前回のあらすじ(?)
久美子「おい黒シャツ。お前また髪を染めてるのか?」
黒シャツ「いいや、今回はメッシュ付けてみたぜ。黒髪と赤のメッシュ。このコントラストが絶妙に良いだろォ」
久美子「やめろ。キモい」
黒シャツ「久美子の姉貴リスペーーぐぅええっ!!!?」
歌野からの突然のスカウトに困惑する二人の少女。
「え……えーっと」
「もううたのん。この人たち戸惑ってるよ」
水都は歌野と二人の仲介に入る。
「突然ごめんなさい。私は藤森水都と言います。今日、奈良にやって来た旅の者でーー」
礼儀正しく水都が自己紹介をしていく……が、その途中で言葉が止まる。
「……え」
水都は赤い髪をした少女の顔に見覚えがあった。もちろん、面と向かって出会ったのは今回が初めてだ。
しかし水都は彼女の顔を知っていた。
「結城……友奈……さん?」
「えっ?」
「……!」
その名前に真っ先に反応したのは黒髪の少女だった。
「ちっ違います! 彼女はッ結城友奈じゃあ無いです!!!」
「……え」
声を荒げた少女は、すぐに我に返りバツの悪そうな表情で謝る。
「あっ……ボクは横手茉莉って言います。すみません、急に大声を出して……でも、人違いなんです」
「いいえ、それはいいんです……けど、本当に結城友奈さんに似てる……」
「よく言われるんです。ね、ゆうちゃん」
「うんっ。私も結城さんの写真見た時は驚いたよ」
赤髪の少女は笑い、歌野と水都と握手を交わした。
「私は高嶋友奈。よろしくねっ、ミトちゃん! ウタちゃん!」
互いに自己紹介し、改めて歌野はここまでの経緯を説明し終えた後、友奈と茉莉に返答を迫る。
「…………なるほど。あなたたちは四国へ行ってその"神樹様の恵み"というものを手に入れたいのですね」
「そうなのっ。その旅の道中で、支え合える仲間を探しているのよ」
「事情はわかったよ。……でもごめんね。私はこの奈良にいなきゃいけない理由があるんだぁ。ね、茉莉さん」
「う、うん。そうなんです。ボクもここでやるべき事がある、から。……なのでお断りさせていただきます」
二人とも頭を下げ、本当に申し訳無さそうに歌野のスカウトを断った。
「だって、うたのん……仕方なーー」
「断るわっ!」
「え?」
しかし歌野は首を大きく横に振る。
「貴女たちが私の誘いを
「そんな無茶苦茶な……」
歌野にとって自分と同年代で農業を営む人と出会えた事が本当に嬉しかったのだ。
二人からすれば、食糧確保の為に農業をしているだけなのだが、歌野の脳内には『農業をしている人=農業が好きな人』という数式が成り立っている。
「お願いっ。私と来て!」
目をキラキラさせている歌野に、高嶋友奈はまた断りの言葉を述べる。
「本当にごめんね、力になれなくて。…………でもいつか、四国には行ってみようと思うんだぁ。あそこには"ぐんちゃん"がいるからっ」
「ぐん……?」
「"四勇"の郡千景さんです。少し前に奈良に来て……その時にゆうちゃんと仲良くなったんです」
「こおり⁉︎ わーお! なんだか涼しそうな名前ねっ。きっとクールビューティーな人よ!」
おそらく歌野は脳内で、"郡"と"氷"を間違えて変換しているようだ。
「名前で判断するのはどうかと思うけど……でも、優しい人だったらいいな……」
「ぐんちゃんは優しいよ! 大社の介入が嫌だから
実際、今に至るまで奈良に大社の介入があった事はない。京都支部の援助はあったが、ここには大社関係者は一人もいないのだ。
「バーテックスの危険もあるから、今は行けない。ここでみんなの平穏を守っていきたいし、それに結構楽しいんだぁ。……住めば都ってやつだよ! 奈良だけにねっ」
「……ゆうちゃん、あんまり上手くない……かも?」
「あれぇ……?」
上手い事を言えた気がしたが、そうでも無かった。
「あら? そういえばみんなは?」
すると歌野は、この場に自分と水都しかいない事にようやく気付いた。
