白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。勇者の野菜を食べなくても、烏丸先生なら勇者と互角に戦えるでしょう。



前回のあらすじではない

白いお髭の親父「友奈? ウチにもいるな、結城友奈って奴が……。"友奈"ってのは一体何なんだ?」
海賊の王「おお知りてぇか。よし教えてやろう。はるか300年前の話だがな…………」



第六十一話 烏丸久美子の武器

 友奈に案内され、歌野と蓮華は食堂へと向かう。

 そこには既に水都たちや茉莉、そして最初に会った黒色のシャツを着た男も座っていた。

 

「来たな。まぁ座って待ってろ。もうすぐ出来るから」

 

 給仕室では久美子がエプロンを着用して料理をしている。

 

「久美子さんは偶にボクたちにお好み焼きを作ってくれるんです。今日は多分、あなたたちが来てくれたから」

「ん〜、グッドなスメルが漂ってくる〜♪」

「身体を動かした後だから、ちょうどお腹がすいていたところだったわ」

 

 歌野と蓮華は椅子に座り、料理が出来るのを今か今かと待つ。

 先に来ていた黒シャツの男は、久美子の料理する姿を見て笑いを堪えていた。

 

「ククッ……。多分世界で姉貴だけじゃねェかな。エプロン姿が似合わない女――ッッぶねェなァァ!?」

 

 突然、男の机に包丁が飛んできた。

 

「悪い、手が滑った。……で? なんか言ったか、黒シャツ」

「いや……なにも?」

「別に褒めてくれるのはいいが、程度を考えないと恥ずかしくて手元が狂ってしまうなぁ」

「聞こえてんじゃねえかッ!」

「ん? 完全に聞こえてたらその包丁はもう30センチ手前に刺さってたぞ?」

「……ソーダナー。キヲツケネエトナー」

 

 感情が全く篭っていない男の言葉に、久美子は鼻で笑いながら仕上げに入る。

 

「ご馳走になるなんて、なんだか悪いわね」

「気にするな。これでもお前たちの事は結構気に入っているんだ。そして私は気に入った奴にはお好み焼きを振る舞うようにしている」

「久美子の姉貴に気に入られちまったか……。ご愁傷様ってヤツだな」

「聞こえてる、ぞっ」

「うぐぇ!」

 

 お皿を両手に乗せたまま、男の背中に膝蹴りを放つ。

 

「懲りないヤツめ。……まぁ出来たから食え」

 

 順にお皿を歌野たちの目の前に置いていく。出来立てのお好み焼きの香りが鼻腔をくすぐり、自然と涎が滴る。

 

「見るからに美味しそうなのが分かるわ! それじゃあありがたく……」

「ああ、当然肉類は抜いてあるぞ。野菜のみのお好み焼きだ」

 

 見るからに野菜をふんだんに乗せている。ヘルシーながらそれでもお好み焼きとしては十分なボリュームだろう。

 

「むしろオールオッケーよ‼︎ いっただきまーす!」

 

 手を合わせて歌野は頬張っていく。

 久美子は芽吹の目の前にもお皿を置く。

 よく見れば歌野たちとは異なり、肉と野菜がバランスよく乗っていた。

 

「楠芽吹……だったな? お前はこっちだ。能力者じゃないから肉を食っても問題ないだろう」

「ありがとう。……いただきます」

 

 芽吹は軽く頭を下げてお好み焼きに手を付ける。この中で肉ありのお好み焼きを食べているのは芽吹と黒シャツの男、そして久美子だけである。

 茉莉と水都は肉をあまり好まないので歌野たちと同じ野菜のみにしている。

 奈良には家畜も飼っているがそれでも肉類の調達は容易ではない事を知っている事も理由のひとつだ。

 

「あ、そーだっ。お肉の話題になるたび疑問に思うけど、どうして勇者はお肉を食べられなくなっちゃったのかしら?」

 

 一皿を食べ切った歌野が疑問を口にした。食べる事を幸福に感じている彼女からすればどうしても歯痒く感じてしまう。

 

「なんだ、気になるのか?」

「烏丸さんは知っているの?」

 

 お好み焼きを食べながら久美子は歌野の疑問に答える。

 

「これも仮説だがな、『勇者の野菜』がどういう成り立ちで生まれたのかを知っていればある程度は予想できる」

「成り立ち……。私のお母さんは、勇者の野菜は精霊の意思が宿っていると言ってました」

「そうだ。神樹に集った精霊と呼ばれる不可思議な力が宿っている。お前たちのその能力は、元を辿っていくと全て精霊の能力に行き着くわけだ」

「なら雪花ちゃんの『ユメユメの野菜』や蓮華さんの『カネカネの野菜』も……」

「そうだな。お前たちの能力も調べていけば分かるだろう」

 

