勇者であるシリーズで最強のキャラは誰ですか? と聞くと口々に人はこう答える。
「
…………マジですかい。
前回のあらすじ
久美子と水都の決闘が始まり歌野たちは固唾を飲んで見守る。相手の力の前に成す術を失っていく中で、果たして水都は活路を見出すことができるのか。
久美子と水都の決闘が始まって僅か三分程経つが、水都にはもう打つ手が無くなっていた。
使うかどうか迷っていた銃や剣の類も久美子の"武装色"の前では碌なダメージにならないことを他でも無い本人によって証明された。
この中にある殺傷性の高い道具が彼女に効果なしと分かれば、もうハンデの意味を為さない。
(自分の置かれている状況が分かったか? ならもう少し
久美子は水都を自分の背と同じ高さまで引っ張り上げる。そしてそこから手を離し背中から落とした。
「――ふぐっ⁉︎」
受け身も取れず落ちた衝撃が無防備な背中を襲う。
「…………っ」
よろよろと身体をふらつかせながら右手を拳銃へ伸ばす。それを掴んで立ち上がると、グリップ部分を握り左手で支えて銃口を久美子に向けた。
「やっとやる気になったか」
久美子は歩き、水都と歌野たちの間に立つ。この時、銃口と久美子と歌野たちとが一直線上に位置した構図となる。
(うたのんたちを背に……)
「銃に慣れていない者は止まっている的さえ当たらないもんだ。今のこの状況で撃って、果たして私だけ当たるかな?」
水都は射線をずらそうと横に移動する。すると久美子もまた移動する。
「水都ちゃんが銃を持ったっ」
「でも烏丸久美子は今、私達を背にする事で水都が撃てないようにしているわね」
「なら私たちが移動して……」
雪花が言いかけている途中で久美子は後方をチラッと見たあと首を横に振る。
「フハハッ。……冗談だ。そんな事しなくていいぞ」
歌野たちをバックにしていたが簡単にその位置から離れた。
「銃を使う相手と戦う時、こういうやり方もある。と教えたいだけだ」
水都を面白半分に相手しているだけで仕掛けようとはしない。対する水都も構えていた銃の引き金を引かずに下ろしてしまう。
「……や、やああ!」
そしてそばにあった木の棒に持ち替えて久美子へ振るう。
久美子は横向きで向かってくる棒を半歩退がって避ける。
(むぅ……)
二撃目を当てる為、横に振るった棒を大回りで上段の位置に持っていく。
「はぁあああ!」
背中を少しのけ反らせ、勢いをつけて振り下ろした。
「隙だらけだな……」
久美子に当たる寸前で
(……っ!)
「どうした? 今、私に当てる事を躊躇したのか?」
久美子は棒を掴んで水都ごと引き寄せ、その額に頭突きを放つ。
「っくぁあ⁉︎」
「少しはやる気になった……と思った矢先にこれか……」
久美子はやや呆れた表情で目の前にいる相手に向かってため息をつく。
(……茶番だわ)
芽吹は水都と久美子の戦いを眺めていてそう思った。
久美子は水都の攻撃を軽くいなしながらも決定的な一撃を与えずに弄んでいる。その気になればすぐ決着がつくというのに。
それでものらりくらりと長引かせているのは水都の行動を待っているからだ。……自分に勝つ方法を選ぶ
「さあさあ藤森水都。動け動け。足掻け足掻け」
「はぁ……はぁ……。んっ」
水都の方は時折辺りを見渡して策を考えているように見える。だがその策を考える時間は他でもない
……水都からの攻撃は久美子には効かず、久美子の攻撃はあからさまな手抜き。
これを茶番以外に何と呼ぶのか。
それに芽吹も蓮華も、おそらく雪花も……この決闘で水都が即座に勝てる方法を知っている。むしろ彼女たちの思考はそれに流される。
(そもそもあのハンデが明示された時点で決闘として成り立って無かったのよ)
芽吹たちの前で繰り広げられている闘いは、最初から久美子の手のひらの上だった。
(歌野……。私は止めるわよ? 水都が最後の手段をとる前に……)
水都が持っている棒の先端がカタカタと揺れているのを見て久美子は眼を細め冷徹な視線を送る。
「棒も振らされているだけ。銃の持ち方もぎこちない。銃口も棒先も震えて定まらない……。何より……」
右腕を掴んで引き寄せる。水都は掴まれた痛みで木の棒を手放し地面に落とした。
