なので、
『見づげだどー! 結城友奈ァァ‼︎』
『オラ違うよォーー‼︎ オラそんな奴知らねェよォーー‼︎ 勇者ですらねェぬらべっちゃ!!!』
↑こういう展開にはならなかった。
前回のあらすじ
白鳥歌野たちの前に結城友奈が現れた。蓮華は友奈について知っていることがないか尋ねるが大した情報を得られずに終わった。歯痒く感じる蓮華だったが、そこへ一人の少女が姿を現す。
蓮華は自分の吐く息が白いことに疑問を感じた。また、友奈や芽吹もそのことに気付く。
「あれ……寒くなってきちゃった?」
「息が白い……。今はそんな季節じゃない筈だけど」
しかし歌野と雪花と水都の三人は寒く感じる様子は無く、吐く息も白くない。
「三人は寒くないの?」
「んー、あんまり……? 気温がダウンしたのは感じたけど」
「私は寒い土地出身だからかにゃぁ」
この場にいる中で、雪花は極寒の地である北海道出身だ。また、歌野と水都は夏と冬とで気温差が激しい長野の諏訪出身である。
それ故にこの三人は寒さに対してある程度の適応力があるのだろう。
「ウタちゃんたち凄いなぁ。私なんて……うっ、うう〜。鳥肌がぁ……」
「私は水都が平気そうにしてるのが意外だったわ」
歌野と水都が北海道に訪れたときも、雪花と共に神居山で進化体と戦ったときも、冬ではなかった事が大きな理由だと思うが寒さを感じる様子は無かった。
「みーちゃんも知らず知らずのうちに鍛えられているってことねっ」
「そ……そうかなぁ」
突然の寒さに戸惑う者や変わらず平然としている者がいる中、蓮華は自分たちに迫ってくる何かを感じ取っていた。
(……くる)
刹那、背中に悪寒が走り、振り返ると同時に一人の少女が目の前に現れた。
「……‼︎ あなたは……」
「――ッ! 誰ッ⁉︎」
その少女を見た時、根拠など無いのだが彼女がこの寒さの原因なのだと理解した。
「……お初にお目に掛かります。私は四国、愛媛県出身の勇者。伊予島杏です」
ペコリと礼儀正しく挨拶をする少女――"四勇"伊予島杏は穏やかな笑みを向けてきた。
「ご丁寧にどうも♪ 私は白鳥歌野。諏訪出身の勇者で農業王になる女よ!」
対する歌野も一切動じる事なく笑顔で挨拶を交わした。
「伊予島杏……⁉︎ あの"四勇"のひとりが……四国の勇者がここに何の用で来たのよ」
「兵庫支部の方の情報から、貴女方がこの辺りにいるのではないかと思いまして……」
杏の上辺だけの柔らかい態度に蓮華は警戒を緩めず、自身の武器に手を添える。
「四国の勇者ってことは、乃木さんのフレンドなのかしら!」
「はい。若葉さんには大変良くして貰ってます」
杏は歌野やその仲間たちの顔を見て微笑む。
「みなさんのことはちらほら耳にしています。……鏑矢に所属していた蓮華さん。防人の隊長である楠さん。それと…………」
可笑しな仮面を付けている友奈を見て若干、言葉に詰まった。
「へ、変態さん……?」
「ちがーう! 私は御国の愛と平和を守る正義のヒーロー。国防仮面!」
「変態仮――」
「だからあっちがーーう‼︎」
プンスカ怒る友奈を放置し、杏はコホンと咳払いして乱れたペースを整える。
「改めまして、以後お見知り置き下さい」
「まぁ何はともあれ、この場所で乃木さんと同じ"四勇"に会えるなんてベリーナイスなことだわ!」
歌野は右手を杏に向かって差し出す。杏もまた右手を出して握手を交わそうとしたが……。
「待ちなさい歌野」
蓮華は呑気なままでいる歌野の右手を多少強引に掴んで杏から引き離した。
「蓮華? それに雪花も、芽吹もどうしたの?」
歌野のテンションとは裏腹に蓮華や芽吹、雪花は警戒した様子で杏を見ている。
水都と友奈二人は困惑しているのが目に見えて分かる。
……ここまでくると、空気を読む力に乏しい歌野もこの重たい雰囲気を感じ取った。
「伊予島杏。この蓮華の質問に
蓮華は杏との遭遇を偶然のひと言で片付けようとはしない。大社にとってお尋ね者も同然な歌野たちの前に現れた
「白鳥歌野さん。貴女の性格は……若葉さんとは全然違いますよね。天真爛漫と言いますか……。自由奔放と言いますか……」
杏は蓮華の質問にすぐには回答せず歌野へ話しかける。
初対面の相手に対して親しみを持って接してくれた歌野の型にはまらない性格を、奔放と表現すれば良いのか。掴みどころが無いと表現すれば良いのか。彼女の中で多少思案する。
「聞こえなかった? この蓮華の質問に――」
「私が今日ここへ来たのは、そこにいらっしゃる
蓮華の言葉を遮り、自身がここへやってきた理由を説明する。
「えっ。私……と、うたのん?」
「みーちゃんが必要? どういうことなの?」
「そして……
水都は反射的に後退りをしてしまう。何故自分と歌野が、杏がここへ来た理由なのかは分からないが、杏に対して明確な恐怖を感じていた。
