前回のあらすじ
白鳥農業組合は兵庫県までやってきていた。あの海の向こうにある神樹様の壁。そのさらに向こう側に目指すべき大地が広がっている。しかし彼女たちはまだ気付かない。大社がその道を妨害すべく動き始めていることに……。
兵庫支部にやってきた伊予島杏。
彼女を出迎えたのはこの支部を任されている指揮官型防人、No.5だった。
「まーっははは! わざわざ愛媛県からここまでご苦労なこったねぇ」
「伊予島杏です。出迎えて下さりありがとうございます」
迎えられた杏は軽くお辞儀をする。
「それと……本部からの援軍ですねぇ。No.3先輩」
「クハハハ、姫路城か。……城ってのは良いモンだなァ。クソ共を見下ろすには絶好の場所だぜ」
杏の後ろにいた二人は、大社本部から援軍として今回の御役目にあたる。
そのうちの一人、No.3は不敵に笑い城内を見渡す。
「早速本題に入ります。今、彼女たちの居場所はどこでしょうか?」
No.5は兵庫県をクローズアップした地図を杏とNo.3の二人だけ見せる。
「私様の部下と神官たちで奴らの大体の位置は補足してる。方向からして今、彼女たちは神戸市か明石市あたりを目指してるねぇ」
歌野たちが兵庫県に入っていることは彼女たちを偵察している者たちからの情報で確定している。向かっている方角からして明石海峡大橋を目指しているのだろう。
「恐らくそこから四国へ渡るのですね」
「なら明石海峡大橋に陣を敷いて……」
No.5の提案に杏は首を横に振る。
「今から向かいます。ここから跳んでいけば一時間もかかりません」
「来たばっかりで大変だねぇ」
「偵察にあたっている方々にこれ以上、手間をかけさせたくありません」
「ま、仕事ははえー方がいいよなァ」
すぐに歌野たちの元に向かうことを決める。
「兵庫支部からの応援は? ……何なら私様も出向いてあのカバ共を叩こうか?」
「要らねェな。俺と四勇、そして"コイツ"で充分だ」
No.3は自分の後ろに立っている少女へ親指を向ける。
「なぁるほどぉ。今回の御役目はソイツの戦闘データの収集も兼ねてるってわけか」
No.5は杏と共にやってきたもう一人に視線を向けた。……いや、
「それでは行ってきます。支部の防衛は引き続きお願いしますね」
「はいはーい。いってらっしゃーい」
「んじゃあとっとと狩りに行くか。ついてこい"パシフィスタ"」
『パシフィスタ』と呼ばれた
――歌野たちは明石海峡大橋を見に行くため神戸市に入っていた。大橋の場所としては明石市と神戸市の中間あたりに位置しているため、もうすぐそこである。
彼女たちの現段階の指針としてはしまなみ海道ルートを行くが、歌野がどうしても見たいというので他二つも近くまで寄るつもりだ。そして気が変わればそのルートを採用する。
「――あっ、ウタちゃん。またバーテックスが来たよ」
「オーケー。迎撃しましょう」
ここに来てバーテックスの襲撃頻度が増したような気がする。これも
しかし、今回もまた星屑の集団なので歌野たちは軽々と葬っていく。
「貰ったわよ芽吹」
「はあああっ……。って、ちょっと」
芽吹が斬りかかろうとした瞬間、目の前のバーテックスが切り裂かれ消滅した。
「蓮華……人の獲物を取ったわね」
「フッ。この蓮華の目には止まって見えたから」
そう言いながら芽吹の近くにいるバーテックスたちを横取りしていく。
やはり剣を振るう速度では蓮華の方がこのチームの中では抜きん出ている。
そうこうしている間に、友奈も雪花も敵を倒していく。
「私も負けてられないわねっ。ムチムチの……」
「――もーらいっ!」
歌野がベルトを構えたとき、雪花の放り投げた槍がバーテックスを貫き仕止めた。
「ああ〜〜! 雪花にスティールされたわ!」
「にゃっははは。ごめんねー」
気持ちのこもっていない謝罪を口にしながら槍を拾う。
「……でもまだまだ来るわね」
「こう何度も来られると、
……と、芽吹に向かってくるバーテックスの一体が彼女を避けて通り過ぎて行った。
「……え?」
「今、芽吹を無視しなかった?」
「したした。楠ちゃんをシカトしたね」
バーテックスが人間を襲わずただ通り過ぎることは滅多にない。
奴らがこちらに関心を示さないのは、単純に気付いていないのか、他に優先すべきターゲットがいるかの2パターンだ。
ならばまず間違いなく後者だろう。
「今、向かった先に誰かいるのかもっ。行ってみましょう!」
「そうね。もしかしたら一般人かもしれない」
全員は通り過ぎたバーテックスのあとを追いかける。
「――うおおぉぁああ‼︎」
「……えっ⁉︎」
すると突然、彼女たちの前にバーテックスがふっ飛んで来た。バーテックスは地面を転がりながら身体が砕け散って消滅する。
「ワッツハプン⁉︎」
「一体何が……」
歌野のたちの視線の先にいたのは――。
「勇者ぁあ〜〜、パーンチ‼︎」
星屑を殴り飛ばしている赤い髪の少女だった。それも何故か歌野の
「あ、貴女は……⁉︎」
「え、
振り返って確認する。
友奈は目の前の相手の顔を見て驚愕して叫んだ。