「私が避けなかった時、僅かに集中力が乱れた。一瞬ビビったな?」
"武装色"を纏った久美子へ攻撃が効かない事は分かっている。それでもなお、水都は当たる寸前で緩めてしまった。
「もう駄目だな、お前は。……勝つ気が無いのならもう敗けろ」
「敗けたくは……ないです。だって、私は…………」
そこから先の言葉は出なかった。足が震え完全に腰が引けている。気持ちは敗けたくないと思いながらも、身体の方は正直に自身の心情を吐露する。
(やっぱりダメなのかな……私には……)
ネガティブな思考が身体の中を這いずり回っていく。とても不愉快な気分だ。そんな自分が嫌になる。
(こんな私じゃあ、うたのんと一緒に居続ける事なんて……)
「――みーちゃん!!!」
「……っ⁉︎」
その時、歌野の声にハッと我に返り、声の主を見た。
(うたのん……)
歌野は水都の名前を呼んだだけでそれ以上何も言わなかった。ただ、まっすぐな視線だけを水都に送る。
「…………うん」
その無言のエールが水都の気力を取り戻していった。震える足を踏み止まらせ根性で奮い立たせる。
(うたのんの事を考えるだけで……うたのんが見守ってくれている、ただそれだけで不思議と安心する。勇気が出てくる。うたのんといれば、私は……っ)
心の奥底が熱く感じる。大切な人への想いが、水都の気持ちを強くさせていく。
(なんだ? さっきまで弱りかけていた筈が……持ち直した?)
久美子からすればただ歌野に名を呼ばれただけ。たったそれだけで水都の弱々しい顔色が失せていくのを感じる。
「諦めないって顔だな」
「諦めません。勝ってみせます!」
「口で虚勢を張ろうが無駄だ。お前の軟弱な姿勢にはいい加減飽きてきたところだった」
その場で軽くジャンプしたあと、水都を射殺すように睨み付ける。一時的に奮い立たせたその気持ちは、またすぐに剥がれることになるだろう。
「今から本気で攻撃する。ダウンしたらその瞬間、お前の旅は終わりだ。
眼光と言葉で威圧感を放つ。水都の持ち直した心を完全に折るために。
(どうやら極限まで追い詰めなければコイツは行動してくれそうもないしな……)
じりじりと水都は相手との距離をとる。しかしそれは恐怖で退がっているわけではなく、その目は久美子を捉えて離さない。
「何をそんなに懸命になれるのか。……真向勝負で私に勝てるわけが無いのになぁ。四国に行ける筈もないのになぁ。なんなら奈良でずっと私たちと暮らすか? 最初は不便に感じるかもしれんが。なに、すぐに慣れるさ。ここの連中のようにな」
「ここの人たち?」
「ここの奴らは最初は反抗的な態度を取っていたが、少し経てば、ここの生活に浸り
久美子や友奈、茉莉のおかげで安全が保たれているこの土地に彼らは根を下ろした。最初の目的である"四国への避難"など疾うに忘れて。
「リスクを背負ってでも四国へ渡れば、バーテックスに怯える事もない生活が半永久的に保障されるというのに。ここの奴らはそのリスクに怯え、友奈と私と茉莉に依存し、仮初の平穏を享受している」
なりふり構わず四国を目指そうとした志などは鳴りを潜め、初心を忘れ、飼い慣らされているのだ。
「――私はそうはなりません」
水都は首をゆっくりと横に振った。
「私はうたのんと一緒が良いんです。だからここにはいたくありません。諏訪にも帰りません。……帰る時は、うたのんが"夢を叶えた時"です!」
「お前らがいくら四国に憧れ目指そうとしても、向こうの連中は"外の人間"を入れようとはしない」
「知っています。私たちはあれから、何度も妨害に遭って……」
「――そもそも何故妨害してくるのか、考えたことがあるか? ……弥勒蓮華、楠芽吹。お前らは何か知っているか?」
「……?」
あえて四国出身者の二人に問う。
何故、四国を目指す事を四国の住人は……いや、大社は拒むのか。
「私たちがいる四国の外はバーテックスの強襲を受け続けている。しかし四国内はあの日以降、一度たりとも侵攻を許してはいない」
「それは神樹様の結界が強すぎるからじゃないんですか」
「勿論、神樹が作った結界のおかげだ。……だが、
「……?」
含みのある言い方をしてくる。
……まるで、大社がバーテックスを意図的に四国へ来させないようにしているかのような口振り。
