前回のあらすじ
梅田地下街に帰ってきた歌野たちは、そこで皆から手厚い歓迎を受けた。そして歌野の仲間に入る為に一定の条件を課していた蓮華は、突如、仲間にしてほしいと口にする。
蓮華のひと言により、雪花と水都は面食らう。芽吹は少しだけ笑っていた。
「あ、あの……蓮華さん、今なんて」
「だからこの蓮華はあなたたちの仲間になってあげてもいいと言ったのよ」
「聞き間違いじゃなかったー」
「ですが蓮華さん。歌野に課した条件はどうするんですか? 満たしたという事でいいんですか?」
芽吹としては蓮華が仲間になってくれる事に反論は無い。しかし確認しておきたい事があった。
「覚えているかしら? この蓮華はミス・シラトリに3つ条件を課したわね?」
「ええ、そうですね」
改めて蓮華は親指、人差し指、中指の三本を立てる。
「ひとつ、京都支部にある
二つ目の条件については歌野が食い下がり、蓮華が妥協した形となった。
「この蓮華がリーダーと認めたらクリア……だったわよね?」
「ええ、そうですっ。……ってことは」
「ミス・シラトリ……いいえ、白鳥歌野。あなたの実力、そしてリーダーとしての器。はっきり言って認めざるを得ないわ」
「おお! 合格って事ねっ」
「決めては、ミス・クスノキ……いいえ、芽吹。あなたが糸の呪縛から解放してくれた事。そして歌野が牡牛座バーテックスを倒した事。この二つが挙げられるわ」
蓮華はあの時、樹の
「でもアレはみんなのおかげで……」
「そう。そのみんなの中で一番があなたよ、歌野。それにさっきも言ったけど、この蓮華を救ってくれた
芽吹が本来、人の下につく器ではない事は、蓮華だけではなく雪花や水都も分かっていた。
本人は
「京都の戦いで再確認したわ。歌野、あなたの度量はこの蓮華の合格ラインを越えていた」
「サンクス♪ そう言って貰えて嬉しいわっ」
「で、3つ目だけれど……」
蓮華はフッ と笑い、歌野に向けていた右手を下ろす。
「
「……! それって!」
それは先程達成された条件。蓮華の仲間だった鏑矢のひとり。即ち、赤嶺と名乗る少女の情報を、偶然にも歌野は入手していたのだ。
故に、蓮華は仲間に入ると言った。
あの瞬間に、3つの条件を達成したのだから。
「つまりこれで、この蓮華の条件を全てパスした事になるわ!」
「おお‼︎」
「やったね、うたのん!」
「私の思い通りにことが運ぶなんて……やっぱりデスティニー的なサムシングを感じるわ♪」
(運命……確かにそうね……)
蓮華は自分と歌野たちとの間に、簡単には言葉で言い表せないものを感じていた。
それこそ陳腐な表現をするならば、"運命"と呼べるものを。
「先程歌野の許可は得た。よってこの蓮華……いいえ、『弥勒蓮華』は、本日より
「弥勒……? それが蓮華さんの名字ですか?」
「確か……五老星のひとりですよね? 弥勒って」
「ええそうよ。この蓮華の
蓮華はNo.7からの情報で、弥勒家が没落しかけている事や、夕海子が奮闘している事も知っている。
……その理由が、蓮華の失態から起こった可能性がある事も。
「何より、農業を行うには資金が必要でしょう? ならばこの蓮華が『弥勒家』に掛け合い、その財力やネットワークを駆使して支援してあげる。……つまり、この蓮華の役職は『スポンサー兼アドバイザー』ね」
だからこそ、いずれ蓮華の目標に"弥勒家を立て直す"事も含まれてくるだろう。それは四国へ行く歌野たちとの目的と重なる。
「この蓮華の幅広い知識で、農業を営む歌野たちをサポートしつつ、今後の方針などのアドバイスを行うの」
(なるほどー、あくまでも上に立ちたい訳か)
スポンサー兼アドバイザー。上手い落とし所だと雪花は思った。
組織の構造上、
歌野の仲間に入ると言っておきながら、やはり蓮華の根幹である、『誰の指図も受けたくない。蓮華を従わせるのは蓮華だけ』が露骨に表れている。
(まー、そういう面で言えば、楠ちゃんも似たようなもんかー)
