白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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 拙稿ですがよろしくお願いします。
 前回、弥勒家の過去について触れましたが、現在弥勒家は没落しかけています。そのため、夕海子のお父さんは優秀な後継者が欲しいのです。そして弥勒夕海子も蓮華無き今、弥勒家回復のため努力しているのです。


前回のあらすじ
 京都での戦いは、進化体の出現という事態もあったが、勇者御記を守り抜いた歌野たち白鳥農業組合の勝利で終わった。そして歌野たちは梅田地下街へ帰還する。


第五十三話 旅立つあなたに最終楽曲を

 一夜が明けて歌野たちは大阪を目指す。

 

「あっ、見えてきたよ。大阪駅」

「もう少し行けば梅田地下街へ降りられる階段があるわ」

 

 水都は歌野に抱えられたまま、芽吹は蓮華の背に乗ったまま建物を飛び移っていく。

 

「ついた。さ、行くわよ」

 

 五人は階段を降りて地下街に入る。

 

「……?」

 

 すると五人は妙な感覚に襲われた。

 

「ねぇ、静か過ぎない?」

「え、ええ。いつもは皆出迎えてくれる筈だけれど」

 

 梅田地下街は暗闇に包まれており、人の気配がしない。

 

「みんな! 帰ってきたわよっ!」

 

 蓮華の声は地下街に響くだけで、応答は無い。

 

「ま、まさか」

 

 蓮華が最悪の展開を思い描いた時ーー。

 

「ひぃやあ!」

「!?」

 

 突如、水都から悲鳴を上がった。

 

「ワッツアップ⁉︎ みーちゃん!」

「い、今……何かが太ももに……」

 

 水都は左の太ももを押さえるが、特に何も無い。歌野たちも水都の太ももを見るが特に何の変化もない。

 

「別に何もーー」

「ぎゃっ!」

 

 今度は雪花が悲鳴を上げて頬を触り始めた。

 

「い、今……頬っぺたにペタッて何かが……っ」

「雪花も?」

「ここ……何かいるわね。目に見えない何かが」

 

 芽吹は周囲を見渡して警戒する。

 

(目には見えない……? まさかっ!)

 

 蓮華が何かに気付き、手を四方八方に伸ばして手探る。

 

「……? 蓮華さん、心当たりが……。ーー⁉︎」

 

 すると歌野が何かに反応したかのように目を見開いた。

 

「うたのん……? どうしたの?」

「……()()()()()()()()がするわっ」

「こんにゃく?」

 

 くんくん と歌野は匂いを嗅ぎ、何も無いところで口を大きく開けた。

 

 ーーパクッ

 

「え!?」

「歌野……今、何か食べた?」

 

 歌野は口をもぐもぐさせ、ごっくん と飲み込んだ。

 

「あ。コレやっぱり、こんにゃくねっ」

「えっなに……? そこに透明なこんにゃくがあったの?」

「ええ。この味は確かにこんにゃくよ」

「はあ……」

 

 この不思議な現象の正体を知っている蓮華からため息が漏れた。

 

「お遊びはこのぐらいにして姿を見せなさいっ。"No.7"!」

 

 その言葉に、当の本人は姿を現す。

 

「バレちゃってかぁ。テヘッ」

 

 物陰に隠れていたわけではない。No.7は何も無い空間から急に現れたのだ。

 

「No.7⁉︎ どういう事なの?」

「……あれ? メザシ隊長。私の"能力"知らなかったっけ? みんなも?」

「知らないわよ。……あと芽吹よ」

「あっれ〜? 言ってなかったのかぁ。じゃあここでネタバラシ。……私はね、自分の身体や触れている対象物を()()()()()()の」

「わーお⁉︎ だからこんにゃくが見えなかったのね!」

「でもこんにゃくって分かっただけ大したもんだけどね」

 

 No.7は笑いつつ、自身の能力を説明する。

 

「要するに私は『スケスケの野菜』を食べた『透明人間』ってこと」

「じゃあさっきは、私や水都ちゃんにこんにゃくを……」

「そうそう。私とこんにゃくを透明にさせてあなたたちにイタズラしてたの」

「なぜそんなセクハラまがいな事を……」

「んー、ちょっと驚かせようかなーって。いつもしてるわけじゃ無いよ。普段は男性の更衣室とかお風呂の盗撮に能力使うだけだし」

「今さらっととんでもない事言わなかった⁉︎」

「大丈夫大丈夫。撮る前はちゃんと男性の方々に許可取ってるから。『子供だから別に見られてもいいよ』ってね♡」 

 

 何の悪びれもなく問題発言をしたNo.7はニコッと笑う。

 

「でもちょっと怖かったよ……幽霊かと思ったもん」

「幽霊の正体見たりカリフラワーってやつねっ。……あ、今回はこんにゃくか」

「意味分からないよ、うたのん」

 

 No.7は片手を上げて、どこかの誰かに合図を送った。

 

「まぁ、悪ふざけはこのぐらいにして……。おーい!」

 

 すると、地下街の明かりがパッと点灯した。と同時に、そこに住む人たちが一斉に顔を出した。

 

「ーーおかえりなさああい!