「今気付いたの⁉︎ ……みんなは泊まる場所に案内されたよ。うたのんは一目散に走って行ったから私がついて来たの」
「そうなの? じゃあみーちゃん。約束の時間まで私はここで農作業してるから。みんなにそう伝えといて!」
そう言うと歌野は水都のバッグから作業服と麦わら帽子を取り出し、ここで着替え始めた。
「わっちょっと! うたのん!」
「ノープロブレムよ♪ 周りにはみーちゃんたちしかいないし」
「そういう問題じゃあ……。……はぁ。分かったよ、みんなに伝えてくる」
「サンクス♪」
こうなった歌野は言うことを聞かないのは分かっているので、呆れながら畑を後にした。
「高嶋さんと横手さんっだっけ? 私も手伝うわっ!」
「友奈で良いよ、ウタちゃん!」
こうして三人は野菜に水をあげたり、果実の採取を行った。
ーーそれから約束の時間になり、蓮華たちと合流して改めて久美子を訪ねる。そこには友奈と茉莉も加わっていた。
「友奈、茉莉。なんでお前らがこいつらといるんだ?」
「それはその……畑で色々あって……」
「そうですっ。
「かくかくしかじか、だろ。まぁいいか」
面倒な話になると思ったのか、久美子は頭を掻きながら話を区切った。
「……で? 烏丸久美子、解読出来たのよね。その内容を聞いてもいいかしら?」
「……ああ、いいぞ」
そして久美子は
「まず……『7月30日。私は貴女と出会った』」
「…………?」
「『"勇者の野菜"の能力者になってから、私と彼女は大社と呼ばれる組織の一員になった』」
この場にいる何人かに、疑問符が浮かんでいく。
「『それからというもの、私と彼女は非常に仲の良い関係になった。私は彼女の事が好きだし、彼女も私の事が好きだ。いっその事付き合っーー』」
「ちょ、ちょいちょいちょいちょい待って待って!」
居ても立っても居られなくなった雪花がストップをかけた。
それもその筈。京都支部に保管されている
「私たちの知りたい事はそんな事⁉︎ ……そんな変な情報なんて要らないから兵器の情報が書かれてある部分だけ読んでくださいよっ」
そう言われて、久美子の発した言葉は……
「
「……え?」
「あと一言二言で終わってた。……この
「そ……そんな……っ」
「"兵器"って単語も出てこなかったしな」
(……あれ? そうなんだ……)
友奈だけは不思議そうに首を傾げていた。また、茉莉は久美子の顔を見たまま黙っていた。
「……って事はなに? 私たちは……いや、七武勇の二人も、在るはずのない物を探してたって事?」
一見、恋愛小説の一編を読んでいるかのような内容。
久美子が言うには、それが京都支部に保管されていた
(所詮は紛い物って事ね……)
芽吹はある種、達観したかのように聞いていた。
蓮華も少し驚いていたが、すぐに毅然とした態度で話を進める。
「烏丸久美子。あなたは以前、
久美子が今、
「なぜ、"友奈の一族"は何の知識も無いまま
「いや、ひとつ訂正するが別に友奈の名前を持つ奴らは全員が"これ"を
「どういう事?」
「お前たちは
その問いに水都は手を挙げる。
「私、知ってます」
母から聞いた話をする。
「そう。……簡単に言うとな、"友奈"の中でも一部の奴らだけなんだよ。完璧に読めるのは。あとの奴らは"なんとなく"でしか読めていない」
久美子は友奈を見て笑う。
「
「酷いですよ久美子さん。私だって読める英単語はあります」
「お前が読める英単語なんざ、たかが知れてるだろ?」
「うぐっ……」
馬鹿にされた友奈がすぐに久美子へ意見するがあっさりはねのけられた。
「さっきも説明したが、
だがな……と久美子は付け加える。
「"友奈の一族"はな、
「万物の、声……?」
「友奈の名を持つ奴らが共通して持ってる力さ。
友奈の方を見ると彼女は頷く。彼女自身も言葉では説明出来ないが、その万物の声が聴こえるという不思議な力で
「因みにだが、この暗号化した文字を作った奴。そいつの名を『リリエンソール』というらしい。また、そいつの友人の名は『柚木』。職業は"翻訳家"で、
