あれっ⁉︎ 前回白鳥さん、セリフなくねッ⁉︎ 何してたの‼︎
…………寝てました。
前回のあらすじ
烏丸久美子から
久美子の話が終わってから数分ほど沈黙が部屋の中を支配する。
それから少し経って水都は話の中で生まれた疑問を追求した。
「あ……あの、ちょっといいですか……」
おそるおそる手を上げる水都に、バラバラだったみんなの視線が集まる。
「烏丸さんは大社本部にコネクションがあって、そこから情報を得ているんですよね。……でも今の話は、まるで
久美子の協力者が誰なのかは分からない。もしかすると一人ではないのかもしれない。
しかし、水都はこう思っていた。実は粛清されたと思っていた彼らの中には"生き延びた者"がいて、その人から情報を得たのではないか、と。
「いるん……ですか? その……
大社の記録には杜撰なものが多く見受けられる。実際、鏑矢の全滅は間違いで蓮華や赤嶺は生存していた。
「仮にそうだとして……"そいつ"の存在がバレれば、大社に
久美子は微妙にはぐらかしたつもりのようだが、その発言からほぼ答えを言っているようなものだった。
すると、蓮華はもたれていた机から離れ久美子へ向き直る。
「……ありがとう、烏丸久美子。お陰でこのあたりの霧が晴れた気がするわ」
胸のあたりに手を添え目を閉じる。大社という組織。そして鏑矢という部隊。そこにいた自分。様々な事に折り合いがついた気がした。
「それだけか? もっと怒るなり嘆くなりしてもいいんだぞ?」
「そんな事はしないわ。この蓮華が自分からあなたに話させたのに、それを聞いて取り乱すなんてみっともない真似はしない」
衝撃を受けたからといって、行き場の無い怒りを周囲に振り撒くようなプライドの無い人間にはなりたくない。
「なぜ大社が蓮華たちに真実を隠して作戦を強行させたのか。……どうして彼らは死ななければならなかったのか。その理由に確信を持ちたかっただけなの」
蓮華自身、悲観も憤怒も無い。
あくまでも過去と向き合う為。その為に真実が知りたかった。
「だから、その先の話はまだ何も進んでないわ」
そんな意味ありげなセリフを言い残して蓮華は部屋を後にした。
「……行っちゃった」
蓮華は毅然な態度を振る舞っているように見えたが、水都たちはそれを危うく感じていた。
その心が、いつかポキッと折れてしまうのではないかと……。
「……あ、ちょっと私もいいですかー?」
今度は雪花が手を上げる。
彼女は先の説明で大社における情報の異常なまでの秘匿性が気になっていた。
「蓮華さんは養子なんだけど"五老星"の家の子なんだよね? ……その蓮華さんにまで情報を隠すなんて、やり過ぎじゃない?」
その問いに答えたのは、久美子では無く芽吹だった。
「恐らく……火災テロを起こすよう"命令した人"は、彼女の性格を知っていたのでしょうね。彼女は性格上、不満があれば『NO』と言える人間。だから本当の事を説明せず……あえて騙した形で作戦を進めた」
蓮華は前に言っていた。"蓮華に命令出来るのは蓮華だけ"。もし彼女に包み隠さず話せば当然拒否されていただろう。
故に"粛清の命令を出した者"は蓮華の性格を知っていたからこそ、彼女を騙し推し進めたのだと芽吹は考えた。
「そして大社は……
「そっか。確か桐生静って人の言う事は聞いてたんだっけ。じゃあ桐生静へ命令を出し、彼女が蓮華さんへ命令を出したなら……」
「ええ。回りくどいけど、そうすれば蓮華が拒否する可能性は低くなる。……それに蓮華の不満の矛先は大社から桐生静に向けられる」
それが本当ならば、大社は桐生静と蓮華の関係性を把握していた事になる。
蓮華を従わせる為には桐生静を使えばいい事を。
「でも桐生静さんがその命令を拒否する事は無かったのかな? 蓮華さんから聞いた話だけだから人柄とかは分からないけど……」
「――拒否せざるを得ない状況だったんじゃないか?」
水都の問いに久美子が推論を述べる。
「これもまた仮の話だが、大社がその桐生静って奴に『この作戦が失敗すれば、弥勒家の威信が地に落ちる』と脅したらどうだ?」
「……えっ?」
「人は、一度手にした権力は手放し難い……とさっき言ったな。