 

 地下街の人たちは笑顔で歌野たちの凱旋を祝福する。

 色んな人が集まってきてもみくちゃにされる。

 

「わっわっ、ちょっちょっと!」

「サプライズって事ね!」

 

 その中のひとり、最初にあった幼い少女が笑顔で出迎えてくれる。それを見て蓮華は腰をおろして頭を撫でた。

 

「お姉ちゃんたち、おかえりなさい」

「ええ、ただいま。体調は? この蓮華が京都に行っている間、崩してない?」

「うん、元気だよ! あれからずーっと!」

「いつも妹を気にかけてくれてありがとうございます」

「当然よ。やはり元気が一番ね」

 

 蓮華が少女の頭を撫でているのを見て、少女の姉が感謝の意を込めて、深々と頭を下げた。

 

「蓮華さんっ。それにみなさんもっ。よかったらこちらへ。……今日はうんと楽しんでください」

「楽しむ? ……ってこれ!」

 

 視線の先には広場があり、そこには沢山の料理がテーブルに並べてあった。

 

「『私の代わりに御役目を果たしてくれたお礼だ』って、防人の方や神官の方が用意してくれたんです」

「見て見て! お刺身、天ぷら……それに蕎麦があるわ! それも"にしんそば"‼︎」

 

 歌野は、にしんそばを見るや否や即座に箸を手に取り食べ始めた。

 

「ん〜〜! デリシャス過ぎるわ〜!」

「あっこらうたのん! 食べるのはいいけど、いただきますが先だよ」

「歌野、がっつきすぎー」

 

 水都と雪花は呆れながら猛スピードで食べ続ける歌野を見ていた。

 

「いただきました!」

「「はやっ⁉︎」」

「うっふふふ」

 

 驚愕したいる二人に対し、少女の姉はニッコリと笑う。

 

「もっとあるからみなさんも食べてください。これは京都支部で人気の料理だったのでとても美味しいですよ」

「"にしんそば"と言えば京都だもんね。……いただきます」

 

 手を合わせて水都もにしんそばを味わう。雪花は自分の好物を探してテーブルを見渡す。

 

「旭川ラーメンは……流石にないかー」

「雪花。そこに"にしん"と"ラーメン"ならあるわ」

 

 指差す方向には、お皿の上に置かれた魚のニシンとカップラーメンがあった。

 

「それ使えば"にしんラーメン"がクリエイトできるわよ?」

「いや、乗っけただけじゃん⁉︎ それにラーメンもカップ麺だし!」

「私たちだけじゃなくて、みんなも食べましょう!」

 

 地下街の人たちも神官方々もテーブルを囲む。

 そして、隣のテーブルにいる芽吹と蓮華もまた、振る舞われた料理を食べている。

 

「……。うん、美味しいわね」

 

 神官たちが用意したかき揚げうどんを平らげていく。

 

「それにしても本当に用意がいいわね」

「ええ。No.7には私達が勇者御記(ポーネグリフ)を持ち帰ってくれるって分かってたような……」

「ーーもっちろ〜〜ん! だって"芽吹隊長"だからね〜‼︎」

 

 すると一瞬明かりが消灯して、ステージにスポットライトが当たる。

 

「ではではこれより! 見事、私たち京都支部の"尻拭い"をしてくれた勇者様方に感謝の気持ちを込めて〜〜歌いまーーーす!」

 

「わー‼︎」「イェーイ!」

 

 ステージに立っていたのはNo.7だった。彼女は最初に歌野たちが来た時と同じくステージで歌を披露するようだ。

 

「広がる夢♪ 羽ばたくは勇気の翼〜♪ ひろげて〜〜僕たちは向かう〜よ〜♪」

 

「……マイク持ってるのに本人の声で歌うのね……」

「でも今回はフリじゃなくてちゃんと歌ってるよ」

 

 No.7は電源の入っていないマイクを持ち、アカペラで歌い続けた。

 

「No.7は本当に感謝してるんですよ。勇者御記(ポーネグリフ)を取って来てくれた事を」

 

 No.7の部下であるNo.30はオレンジジュースを二人のグラスへ注いでいく。

 

「私たちからも言わせてください。本当にありがとうございました」

「フッ、当然よ。一度請け負った御役目は果たす。それがこの蓮華だから」

 