「そんな事まで知っているんですか……」
「私はな、大社本部の中にコネクションを持っているんだ。大社の奴らは決して一枚岩じゃない。あれほどの組織の大きさなら、
(ま、さらに驚くべき事は、その二人の娘がどちらも"友奈"の名を持っている事……だがな)
久美子はその取引相手から大社の情報を得ている。それも大分根幹に関わる部分の情報を。
その情報に、必然的に水都たちは惹きつけられていく。
「そこまで知っているのなら貴女は……西暦2015年の
水都は速まる心臓の鼓動を感じ取っていた。
「ああ……知っている」
「……‼︎」
その時、ドクンッと心臓がはねた。
「いや、知っているというのは少し語弊があるか。……私は
「……っ」
「その仮説は……」
「知りたいか? ……だが教えない」
「えっ」
久美子は僅かにニヤケながら水都の好奇心を突き離した。
「私が今、ここでその"真実に近い仮説"を述べたところで今のお前たちにはどうする事も出来ない。……自分たちの足で調べ、その目や頭を使って、導き出した"答え"が私たちと同じとは限らないんだからな。……それでも聞きたいというのなら、この世界の
水都は少し考えたあと、呟いた。
「じゃあ聞くのはやめます」
それ以上を知る事をやめた。旅を続けていく中で、自分で答えを探したいと考えた。
「少しだけ……ヒントをやろうか。無知な状態では考える事も出来んからな」
久美子はそう言って中途半端な情報だけ渡してきた。
「"空白の100年"というものが存在する。それは、大社上層部の奴らが隠してきたこの世界の影に潜む歴史の事だ。そして……その"空白の100年"が
「……‼︎」
「それだけだ。あとは自分たちで考えろ」
久美子は笑っていた。それが何を意味するのかは分からないが……。
「はいはい。私も一個だけ聞きたいんだけどー」
すると、雪花が手を挙げて質問する。
「"神樹様の恵み"の
諏訪の時から気になっていた。水都の母によると、歌野の欲しているものは
それにもし、それが"莫大な宝"ならば歌野以外が躍起にならないのは疑問だ。
だから雪花は気になった。"神樹の恵み"が確かな物として存在するのかどうかを。
「"神樹様の恵み"っていうのは本当に目に見えて実在すーー」
「ウエエエイトッ!!! 雪花ッッ‼︎」
その問いを投げ掛けようとしたところ、歌野の大声に阻まれた。
「"神
凄んだ歌野の前に、雪花は先の失言を取り消す。
「ご、ごめん歌野。分かってる、分かってるよ。ただの興味本位で聞いただけ。……今のはナシでっ」
そのやりとりを見て久美子は声に出して笑う。
「フッハハハハハッ! やれるか? お前に。ここから先はさらにお前たちの想像を遥かに凌ぐぞ。立ちはだかる敵も強大だ。……白鳥歌野、お前にあの強固な
その言葉に歌野は臆さなかった。
確かにこれまでの道中、困難が幾度と無く立ちはだかってきた。そしてここから先も、
……しかし、それを知ってでもなお、歌野は歩みを止めない。
「"支配"なんてしないわっ。この自然溢れる大地の上で、1番フリーダムな人が"農業王"だから!」
歌野は平然と笑ってそう答えた。
その巨大な壁も、彼女の夢を閉ざす理由にはならない。
「……そうか」
歌野の想いを聞いた久美子は、それだけ言った。
「じゃあ今日の所は終わりでいいか……。私はーー」
「待ちなさい」
話を終えようとしていた久美子だが、蓮華は今日彼女を訪ねた本当の目的を告げる。
「あなたは知っているんでしょう?
「…………」
「教えて頂戴。あの
蓮華は知らなければならない。
『鏑矢』という組織が何の為に設立されたのかを。
あの日の犠牲の、本当の意味を。
奈良編ではこれまでの謎をさらに解き明かしつつ、肝心なところはまたぼかしています。
本編で烏丸先生が言っていたように、自分の頭で考えて答えを導き出してほしいという理由もあります。
次回は
次回 真実ほど人に残酷なものもない