれた。

 

 ーーゴツンッ

 

「あだっ!」

 

 こちら側に開く扉に額をぶつけ、歌野は怯む。背負っている風を落としそうになったが辛うじて持ち堪えた。

 

「っった〜」

「あ、あれ⁉︎ 歌野!」

 

 扉を開けたのは雪花だった。雪花は歌野に出くわした事に驚いたが、すぐにその表情は翳る。

 

「あっ……えっと、ごめん」

「の……ノープロブレムよ、うん」

 

 歌野は笑って見せたが、雪花の表情は曇ったままだった。

 

「ホントにごめん……」

「だからノープロブーー」

「足止め……出来なかった事だよ」

 

 雪花は風との戦いで敗北してしまった事を恥じていた。任せろと大見得を切ったというのに……。

 

 しかしその事を歌野は問題視していなかった。

 

「ん? 足止めなら十分出来てたわ。お陰で勇者御記(ポーネグリフ)を手に入れられたから」

「……!」

「だから雪花の役目はもう果たされてるっ。……さっ、ハリーアップで芽吹たちの所に帰りましょっ。きっと暇してるわ」

 

 数秒だけ、雪花の思考は止まる……が、先程の表情は失せ、口角が上がる。

 

「そ……う解釈するんだ……ありがと」

 

 そして三人は駆け足で地上へと急ぐ。

 

(ホントに、ありがと……だよ。歌野)

 

 そんな中、水都の胸中は不安でざわついていた。

 

(なんだろう? 何か、嫌な感じがする……)

 

 

 

 

 

 

 

 ーー地上にいる芽吹と蓮華は牡牛座バーテックスと対峙していた。

 

(……ったく、何でこんな時にっ)

 

 樹との戦いが終わり歌野たちが戻るのを待っていたが、そこへ鐘の鳴る音が聞こえてきた。

 辺りを見渡せば、二本の大きなツノらしき部位を持ち、頭上にある金色の鐘を鳴らしながら牡牛座バーテックスがやって来たのだ。

 

(二人共疲弊してる。まるでその時を待ってたような……っ)

 

 突然の事態に思考を整理しきれず、芽吹と蓮華はそのまま牡牛座との戦いに巻き込まれたーー。

 

「ーーくっ、か……はっ、ゲホッゲホッ……」

 

 爆撃を受けた際に煙を吸い込んでしまい芽吹は息苦しく咳き込む。その度に喉が焼けるような痛みが走る。

 

(耳を塞いでいたら倒せないじゃない……っ)

 

 京都支部を襲った進化体の一体である"牡牛座バーテックス"は『オトオトの野菜』の能力を使うと聞いた。あの巨躯から奏でる"音"により、聴かせた対象に攻撃する、というもの。

 

「くっ……来る!」

 

 牡牛座は芽吹に突進してくる。芽吹は爆撃のダメージで動き出すタイミングが遅れてしまった。

 

(まっ……ずい!)

 

 直進してくる牡牛座を避け切れず、その巨体に撥ねられるーーと覚悟したが、そうはならなかった。

 

「……え、うあッ」

 

 急に体を何かで巻き付けられた感覚を感じ、そのまま後方へ引っ張られた。

 

「ーー! あ、貴女っ」

 

 体に巻き付いていた"糸"は解かれ、芽吹は自分を助けてくれた"彼女"を見る。

 

「貴女、目が覚めてたの?」

「……周りが騒がしかったですから」

 

 樹は芽吹に向かって手を伸ばす。そこへ蓮華も駆け付けてくる。

 

「大丈ーーってあなた! さっきまで……」

「…………」

 

 蓮華は困惑していた。つい先程倒した相手が早くに目覚めている事もそうだが、何より芽吹を助けた事にである。

 

「それも勇者の回復力が為せる技なの?」

「それは……分かりません」

「……まぁでも、助かったわ。ありがとう」

 

 差し出されていた手を、芽吹は取って立ち上がった。

 

「さっきまで命のやり取りをしていた敵同士だけど、どうするつもり?」

「…………」

「"ミス・クスノキ"を助けてくれた事にはこの蓮華からも感謝するわ。でも、あなたはこのまま私たちと再戦を望むのかしら?」

「それはーー、ッ⁉︎」

 

 その時、弦が弾く音が鳴った。

 

 ーー(ボン)!