 食事が続く中、一曲目の歌が終わる。

 

「みんなノッてる〜〜‼︎」

「イェーイ!」

「じゃあ次の曲、いっくよ〜〜!」

 

 簡単なコール&レスポンスを終え、二曲目に入った。

 

「ワ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ! サ"ン"ラ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"‼︎」

 

 一曲目とは打って変わり、テンポの速い曲を、まさかのデスボイスで歌い始めた。

 

「オ"ォォナ"ン"モ"カ"ン"モ"ス"テ"サ"ッテ"ェッ! サァワ"レ"ラ"ノ"セ"カ"イ"ヲ"オ"イ"ヤ"ッテ"ェッ‼︎」

 

 聞いている側は、その勢いに圧倒される。

 

「す……凄い迫力ね……」

「喉壊れちゃわない?」

「ん〜デストロイなソウルがこの身に染みてくるわ〜」

 

 すると食べ終えた蓮華がステージの方へ歩いていく。

 

「ーーこのギター、借りるわね」

 

 蓮華はステージ下で曲に合わせてエレキギターを弾き始める。

 

「蓮華さん、お上手です!」

「ギターも相まって、より一層迫力が増すねー」

「蓮華さん! ブラボー‼︎」

 

 蓮華のギター演奏とNo.7のデスボイスがシンクロしていく。

 

「ニ"ュウ" ワ"ア"ア"ア"ア"ル"ドッッ‼︎」

 

 そして二曲目も終わりを迎えた。

 

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……、は……はぁ……」

 

 ステージ上のNo.7はヘトヘトになっていた。

 

「さ……三曲目、いっくよおおおお‼︎」

 

「イェーイ!」

 

 観客たちの盛り上がりは依然留まらず、No.7はコップ一杯の水を飲んだ後、三曲目を歌い始めた。

 蓮華はギターを置いてテーブルに戻る。

 

「この曲にギターは要らないわね」

「蓮華さんは本当に上手ですね」

「前にも言ったわね。プロ顔負けだって。……鏑矢にいた時も、皆褒めてくれたわ」

 

 蓮華は手帳に挟んであった写真を見て微笑む。そこには()()()()()()()()()が写っていた。

 

「わーお、これが蓮華さんの……ってアレ? 蓮華さんの右に写ってる人って」

「ああ、見るのは初めてだったかしら? 彼女がーー」

()()()()?」

 

「……え?」

 

 蓮華は間の抜けた声と共に写真を落としてしまった。

 

「赤嶺……って。あなた彼女を知ってるの⁉︎」

 

 周りにいた芽吹、雪花、水都も集まって彼女を見る。

 

「赤嶺さんって確か……」

「この人……あの時の!」

「うん……彼女だ……」

 

 各々の反応を見て彼女たちが出会ったのが、蓮華の仲間だという確信が芽生える。

 

「私たち、知ってるのよ。彼女のこと……」

 

 

『ーーやあやあ、お二人とも、今日は月が綺麗だねぇ』

『私は、赤嶺。ヨロシクね』

『多分、どこかでそのうち会うかもしれないし、もう会ってるかもしれないね』

 

 歌野は旅の途中で()()()()()()()()に二度出会った事を話した。

 それを聞いた蓮華は足の力が抜けてガクッと膝を付く。

 

「そう……なのね。……生きて……いたんだ。やっぱり」

 

 頬をつねると当然だが痛みを感じた。

 

「痛い。なら、これは夢じゃないのね……」

「夢……?」

 

 雪花は不思議そうに呟く。

 蓮華はここに来て初めて、あの日別れてそれっきりになってしまった仲間の確かな情報を得たのだ。

 

 ーーたったひとりだけの情報だが、それでも……ゼロとイチではまるで違う。

 

「喜んでも、良いのかしら……希望を抱いて……良いのよね……?」

「蓮華さんっ。彼女は前に『私には仲間がいるから』『仲間にはそのうち会うかもしれない』って言ってたわ。それが蓮華さんの事か他の人かは分からないけど、もしかすると……」

 

 赤嶺という少女だけではない。おそらくは他の仲間も何人かは……。

 そんな"希望"が、蓮華の中で膨らみ始める。

 

 

「ーーみんなああ! 聞いてくれてありがとう〜〜‼︎」

 

 ステージからNo.7の声が聞こえる。今のやりとりの間に三曲目が終わったようだ。

 

「アンコール! アンコール!」

「アンコール! アンコール!」

 

 すると観客側からアンコールを要望する声が聞こえる。

 

「アンコールキタコレ⁉︎」

 

 No.7が目を輝かせる。

 周りの人たちの声はどんどん大きくなっていく。

 

「アンコール! アンコール!」

「アンコール! アンコール!」

「アルコール! アルコール!」

 

