「お前、この船から――」
「馬鹿野郎‼︎ 滅多な事言うモンじゃねぇぞ‼︎」
前回のあらすじ
お好み焼きをご馳走になっていた歌野たちにバーテックスが襲来したと、茉莉は告げる。バーテックスの討伐は難なく終えたが、彼女たちはそこで烏丸久美子がバーテックスを倒すところを目撃したのだった。
バーテックスの討伐を終えて歌野たち一同は食堂に残していた水都たちの元へ戻った。
「話を聞かせてもらうわよ。その"武装色の勇気"というのは何?」
芽吹は食い気味に久美子を問いただす。勇者ではない者がバーテックスを倒せるという事実は、彼女の認識を大きく変えていた。
芽吹は防人の装備がある事ではじめてバーテックスと戦う事ができる。しかし、久美子はそのような装備は持っていない筈だ。
バーテックスの動きを止めたスマートフォンも気にはなるが、何よりもただの蹴りで殺したこと。
久美子の持つスマートフォンや服装に防人装束のような霊力が宿っているとは考えにくい。
「"勇気"というのは逆境に立ち向かう者に宿る"意志の力"だ」
「意志の力?」
「そもそも"勇気"とは勝てない敵や絶望的な状況から自分を奮い立たせ、勇み立ち向かう覚悟の証なのさ。その立ち向かう強い意志が時に苦境を逆転させる鍵となり得る。……故に"勇気"は
『勇気』
勇者ではない普通の人間がバーテックスと戦い、打ち勝つ為の唯一の手段。
時にそれは、バーテックスの気配を強く感じ、接敵から身を守るセンサーとしてはたらく。それが『見聞色の勇気』である。
時にそれは、通常兵器では傷ひとつ付かないバーテックスを殺す武器としてはたらく。それが『武装色の勇気』である。
「武装色の勇気を纏えば星屑だけじゃない、
防人の装備では星屑を倒す事ができても、進化体へは決定打になり得ない。芽吹はそれを前々から歯痒く感じていた。
(京都での"牡牛座"の戦いもそうだった。……私には
しかし、久美子の言う事が本当ならば"武装色の勇気"はその問題を解決できる。
「進化体を殺す事ができる。……それは実際に試してみたの?」
「実は前に郡千景が来訪してきたんだが、その時に来訪してきた奴がもう一体いる」
「……え?」
「進化体……"獅子座バーテックス"だ」
「……⁉︎」
その名前に歌野たちは驚きの表情を見せる。獅子座といえば京都支部を壊滅させた進化体の一体だ。
先の戦いでは牡牛座しか現れなかったが、獅子座は大社が最も危険視しているバーテックスである。
「で、倒したんですか?」
「……結果的には追い払っただけだ。だが、その時に私の"武装色の勇気"は奴にダメージを与えられた。獅子座が特別じゃなければ確実に殺せただろう。……友奈がその証人だ」
獅子座バーテックスは、現時点で確認されている進化体の中では最強のバーテックスである。その強さ、能力は他を凌ぐと。
獅子座の懸賞金の額は『3000万ぶっタマげ』。勇者を含めても最高額。
しかもこの額は初期のものであり、獅子座が京都支部を襲撃した事でまた懸賞金が上がっていることだろう。
「どんな能力を使っていたの? ソイツは」
「獅子座は『メラメラの野菜』の能力を使う。あの巨体が炎を纏い、時に太陽を思わせる攻撃を放つ。……あれに対抗出来るのは四勇クラスの実力を持つ勇者。それと"友奈の名を持つ奴ら"や私くらいだ」