 

「うぅっ⁉︎」

 

 言葉の途中で樹は何かに頬を殴られたような痛みに襲われる。

 

「ぐっふ」

「がはッ」

 

 蓮華と芽吹も腹部を何かに殴られ怯んだ。

 

「くっ、この」

「……っ」

 

 樹と芽吹と蓮華は牡牛座からの追撃を警戒して耳を塞ぐ。

 

「ちっ。おちおち会話も出来ないのね」

 

 牡牛座の能力は()()()()事ではじめて攻撃として機能する。蓮華はNo.7をはじめとする京都支部の面々からそう聞いていた。

 したがって、音が聴こえる器官ーーすなわち、耳を塞ぐ事でその攻撃を無力化できる。

 

「京都支部の方々の情報を蔑ろにする蓮華では無いわ!」

 

 下からサーベルを突き上げるように刺突攻撃を繰り出す。それを受けて牡牛座は少しだけ仰反った。

 さらに樹が太く束ねた糸を繰り出し、牡牛座に突き刺す。

 

降無頼糸(フルブライト)‼︎」

 

 回避行動を取らない敵は、その攻撃をまともに食らい、巨体に穴が空いた。

 

(や、やるじゃない……)

 

「……さっきの続きですけどっ」

 

 少し声を張って二人へ話しかける。

 

「確かに、あなたたちは敵です……でももっと危険な相手が現れたんです。それも私たちにとって……。ですから今はこの敵を倒す為に手を貸して下さいっ」

 

 樹の言葉に芽吹と蓮華は真面目な表情ながら、薄ら笑う。

 

「大いに結構よ。こちらとしても、アレは倒すっ」

「貴女との戦いは一応は決着を迎えた。もし、続きをしたいなら、コイツを片付けてからッ!」

 

 芽吹は走りながら刀と銃剣を交差させ、勢いよく技を繰り出す。

 

(オニ)()り‼︎」

 

 ーーしかし、同時に牡牛座からシンバルが鳴る音が聴こえた。

 

 (シャーン)‼︎

 

「うああッ!」

 

 芽吹は目に見えない斬撃が襲い掛かり、弾き飛ばされる。

 

「くっ……。今度は斬撃?」

「"芽吹"! あなたはもう退がってなさい。やはり進化体が相手では能力者(勇者)ではないあなたの攻撃は決定打にならないわ」

「そんな事分かってます。……でも、敵を撹乱するくらいは出来るっ」

 

 両耳を塞いだ芽吹は、()()()()()()()

 

(両手が使えないのなら、口なり足なりで刀を扱ってやるっ)

 

 刀を口に咥えたまま、大きく頭を振りかぶる。

 

三十六(サンジュウロク)煩悩砲(ポンドホウ)!」

 

 芽吹が繰り出した"飛ぶ斬撃"は、牡牛座の頭上にある金色の鐘の支柱に当たる。

 

「ーー‼︎ 来るわっ」

 

 牡牛座は僅かに退がっただけで、また三人に向かって突進してきた。

 

(能力が使えないからその巨体で相手を撥ね飛ばす。……攻撃手段がワンパターンっ)

 

 樹は両手で糸で"蜘蛛の巣"を模した盾を作る。

 

蜘蛛(くも)()がき!」

 

 突進してきた牡牛座はその糸の盾にぶつかり、失速する。

 

(うっ、強いっ。蜘蛛(くも)()がきが……破られ……)

 

「ーーえりゃああ!」

 

 その時、三人の後方から槍が飛んできた。

 

「ーー⁉︎ あれは!」

 

 槍は牡牛座の中央部に命中して僅かに退がらせた。

 

「フッ……。戻ってきたわね」

 

 蓮華と芽吹は後ろを振り返ると、歌野、水都、雪花、そして担がれている風の姿があった。

 

「やあっぱしいたねー」

「嫌な感じはしてたけど、まさか進化体がいるなんて……」

 

「…………」

 

 歌野は牡牛座バーテックスをまじまじと見つめた後、芽吹に話しかけた。

 

「……芽吹。暇すぎたからバーテックスにバトル挑んでたの……?」

「そんな訳無いじゃない。向こうが勝手に襲撃してきたのよ!」

「ふふっ♪ 冗談よ。……オーケー何となく理解したわっ」

 

 芽吹は背負っている風を見る。

 