 神樹に集った精霊は、古くからこの地に住まう怪異や霊魂といった、いわゆる"土着の神々"であると久美子は考えている。

 

「……でだな。勇者の野菜を食べた奴は肉を食べられなくなる。……これはその野菜に宿っている精霊の影響なんだ」

「精霊とお肉が何の関係が?」

「そもそも勇者の野菜が生まれた理由は、バーテックスの脅威から人類を守る為のものだ」

「そうですね……」

「それ故に、精霊の意思が強く反映されてしまう」

「……? それとお肉が食べられないのと何の関係が?」

 

 久美子はなるべく伝わるように言葉を選んでこのメカニズムを説明していく。

 

「そうだなぁ……。例えば、宗教でも豚や牛を食べてはいけないという戒律がある。それは、肉を食す事で()()()()()()()()()()謂れがあるからだ。また、それらを殺すという事自体が禁じられている場合もある。逆に宗教によっては神の遣いだから決して手を出してはならないという戒律もあるくらいだ」

「ん? んー。分かるような……分からないような」

 

 歌野は頭を左右に揺らしながら思案に暮れるがいまいち理解できない。

 

「つまり、肉を食べる為には動物の命を奪わなければならない。それは動物(ニンゲン)を守る為に生まれた精霊の"思想"に反しているんだ」

 

 水都はその言葉で理解したのか。微かに頷く。

 

「そっか……。"バーテックスに食べられるのを防ぐ"という目的が派生して"食べてはいけない"。つまり肉を食べる行為自体がタブーになったんだ」

「みーちゃん……どういうミーニング⁉︎」

 

 "肉を食べる"という行為には必ず"対象を殺す"という前提が存在する。

 勇者の野菜に宿る精霊の意思が、"バーテックスの脅威から人類を守る"事だとしたら、バーテックスの目的である"人を喰い殺す"事自体を精霊は嫌悪する。

 その思想が派生して、人だけではなく肉そのものを食べられなくする事でバーテックスに対するある種の対極理論(アンチテーゼ)を構築してしまった。

 

 それが、勇者が肉を食べられなくなる事に関する久美子の仮説である。

 しかし、久美子が提唱している仮説はあくまでも、神樹とバーテックスには()()()()()事を前提とした仮説だ。

 

「まさに(ヒト)を喰らうバーテックスとは真逆の意思(思想)。そう考えると勇者の野菜を作り出した"神樹"と敵対する"バーテックス"とはとことん対極に位置しているよな。……面白い」

 

 いつの間にか、ここにいる全員が目の前のお好み焼きを放置して久美子の仮説に耳を傾けていた。

 もっとも、歌野と友奈は既に平らげていたのだが。

 

 

「――あっ」

 

 すると突然、茉莉が椅子から立ち上がり外の方を向いた。

 

「どうしたんですか? 茉莉さん」

「このタイミングでか?」

 

 久美子もまた立ち上がり茉莉に近寄って反応を見る。茉莉は食堂の外を指差した。

 

「久美子さん……ゆうちゃん……。()()()。南西の方角、2キロ弱……かな」

「……!」

「やはりか……」

 

 友奈は拳を握りしめ、勢いよく椅子から立ち上がって走り出した。

 

「えっ⁉︎ ちょ……友奈⁉︎」

「おい、お前らも来るだろう? 敵さんのお出ましだからな」

「敵……ッ⁉︎」

 

 "敵"という言葉により全員に緊張が走る。

 

「食べてる場合じゃ無くなったわね」

「急ごうっ」

 

 歌野を戦闘に次々と食堂から飛び出していく。

 

「茉莉。敵の特徴はどんな感じだ?」

「えっと……。多分小さいやつ、かな。進化体の()()()()()()から」

「なんだ。肩透かしだな」

「それでも20体はいる……と思う」

「分かるの?」

 

 茉莉は水都や男と共に食堂に待機させたまま、代わりに久美子が走りながら答える。

 

「ああ。茉莉は少し特別でな。あいつの『見聞色』はバーテックスの接近を感知できるんだよ」

「見聞色……?」

 

 友奈を追いかけている雪花と芽吹は聞きなれない言葉にスピードを落とした。

 

「お前ら知らない事だらけだな。……まぁ今はいいか」

 

 知らない事を指摘され、芽吹は少し不機嫌になる。防人の隊長であった彼女が大社や勇者に関する情報を碌に与えられていない事を気にしたのだ。

 芽吹のむっとした表情を見て久美子は僅かに笑う。

 

「いや、知らない事が多いのは大した問題じゃない。これから知っていけば良いし、なにより"知らない事を知る"のは愉しいものだ。……学者なら特にな」

 

