この奉火祭編は『白鳥歌野は農業王になる』の中で3番目にやりたかった内容です。
『――見えない壁の向こう側に、待っている君がいたんだ。もうすぐに届くから。信じて進もう、ひとつの世界へ』
第七十二話 動き出す者たち
歌野たちが奈良にいた頃、大阪の梅田地下街にいるNo.7の元に一本の連絡が入っていた。
「No.7。少しよろしいですか?」
「忙しいんだけど? あと私は今、地下アイドル"ウメコちゃん"なの」
「そのネタまだ生きてたんですね。それはそうと大社本部から連絡です。先日討伐された『牡牛座バーテックス』の件で」
ライブ衣装を着てマイクを片手で回転させて遊んでいたが、その一言で無表情に変わり防人装束に着替え始めた。
「……ふーん。面倒くさいな」
防人としての仕事は他の人へ任せ、自分はアイドル業に専念している現状。しかし本部から直接呼び声がかかった以上、応じざるを得ない。
「……はい。こちら"元"京都支部担当、指揮官型防人No.7です」
『単刀直入ですが、貴女に連絡を申し上げます』
相手は大人の女性の声だった。おそらく防人を監督しているいつも仮面を付けた女性神官だろう。
『先日、進化体である牡牛座バーテックス討伐に関しまして、
「ん? ちょっと待ってくださいよ」
女性神官のその言葉に疑問を感じた。
確かに部下を通して大社本部には牡牛座の討伐を報告させた。しかしその討伐は他ならぬ歌野たちが行ったことだ。
「私たち防人が? ……あのさぁ、牡牛座を討伐したのは白鳥歌野率いる一味ですよ? ちゃんと報告を聞いてましたか?」
話し続けながら先程連絡を知らせに来た、部下であるNo.30を見る。彼女はこくこくっと頷いてその件の報告したという意思を伝える。
『――さらに上層部より、
しかし、相手の神官はNo.7の言葉を無視して話を進める。
「聞いてる⁉︎ 京都で牡牛座バーテックスを倒して
そこでNo.7は気付いた。相手の女性神官は、いや大社本部はこの一件を
(なるほどぉ。大社にとって敵である彼女たちに借りができた、なんてお偉いさん方の体裁が悪くなるもんねぇ)
京都支部を潰され、
『……つきましては、貴女方には――』
「
こちらの言葉に何の反応を示さない相手に、No.7は少し怒りの混じった声で告げる。
「えっ……と、No.7?」
その様子を後ろから見ていたNo.30は冷や汗をかく。
「ねぇ神官さん、大社上層部の老いぼれさんたちに伝えてくれますか? あとこの状況を一向に解決しない"無能な勇者共"にもお願いします」
『? 何を――』
「クソ食らえってね!」
――ガチャ。
それだけはっきり言うと通信を切った。
「……あ、あのぉ」
No.7は振り返って舌を出してウィンクする。
「……テヘッ」
「テヘッ……じゃないですよっ。あとで怒られるの私たちなんですけどぉ……」
とぼけた様子で誤魔化すいつものNo.7を見て、No.30は本部への申し開きの内容を考えるのであった――。
――新たに高嶋友奈を仲間に加え、奈良を出発していた歌野たちは兵庫県に入っていた。
「ここが、ウエストジャパンの西部にあたる
歌野は抱えていた水都を一旦下ろして大きく背伸びをする。
「ん〜、もうすぐ四国なのねっ。ロングランドな旅だったわね、楽しかったけど」
「と言ってもまだまだかかるわよ? それに大社本部が近くにある。気は抜かないようにね」
大社本部は岡山県にあるが、実質
姫路城を拠点としている兵庫支部は本部の次に規模の大きい施設である。
「これから私たちは四国に向かおうとするのだけれど……