「こっちも何となく想像ついたわ。……やったのね」

「ええっ。勇者御記(ポーネグリフ)はみーちゃんが持っているわっ」

「フッ、了解。じゃあ、あれを全員で仕留めるわよ」

 

 歌野たちが話している間、樹は地面に下ろされた風の元へ駆け寄り身体を揺すった。

 

「ーーお姉ちゃん!」

「……い、つき? …………⁉︎ 樹‼︎」

 

 目を覚ました風は樹を見るや否や、即座に抱き着いた。

 

「良かった! 良かったよぉぉ。樹が……無事で……ごめんねぇ」

「お、お姉ちゃん、苦しい」

「ホントに……駄目なお姉ちゃんで……」

「ううん。任せてって言ったのに……自分の役割を果たせなかった私が悪いんだよ」

 

 半泣きになっている姉の姿を見て、首を横に振って微笑み返す。

 

「私は大丈夫だから。お姉ちゃんこそ、その目……」

「これは……。ごめんっそれも後にしましょう」

「う……うんっ」

 

 二人は進化体の打倒を心に決め前を見る。

 視線の先には、歌野たちが先んじて攻撃を仕掛けていた。

 

「ムチムチの攻城砲(キャノン)‼︎」

 

 牡牛座を少し後退させた後、ベルトを天高く掲げ一気に振り下ろす。

 

「アンド〜〜戦斧(オノ)ォォー‼︎」

 

 命中した部分にヒビが入り、少しずつその巨体が崩れていく。

 

「"白鳥歌野"さん、でしたよね? あなたの戦い方、真似させて貰います」

「え?」

 

 樹は地面を滑走しながら接近して牡牛座へ追撃を試みる。

 そしてその右手には、"糸で作った鞭"が握られていた。

 

超過鞭糸(オーバーヒート)ーッ‼︎」

 

 樹は鞭をしならせて牡牛座の頭部と思わしき部位を攻撃する。

 超スピードで繰り出された鞭の先端は命中した部位を抉る。

 

「わあお! 私の『ムチムチの野菜』をコピーされちゃったわ!」

「糸を束ねて鞭状にしたのね」

 

(アレ? そう言えば私、名前名乗ってたっけ? ……まぁ今はいっか)

 

「ーー攻撃が来ます!」

 

 水都の声に、全員は半ば反射的に耳を塞いだ。樹も即座に鞭を捨て、両耳を塞ぐ。

 

(みーちゃん、よく来るって分かったわねっ)

 

 歌野は耳を塞いだまま水都の方へ笑顔を向ける。そして先程樹が捨てた糸製の鞭を見て閃いた。

 

「……! コレ、レンタルするわっ」

 

 歌野は鞭を左手に持ち牡牛座へ飛び掛かる。

 

「ムチムチのぉおお! 銃乱打(ガトリング)ーーーッ!!!」

 

 歌野は右手に持った自身のベルトと左手に持つ樹の鞭を使い高速に振るう。

 普段は片手で振るうだけだったが両手になった分、手数が増え敵を圧倒する。

 

「これが私のイメージしてる"本来の"銃乱打(ガトリング)よ! ……そしてさらに〜〜!」

 

 今度は両手を目一杯後ろに伸ばし、力強く踏み締めて両手を前に突き出した。

 

「ムチムチのバズーカァーーー!!!」

 

 後方からベルトと糸の鞭は、勢いを増しながら牡牛座を吹っ飛ばす。

 

「凄い……。あの巨体を……軽々と……」

「あと少しで……倒せるっ」

 

 大地を転がる牡牛座の身体は徐々に崩れ始めていた。

 

「うぅ……腕が痺れてきた…………かも」

 

 痙攣し始めた腕を見て苦笑いする。

 

「ミス・シラトリに続くわっ」

「一斉攻撃で、一気にやっつけるわよ!」

「これで終わらせる」

 

 それぞれ意気込み、全員は攻撃のモーションに入る。

 

 しかし……。

 

 (ゴーン)! (ゴーン)

 

「うぐっ! ……何これ、音がっ」

「耳を塞いでても……聴こえてくるっ」

「頭がっ、割れそうっ」

 

 まるで耳元で聴かされているような轟音に全員は跪く。

 

「あああああ‼︎ うるさいうるさいうるさいっ」

 

 (ゴーン)! (ゴーン)

 