 "人は知らない事を知りたいと思うものだ"と久美子は言っていたが、それこそ"知らなかった事を知る"という快楽をひと一倍に求めているのだろう。

 そしてそれを芽吹たちにも感じさせたいのかもしれない。

 

「だからお前たちにもっと面白いものを見せてやろう……」

 

 意味深な笑みを浮かべ、久美子は友奈たちを追いかける。

 

 

 

 

 茉莉が指示した場所へ先に着いた友奈は左右の拳をかち合わせて標的を見据える。

 その視線の先には両手では数えられない程のバーテックスが迫っていた。

 

「いっくよ〜〜。うおおお!」

 

 友奈は右手の拳を強く握り真っ先に向かってきた一体を殴り飛ばした。

 

「……と、勇者キック‼︎」

 

 殴った勢いのまま右足を強く踏み締め左足で二体目を蹴り上げる。

 続く三体目、四体目といきたかったがバーテックスは散開して友奈へ向かうもの、通り過ぎるものと分かれた。

 

「こっちは任せて!」

 

 後方から走ってきた歌野はベルトを力一杯振るって薙ぎ払う。

 友奈を通り越したバーテックスは軒並み歌野の攻撃の前に吹き飛ばされた。

 

「ウタちゃん! みんな! 来てくれたんだね、ありがとうっ」

「オフコース♪ 力を貸すに決まってるわっ」

 

 蓮華たちも後から追いつき、残りのバーテックスを狩っていく。

 

「おいおい……私の見せ場がなくなってしまうぞ」

 

 久美子が追いつく頃には、残り二体となっていた。

 

「烏丸さん⁉︎ そんな近くにいると……」

「見せたいものがあると言ったろう?」

 

 案の定、二体のバーテックスが久美子の方へ向かっていく。彼女はそれを不敵な笑みで待ち構えている。

 

「はぁあッ!」

 

 雪花が一体に槍を放り投げて仕留めるが、もう一体は構わず突っ込んでいく。

 

「はやく逃げて!」

「仕留められるか……? 三十六(サンジュウロク)……」

 

 刀を上段に構えていた芽吹だったが、それを見た久美子がわざと斬撃の延長線上に立った。

 

「心配するな。私にはバーテックスと戦える()()()()()がある」

 

 そう言うと、久美子は白衣のポケットからスマートフォンを取り出して突進してくるバーテックスにかざした。

 

「……えっ⁉︎」

 

 この場にいる友奈以外は全員目の前の事態に困惑した。

 相手を喰らおうと猛スピードで突進するバーテックスの身体が()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 ……いや、正しくは久美子が持つスマートフォンに触れた瞬間である。

 

 そして久美子はジャンプして、上からスマートフォンを持ったままの手をバーテックスに振り下ろした。

 

――衝撃(インパクト)ッ‼︎

 

 刹那、スマートフォンに触れていたバーテックスが地面に叩きつけられ、めり込んで静止した。

 

「一体何が……」

「これがひとつめ『衝撃携帯(インパクトダイアル)』。そしてもうひとつが……実際に視覚化させた方がはやいか」

 

 すると、久美子の右足が黒色に変色していくのが分かった。

 

「足が黒く……⁉︎」

「これって……っ」

 

 地面にめり込んだバーテックスの頸部と思われる少しへこんだ部分に蹴りを放つ。

 

首肉(コリエ)シュートッ‼︎」

 

 蹴りを食らった部分が抉れ、バーテックスはその体を霧散させ死滅した。

 

「嘘……。バーテックスが()()()……?」

 

 歌野たちはまたもや驚愕の表情を見せる。勇者でなければバーテックスを討伐する事ができない筈だが、たった今久美子がバーテックスを目の前で殺してみせた。

 

「烏丸さんって"勇者"だったんですかぁ⁉︎」

「いや……()()()だよ」

 

 右足に付いた土埃をはたいて落とす。いつの間にか、黒色になっていた部分は元に戻っていた。

 

「じゃあどうして……」

「"()()"()()()()攻撃したから敵を殺せたんだ」

 

 先程、茉莉がバーテックスの接近を感知できたのも、それを久美子が殺す事ができたのも、"勇気"のおかげであると久美子は告げる。

 

「茉莉の場合は『見聞色の勇気』だ。そしてこれが……『武装色の勇気』と呼ばれるものだ」

「勇気……」

「詳しい話は戻ってから話す。……さ、帰るか」

 

 理解が追いついていない彼女たちに背を向けて久美子は食堂への帰路に着く。

 

「〜〜♫」

 

 どこかで聞いた事のある音楽を鼻歌でうたいながら――。

 

 




 匂わせていた部分をどんどん回収していきましょう。


次回 バケモノと戦うための勇気
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