弥勒蓮華が養子である事。弥勒家の為に奮闘している事を知っていた。ならばその蓮華への想いを、大社にまんまと利用された可能性も考えられる。
「拒否すれば……失敗すれば不利な条件を突き付ける。……大抵の人間ならこれで従わせられるだろう」
芽吹たち防人も、若葉たち四勇も似たようなものだ。彼女たちは大社に力を貸す事を条件に様々な便宜が図られている。
防人になる事で裕福になった家。四勇として活躍する事で認められる存在。
そういったものは全て、大社の存在があってこそ保証されているのだ。
ならばもし、大社の方針に背く者がいれば、大社は軽々とその保証を破却する。
それが久美子の考える"脅し"である。
「そういえば……乃木園子の件だって似たようなもんだったか……」
「え? 乃木園――」
「く、くああ〜〜〜」
その時、部屋に歌野の声が響き渡る。
「……ん?」
両手を真上に伸ばして大きく背伸びをする歌野は、そこで周りの視線に気付く。
「……あら? お話はもう終わった?」
歌野は立ち上がって凝り固まっていた身体をほぐす。
その姿を見て、水都たちは固まった。
「う……うたのん、もしかして寝てた、の?」
「……起きてたわっ。ほら、さっきまで久美子さんが四国はハードだぞ、的な事言ってたとこでしょ?」
「それもうずっと前だよッ!」
「そうだったの。まぁいいじゃない♪」
歌野は水都からのツッコミなど満更でも無い様子でまた作業服や麦わら帽子を手に取った。
「あっ、話が終わったのなら作業の続きしてくるわね。茉莉さん、友奈っ、また道具とか使わせて貰うわっ」
「う……うん。良いです……けど……」
「オッケーだよ!」
歌野は道具を持って部屋を飛び出していった。
「…………」
茉莉は困惑した表情で芽吹たちを見る。
「い、良いんですか? あの人は……」
「良いのよ。歌野は……ああいう人だから」
「にゃはっ、そだねー」
「……もう、うたのんったら」
水都は久美子が言った発言の真意を聞きたかったが、ある意味歌野に邪魔されてしまったので今日はお開きという形になった。
――蓮華はただ道を歩いていた。どこへ向かう訳でもなく。
頭の中では久美子から聞いた話がリピートしている。
「頭では分かっている……つもりだけどやっぱりくるわね……」
久美子にも言ったが、自分たちのやっていた事を後悔している訳でも、真実を隠していた大社に怒りをぶつけたい訳でもない。
あの混乱の中、彼らを
(そんな事したって……何も変わらない)
彼らは死んでしまった。鏑矢は壊滅した。あの日、命令を出したのが大社の誰かも分からない。
……言ってしまえば、もう終わってしまった事なのだ。
蓮華は過去と向き合い、前へ進もうと蓮華自身が決めた事だ。
「そう……分かってるのよ……」
頭では分かっているつもりなのだ。……ただ少し身体がぐらつくだけ。
「あら? 蓮華さん!」
後ろから歌野に呼び止められ、蓮華は振り返る。
「貴女も農業する? 良かったら私と畑を耕さない?」
「歌野……」
「まだあの辺りに新しい作物を植える為の畑があって――」
「ねぇ」
胸の中の霧は晴れた筈なのに……。折り合いを付けた筈なのに……。
時間が経てば経つ程、蓮華の中で様々な思いがぶり返し、ごちゃ混ぜになっていく。
そんな時に歌野は現れた。二人きりしかいないので蓮華は今の胸中を明かす事にした。
「例えば……例えばの話ね。貴女の仲間の中で、過去に犯罪に加担した人がいたとしましょう。その人は大社という巨大な組織に所属していて家の為、平和の為と、貢献したつもりだった。でも本人の想いとは真逆の結果を導いて沢山の人たちを不幸にした。……その場合、貴女はその人に何て言い聞かせるかしら? ……その人の対処をどうするの?」
蓮華のたとえ話を聞いて歌野は腕を組んで暫し考える。
「ん〜、ソーリー。そういうディフィカルトな問題はよく分からないわ。大社がどうのこうのっていうのは、みーちゃんや芽吹が考えてる事だし、私が口出し出来る程、大社という組織を知っている訳でも無いから」
「そう……」
「だから大社とか、平和とかの話は置いておくとして……その話についての私の意見は……」