久美子がその中に入っているのは自信の表れだろう。"武装色の勇気"を習得すれば進化体や四勇にすら肩を並べられると。
「でも倒せなかったんですよね」
「……結果的にはそうだ。だが、戦えば嫌でもわかるさ。……
「……?」
「会ってからのお楽しみだ」
そう意味深な言葉を呟いた。獅子座がどうして"特別"なのかは戦ってみないとわからない。そして特別なのは獅子座だけでは無い事も。
「話を戻すぞ。強大な敵に対抗する為の"勇気"。この最大の利点は、鍛えれば
"勇気"について更に分かっている事を説明していく。
「そして"勇気"には大きく分けて二種類の色がある事も説明したな」
「気配が分かる『見聞色』。身に纏って戦う『武装色』よね?」
「だが実はもうひとつ……これは初めから
「覇王……色」
「"武装色"と"見聞色"は誰しもが扱える可能性を秘めているが、"覇王色"ばかりは天性の才能だ。……私を含めて奈良の誰もが持っていない」
茉莉や友奈、久美子でさえも"覇王色"の素質はないと言い切った。
この世界の中でもその才能を持つ者は片手で数えられる程度しかいないようだ。
「四国を目指すなら、そういった強者にも遠からず会えるだろうな」
"四勇"乃木若葉をはじめとする実力者たちも恐らく"勇気"を扱える筈だ。
もしかすれば歌野たちが知らないだけでこれまで出会い戦ってきた"七武勇"の中にも使い手がいるだろう。
(三好夏凛……は確かあの時、剣が黒くなってたっけ)
雪花は芽吹と夏凛の決闘を思い出す。あの時雪花は夏凛の剣が勇者の野菜の能力によって変色したのかと思ったが、恐らくは"武装色の勇気"だろう。
「……以上が"勇気"についての説明だ。次に
ポケットから先ほど使用していたスマートフォンを取り出す。
「これは私が開発したものだ。基本的には外部からの情報をスマートフォンに記録して任意のタイミングで放出する。……これが
百聞は一見にしかず、という事で久美子はテーブルの上にスマートフォンを置いた。
「白鳥歌野。お前このスマホに攻撃してみろ。勇者の力を使ってな」
「え……スマートフォンがデストロイしちゃうと思うけど……」
「しないさ。見てただろう? バーテックスが突撃してもヒビひとつ入らなかったのを」
「んん! それもそうね。……よおし! ムチムチの
スマートフォンにベルトを叩きつけた。
……しかしどういうわけか、触れた瞬間勢いが急速に無くなり辺りに沈黙がはしる。ベルトが衝突した音さえも聞こえなかった。
「……ん⁉︎ あら?」
スマートフォンにはヒビどころか、1ミリもそこから動いていない。
「歌野、易しすぎだよ」
「そうじゃないわ。……だって私、割とパワー込めて攻撃したんだから」
「……え? でも」
懐疑的な雪花へ久美子が手招きする。
「よし。じゃあスマートフォンを裏にして……秋原雪花。お前その側面のボタン押してみろ」
「……?」
言われるまま、雪花はスマートフォンの表を机に向けて置き、側面のボタンを押す――。
ドガァン‼︎
「――ぅわああ!?」
その瞬間、机が音を立てて真っ二つに破壊された。
「痛っったああ⁉︎」
「雪花⁉︎」
右手を押さえながら雪花は床に尻餅をついた。
「これで分かったな?