「わ……私ーーッ!?」
その声に気付いた相手も、友奈の顔を見て驚きの表情を見せる。
「え……ええ⁉︎ 誰ッ⁉︎ 私と同じ顔……」
「わたっ、わ……わぁわっ……わた……」
「ちょっとー、高嶋ちゃーん? とりあえず落ち着いて……られるわけないか……」
雪花も他のメンバーもこの状況に戸惑う。
「ねぇ友奈」
「「なに?」」
歌野が呼ぶ名前に二人とも反応する。
「あれ……? どっちも友奈?」
「分裂しちゃった?」
「双子……?」
「ううん。私、きょうだいとかいないよっ」
「生き別れの姉妹、でも無いんだ……」
様々な憶測が飛び交うが、ここで芽吹がある可能性を指摘する。
「もしかして、彼女が……」
「そうね……。直接会うのは初めてだけど、手配書の顔と同じ……ということは……」
蓮華も同様に、相手の素性を察した。
「あなたは、"七武勇"の……」
「あははは……。なんか不思議な気分だね。……えっとぉ、とりあえず自己紹介。私は"結城友奈"。よろしくねっ」
困惑してはいるが、笑顔で彼女――結城友奈は挨拶をする。
「本当に友奈さんにそっくりなんだ……」
「どっちがどっちか分からなくなるわね」
「二人が装備してる籠手もなんか似てるしねー」
高嶋友奈も結城友奈も薄桃色の籠手を両手に装着している。
一応、服装が違うのでその点で見分けることは可能だが、一瞥しただけでは分かりにくいことに変わりはない。
「何か分かりやすい違いとかがあればいいのだけれど」
「そだっ。なら仮面しとこっか!」
友奈はバッグの中から赤色の仮面を取り出して目元を覆うように装着した。
「仮面……? そんなもの持ってきてたの?」
「久美子さんが持たせてくれてたの。私の顔がバレたら色々面倒だからって。早速使っちゃうことになるとは思わなかったんだけど」
しかしその仮面は顔全体を隠し切れていなかった。
「じゃじゃーん‼︎ 私はっ! 御国の、愛と平和を守る正義のヒーロー! 『国防仮面』‼︎」
友奈は勢いよくポージングを決めた。
「…………」
周囲に微妙な空気が流れる。
「あれ……。みんなひいてる……?」
芽吹や蓮華は眉を顰め険しい表情になっていた。
水都と雪花は真顔で口を半開きにしている。
歌野に至っては土に触れ何かを観察していて話を聞いていない。
……だが結城友奈だけは違った。
「か……かっこいい〜‼︎」
彼女だけは目を輝かせて拍手を送っている。
「国防仮面ッ‼︎ 東郷さんも好きだって言ってたよぉ」
「何かの番組だったの? それ……」
「幼稚園のお遊戯会でねっ、勇者部の出し物として披露したんだぁ!」
「そうなんだね……」
いつの間にか結城友奈という存在に、周りは自然と慣れ親しんでいく。
不思議なものだが、これも結城友奈の人柄が為せる技なのだろう。
(彼女もまた……"友奈")
「……? どうしたの蓮華。浮かないフェイスして」
そんな結城友奈を見ていた蓮華に歌野は疑問に思った。
「……おかしいとは思わないの? 結城友奈と高嶋友奈が
高嶋友奈と結城友奈は双子ではない。血の繋がりは無く、お互いに今日会うのが初めてだ。しかし、二人の友奈は同じ声と容姿をしている。とても偶然と呼べる代物ではない。
「結城友奈。あなたは何か知っているの? ……"友奈"とは、何なの?」
蓮華が知っているもう一人の友奈もまた、どういうわけか彼女たちと似ているのだ。
「この蓮華が所属していた鏑矢という組織にも、あなた二人と似た容姿を持つ少女がいた。……彼女の名前も"友奈"なのよ」
赤嶺友奈。
高嶋友奈。
結城友奈。
この三人はそれぞれ別の場所で生まれ、それぞれの環境の中を生きてきた筈だ。
しかしこの奇妙な偶然は一体何なのか。蓮華はそれを知りたい。
どこに行けば分かるのか。誰に聞けば分かるのか。
何か手掛かりがあると良いのだが……。
「んー、私にはさっぱりわからないんだよね……。でも、"そのちゃん"の言葉を借りるならぁ……『私たちは嵐を起こす』んだって」
「嵐……?」
前に園子が一度だけ、"友奈の一族"について口にしたことがあった。
『――"友奈"はまた必ず嵐を起こすんよ。それがゆーゆなのか、また別の"友奈"って名前の子なのかは分からないけどね〜』
その言葉を聞いたとき、結城友奈自身はさほど気にしなかった。
高嶋友奈も、おそらく鏑矢にいた当時の赤嶺友奈もそうだが、
"神の天敵"と言われる所以も。"友奈の意志"についても……。
"友奈"に対する者たちの主観でしかないのかもしれない。
「今回も……ハズレのようね……」
思っていた情報を得ることは出来ず、蓮華は軽く落胆し、張っていた緊張を解くように息を吐く。
吐き出される息が白い。少しずつ肌寒くなってきた……。
(…………? えっ……寒い?)
その時、背中に走る悪寒に蓮華は身震いした。
何かが自分たちに迫って来ているような感覚だ。
(……くる)
そして歌野たちの前に、一人の少女が現れた――。
いつの時代も、友奈は数奇な運命に満ちている……。
次回 雪よりも白く、氷よりも冷たく