「三つのルート?」
蓮華は地面に簡単な地図を描き始めた。そして本州から三つの線を四国に繋げていく。
「本州四国連絡橋のことね」
「流石よ芽吹。四国出身である蓮華と芽吹は馴染みがあるけど、あなたたちは知らないかしら?」
「説明プリーズ」
蓮華は自分の地図を頼りに、歌野たちが今いる場所から近い順に説明した。
「蓮華たちの近い順で……『明石海峡大橋・大鳴門橋ルート』『瀬戸大橋ルート』『しまなみ海道ルート』。この三つよ」
兵庫県の神戸市と徳島県の鳴門市まで続くのが『明石海峡大橋・大鳴門橋ルート』。
岡山県の倉敷市と香川県の坂出市を繋いでいるのが『瀬戸大橋ルート』。
最後に、広島県の尾道市から数個の島を経て愛媛県の今治市に辿り着くのが『しまなみ海道ルート』である。
「昔は船で往来していたらしいわね。それこそ
バーテックス襲来前は自動車が数えきれない程に行き交い、電車が日に何度も往復していた。
「"古き良き"……ってわけじゃないけど便利になった分、惜しいって気持ちはあるわね」
「なら今回はそれを名一杯楽しみましょう!」
「まー、私たち
歌野たち勇者であれば、どのルートを通ろうと短時間で四国へ行くことはできる。
もちろん、何の妨害も無ければ……の話であるが。
「さて……じゃあどのルートを行く? やっぱり近い明石海峡大橋かしら?」
「歌野が決めていいよー。リーダー権限でねー」
歌野は描かれた三つのルートを指でなぞり答えた。
「ん〜、確かに早く四国に行く為には近いルートがセオリーだけど……ロングな道のりだって捨てがたいじゃないっ」
「……? つまり歌野はしまなみ海道を行きたいの?」
うんうん、と頷く。
「アドベンチャーは回り道を楽しむものよ♪」
「本当にそれでいいの?」
「気に入らなかったらもう一周するわっ。……とりあえずファースト候補はしまなみ! でも他の二つも実際に見て、パッションを感じたらそこにするっ」
「橋を渡るのにそこまで気分上々になれるのは才能だと思うわ」
「うたのんは四国へ行くことをずっと楽しみにしてたもんね」
歌野の判断に反論は無い。こうして彼女たちの指針は現状、『しまなみ海道ルート』に決まった。
「よし! 改めて、出ぱ――」
「――っ⁉︎ ちょっと待って歌野っ、バーテックスがきた‼︎」
景気良く号令をかけようとした歌野に邪魔が入ってしまった。
「ホントだわ。エブリワン、戦闘準備!」
「了解っ」
水都と友奈以外は武器を構えて向かってくるバーテックスの集団に相対する。
「よおし。私の初陣、ガンガンいくよお!」
ガンガンッと友奈は両手の籠手を胸の前で打ち鳴らす。
「とおおりゃああ。勇者キーック!」
「
バーテックスの集団は友奈の拳と蹴りで次々と倒していく。蓮華も自身の愛刀である
二人から漏れた敵も、歌野がベルトを叩きつけ、雪花が槍で貫き、芽吹が真っ二つに切り裂くことで片付けていく。
最早彼女たちにとって星屑などまったく相手にならなかった。
「凄い……。みんなあっという間に倒しちゃった」
「にゃっはは。ちょっと敵に同情するレベルだったにゃぁ」
当然、水都の元へは一体も近付くことはなかった。
「高嶋友奈。あなたはリーチが短くて敵とよく接触するから、どうしても被ダメージが多くなりそうね」
「そこはほらっ。根性でなんとかなるよぉ」
「無茶はノットよ友奈」
「うたのんが言えたことじゃないけどね」
「全員お互い様ってやつだにゃぁ」
歌野たち五人が和気藹々と話す中、芽吹は振るっていた自身の刀を鞘に収めずに凝視していた。
「芽吹、気になるのかしら?
