白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。過去がどうだろうと白鳥さんのやる事は変わりません。


前回のあらすじ
 男から過去の話を聞き、高嶋友奈はこの土地の彼らを想うが故にここに縛られ続けていた事を知る。そして歌野は行動に移す。果たして彼女に自由を与える事が出来るのか。


第六十七話 命を捧げた恩返し

 水都と雪花は何かを決心した歌野に首を傾げた。

 先程の話を、歌野は例によってほとんど聞いていないと思われるが、それでも彼女には考えがあるようだ。

 

「うたのん? やる事が決まった、って何か考えがあるの?」

「何かの方針が決まった?」

 

 二人の疑問に笑顔でこくこくっと頷く。

 

「友奈を私たちのメンバーに迎えるってこと!」

「……え?」

 

 思っていた回答と違い二人は表情は固まる。

 

「と言うより、元々私は友奈と茉莉さんを誘ってるんだから頼まれるまでもないわっ。初めて会った時から誘ってるんだもの」

「うん……そうなんだよね」

 

 歌野は友奈と茉莉を見たときから誘っていた。そしてそれは今も変わらない。

 歌野のその姿勢を見た男は少しだけ笑ったあと真面目な顔に戻った。

 

「今の友奈は久美子の姉貴に()()()()()()。自分のやりたい事を押し殺して奈良のために……俺たちのために。でももうその犠牲心も終わりにしてやりてェんだ」

 

 実を言えば友奈だけでない。話を聞いた限りでは久美子はこの奈良にいる人たち全員を支配していると言っていい。

 

「友奈は最初は久美子の姉貴の提案を受け入れてみんなを守ってた。実際、茉莉の力と友奈の力で、ここに留まってからはバーテックス(バケモノ)を直に見たやつはいない。その前に倒しちまってるからだ」

「確かに今日もそうでしたね」

 

 他の目に触れずバーテックスを倒すことで、ここにいる人たちはかつてのトラウマを呼び起こされずに暮らせている。

 そして久美子が見つけたという病院にはまだ使用出来そうな医療器具、比較的清潔なベッド等がありバーテックスの恐怖で苦しむ人たちの精神は少しずつ回復に向かっていった。

 

「この土地に住んでる人たちはみんな普通に暮らせてると思うだろ? 実際その通りで生きるのに事欠く様子はねェ。だが、ここから出ようもんなら久美子の姉貴のチェックが入る。ここは一見穏やかにみえるが、実情は姉貴の支配下に置かれてんだ」

 

 奈良に留まることを決めた烏丸久美子の手腕により、三年前のあの日から今日に至るまでバーテックスによる被害など皆無といっても差し支えない。

 生活の面においても、自給自足の生活がいち早く確保できるために的確な指示を出したのも他ならぬ久美子だった。

 

 すなわち、奈良(この場所)において久美子はリーダー的立ち位置であり実質的な支配者なのだ。

 

「それが良いのか悪いのかなんて俺には分からねェ。だがそれに一番縛られてんのは高嶋友奈なんだ。……だからあいつを連れ出して欲しいんだよ。ずっと行きたがっていた四国へ、な」

 

 『四国に行きたい』

 

 その願いに蓋をして友奈は戦い続けている。自分だけがバーテックスに対抗できる"勇者の野菜"の能力を得た勇者だから。

 

「だが今は……久美子の姉貴がいる。"武装色"を使える姉貴なら友奈の役割を全うできる。あいつが居なくたってここの全員を守れる力を、姉貴は持っているんだ」

 

 久美子が"武装色の勇気"を扱える事でバーテックスを倒せる力を手にした。つまりもう友奈が奈良に留まり続ける理由に以前のような拘束力は無い。

 

「それに、前に"四勇"が来てからあいつは一層、四国への憧れが強くなってる」

「それって郡千景さんのことですか?」

「友奈が『ぐんちゃん』って言ってた"こおり(アイス)の人"の事ねっ」

「いやいや歌野。多分漢字変換間違えてるよー?」

 

 四勇の郡千景が奈良へ来たとき、友奈ととても気が合ったそうだ。それからというもの、友奈は四国への想いを更に募らせていった。

 彼女は今、奈良で戦い続けるという使命と、四国へ行きたいという願望とが強く心に表れている。傍から見ている彼らには分かり易いくらいに。

 

「何度でも言う。……友奈をお前らの仲間に入れてやってくれ。あいつを四国への旅に同行させてくれ! ……このとおりだっ」

 

 そしてまた、男は地面に額をつけて頼み込む。

 

「頭をライズアップしてくださいっ。さっきも言いましたがこっちは最初からメンバーにスカウトするつもりでいるので、むしろオッケーですから」

「ありがとな。よろしく頼む」

「さて、そうと決まれば今からリトライしてくるわねっ」

「ちょっと待ってうたのん」

 

 早速友奈を勧誘しに行こうとするが水都と雪花が制止する。

 