「バーテックスが四国を襲わないのは、結界を破るより人間を殺す方を優先しているからだ」
「優先……?」
バーテックスは人を根絶させる為に現れた。ならば人が多い場所に狙いを付けるのは当然のこと。
しかし、神樹の結界を突破しない限り四国の人間をバーテックスは襲えない。したがって結界を抜けるより、
「「……ッ!」」「えっ⁉︎」
それを聞いた時、芽吹と蓮華は黙ったまま歯軋りをする。雪花は驚いて声が漏れた。三人は烏丸久美子の意図を察したからだ。
「白鳥歌野、藤森水都。まだ分からないか? それとも薄々気付いていながら信じたく無かったのか?」
歌野は真剣な眼差しで久美子と水都の闘いを見つめたまま。
水都は右腕で目元を覆い、表情を見せないように隠した。
「もし四国へ、生きている人類全てを収容してしまえば、バーテックスの狙いは自ずと四国に向く。そうなれば奴らは結界の突破に力を費やす」
しかし四国の外に生き残りがいる事でバーテックスはまず、四国の外の人間を殺す事を優先する。
――そしてそれこそが大社の狙いだった。
「奴らが拒む理由は食料問題じゃない。移住問題でもない。――私を含め、外にいる人間をなぁ……四国を守る為の
久美子の放った言葉が、辺りをしんと静まり返らせる。
「クックック……クフッ……フッハッハッハ」
「烏丸さん……。それを知っていて、奈良に留まり続けているんですか?」
静寂の中だからか、水都の小さな声がよく通った。
「……ああ、そうだな」
「……どうしてそれを今言ったんですか?」
「四国に行ってもお前たちを受け入れてくれる人はいない。そう教えて
口角を上げ、歪んだ笑みを浮かべる。烏丸久美子という女の本性を曝け出す。
「…………以前の私なら絶望してた」
「あ?」
水都は小さく呟いた。今度はよく聞こえない。
「でも……うたのんと旅を始めて、色んな人と戦いを経ていく中で、私はこのままじゃダメだって思った……」
――なによりこれ以上、
「いくら貴女が言葉巧みに惑わせようとしても……絶望へ誘おうとしても……私は揺らぎません! 旅の中で強くなったのは何もうたのんたちだけじゃないから!」
久美子の想定なら水都を絶望させて最後の手段をとらせるつもりだった。しかし予想外にも水都は諦めが悪かった。
……誰の影響を受けたのかは分からないが。
「……ちっ。だったらもう終わらせてやるよ。この
その水都の揺るぎない意志が、久美子にとっては目障りだった。
「力尽くでなァ‼︎」
足に力を込め強く地面を蹴った――と同時に、水都は自分の足元に落ちていた"ある物"を拾い、彼女へ放り投げた。
(私の白衣……だとっ?)
久美子が戦う前に脱いだ白衣が目の前を覆った。
そしてこの瞬間、彼女の視界は白衣に包まれ水都の姿が隠された形となる。
(ブラインド……⁉︎ だがなっ)
地面を踏み締め、一旦後ろへ跳んで距離を取る。
(突っ込んでくれば罠に掛けられると考えたんだろうが、甘いなっ!)
被さっていた白衣を右手で掴んで雑に投げ捨てる。
(今だっ!)
その時を狙って、水都は芯を出した"ボールペン"を放り投げた。
「なあっ!?」
咄嗟に左手で守り、ボールペンの先は腕を掠めただけに終わる。
「……惜しかったなぁ。私の白衣で視界を封じ、あまつさえ、擦り傷を付けた事は賞賛に値する……が残念っ」
右足の蹴りが無慈悲にも水都の身体を目掛けて飛んでいく。
「そんな稚拙な作戦で、お前が私にッッ勝てるわけ無いだろうが!!!」
放たれた渾身の右足の蹴りは、水都の腹部に吸い寄せられ――――止まった。
「……ッ!!!?」
よく見ると、久美子の足が身体に触れる直前、水都は手を翳して攻撃を受け止めたのだ。
しかしただで受け止めているのではない。……その手には久美子のよく知る"道具"が握られていた。
「貰いましたよ……久美子さんの"衝撃"!」
……パサッ と、後ろで先程投げ捨てた白衣が地面に落ちた音がした。
(まさか――)
「チャンスよ! みーちゃん‼︎」
歌野の掛け声と同時に久美子の胸元にスマートフォンを押し当て側面のボタンを押す――。
「"
水都が手にしていた
烏丸先生がラスボスに見えてきた今日この頃。
次回 これが私の覚悟だよ