……という事は大社内に烏丸先生の技術を真似した人がいますね。
前回のあらすじ
歌野の奮闘虚しく、杏との一騎討ちに敗北してしまう。水都は大社の手に落ち、全員は失意に暮れるのであった。
雪花と友奈たちは身体の氷を全て解かし終え、動ける状態になるとすぐさま元の場所へ走っていった。
そこで三人は氷漬けにされた歌野のみを発見する。
「……‼︎ い、いたよ‼︎ 凍ってるっ」
「でも氷は砕かれてないよ。私たちみたいに戻るかなぁ」
歌野の氷像は傷ひとつ付いていない綺麗なままだった。このままゆっくりと解凍すれば歌野を救出できるだろう。
「「運ぼう‼︎ 急いでさっきの池へ‼︎」」
二人同時に言いながら歌野を傷付けないように両脇に立ってゆっくり持ち上げる。
「「あっ一緒に言っちゃったっ」」
そして衝撃を与えないように歌野を運んでいく。
雪花は周りを見渡して杏たちが隠れていないか、バーテックスの奇襲がないかを警戒する。
「…………水都ちゃん」
だが逆に周囲に誰もいない事が、この一騎討ちがどのような結果に終わってしまったのかを物語っていた。
「……っ」
雪花は暗い表情のまま、友奈たちのあとを追いかける。
そして全員で歌野に水を少しずつかけながら解凍していった――。
――歌野の救出を行っている時、水都を連れた杏たちは兵庫支部に到着していた。
「……ここが兵庫支部。……姫路城」
水都は目の前で雄大にそびえ立つ真っ白な巨城に圧倒される。
「……なァ、甘かったんじゃねェのか?」
そう言いながらNo.3は杏を少し睨んでいた。
他の仲間には手を出さず歌野との一騎討ちを了承した件。そして歌野を凍らせただけで殺さなかった件。
杏の降した判断に対した憤りを感じていた。
「アイツらはどのみち賞金首だ。殺しておいてやるのが世のためだろ。せめて白鳥歌野ぐらいはな」
杏は振り返ることはせず歩きながら答える。
「あそこで白鳥歌野さんを砕いて殺してしまう事は出来ましたが、あの人には恩があります」
「恩……?」
「乙女座、天秤座、牡牛座。この三体の進化体バーテックスの討伐。そして京都支部にて
故に歌野を生かす事で今までの借りをチャラしようとしたのだ。
……というより、そもそも杏は歌野たちを殺す気は無かった。
『――やっぱり貴女方は……今、死んでおきますか?」
あの時、杏は歌野たちに対して
『――そんな事はどうでもいいわ! ――私は、大社がみーちゃんが必要っていうセリフにバッドなフィーリングを抱いているのよっ』
自分の心配をする訳でも無く、敵意を向けてきた杏を罵倒する訳でも無く、仲間である水都に危険が及ぶ事をいち早く察知して反抗してきた。
(若葉さん……。貴女が迷うのも理解出来ます。……白鳥歌野さんは仲間想いで……悪い人では無いように思えます)
大社により悪名ばかりが一人歩きしている現状だったが、いざ会って話してみると歌野はそんな人物では無かった。
他の仲間が警戒心や疑問符を抱く中で、歌野だけは杏との出会いを喜び、握手を求め友情を育もうとした。
そして歌野は自分よりも仲間を大切にしている。そんな歌野に対して、杏はどうしても"悪"と断ずる事は出来なかった。
(あの賭けも……わざとだったのでしょうか……?)