「今日はもう流石に遅いから明日頼み込もう?」

「色々あったしねー。その方がいいと思うのさ」

「う〜〜ん。……ん! わかったわ!」

 

 今日のところは引き上げてまた明日友奈を誘うことに決めた。

 色々なことがあって歌野は忘れていそうだが、蓮華の武器も明日に完成する。ならばどちらにしろ奈良(ここ)を出立するのは明日以降になる。

 

「あっすみません。最後にひとつ、いいですか?」

「どうした?」

 

 水都は男に"もうひとり"のことについて尋ねた。

 

「茉莉さんは……連れて行けって言わないんですか?」

「ああ、茉莉か。……おすすめはしねェ。あいつはお前らの旅にはついていけねェよ」

「それは……」

 

 言いかけたが途中でやめた。彼女の人柄や先の話を聞いて、水都自身にもその心あたりがあったからだ。

 歌野たちの旅は障害ありきのもの。これまでも、そしてこれからも戦いは避けられない。それに茉莉は耐えられないだろう。

 

「だがもし、茉莉の心に何か変化があれば、もしかしたら友奈と共に行くかも知れねェけどな」

 

 そして歌野たちは芽吹、蓮華と合流して宿泊場所へ向かい今日の疲れを取った。

 

 

 

 

 

 

 

 ――翌日の朝。歌野は早朝一番の畑仕事を終わらせるとその勢いのまま友奈のところへ向かった。蓮華は預けていた武器を取りに行き、芽吹はそれについていった。なので今は水都と雪花の三人である。

 

「ここにいたのねっ友奈!」

「ウタちゃん? それにみんなも。おはよう」

 

 友奈がいたのは小規模の病院だった。所々寂れてはいるが倒壊している場所はない。

 

「グッドモーニング! 友奈、貴女にお願いがあって来たわっ。私と――」

「ごめんね」

 

 言い終える前に友奈から断りの返事がきた。

 

「わーおっ。クイックすぎるアンサー!」

「あっはは……。流石に分かっちゃうよ」

 

 友奈はまた、どこか寂しげな表情をした。

 

「前にも言ったよね? 私はここで戦い続けてみんなを守るって。だからウタちゃんたちとは行けない。……四国へはいつか、自分たちで行くよ」

「バットながらね、サムデイと言いつつスリーイヤーズもいたんじゃエターナルに四国へゴーイングできないじゃない!」

「うたのん、もう少し落ち着いて。多分伝わってないよ」

 

 若干ヒートアップ気味になる歌野を宥めようとする。

 

「友奈、確かにここに勇者は貴女しかいないけど、でもバーテックスを倒すのに必要な力を持ってるのは貴女だけじゃないわっ。烏丸さんがいるじゃない」

「うんそうだよ。でも……久美子さんがいるからって私が戦わなくていい理由にはならないよ。むしろ久美子さんと二人でならもっとみんなを守れるんだから!」

「でも四国にずっと憧れてたのよねっ?」

「そうだよっ。でもここで私は戦い続けなきゃいけないからっ」

「その役目は烏丸さんがチェンジしてくれるっ。それに貴女が自分を押し殺す必要ないじゃないっ」

「久美子さんがいるからって私がやらなくていい理由にはならないよっ」

「でも本当に四国へ――」

「ちょっとちょっと! 会話がループしちゃってるんだけど⁉︎」

 

 雪花も二人の間に入り、少し距離を空けさせてクールダウンさせようとする。

 

(いやー、まさか歌野がこんなに熱を入れて勧誘するなんてねぇ……)

 

 今までも仲間の勧誘に歌野は一生懸命だったが、今回はより熱心さが伝わってくる。

 それは、今の状況に呑まれて動けなくなっている友奈を想ってのことだろう。

 

「ウタちゃん。私はね、自分のわがままで茉莉さんやみんなを奈良に留まらせちゃってるんだよ。なのに私だけ一足先に四国へ行くなんてできないよ」

 

 その歌野の熱心な説得も友奈の心には届かない。

 自分が奈良で戦い続けると決めたことで四国への道を閉ざした。彼女はその責任感に囚われている。

 茉莉をはじめ、四国への避難を望んでいた全員が、"みんなを助けたい"という自分勝手な願いによって絶ってしまったのだと思い込んでいる。

 

「一歩間違えればここでバーテックスに襲われて死んじゃうかもしれないっ。……襲われなくたってバーテックスへの恐怖で心が壊れちゃうかもしれないっ。それでもみんなは、ここに残ってくれた! 私のわがままを聞いてくれた!」

 

 最初は納得してくれなかった人たちも、最終的には友奈の意を汲んでくれた。四国の方が安全だというのに、一緒に留まる事を選んだ。

 

 ――故に友奈には、彼らへの多大な"恩"がある。

 