芽吹と蓮華。顧客とスポンサー。どちらも歌野が農業を行う上で必要なものだ。
しかし、芽吹には防人の存在があり蓮華には鏑矢の存在があった。
故にいつか二人は、
(おっといかんいかん。また私の悪い癖が出たにゃぁ……)
雪花は自分の中にある否定的な感情を振り払う。そういう思考はまた、『勇者の野菜』に潜む
「じゃあ、改めてよろしくねっ。蓮華さん」
「ええ。よろしく。歌野」
歌野と蓮華は握手をする。それもただの握手ではない。
ガシッと強く握り合い、さらに腕相撲をするかのように手を組み替えて握手。
「トン、トン、トンっと」
最後に互いの拳を小突き、また上から下へ、下から上へと計3回小突き合った。
「フッ」「ふふっひ♪」
こうして蓮華……いや、弥勒蓮華は
ーー時を同じくして四国の徳島県。そこに四勇全員とひなたが集まっていた。
「待ってくれ! 何かの間違いだろう⁉︎」
定期的に四勇同士で情報共有が行われる四勇会議。そして室内に響き渡る声は乃木若葉のもの。彼女は大社から聞いた情報にひどく動揺していた。
「ですが若葉ちゃん。防人のNo.6が帰還された際にそうおっしゃっていたと……」
「だからそれは何かの間違いじゃあ……」
「乃木さん……貴女らしく……ないわ。そう頭ごなしに否定ばかりして……」
「若葉さんと"彼女"の間に何があったのかは聞きましたけど……」
「それに……貴女は彼女ーー"白鳥歌野"さんと一度あったきりじゃない。その一度では人の本質なんて……理解できる訳ない……わ」
自身の副官である上里ひなただけではなく、同じ四勇の郡千景や伊予島杏もまた、大社の決定に従うつもりでいた。
その内容とはーー白鳥歌野及びその一味の排除。
「白鳥さんが……いや、
「であれば、防人の方が嘘を言っていると? どうして嘘を吐く必要があるんですか?」
「……! それ、は……」
「若葉ちゃん、落ち着いてください。昔会ったという白鳥さんがどういった方であれ、こんな事態を今後も起こすようであれば、若葉ちゃんたちの誰かが彼女を止めなければならないんです」
先日、大社本部へ帰還したNo.6は神官たちにこう進言した。
『白鳥歌野、秋原雪花、藤森水都。以上の
「確かにそれが本当ならば前代未聞です。しかし、白鳥歌野さんは北海道にて防人部隊を強襲しています。前科があります。そして今回も防人を攻撃しています。それは明らかに常軌を逸脱した行動。大社の防人ですら止められないとなると、これはもう……」
また、大社の情報ではそこに居合わせた七武勇とも戦闘を開始。双子座バーテックスを守るような行動を見せていた、と。
「もし、
「そ、それは……」
もはや誰も若葉の胸中を推し量る事は出来ない。それは若葉自身もである。
過去に出会った歌野の人柄と、大社からの情報で得た彼女の行動があまりにもかけ離れていた。
「なぁ若葉。単純な事を聞くぞ?」
「球子……」
頭を掻きながら土居球子は若葉に問いかける。
「タマたちの御役目はなんだ? 若葉の目的はなんだ? 四勇は……何の為に存在しているんだ?」
若葉は俯いたまま、静かに答えた。
「"四国の民"を……バーテックスの脅威から守る……だ」
「じゃあもし、"バーテックスに味方する人間"が出てきたら、若葉はどうするんだ?」
「ーーッ⁉︎ そんな事はありえなーー」
「若葉、"もし"……の話だぞ?」
若葉はそこで口を閉じた。
「……タマっち先輩は、変なところで革新的な事を突くよね?」
「あんず。タマを馬鹿にしてるな?」
「してないよー。ただ、タマっち先輩は時々真面目な話するから驚いただけで」
「あんず! やっぱり馬鹿にしてるよなーッ⁉︎」
球子が杏のこめかみに拳を当てぐりぐりし始める。
「あ〜〜痛い痛い!」
「もう、ケンカはダメですよ?」
「空気……読んでくれるかしら?」
「うぐっ……スマン」
「ごめんなさい」
千景は未だ答えが出せずにいる若葉を冷徹な目で見ていた。
「乃木さん……貴女あの日、"彼女の未来"に懸けたって言ったわね」