それに気付いた蓮華が芽吹と持っている刀に視線を送る。
「……気にならないといえば嘘になるわ。この『和道一文字』っていう刀をね」
芽吹が使っている刀は防人の隊長に就任した際、大社から授与されたもの。
実は奈良にいたとき、蓮華の
――男曰く、その刀の名前を『和道一文字』と言うそうだ。
なんでもあの"四勇"乃木若葉が持つ名刀『生太刀』と同じ材質の玉鋼を用いて造りあげたという話だ。
『――今、刀剣の類を使う勇者の中で名を上げている者は皆、位の高い"業物"を使っている。四勇然り、七武勇然り』
鍛冶屋の男はそう言っていた。
芽吹自身、今まで自分の使っている刀のことなどあまり興味無かった。その刀が名刀であろうが鈍であろうが妖刀と呼ばれようが、"斬る"という刀本来の目的が果たせるのならばそこに拘りはない。
「名刀でも妖刀でも……己の目的に適しているのなら別に何でもって思ってたわ」
「そう? 蓮華としては……あの生太刀と同じ、というのが引っかかるけど」
若葉の持つ刀と芽吹の持つ刀は見てくれは別物である。少なくとも蓮華の記憶では似て非なるものだった。
(この刀が頑丈であることは感謝しているけど……)
芽吹は刀を収めると蓮華の背中に乗り、歌野たちに続いて明石海峡大橋を目指す。
――時は遡り。"四勇"伊予島杏は丸亀城を訪れていた。
愛媛県の統治を球子と安芸真鈴に任せ、杏はひなたと二人だけで落ち合う。
「単刀直入にすみません。杏さんにお願いしたいことがあるのです」
「ひなたさん……?」
ひなたは手配書を見せる。そこにはある少女の顔が写っていた。
「その手配書の方の
「……? どうしてですか?」
「大社は、近々"奉火祭"を執り行うつもりです。その為に彼女が必要なのだと、上層部の判断です」
手配書の写真を見ている杏へひなたは説明を続ける。
「しかし、この御役目を行う上で白鳥歌野さんたちが抵抗してくる可能性があります」
白鳥歌野たちに対する処遇は大社の防人が担当していた。それを四勇である杏に依頼してくるということは、防人の戦力では手に負えないと判断されたのだろう。
「今や彼女たちは支部の戦力では太刀打ちできない程強くなっています。そしてこれからもさらに力をつけてくるでしょう。……私は末恐ろしく思います」
北海道の件のみならず、歌野たちの元に向かわせた防人No.6も返り討ちにされたと聞く。
「その手配書の方が白鳥歌野さんをはじめとする一味に所属している以上、彼女たちの抵抗を御し得る人が必要なのです」
「だから四勇である私たちに白羽の矢が立った……そういうことですか」
そこでひなたは四勇のうち、誰がその御役目にあたらせるか考えた。
若葉はひなたの個人的な理由で歌野の元へ行かせたくはない。
千景はそもそも四国の外へ出たがらない。彼女が腰を上げたのは奈良の時だけだ。
そして球子は性格的にこの御役目は向かないだろう。
「杏さん……貴女ならば安心して任せられます。少なくとも私はそう信じています」
"信じる"。その言葉がひなたの口から出たが、杏にはそれが上辺だけの中身の無いように聞こえた。
「ですがひなたさん……。これは言い方を変えれば彼女たちから奪うということですよね? それを黙って見過ごす人たちとは思えません」
「その可能性も考慮して、貴女にお願いしました。……貴女なら、一人でも彼女たちを相手取れると思います。それに、防人も新たに援軍を出してくれるそうです」
杏は少し考えたあと、僅かに頷いた。
杏には断るという選択肢は無い。態度には出さないが、おそらくひなたはそれを許さないだろう。
「……分かりました。これも大社の……いえ、世界のためなんですよね」
「そうです。それは断言できます」
「承りました。私の御役目は彼女の身柄を大社にあずけること。その障害となる彼女たちへの対処を行うこと。……それで良いですか?」
「ありがとうございます。貴女に相談して良かったです」
ひなたはそう言ってお辞儀をすると、背を向けて歩いていった。
杏はひなたが見えなくなるまでその場に佇んでいた。
(ひなたさん……。一体、どれが本心ですか……?)
白鳥歌野が手配書に載り、その悪名が轟くたびにだんだんとひなたが掴めなくなっている気がした。
先程ひなたの言葉に中身が無い、と思ったが言葉だけでは無く、ひなた自身が杏たちの認識の外側に立っているような気さえ感じる。
(そこまでの人なんですか……? 白鳥歌野さんという方は……)
心に一抹の不安を抱えながらも、杏は御役目を果たすため岡山県にある大社本部へ向かった。
そして、大社本部にいる防人と勤めている神官たちとの会談を終えると、二人の精鋭を連れて兵庫支部を目指す――。
以下、この作品に登場する刀剣の名前を持ち主と共に少し紹介。(この作品では斧や槍も刀剣に含まれています)
・芽吹:和道一文字(今使ってる方)、雪走(夏凛に折られた方)
・蓮華:精霊刀(蓮華が名付けた細長い剣。爪楊枝とか言わない)
・若葉:生太刀(数々の刀剣の中で至高と呼ばれる刀)
・千景:大葉刈(最も凶悪な鎌の刀剣。死をもたらす妖刀)
・夏凛:桜十、木枯らし(三好家が作った双剣)
・風:むら雲切(最も大きい剣)
・銀:閻魔、天羽々斬(妖刀と呼ばれる双斧)
次回 邂逅! 結城友奈