「だから私はここで戦い続けるの! 今までも! これからも!」

「ずっと……って。命尽きるまで戦うつもりなの?」

「そうだよっ、たとえそれで死んじゃったとしても! みんなの役に立てたのなら……私は幸せなんだよ……?」

 

 友奈がここに居続けることが、奈良の人々への"罪滅ぼし"になる。

 そして、自分のわがままを聞いて留まってくれた茉莉たちへの"恩返し"になる。そう結論付けて彼女は今も戦い続けている。

 

 その気持ちを聞いた歌野は――。

 

「まったくもってわからないわっ‼︎」

 

 かなぐり捨てるかのように大声を上げ、友奈の両肩を力強く掴んだ。一瞬走った肩の痛みに友奈は顔を引き攣る。

 

「死ぬことは恩返しじゃないわよ⁉︎ そんなつもりでみんなはここに留まってる訳じゃないでしょう⁉︎ 貴女の死と引き換えに助けられたってハッピーになる人なんてどこにもいないじゃない! それにっ、誰かを助けたいって想いが、どうして"罪"になるの⁉︎」

「そ、それは……っ。……で、でもどうしようもないんだよ!」

 

 掴まれた手を無理矢理振り解く。

 

「私ひとりで解決するんならそれでいいんだよぉ!」

「それが納得いかないから私は貴女を連れ出そうとしてるのよっ」

「そんなの勝手だよッッ! これは私が決めたんだからぁっ!」

「友奈っ……てちょっと⁉︎」

 

 友奈は全速力で走り出した。まるで逃げるように。

 

「まだ話は――」

「うたのん待って! ちょっと冷静になろう?」

「何度も言うけど暑くなりすぎ。このまま追いかけても平行線だよ」

 

 二人は追いかけようとした歌野を止めに入る。

 歌野は立ち止まり、頭に手を当てて唸る。

 

「う、う〜〜ん。どうしたものかしら?」

「ちょっと視点を変えてみよう。ね?」

「……ん、わかったわっ。サンキュー雪花っ、みーちゃんっ。クールダウンしましょう」

 

 目を瞑ってひと呼吸おく。

 

「よしっ。雪花、みーちゃん。オペレーション変更よっ」

「えっ、はや……。今度は何するの?」

「見るポイントを変えてチャレンジしてみるわ」

 

 そう言って歌野は走り出し、二人もあとに続く……。

 

 

 

「……ん? あれは……歌野?」

「あら? 何かあったのかしら?」

 

 鍛冶屋から預けていた武器を受け取っていた蓮華は芽吹と共に走る歌野を目撃した。

 

「歌野っ。この蓮華の武器、精霊刀(ソウルソリッド)が戻ってきたわ。これで――」

「ソーリー。二人ともっ。今ハリーアップで行かなきゃいけないところがあるから!」

「……?」

 

 歌野は立ち止まることなく駆け抜けていき、あとから追いかけている雪花と水都と合流して、二人も共に追いかけた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで私の所に来たわけか」

 

 そうして辿り着いた場所は久美子が居る施設だった。歌野は久美子を呼び出すと開口一番に頼み込む。

 

「お願いがあるのっ。友奈を私にください!」

「「えええッッ!!?」」

 

 雪花と水都は歌野の言葉に思わず大きな声が出てしまった。

 

「うたのん! 誤解を招くような言い方しないでよぉ」

「あー心臓止まるかと思ったー」

「何を言い出すのよ。歌野は……」

「フッ。ストレートで嫌いじゃないけどね」

 

 久美子は少しの間黙っていたが、特に表情を変えることなく呟く。

 

「……ああ、事情は何となく分かった。おおかた黒シャツか茉莉あたりに昔の話を聞いたんだろう? で、私なら友奈を説得出来るんじゃないかとここへきた訳か」

「ザッツライト! ……と言う訳なので烏丸さんから、友奈を説得してもらいたいの。それか、友奈を説得出来るハウトゥーをテルミーしていただきたいの」

「なるほどな……」

 

 今、この中では友奈のことを一番理解しているのは久美子だ。友奈を仲間に迎え入れる為には久美子の力が必要である。

 バーテックスと戦える久美子が、友奈の代わりになると確約出来れば、友奈を縛るものを解き放つことができる。

 

「……お前たちの頼み事を訊く代わりに、こちらの条件を呑んでもらうがいいか?」

「条件? 蓮華と同じようなサムシングかしら?」

「おっ。ギブアンドテイク……ってやつかにゃぁ」

「デジャヴね」

「この蓮華の条件をクリアした貴女なら、問題ないわね」

「ええ、成し遂げてみせるわっ」

 

 歌野が張り切る中、久美子は水都に視線を移し淡々とその条件を口にした――。

 

 

 

「藤森水都。お前……()()()()()()()

 





「彼女は度を超えて優しいから。誰かの為に犠牲になると決めたらもう動かない!」

「だってそれがお前だろ?」


次回 覚悟をみせろ! 藤森水都VS烏丸久美子
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