そんな歌野が、大事に思っている仲間を賭けの対象にするとは到底思えなかった。
ならば歌野は杏の真意を見透かして一騎討ちを申し込んだのだろうか。
こうすれば仲間を逃がしてくれると知っていて……。水都や歌野の命を奪わない事を知っていて……。
あるいは――。
(それとも……本気で勝つつもりだったんでしょうか……)
――No.3はパシフィスタを連れて兵庫支部である姫路城の上階へ向かう。
杏と水都は二人きりになった。
「大社への引き渡しを終えたので
「……そうなんですか」
「私に与えられた御役目は貴女の身柄を大社に渡す事です。……奉火祭を先導するのは大社神官の方々ですから」
それを聞いて水都は少しだけ安心した。もちろん、その時の表情は杏に見せないようにしたが。
「それでは水都さん。……私が言えた事ではありませんがどうかお元気で」
水都に相対して深々と頭を下げた。それは先程まで戦っていた少女とは思えぬ慎ましい姿だった。
「大切な方と引き離してしまってごめんなさい。……私は…………」
何かを言いかけたが、杏は首を振って言葉を遮って別の言葉で気持ちを表す。
「貴女方に……"奇跡"が起こる事を
……そしてNo.3が戻ってくると、杏は四国の愛媛県へ帰還する。
「さっき何か話してたか?」
「…………」
水都は首を横に振る。
「そうか」
No.3はここまで連れてきて、その際にいくらか水都の表情を伺っていたが、何故か水都の表情に変化は無かった。あの場の絶望した表情はなりを潜め、悲観している様子もない。
(仲間に別れの挨拶を済ませて覚悟が決まったのか……?)
無言のまま。しかし僅かな光を瞳に灯して、水都はNo.3と共に姫路城へと入っていく――。
――歌野の解凍は終わり、今は携帯していた敷物を敷いて寝かせている。
その間、結城友奈を含めた五人は沈んだ気持ちで歌野の意識回復を待っていた。
「……どうして、歌野が……どうして水都ちゃんが……」
重苦しい空気に耐えかねたのか、雪花が口を開いた。
「そう言ったって仕方ないでしょ。あの場においては歌野の判断は正しかった」
芽吹のそんな発言に雪花は眉を顰める。
「仕方ない? ……よくそんな他人事みたいに言えるね」
(芽吹ちゃん? せっちゃん?)
芽吹と雪花の会話から空気がどんどん険悪になっていくを感じた。
「そもそも何で歌野一人に戦いを任せたの? 戦っている間に水都ちゃんをこっそり取り返そうとはしなかったの?」
「あの状況で出来るはず無いわ。それに一騎討ちを受けてもらった手前、私達側が反故にすれば歌野の面目を潰す事になるじゃない」
「面目……? 何それ……。それって仲間の命より大事なものなの?」
結果的に歌野が助かったから良かったが、水都の安否はまだ不明だ。杏たちの口振りからすぐには殺されないとは思うが、それも時間が経つにつれて怪しくなる。
「筋を通すとか、恥だとか顔を立てるとか……馬鹿じゃ無いのさ。そんな体裁とかプライドとかに拘って一番大事なもの失ってたら世話ないよ」
雪花の言葉の一つ一つに棘を感じる。芽吹の一見素っ気ないように見える言動が今の彼女の神経を逆撫でする。
「あの状況下で歌野の一騎討ち以外、私達が生き残れる方法は無かった。私には伊予島杏が一騎討ちを受ける事自体信じられなかったから」
杏が歌野との一騎討ちを受けた以上、杏は歌野に勝ち水都を奪ってそれで終わり。
その後に雪花たちへ追い討ちをかけるのは野暮な事。
それを歌野は見抜いていたのか、偶然だったのかは分からない。
しかしその結果、歌野の命ひとつで仲間は守られた。
芽吹は、歌野が
「……今、私達が生きているのは歌野と水都のお陰だという事を理解しておきなさい。それに……」
「そんな事を聞いてるんじゃないッッ‼︎」
雪花の突然の怒号に、すぐ隣にいた高嶋友奈はビクッと身体を震わせる。
「私が言いたいのはッ、恥とか面目とかそういう体裁に拘って今まで一緒に旅をしてきた……どんな困難や戦いも共に切り抜けてきた"大事な仲間"を貴女は見殺しにしようとしたって事ッッ‼︎」
息を吸う事も忘れ、捲し立てるように芽吹へ追求する。
「所詮
「なんですって……?」
芽吹の目が鋭くなった。『防人』という言葉を使うことで一線を引かれたような気がしたからだ。