「……!」
「それがこんな結果を招いて……そして、これから更に深刻な事態を引き起こすのなら……
(懸けた責任……か)
ーーそれは若葉が諏訪から帰還した時の事。帰ってくるなり若葉はすぐに病院へ行き、入院する事となった。
何事かと、四勇やひなた以外の副官の皆は若葉の病室を訪れる。そこには負傷した若葉の姿があった。
「若葉さん。腕に火傷を負ったと聞きましたが……」
「杏。なに……大した事では無い」
「若葉ッ‼︎ 無事なのか⁉︎ 死んだってタマは聞いたぞ‼︎」
「いや球子。私はここにいるだろう?」
千景は病室の外から若葉の状態を見ているだけだったが、心配しているのだけは見てとれた。
「いやー、乃木ちゃんも大変だったけど、上里ちゃんも大変だったよねー」
「はい……。昨日、乃木様の御見舞いに来られて、
「あ、ああ。腕の怪我を見た途端に……な」
土居球子と伊予島杏の副官である安芸真鈴と郡千景の副官の花本美佳もまた、若葉を心配して病室にやってきていた。
実際には、若葉とひなたの御見舞いになるが。
「乃木さんも……人の子、という事ね……」
千景がボソッと呟くと、球子が食いついた。
「なんだなんだ? 若葉は人間じゃないって言うのかー? そりゃ確かにバケモノじみた力持ってるし、バーテックスも喰ったけど……」
「おい待て球子! あれはもういいだろ‼︎」
千景はその応酬を無視して若葉の腕を見続けていた。
「あの貴女がイーストジャパンに出向いて大怪我を負ったと聞いた時は驚いたわ。……油断、していたの?」
「いや、そうではない」
「じゃあ一体……どんな敵にくれてやったのよ……その腕」
「…………これはな」
若葉は包帯を巻かれた痛々しい腕を見て微笑む。そしてあの日の、歌野の言葉を思い出す。
『私はこんな世の中でも『日常』を大切にしていきたいって思ってます。……みんなで畑を耕して種を植えて立派に育てたものを採って食べて……。バーテックスがいなかった時でも変わらずやっていること。その日常を大切にしていきたいんです』
歌野の言葉は、若葉が成し遂げたかった未来そのものだ。人々が当たり前に生き、当たり前に働き、当たり前に食事をして、当たり前に眠り朝を迎える。
そんな『日常』を取り戻す事だった。それを、バーテックスがいるこの時代でも変わらず続けようとしていた歌野の姿は、まさしく若葉も欲した『
だから若葉はーー。
「"友達の未来"に懸けてきた」
歌野の大切にしている『日常』を。今は辛くても、この先必ず訪れるであろう『幸福』を。
忘れてしまった『平穏』を……リボンと共に取り戻す為に。
「…………?」
その言葉に千景や他の面々は不思議そうに頭を傾ける。
「まぁ……悔いが無いのなら……別に構わないのだけど……」
ーー若葉はあの日、歌野の夢に懸けたのだ。だがその歌野が大社の……四国の脅威となるのならばーー。
「……白鳥さんの件は、保留にしよう」
「……! 乃木さんっ、貴女まだこの状況を飲み込めていないの⁉︎」
「いや、そうじゃないんだ。……もし、白鳥さんが四国の民を脅かす存在になってしまったのなら、
そう言った若葉の眼差しは、やはりまだ不安と葛藤の中にあった。
「しかし、その情報の真意も確かめなければならないと思う。……故に私は、白鳥さんが"黒"だという根拠を見い出すまでは……彼女の人生を立てようと思う」
「……乃木さん、貴女は甘いわ…………」
そう呟いて千景は部屋を出ていった。
(ああ。……分かっているさ)
誰も千景の後を追おうとはしなかった。
「…………」
沈黙が支配していく中、今回の四勇会議は終了した。
若葉の胃が……胃痛が…………。
蓮華が正式に仲間に加わった事でここで白鳥農業組合の各メンバーの役職を見ていきましょう。
・白鳥歌野:リーダー(即ち組合長)
・秋原雪花:デザイナー
・楠 芽吹:顧客
・弥勒蓮華:スポンサー兼アドバイザー
・藤森水都:???
次回 五老星のさらに上