「め……めっちゃ痛かったぁ〜」
右手をぶらぶらさせて雪花は苦痛の表情を浮かべる。
「衝撃だからな。気を付けないと反動で腕が折れたりするわけだが……」
「先に言ってくれませんかねえ!?」
雪花の怒りの混じったツッコミなど意に介さず、もう片方のポケットから真っ白なスマートフォンを取り出す。
「ちなみにこれは『
「烏丸さんは……本当に考古学者なんですよね?」
「本職はな。……だがそればっかりしているのも
自らが開発した
また、開発途中だが
「……なんか、色々あって頭がこんがらがってくるわ」
「あっははは。私も茉莉さんもまだよく分からない事多いから。……あっでも、お陰でバーテックス退治は凄く助かってるのはホントだよ」
「そうね。……特に"武装色の勇気"というのは、極めれば戦いを優位に運べるのよね」
芽吹は興味津々だった。攻撃力や防御力を飛躍的に向上できるのであればこの先、強敵との戦いも渡り合えると考えたからだ。
「芽吹の言う通りだわ。あの時、烏丸久美子の足は靴やズボンに関係なく武装色で硬化できてた。ならば芽吹の刀や歌野のベルトにも
「なかなかの洞察力だな、弥勒蓮華。その通りだ」
今、芽吹が持っている刀は大社から防人装備として神樹の力が僅かながら宿っている。夏凛に片方を折られた今、それを失ってしまえばもう星屑すら倒せない。
「どうやったら武装色を使えるようになるの?」
問いかけてくる芽吹に少しばかりの焦りを感じ、久美子は少し間を開けて答えた。
「私がここまで"勇気"を扱えるようになったのに
「…………そう、なのね」
やはり一朝一夕では身に付かない。仮に芽吹や歌野が奈良に留まり鍛錬したとしても年単位は長すぎる。
「う〜〜ん。"勇気"については私も気になるけど二年は待てないわね」
「だろうな。……まぁ習得したとして、本番で機能するかは自分と相手の力量次第だ。付け焼き刃じゃ意味無いし、使えないなら使えないなりにやりようはある。……お前の防人装備がそのひとつだ」
「……はい」
芽吹は少し不服そうに返事した。
「――あの‼︎ すいません!!!」
突然、ひとりの女性が入口から血相を変えて入ってきた。
「ど、どうしたんですか⁉︎」
「う……うちの子を……見ませんでしたか⁉︎ 一時間ほど前から姿が見えないんです」
その言葉に久美子、友奈、茉莉、黒シャツ男の四人が反応する。
「あの子ですか⁉︎」
「そんな……」
(先刻バーテックスが襲来したのよ。……少しばかり不味いんじゃないかしら?)
蓮華は目の前の母親の事を考え、口には出さず心の中でそう思った。
太陽は西の山に掛かっており、もうすぐ本格的に暗くなる。これはすぐに見つけなければ最悪の事態になりかねない。
「――ちぃ‼︎」
すると黒シャツを着た男が勢いよく立ち上がり猛ダッシュで飛び出していった。
「わ、私も!」
続いて友奈も飛び出して男とは別の方角へ走り出した。
「私たちも探そう、うたのん」
「オフコースっ。当たり前よ」
歌野と水都も子供を探しにいく。後の者も続こうと立ち上がるが……。
「……フッハッハッハッハッハ!」
急に声を上げて笑い出した久美子へ今いる全員の視線が集まる。
「何がおかしいの?」
「いや、黒シャツの事でな。……大丈夫だ、お母さん。あなたの娘は
そう言って行方不明となった子の母親を椅子に座らせお茶を淹れる。
「茉莉。バーテックスの気配だけ確認してろ」
「分かってます。……すみません、私も捜索に行きたいので誰か手伝ってくれませんか?」
「この雪花さんに任せといてくださいなー」
「ありがとうございます」
そして残ったのは久美子と母親、そして芽吹と蓮華だった。
「出来れば黒シャツに見つけ出させたいもんだ…………が、おっと失礼。……今は子供の安全が最優先だな」
独り言を呟いた久美子へ蓮華が睨み付ける。一刻も早く子供を見つけたいと思う母親を目の前にしては些か失礼な独り言だ。
「大丈夫さ。……あいつらなら、な」
久美子は懐から取り出したタバコに火をつけて吸い始める。
そして、程なく帰ってくるであろう彼女たちを待ち続けた。
・勇気:全世界の人々に潜在する「逆境に立ち向かう意志の力」。「気配」「気合」「威圧」など目に見えない感覚を操ることで相手を気絶させたり、身体を硬化させたり、気配を強く感じることが可能。勇気を扱えるようになるには厳しい鍛錬が必要なため、実際に習得できる者はごく一部。(稀に、精神的なショックや生死をかけた戦いの中で覚醒する者もいる)
勇者の中にも何人かは"勇気"を扱える人がいます。(前々から匂わせていたつもり)
基本的には得意な色に偏ってしまいがちですが、バランス良く鍛えている人もいます。(はっきり言って乃木若葉のこと)
そして実は"覇王色の勇気"を使える人にはある共通点があります。分かっている人は心の中でニヤニヤしていてください。
次回 横手茉莉は繋ぎ止めた