歌野が考え込んでいると、二人は畑に辿り着いた。
「……終わった事はもう終わった事だから前を向いて歩くしかないって事かしら。"過去"がどうであれ、"今"と"未来"を見て歩んでいこうって。その人が過去のミスとか不安な事を抱えてるのなら、私はリーダーとしてそういうの全部ひっくるめて支えたいと思っているわ」
歌野は鏑矢はもちろん、防人の事もよく知らない。だから大社の方針に関して何かを言う事はできない。
だから歌野は自分の価値観を基準に蓮華へ想いを伝える。自分が出会った人たちとの交流や、農業を通して培った経験を言葉に換えて。
「私も例えばの話をするわねっ。今ここに上手く成長出来なかった悲しい野菜があるとしましょう。それと料理の過程で切り捨てられた野菜の部位があったとしましょう。でもそれらは使いようによってはまだ役割があるの。自分用の食材にしたり、純粋に肥料として使われたりね。……だからぁ、ん〜なんて言い表せばいいかしら……」
歌野は唸り声をあげながら、自分の思っている事を上手く説明しようとする。
「本来の目的を果たせなかった野菜たちでも、次の野菜を育てる為の肥料に出来るの。そうやって過去から今、今から未来へ繋げていく事だってできるっ。今までの行いは無駄じゃない。何かの形で受け継がれていく。…………あっ、やっぱり伝わらなかった?」
蓮華からリアクションが特に無いので、歌野は首を傾げる。
「つまり歌野、あなたが言いたいのは……過去は変えられない。でも今と未来なら変えられる。過去は今の自分に繋がっていく。思ったとおりにいかなかった事も、それを糧にして次に繋げる……そういう事?」
「そういうフィーリングでオーケーよ! あーすればとか、こーすればとか思ったのなら、今から変えていけば良い。そうやって過去を糧に人は進んで行けると思うの」
過去よりも今を大事にしていこう。
歌野が重要視しているのは、鏑矢や弥勒家にいた"今まで"の蓮華ではなく、
「もしも何かで悩んだら、その時は相談に乗るわよっ。私はリーダーだから!」
両手を広げて歌野は笑った。
「……フッ」
蓮華もまた笑い返した。いつもと変わらずそこにいる歌野へ。
「歌野っ。この蓮華も耕すのを手伝ってもいいかしら?」
「オフコース♪」
蓮華も軍手や長靴を借りて身に付ける。
歌野は持っていた鍬を手渡した。
「鍬の持ち方は……これで良いかしら?」
「ベリーグッドよ♪ あとはひと振りひと振り、感謝を込めて耕してみてっ」
服が汚れる事など気にせずに力一杯、鍬で畑を耕していく。
「これ……思った以上に力がいるわね」
「でしょう! 大地の偉大さ的なサムシングが、こう……ヒシヒシと伝わってくるでしょう!」
「ええ、感じるわ……森羅万象を従えているこの蓮華の姿を……!」
「筋がいいわね、蓮華さん。お陰で土がふかふかになってきたわっ」
「フッ。この蓮華が感謝を込めて耕しているのだから当然のこと」
歌野は身振り手振りで土いじりの楽しさを表現し、蓮華と分かち合う。
流れる汗や軍手や服の汚れも、不思議と蓮華の魅力に変わっていく。
すると耕していた土の近くからミミズが顔を出した。
「……は! 土の中から……っ」
「ミミズがハローしてきたわ♪ 土が良質だっていうエビデンスよ!」
耕していく内、蓮華は自然と笑顔になっていた。
(フッ。こうやって身体を動かしていると、気持ちが軽くなっていくようだわ。……それに、歌野が農業を愛する理由が分かった気がする)
泥臭く。……それでいて何処か華やかで。
農作業をしている今の蓮華の姿はとても輝いて見えた。
「まだまだねっ。この蓮華は……こんなところで立ち止まっていられないのだから!」
蓮華の表情は晴れ晴れとしており、その綺麗なフォームを崩すことなく畑を耕し終えたのだった。
"真実を知った者は、対象者はもちろん、家族や友人、一言でも言葉を交わした事のある人間はすべていなくなる"
誰が言ったっけ? このセリフ。
恐らくソイツが、大社を支配している真の敵かもしれない。
……まあそんな事は置いといて、二人が共に農作業をする事で、白鳥さんと蓮華の仲が一段と深まった事でしょう。
次回 友奈の一族