「一丁前な理由付けて……。結局は何も出来ずにビビって逃げてきただけでしょ⁉︎ 二人を見捨てて尻尾巻いてさあ‼︎ 格好悪いったら無いよ!!!」
「せっちゃんっ。その言い方は……」
「じゃあ貴女にはどうにか出来たの? 出来なかったでしょ⁉︎」
芽吹もまた雪花の言葉に怒りを表に吐き出す。
「敵の能力の影響で私達はまともなコンディションで戦えなかった! けどその耐性があったのが歌野と貴女でしょ‼︎ それなのに呆気なく負けて気を失っていたのはどこの誰ッッ!?」
「ふ……二人とも……落ち着こうよぉ」
「芽吹、雪花。あなたたちそうやって叫んでたら怪我が酷くなるわよ?」
友奈や蓮華が宥めろうとするも、激昂した二人は止まらない。
「そうだね! 弱かったねっ‼︎ 悪かったねえ‼︎ でも私は絶対に歌野と水都ちゃんを見捨てたりなんかしないッ」
「せ、せっちゃんは弱くないよっ。だって――」
「取ってつけたようなフォローは要らないよっ。友奈」
「ひっ……」
友奈の気遣いの心すら跳ね除ける。
誰の目から見てもわかるその剣幕に高嶋友奈も結城友奈も気圧される。
「正直言って私はもう"四勇"とか"七武勇"とかの化け物じみた強さにはついていけないって思ってた。犬吠埼の戦いや進化体バーテックスの時だってそう」
京都支部にある
進化体バーテックスとの戦いも、勇者であるにも関わらず雪花はサポートのみで決定打を与える事はできなかった。
「時間稼ぎひとつ出来やしない。今回だって伊予島杏たちにボコボコにされて……。歌野に迷惑かけてばっかりだよ」
自分の無力さが許せなかった。
雪花の能力が敵に明確に対応されている以上、勇者としての今後の自分の働きに疑問符が付いてまわる。
「でもね……。私は目の前で傷付いている仲間を置き去りにする事なんて出来ない‼︎」
一度は歌野の命令で全員その場から逃げようとしたが、歌野自身が逃げられなくなると、一番先に助けようと戻ったのは他ならぬ雪花だ。
「……ハァ、ハァ……ハァ……。貴女は防人だもんね。貴女にとっては仲間なんて
無力を感じ湧き出てくる悲しみや怒りがごちゃ混ぜになっていた。
もういっそ全部吐き出して楽になりたい程に。
「そっちの事だから、どうせ三好夏凛の事しか頭に無いんでしょ。
その雪花の怒りに呼応するかのように芽吹も声を荒げる。
「いい加減にしなさいよ‼︎ 自分ひとりだけ辛いみたいな言い方して‼︎ 私だって気持ちは同じだったのよ‼︎」
「だったら見捨てるなんて選択出来る訳ないッッ‼︎」
遂にはお互いがお互いの胸ぐらを掴んで額が接触する程にまで接近する。
「それともやっぱり
「じゃあいいわよ‼︎ そんなに私が気に入らないのなら、私はこのチームを――」
「もうやめて!!!」
高嶋友奈の叫びと同時に、二人は蓮華に突き飛ばされて池に落ちた。
「二人とも、頭冷やしなさい」
「「…………っ」」
二人はバツの悪そうに周りを見渡す。そして池からすぐに這い出るとそれぞれ反対方向に歩き去っていった。
「えっ? どこいくの⁉︎」
「なんで……そんな、喧嘩なんて……ダメだよ……」
結城友奈はすぐあとを追おうとしたが、泣いている高嶋友奈や寝ている歌野が心配で立ち止まる。
「……はぁ」
二人が見えなくなる程遠くへ行ってしまったあと、蓮華はため息をつく。
「はじめの楽しかった雰囲気が……まるで嘘のようね……」
こんな騒ぎがあっても目覚めることの無い歌野を、蓮華は静かに見守っていた。
『みーちゃんを賭けて……っ。私と一騎討ちをしてほしいっ‼︎』
蓮華も歌野が水都を賭けに使う事が意外に思えた。……だが、その歌野らしくない決断こそリーダーとしての責務を果たそうとする表れだったのかもしれない。
……そして何より、
(勝ちたかったわよね……? 歌野)
蓮華は少し力を入れて歌野の手を握る。
それでも歌野には何の変化もない。
「歌野……。早く目を覚まさないと、このチームがバラバラになってしまうわよ……?」
そして少し経ったあと、友奈二人にそれぞれ雪花と芽吹を追うように頼んだ。
白鳥さん、早く起きて……。
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