「やっぱり貴女方は……今、死んでおきますか?」
「――ッ!?」
突然、杏の口から出たその言葉に一同は素肌に冷気を浴びたような不快感に包まれた。
「それは何の冗談よ」
「大社は今に至るまで貴女方を軽視していましたが、
杏が歌野たちのことをどれだけ知っているのかは分からないが、先程の口振りから芽吹はもちろん、蓮華の素性も把握しているようだった。
「初頭の手配に至る経緯。これまでに貴女方のやってきた所業の数々。その成長速度。バーテックスや"七武勇"とはどこか異なる危険性。それらについては私も同様……末恐ろしく思います」
徐々に周りの温度が下がっていくのを全員が感じ取っていた。
「白鳥歌野さん。貴女は不思議な人です。ここにいる人たちがみんな、望んで貴女の元に集ったと考えると、その影響力はいずれ大社の手に余る事態を引き起こすでしょう」
「そんな事はどうでもいいわ!」
下がり続ける気温と対照的に、歌野はヒートアップしていく。
「私は、大社がみーちゃんが必要っていうセリフにバッドなフィーリングを抱いているのよっ」
「うたのん……」
「あのさー、伊予島さん……だっけ? さっきからうだうだ言ってるけどさ、はっきり言ったら? 本来の目的は何?」
雪花も睨み、槍を両手でしっかりと掴んで腰を低く構えた。
「――オイオイ……。いつまでどうでもいいこと喋ってんだァ?」
別の場所から声が聞こえ振り返ってみると、そこには防人装束を身に纏った者が姿を見せる。
「……っ。No.3」
「何だァ。隊長じゃねェーか。奴らといるって噂はホントだったんだなァ」
No.3と呼ばれた者はニヤァと邪悪な笑みを浮かべた。
――その次の瞬間、またもやバーテックスが彼女たちの前に現れた。
「バーテックスが……ッ!」
「またなの⁉︎ こんな時に……ッ」
「――凍り付いて下さい」
杏は即座にクロスボウから矢を発射させ、その矢はバーテックスに当たる事なく間をすり抜ける。
通過した矢からは冷気が散りばめられ、それを浴びたバーテックス共はたちまち凍り付いていった。
「アイスタイム」
さらに地面に手を置くとあたりは氷漬けになり、突然下から隆起した氷の刃に貫かれ消滅した。
「氷が彼女の周りに……」
「あれが……伊予島杏の能力なのね」
しかし、今度は別の方向からバーテックスたちが現れ、No.3目掛けて突進してくる。
「オイオイ……。このタイミングでまだ来るか。邪魔なんだよ雑魚が」
No.3は面倒くさそうに頭を掻く。……そして。
「蹴散らせ。パシフィスタ」
そうNo.3が呼んだとき、その背後から二振りの斧を持つ少女が飛び出してきた。
その少女は自身の身体と同じくらい大きな双斧を軽々と振り回すとバーテックスを切り裂いていく。
「また新手なのっ」
(えっ……今、
当然、歌野や芽吹をはじめとする
しかし結城友奈だけは違い、その姿に見覚えがあったのだ。
「ウソ……」
彼女たちが佇んでいる間にバーテックスを次々と屠り、最後の二体になると両手の斧を敵に向かって投げ付けた。
斧は正確にバーテックスを正面から真っ二つにすると、
その一部始終を見て、結城友奈は震える声で少女の名前を呼ぶ。
「ぎ……銀……ちゃん……?」
『…………』
パシフィスタは何も応えず、No.3の元へ歩いていく。
「あァ? 違うなァ結城友奈。コイツは"パシフィスタ"って言うんだぜ?」
「そんな筈ないよっ‼︎ あの子は銀ちゃんだよ‼︎ 私たちと同じ"勇者部"で……東郷さんやそのちゃんの親友だった……ッ」
結城友奈は目の前の少女が、自分たちの仲間で半年以上前から連絡が取れずにいた『三ノ輪銀』本人だと主張する。
しかしNo.3は薄ら笑いを浮かべたまま自分の隣にいる『人間兵器』の説明をする。
「お前が言ってんのは、かつて鷲尾須美や乃木園子と共に大社に所属していた勇者のひとりの"三ノ輪銀"って奴のことだろう? "七武勇"のメンバーで、大事なお友達だったその三ノ輪銀なら……」
ニヤッとNo.3の笑みは更に悪辣に捻じ曲がり、結城友奈に驚愕のひと言を突き付ける。
「もう……
・伊予島杏:氷結人間。または雪人間。『ヒトヒトの野菜 幻獣種:モデル"雪女郎"』
簡単に言うと、『ヒエヒエの実+ユキユキの実-ロギアの特性』
身体は氷や雪そのものにはならないが、冷気を操り雪を降らせたり、大地を凍らせたりすることで対象を氷結させる。杏の性格的には能力は公になって欲しくないのだが、相方がおしゃべりなせいで愛媛県の人たちは半分以上が杏の能力名を知っている。
ちなみに四勇の皆さんの能力は全員幻獣種です。まぁ勇者の野菜の性質上、仕方ないね。
次回 パシフィスタ"PX-0"