「ーー誰だあああ⁉︎ お酒飲んでる人はあああ⁉︎」

「はっはっはっはっは!」

「まぁそれは置いといて……アンコールいっくよ〜〜!」

 

 歓声の元、No.7は最後の曲を歌い始める。

 

「あっ、蓮華さん。最後にピアノ伴奏。お願いできますか?」

「……! ええ、いいわよ」

 

 ステージの下手にあるピアノに向かい、蓮華は弾き始める。

 

「蓮華さん、この曲はあなたに贈ります。この梅田地下街を今まで守ってくれたあなたへ。そして、これから自分の為に旅立つあなたに……最終楽曲(フィナーレ)を」

 

 ゆったりとしたピアノ伴奏の元、No.7は歌い出す。

 

「半端な想いでは〜この一歩は踏み出せない♪ そう〜前を向いてみれば自然と背筋が伸びるから〜♪ 誰かの言葉では〜動かせる筈が無い♪ いつだって〜決めるのは〜(ココ)だから〜♪」

 

 蓮華のピアノを近くで聴くため、歌野は隣に寄る。

 

「その一歩は〜強くて〜優しくて〜気高く美しい♪ まるであなたを表すように〜♪ そうして歩き続けて行くの〜♪ これから先は他の誰でも無い♪ あなたの人生だ〜か〜ら〜♪」

 

 綺麗な透き通る声で、且つ確かな力強さをNo.7の歌から感じる。

 

「時に迷って〜廻り道もするけど〜寄り道もしちゃうけど〜でもそれら全ては〜あなただけが歩けるあなただけの道〜♪」

 

 蓮華は目を瞑り、この歌に身を委ねて伴奏を続ける。

 

「ふと、立ち止まって〜振り返って見て〜♪ そこには〜あなたの足跡(過去)が〜ちゃんとある♪ 足元を見てご覧〜♪ そこには〜あなたの()が〜ちゃんとある♪ ほ〜ら前を見れば〜〜♪ あれは〜♪ あなただけの景色(未来)〜♪」

 

 そして最後の曲が終わる。

 

「ヒュ〜ヒュ〜」「ブラボー」「イェーイ‼︎」

 

 No.7へ惜しまない拍手喝采が沸き立つ。

 

「ビューティフルな演奏だったわ。歌と完全にシンクロして感激よ!」

「フッ。ありがと。……あの子に感謝しないとね」

「……ねぇ、蓮華さん」

 

 歌野はピアノの上に乗り、横になって蓮華に笑いかける。

 

「蓮華さんは地上に出てどこへ向かいます? やっぱり赤嶺さんを探しに行くんですか?」

 

 蓮華はその質問に答えずにピアノの鍵盤を眺めていた。

 

「……彼女は、元気にしてたかしら?」

「ええっ元気だったわっ」

「そう……それは良かった……こんな嬉しい日は、無いわね……」

 

 蓮華は安堵した表情を浮かべた。記憶の中の彼女はいつだって元気一杯だった。

 歌野の言葉で、彼女がまだ元気で生きていると分かった。こんなに喜ばしい事はないだろう。

 

「かつて、仲間と共に過ごした思い出は……この蓮華の中にちゃんとある。……あの日から1日たりとも皆を忘れた事なんて無かった」

 

 いつかは彼女と再会したい。そしてまだ会えぬ仲間ーー桐生静とも再会を果たしたい。……そう願う。

 

「弱音なんか言ってられないけど……辛い日だってあったわ。もちろん、()()()()つもりなんて毛頭無かったけど……でも、今なら自信を持って言葉にできるわ」

 

 顔を上げた蓮華の笑顔は、とても綺麗で輝いてみえた。

 

「この蓮華は……生きていて良かった、と‼︎」

「うんうんっ!」

 

 歌野もまた、満面の笑みで応えた。

 

「あっ。この蓮華、仲間に(農業)なっても(しても)いいかしら?」

「オフコース♪」

 

さらっと入ったあああ!?

 

 

 

 ……流れるように交わしたやりとりに周囲は仰天したのであった。

 




 ……"フィナーレ"ってちゃんと読めたでしょうか?


・No.7(女です):『スケスケの野菜』を食べた透明人間。自分と触れている対象物を透明にできる。そしてその能力を使って盗撮するのが趣味の自称アイドルで変態女。
 主な盗撮場所は男子更衣室や男風呂(承認済)。彼女曰く『アイドルに盗撮は付き物でしょ?』との事。←される側じゃね?

 "こういう能力"を持つ人はすぐ"そういう事"に使っちゃうよね。もしかしたら野菜が人を選ぶのか、そういう人が野菜に引かれるのか。


次回 友達の未来
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