 依然、牡牛座の頭上の鐘は、けたたましく鳴り続ける。

 

「音は……っ、みんなを幸せにするものっ」

 

 樹は頭を押さえながら呟く。そして無数の糸を束にして耳栓を作った。

 

「こんな音は……っ。こんな音はあああああ!!!」

 

 さらに手から太い糸を何本も生成させ、それを牡牛座の鐘へ絡み付かせる。

 

「……! 音が、止んだ」

 

「ーー今よ!」

 

 風の声で雪花は槍を投げる。

 

飛翔する槍(オプ・ホプニ)!」

 

 槍は鐘の支柱に命中し、亀裂を入れた。

 

「あれさえ、破壊すれば」

「ーーもう切り離したわ」

 

 その声のする方を見ると、蓮華が牡牛座の頭上を捉えていた。

 

「いつの間に⁉︎」

 

(かぶら)矢筈(やはず)()り」

 

 そして蓮華が着地すると同時に、支柱を斬られた金色の鐘は地面に落下した。

 

「あと一息!」

「これで終わりにしましょう!」

「モアモア・50倍速(ごじゅうばいそく)!」

 

 風は空に舞い上がり、真上を取る。

 

「ーーんでもって……こいつを!」

 

 そこから落下の勢いを乗せて、大剣を今まで以上の大きさにさせる。

 

("点"の攻撃を繰り出す力が無くたって……ッ!)

 

「"面"の攻撃でェェ! 押し潰すッッ‼︎」

 

 風にはもう大剣を振るう力など残っていない……が、重力に従って大剣を()()()事は出来ると考えたのだ。

 

「モアモアの…………100倍(ひゃくばい)ッだァァァァ‼︎」

 

 巨大な剣は牡牛座を叩き付けた後、元に戻る。

 

「……っはぁ、はぁ。身体……これ以上……動かな……」

 

(あた……しはっ、もう……限界かも……ね)

 

 風は少しだけ笑いながら地面に落下した。

 

(あたしも……樹も……もう、戦う力は残ってない……)

 

 疲労の限界はとうに越え、身体の至る所の筋繊維は音が聞こえそうな程にはち切れる。

 それでも風は根性で戦った。……化け物(バーテックス)を倒すために。つい先程までの遺恨を棚に上げてでも。

 

「あ……とは……」

 

 ーーこの世界を、自分たちの人生を滅茶苦茶にした"怨敵"を屠るためーー

 

(あとは……あんたしかいないのよ……っ。…………だからお願いっ)

 

そいつを倒せぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 

「オーケーっ任せて!」

 

 そこには地面に没した牡牛座の元へ、()()()()()()()()()()()()()、引き摺りながら走る歌野の姿があった。

 

「倒せ、歌野!」

 

「鳴らしなさいミス・シラトリ! この戦いの"ホイッスル"を‼︎」

 

 歌野は最大限伸ばしたベルトを捻り込む。

 

「グッバイ♪ 貴方にぶつけて鳴らしてあげるわっ」

 

 勝利の鐘を鳴らすべく……金色に輝く牡牛座の"鐘"を、持ち主へ返却するーー

 

ムチムチのおおおお‼︎ 黄金(おうごん)回転弾(ライフル)ーーーッッ!!!

 

 回転しながら放たれる一撃は、牡牛座バーテックスを破壊する。

 そして同時に、牡牛座のものだった金色の鐘も音を鳴らしながら粉々に砕け散っていく。

 

 カーン……カーン……

 

「終わっ……たのね……」

「うん」

「ええ」

 

 カーン……カーン……

 

 澄み切った心地良い音色が、あたりに木霊していくのだった。

 

「んー、クリアな音色♪ エクスタシーな気分なるわ♪」

 

 その音色は、ウエストジャパン中に響き渡っていく。

 

 

 (カーン)……(カーン)……

 




牡牛座バーテックス:『オトオトの野菜』の能力を持つ。能力がバレてなければ結構な脅威だったのだが、懸賞金にかけられた挙句、京都支部を獅子座と能力を使って襲撃した事が運の尽きだった。
(ちなみに一緒に京都支部を破壊した"獅子座"も能力は知られている)
 懸賞金額は『980万ぶっタマげ』←京都支部が壊滅した事を本部が知ったため、つい最近上昇した。


次回 弥勒家の義姉妹
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